悲劇の魔女、フィーネ 28 <完>


 若い夫婦が新婚旅行先で車に乗り、道に迷っていた。


「おかしいな~…ナビ通りに来たはずなのに…」


「ナビが壊れたんじゃないかしら?それでここはどこなの?」


「う~ん…それが住所もないんだよ。ただ、ナビには『アドラー城跡地』と表してある」


夫はナビを見ながら妻に答えた。


「アドラー城…?ここにお城があったの?ロマンチックね…。ちょっと降りてみましょう?」


「え?お、おい…」


妻は夫の静止も聞かず、車を降りてしまった。


「う~ん…湖もきれいだし、青空に良く映えるわね~」


その時―。


「…あら?何かしら…」


そこへ夫が駆けつけてきた。


「駄目じゃないか。勝手に降りたりしたら…」


すると妻が言う。


「ねぇ、何か聞こえない?」


「え?…そう言えば何か聞こえる…」


「あっちだわ!行ってみましょう!」


「そうだな!」


駆け出す妻の後を夫も追い…そして2人は目にした。黒い布に包まれた生後間もない赤子が弱々しく泣いていたのだ。


「まぁ…なんて可愛い赤ちゃんなのかしら」


妻は赤子を抱き上げると、途端に赤子は腕の中でにっこりとほほ笑んだ。


「捨て子かな…?しかし、それにしても可愛らしいなぁ…」


すると妻が言う。


「ねぇあなた。赤ちゃんがこんなところに1人で来れるはずないわ。きっと…捨てられてしまったのよ。だから私たちで引き取って育ててあげない?どうせ…私は子供を産むことが出来ない身体だから…」


「…そうだな。俺もそれがいいと思う」


「本当?実はね、私…もう名前も考えちゃった。何だか頭にふっと浮かんだのよ」


「へ~どんな名前なんだい?」


「フィーネって名前にしたいの。どう?」


「すごい偶然だな。俺もその名前が浮かんだんだよ」


「あ、見て見て。フィーネって呼んだら笑ったわ」


「本当だ…賢い子だな」


「あなた…この子…可愛がって育てましょうね?」


「ああ、勿論さ。よし、それじゃ…行こう」


夫は赤子を抱いた妻に声を掛け、妻は頷くと赤子を見つめた。


「フィーネ。私の可愛い娘…。必ず幸せにしてあげるわね」


そして彼女は腕の中のフィーネに優しく語りかけるのだった―。



<完>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女の弾く鎮魂曲 結城芙由奈 @fu-minn

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ