悲劇の魔女、フィーネ 22

「そ、それで…その後、フィーネはどうなったんだ…?」


気付けば俺はフィオーネに尋ねていた。普通に考えれば彼女がその後の話を知るはずなど無いのに…。


しかし、彼女は答えた。


「はい、フィーネは全ての城の者たちを殺害すると狼達を森に返しました。そして城は燃え始めました。…元々復讐を完了させた後…フィーネはアドラー城と共に炎に焼かれて死のうと考えていたからです。そして…彼女は血まみれの城の中を歩き…演奏ルームへ向かいました。大好きなピアノを弾きながら…燃え盛る城と運命を共にする為に…」


「ピアノ…演奏…だって…?」


まさか…そんな…。


「フィーネがピアノを弾いていると…1人の若者が助けに来ました。彼は神聖魔法の使い手で、一瞬でフィーネを魔法を使って城から助け出したのです」


「な、何だって?」


馬鹿なっ!魔法だなんて…ありえない!


「彼…ユリアンはフィーネを愛しており…彼女が死ぬことを望んでいませんでした。けれどフィーネはこれ以上生きているつもりは全く無く…ユリアンを騙し、彼の手によって塵となって消えさりました。ユリアンと…怨霊となったアドラー城の者達の前で…」


「お、怨霊だって?!」


しかし、その言葉にフィーネは答えること無く話の続きを始めた。


「気の毒なユリアンは、図らずとも愛するフィーネを自らの手で奪った事で…発狂してしまいました。そんな彼を見ていることが出来ず…塵となったフィーネは最後の力を使って、自分の魂を石に封じ込めました。そしてユリアンはその石をフィーネだと思い込み…国へ帰りました」


「…」


もはや俺は一言も発する事が出来なかった。とてもでは無いが作り話には思えない。きっと…恐らくこの話は真実なのだろう。


「ユリアンは王子でした。国王は発狂してしまったユリアンを世間から隠すために、塔に幽閉したのです。発狂したユリアンはそこでフィーネは生きていると信じてやまず…とうとう霊体として彼女を作り出してしまったのです。そして10年後…この塔にユリアンの甥っ子が現れました。霊体となったフィーネは彼の前に現れて、石を壊すように頼みました。石さえ壊せばユリアンは元に戻ると思ったからです。けれど…それは大きな間違いでした」


「ま、間違いって…?」


気付けば喉がカラカラになっていた。そしてナビはアドラー城跡地まで後1Kを指している。


「石を壊した途端ユリアンの生気は全てフィーネに吸収されてしまいました。可愛そうなユリアンはそのままこの世から存在が消え…代わりにフィーネが実体を持ってこの世に蘇ってしまったのです」


「な、何だって…?!」


その時―


『目的地に到着しました。案内を終了させて頂きます』


カーナビが目的地に到着したことを知らせ…俺は目の前の光景を見て息を飲んだ。


「そ、そんな馬鹿な…」


そこには…大きな満月を背に…巨大な城がそびえ立っていたのだ。


そしてフィオーネが静かに言う。


「アドラー城が今宵一晩限り…300年ぶりに蘇りました…」


フィオーネ、いや…フィーネは目の前の不気味なアドラー城を見つめていた―。

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