悲劇の魔女、フィーネ 21

 結局俺とフィオーネは休むどころか、何度も何度も飽きること無く身体を重ね…気付けば外はすっかり夕焼け色に染まっていた。


「すまなかった…。結局フィオーネを休ませる事が出来なくて…」


愛しいフィオーネを胸に抱き寄せ、彼女の髪をすきながら謝罪した。


「いいえ…いいんです。…思い出が作れたから…」


最後の言葉は小さくて、良く聞き取ることが出来なかった。


「え?今…何か言ったか?」


「いいえ。別に何も言っていません」


そしてフィオーネは俺の胸に顔を摺り寄せ…たまらなくなった俺は再びフィオーネを抱いた―。



****



 午後7時―


すっかり暗くなったひと気のない夜の道を、フィオーネを乗せて俺はレンタカーを走らせていた。


「フィオーネ…」


助手席に座るフィオーネを時折見る。彼女は強張った顔でただ前を向いて座り…身体は小刻みに震えていた。


「大丈夫か?とても体調が悪そうだ…。無理に今夜アドラー城跡地に行く必要は無いんじゃないか?」


するとフィオーネは首を振った。


「いいえ…今夜でなければ駄目なのです」


「そうか…?そこまで言うなら分ったけど…」


彼女は占い師であり、尋常ではありえない不思議な力を持っている。恐らく、今夜あの場所に行かなければならない理由があるのだろう。


その時カーナビがポーンとなり、アドラー城跡地まで後5Kmを指示した。


「ユリウスさん…私の話を聞いて頂けますか?」


突然フィオーネが声を掛けて来た。


「ああ、教えてくれ」


「はい…。分りました…」


フィオーネは一度頷き、静かに語り始めた。


「丁度今から300年前のこの日…アドラー城で大量大虐殺が行われました。アドラー城で暮らす、全ての使用人達、そして魔女と化したフィーネの叔父家族に、彼女の婚約者が…全員殺されました」


「え…?な、何だって…」


あまりにも突然の話に驚いた。


「彼等は魔女、フィーネの怒りを買い…恐らく最も残酷と思われる方法で殺害されました。…狼に喰い殺されたのです」


「!」


思わず、ハンドルを握る手に力がこもる。


「使用人達はそれでもまだマシなほうでした。フィーネは狼達に使用人達は一撃で殺すよう命じたからです。恐らく彼等は痛みを感じることなく、死んでいったと思います。けれどアドラー伯爵家族と婚約者のジークハルトだけは違いました」


「ジークハルト…?」


初めて聞く名前だった。フィーネの婚約者…本当に実在した人物だったのか…。けれど何故、フィオーネが彼の名前を知っている?


「叔母とヘルマは…狼達に生きながら喰われました。始めに四肢を喰いちぎられ…その痛みと出血により叔母とヘルマはショック死しました」


「ヘルマ…?」


そんな女性の名前も初耳だ。いつしか俺の身体は震えている。


「そして最も残酷な殺され方をしたのが…叔父とジークハルトでした。ジークハルトはフィーネを裏切り、ヘルマを愛しただけでなく…叔父と共謀して何度もフィーネの命を狙ったからです」


「な、何だって…?」


「そして叔父の方は…フィーネの両親を馬車事故で殺害しています。そこでフィーネの激しい怒りを買い、2人は呪いを受けたのです」


「の、呪い…?一体どんな…?」


「はい、どんなに痛くても、出血しても…心臓が無事である限りは決して死ぬことが出来ない魔法です。彼等は…骨になるまで食べつくされましたが、心臓は無傷だったので…それでも死ぬことが出来ませんでした。フィーネの炎の魔法で心臓を焼かれるまで」


「…」


あまりにも悍ましい話を聞かされ…俺は言葉を失っていた―。

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