悲劇の魔女、フィーネ 10

「…はい、分りました。…ご連絡ありがとうございました。…失礼致します」


電話を切り、ため息をつくとフィオーネが声を掛けて来た。


「何かあったのですね?」


「え、ええ…。実は昨日アドラー城まで案内してくれた観光ガイドの男性が…先程、職場の倉庫で…首を吊って自殺を図ったそうです。それでスマホの着歴から直前に俺と話をしていた事が分り、連絡を入れて来たのです。何か心当たりは無いか聞かれましたけど…」


フィオーネはじっと俺をみつめている。


「…何も分りませんと…答えてしまいました…」


「そうですか…」


ポツリと呟くフィオーネ。


「だ、だってそうでしょう?いくらアドラー城のあった場所を訪れたからって…それくらいで人が簡単に死ぬはずないじゃありませんか。大体足を踏み入れただけで呪われるのだとしたら、何故俺は今も無事でいられているんです?彼は俺の様に城の跡地には行っていないのに…」


何故か目の前の彼女に無言で責められているような気持になり、必死になって言い訳をした。


言い訳…?そうか…。


「すみません。こんなの所詮言い訳に過ぎませんよね?俺が彼をアドラー城に案内させたから、彼は何らかの呪いを受けて自ら命を絶った…そう言う事でしょうね…」


言い終えると、俺は罪悪感で一杯になった。


「ふぅ~…」


椅子の背もたれに寄りかかると溜息が漏れてしまう。


「ユリウスさん」


不意に目の前のフィオーネが声を掛けて来た。


「はい」


「恐らく、ガイドの方が自殺をしたのは…単にアドラー城跡地に貴方を案内しただけだからでは無いと思います。他に何らかの理由があったはずです。例えば…彼の先祖が魔女フィーネの怒りに触れる行動を取っていたから…そうは思いませんか?」


「え…?」


「彼がこの町でガイドを務めていたと言う事は、恐らく長年に渡り、この土地に住んでいたのでしょう。そう考えると、その方の先祖がかつてフィーネの逆鱗に触れる事をしてしまった。だから彼は呪いを受けて自殺をしてしまった…」


そこまで言うとフィオーネはコーヒーを口にした。


「それって…?」


「はい、つまり…確かにアドラー城で呪いを受けたのは間違いないでしょうが、理由はあの場所に行ったことでは無く、彼がフィーネの逆鱗に触れた者の血を引いていたからなのです。その為貴方はあの場所に行っても無事だったのです。」


「フィオーネさん…」


「だから、そんなに気に病まなくてもいいと思います。ガイドの方がお亡くなりになったのは御気の毒ですが…ユリウスさんのせいではありません」


フィオーネの言葉は俺の心に染み入った―。




****



「ユリウスさんの身はまだ完全に安全とは言えません。アドラー城の怨霊がまだ貴方に憑りつこうと狙っています」


フィオーネは静かな声で、さらりと恐ろしい事を言ってのける。


「そ、そうなのですか…?でどうすれば…」


思わず声が震えてしまう。


「特に夜が一番危険です。なので私から離れない方が良いでしょう。太陽が昇れば怨霊の力も弱まるでしょうから、それまでは一緒にいる事です」


「え?!」


あまりにも突然の事に驚いた。


「丁度、明日は満月です。満月になれば私の力が一番強まります。明日の夜、一緒にアドラー城跡地に行きましょう。そこで私が怨霊と話をつけて…貴方を救って差し上げます」


フィオーネは俺をじっと見つめた。


その目には…強い決意が宿っていた―。

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