第3話 異世界到着、そして盗賊



体に覆われていた光が徐々に収まり、あまりの眩しさに目を閉じていた私はようやく目を開くことができた。



遂に来た。

ここが異世界。

い、異世界??



私が辺りを見渡すと、四方八方木々で覆われており、空を見ても真っ暗だ。

スキルシートに6時間かけてしまったため、どうやら異世界は夜になっていたようだ。



う〜ん。

なんの感動も湧かない。

そもそも私は日本が好きだし、綺麗な景色が広がっていたところで感動したか甚だ疑問だけど。



「とりあえず、スキルを確認。頭の中で想像することでステータス画面を開ける、と言ってたよね」


私がステータス画面を想像すると、真正面に現れた。



「名前、マリー•アントワネット」



はぁ〜。

ひとつ溜息をついて、改めて確認する。



Lv:1,000

HP:19,650

MP:60,500


あと、スキルがいっぱい。


一応、RPGを少しやったことがあるので、基本的な数値は理解できたが、その他、諸々表示されているものは分からない。



「まっ、いいか」


んっ?

私は自然と自分の服装に目が行った。



な、なんでセーラー服。


普通、異世界に来たらこっちの服装に自動で変わるものじゃないの??


どう見ても周りは森。

そして暗がり。

そこにセーラー服を着た私。



「滑稽だ。これは早くどうにかしなければ」



私は探知スキルとMAPスキルを発動して辺りを確認した。

大勢の反応がある、ここは街かな?

んっ?

100m後方に7人の反応がある。

判別スキルを発動。



6人は盗賊。

1人は町娘(人質)



「盗賊•••。最初はスライムじゃないの?」


私はひとりで呟き、今後を考えていた。

驚いたことに恐怖は一切ない。

自然とどうやって助けようと考えていた。



アントワネットの加護のお陰なのかな?



隠密スキルを発動。

盗賊に向けて静かに歩き出し、2分程で盗賊と人質の姿が確認できた。



盗賊のLvは7〜10

こ、これは弱すぎなのでは??



盗聴スキルと望遠スキルを発動。

20m程先にいる盗賊の声が聞こえて来る。

視界には焚き火を囲いながら酒を飲んでいるであろう6人の盗賊達。

人質は両手を縄で結ばれて、震えながら泣いていた。



「こんなに楽に攫えるなんて、隕石騒ぎ様々だな」


「まったくだ。早いとここいつを売り飛ばして金にしないとな」


二人の髭面が笑いながら話している。



「ボス、売る前にちょと遊んでもいいだろう?」


盗賊A(仮)が一番偉そうにしている頬に大きな傷がある男に話しかけた。


「まず俺からだ」


盗賊ボス(仮)がそう言った。



ほほう。

最初から分かってはいたけど、あいつらは敵。

しかも女の敵!!



盗賊ボス(仮)が町娘に近づく。

町娘は全身を震わせ、声も出せない。




私は迷うことなく盗賊ボス(仮)に向かって走り出し、右手の拳を背中に振るった。

その瞬間、盗賊ボス(仮)は大きく吹き飛び、近くの木に激突した。

もしかしたら、死んだかもしれない。



驚くほど速く移動でき、対して力をいれていないのにこの威力の拳。


ううん。私は女の子。拳じゃなくてパンチにしよう。


自分でも驚いて、吹き飛ばされた盗賊ボス(仮)を見ていた。



「な、なんだ、お前はー!!」

「こいつ、今何をしたんだ!!」


盗賊達は明らかに狼狽し、武器を持った手は震えていた。



自分の能力を確認した私は、盗賊達に向けて告げた。



「女の子の敵は、私の敵!!覚悟しなさい」



私は一気に走り出すと、盗賊達をパンチ、最後はキックを試しで繰り出すと先程の盗賊ボス(仮)の時と同じように吹っ飛んだ。



ふぅ〜。


戦闘が済んだ私は、拘束スキルを利用して空間から縄を出し、自動で盗賊達を拘束した。

触りたくないから、この自動で拘束してくれるスキルは有難かった。



続けて牢屋収納スキルを利用して盗賊達を収容した。牢屋収納にはもちろん酸素があるが、盗賊達の生死は確認していない(触りたくないから)ので役立つかは分からない。



「あ、あの」


私が盗賊達を収容していると、緊張の中にも少し安心した口調で話しかけてくる町娘の声が聞こえた。


私は町娘に近づき、結ばれていた縄を引きちぎった。

ナイフがないからしょうがないけど、素手で縄を引きちぎる、女の子としてどうなのか。

セーラー服だし。



「もう大丈夫だからね」


私は怖がらせないよう笑みを作って(作れてるはず)話しかけた。



「あ、ありがとうございます」


泣きながらお礼を言うと、そのまま私の胸に飛び込んできた。

私はそのままの体勢で彼女の背中を摩ってあげた。背中も肩も全身震えている。

町娘は明らかに私より年下で、うっすらな緑色の髪、顔は幼かった。



どれだけ怖かったことだろう。

私のようにスキルもない幼い女の子が盗賊に攫われたんだから、その恐怖は想像できない。



しばらくして落ち着いた町娘に私は自己紹介をした。



「私は、マリー•アントワネット。アントワネットは忘れて、マリーって呼んで」


「わ、私はミアです。この先のガーネットの街に住んでいます」


さっき確認した街の子だったのか。

街の子が簡単に盗賊に攫われたりするのだろうか。



「ミアはどうして盗賊に攫われたの?街の外にいたの?」


「街の中にいました。けど、今は隕石騒ぎで街がバタバタしていて」



盗賊達も隕石と言っていたような。



「隕石が落ちてくるの?」

「うん。大人達はドラゴンの息吹とも、話してるけど」




ド、ドラゴン。

ドラゴンは終盤に出てくるものでは?

本当にスライムはどこにいるの。



はぁ〜、と溜息を吐き、私はステータス画面を開いた。ステータス画面では時間も確認できる。



20時10分。



この世界の時間感覚は分からないけど、この時間なら街に向かった方がいいのかな。

きっと、街の人はミアが攫われたことで大騒ぎしていると思うし。



「ミア。これから私と一緒に街に帰ろうか?」

「はい!!」


私の街に帰るという言葉を聞いて、ミアは満面の笑みで返事をした。

私はミアの頭を優しく撫でた。



探知スキルを使用すると、点々と魔物の反応があることを確認。

ミアを守りながらだから、慎重に行かないと。



「ミアは歩ける?」

「はい。歩けます」



ガーネットの街までは3キロ程。

途中でミアが疲れたら私がおんぶすればいいかな。



「よし、じゃ行こう」


私はそう言うと、ミアに自分の左手を差し出した。

ミアは嬉しそうに自分の右手で私の左手を握ってきた。



まずは森を抜けて街道を目指す。

ミアは私の左手をしっかり握りしめ、時おり私の顔を見ながら歩いている。


街道まであと少しの所で探知スキルに魔物反応が2体あった。



デビルベア

Lv15



さっきの盗賊達よりレベルが高い。

盗賊達は森の中で祝杯をあげている場合じゃなかったのでは?


うん、バカなんだな。

私は自分の疑問に自分で答えを出した。



「ミア、あなたはここにいてね」

私はミアの手を離しながら伝えた。



「だ、大丈夫なの?あれ、デビルベアだよ。Dランクの魔物だよ」

ランク?


私の探知スキルには表示されていない。

判別スキルで表示されるかな?



私はステータス画面を開いて判別スキルをONにした。

ONの横に『常時発動』というボタンがある。

これは便利。もちろんこれもONにした。

後で他のスキルも確認しよう。



判別スキルをONにすると、デビルベアの横にランクDの表示が追加された。

ランクDの意味は分からないけど、Lv的に問題ないだろう。



「大丈夫だよ」


ミアの頭を撫で、そのままバリアスキルを発動。

これでミアの安全は確保。



「それじゃ、行ってきますか」


私はそう言うと、一気にデビルベアに殴りかかった。



1体目はお腹にパンチを1発

2体目は顔に飛び蹴りを1発

デビルベアはなす術もなくその場に倒れた。


因みに、セーラー服のスカートは今時のミニだけど、ちゃんとタイツを履いている。



「マリーお姉ちゃんすごーーい」

そう言いながら私に抱きついてくるミア。




お、お、お、

お姉ちゃん




ズキューン




と音が聞こえた気がした。




私は一人っ子で兄弟はいない。

憧れのお姉ちゃん。

私は額に手を当ててその場に倒れそうになる。



「マリーお姉ちゃん、大丈夫?」

ミアが慌てて私に尋ねてくる。



「だ、大丈夫。お、お、お姉ちゃんは強いから!!今のは違うから」

「本当?ならよかった」

「お姉ちゃんカッコよかったなぁ〜」

ミアが続けて言ってくる。


「ま、まぁ〜、あれくらい何でもないよ。何かあったらお姉ちゃんに言ってくるんだよ」

「はい、お姉ちゃん」




ズキューン




やばい、このままではズキューンで私がやられてしまうので、街道に向けて改めて歩き出した。

街道に出ると、遠くに街の影が見え、その周りを幾つもの火が揺れていた。


望遠スキルを使うと、火は松明の火であることが分かった。

状況から街の人がミアを探しているようだった。



「これは急いだ方がいいかな。ミア、ちょっとおんぶするからね」


私はミアの返事を待たずに少し強引に担ぎ上げた。



「お、お姉ちゃん?」

「しっかり掴まっててね」

私はミアをおんぶしたまま全力で走り出した。



お、お、おー

自分で走ってるのに驚く程の速さに変な声を出してしまった。

私の後ろから砂埃が激しく舞っている。



1キロ以上あったはずなのに、瞬く間に街の門までたどり着いた。

私は急ブレーキをかけると、今度は前に砂埃が舞い、見事に松明を持っている街の人に直撃した。



砂埃をかけられた街の人は、驚いた表情で私を見つめている。




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