第3話

智美は入院中に薬を多量に処方されたようだ。

退院後はメールでやり取りしたり智美の家に行くが、彼女は心ここにあらず。

いつもボーッとしているし、睡眠時間が長いみたいだ。

そんな彼女の姿を見ていると、私まで悲しくなってくる。


私が休みの時には、車で景色の良いところへ連れ出す。

初夏だから、ダム湖、海、高原など。


綺麗な景色を見ながら、智美は悲観的な事を言う。


「前にも少し話したと思うけれども、私は法テラスを通して自己破産して、生活保護を受けるつもりだから…。確か、生活保護での住まいの援助は50000円くらいまでだったと思う。」


私は我慢出来ずに、智美に胸の内をさらけ出した。


「私の家で一緒に暮らさない?」


「えっ、良いの?」


「借金も肩代わりするし、生活費もお小遣いも渡すよ」


「でも…それじゃ美穂ちゃんの負担が多すぎじゃない?」


「私ね、こう見えても高給取りなんだよ。外資系のメーカーに勤めていて、優秀って言われていてね。だから気にしないでね。自己満足みたいなものだから」


智美はしばらく考えてこう言った。


「気持ちは嬉しいんだけれども、何でそんなに良くしてくれるの?親友としては行き過ぎだと思うけれど」


私は自分の手をぐっと握った。

声はが上擦る。


「お互い様って事だよ。気にしないで」


「じゃあ、御言葉に甘えて…」


恋している人が私の自宅に住んでくれる。

それは私の幸福度を上げてくれるんだ。



毎日、智美は夕食を作ってくれた。

美味しかったし、好きな人補正も入っていたと思う。

病み上がりの智美が毎日食事を作るのも大変だからと、私の休日の夜は外食をした。

私は本当に幸せものだ。ただ1点を除いて。


触れられないし、触れられる事もない。

それが苦痛だった。




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