私だけのラブレター


「幼馴染」になった日から、ずっと彼が好きだった。


何度失恋して、何度忘れたいと思っても、

視界に彼が入るだけで鼓動が速くなり、肌は熱を帯びてしまう。


せめて気持ちだけ伝えたいと願っても、

この物語にそんな「シナリオ」は存在しない。


このままだといつか私の気持ちもなかったことになりそうで、

私は彼への想いを手紙に綴ることにした。

彼が好きな青色の便箋を取り出し、今まで口にしてこなかった気持ちを並べる。


「最後にあなたと口づけを交わすのは、私でありたかった。」

そう最後に記して、封をした。


(読まれることのないラブレター、か...。全くつくづく悲恋ね。)


手紙を書き終え紅茶に口をつけると、すっかり冷えていることに気づく。

急いで時計を見上げると、なんと時刻は午前10時を回っていた。


「もうこんな時間...!急がないと...!」


今日は隣町までプレイヤーを迎えに行かなければいけないのに、

どうやらすっかり集中してしまっていたようだ。

遅刻するとゲームの展開にまで支障をきたしてしまう。


私は手紙を机に置いたまま、急いで支度を終わらせ玄関を出た。




その時、


「あ!ちょうど良かった!」


背後から聞こえた声に、心臓が高鳴る。

間違えるはずがない彼の声だ。


(な、なんでこんなところに!?)


はじめての展開にドキドキしながら、急いで手櫛をして髪を整える。

後ろを振り向くと、彼が私に手を振っていた。


「あら、どうしたの?何か用?」


声がうわずってしまうのを抑えながら、なんとか平静を装って返事をする。


「突然ごめん、星座の図鑑を借りたくて。

今夜星が綺麗そうだろう?山の方まで見に行こうと思ってるんだ。」


手に汗握る私と裏腹に、彼が微笑む。

久しぶりに見る彼の笑顔は、一段と眩しく感じた。


「そうね、今日は天気がいいから星が綺麗そうだわ。

 でも…、誰と、見にいくの?」


「実はね、さっき“彼女”からお誘いの連絡が来て。」


そう答えた彼の言葉で、一気に頭が冷えていくのを感じた。


("彼女"...。やっぱりそうか。)


浮かれていた心に、現実が重くのしかかる。

私が彼への想いを綴っていた間、二人がこうして愛を育んでいたことを知り、

涙が出そうになった。


「...そうなの、素敵ね。

図鑑は机の上に並べてあるから、勝手に持って行ってちょうだい。」


「分かった、ありがとう。あ!ねぇ、君もさ。」


「ごめんね!私、急いでいるの。じゃあ楽しんで。」


彼が何かを言いかけたが、それ以上会話を続けることができず

その場から走り出す。


手紙に封をするように、自分の気持ちにも封ができたらいいのに。

そう思いながら溢れる涙を手で拭い、隣町へと急いだ。


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この世界にバグが起きるまで、私はあなたと恋ができない。 natsu @natsudaaa8

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