第5話 唐突な出会い


 ジョブに就いたことで発現した新たなスキル索敵。俺はそれを発動しながら心置きなくダンジョンを突き進む。

 

「いた」

 

 第二エンカウントは圧倒的有利な状況で始まった。

 脳裏に感じる索敵スキルに敵の存在が表示される。

 どうやら敵は眼前の曲がり角の先にいるらしい。 

 俺は音立てないようにそっと角へと近づき、その先を探った。

 

「ギギギ……」


 視界に映るのは、先程倒したモンスターと瓜二つのモンスター。要するにゴブリンだ。相手は未だこちらに気付かず、さらに俺の居る方向とは反対方向へと歩いて行っている。

 これはまさに絶好のチャンス。


「スゥ___」


 それを認識した瞬間、俺は鋭く息を吸う。

 今ならば、先ほど想定シミュレーションした通りに半消音で近づき、一発で相手を沈ませることができるはずだ。

 俺は決意を固めると、そっと目を瞑り、掠れる様な声で呟いた。

   

「半消音……」


 その効果を確認する必要はない。

 俺はただ素早く曲がり角を駆け出し、一直線にゴブリンの後背目掛け___タックルを仕掛ける。

  

「ギャッ___」


 酷く濁った叫び声が上がった。

 体の接触で始めて攻撃を受けたことに気付いたゴブリンが、どうにか反撃に転じようと藻掻き始める。

 だが、反撃などさせない。

 俺はタックルの勢いそのままにゴブリンを押し倒し、背中に馬乗りになりながら、そっとその首へと手を掛けた。

 そして___。

 ゴキリッ。

 思いっきり捻る。

 それだけで鈍い骨の音が鳴り響き、ゴブリンの首が在らぬ方向へと曲がった。


「ギギっ___」


 数瞬後、ゴブリンは黒い霧となって消えて行く。場に残ったのはビー玉サイズの紫色の魔石とボロい布が一枚だけ。

 所謂、これがドロップアイテムとか言う奴であろう。

 だが所詮は布切れ一枚。

 しかもゴブリンが装備していたと思われる汚いボロ布だ。

 そんな物を拾ったところで、一体何の役に立つというのか。

 

「ふぅーーー」


 俺は深く息を吐き出し、残ったビー玉サイズの魔石だけをポケットへと回収した。

 他の小説・漫画などではこの魔石はしばしばエネルギーの塊として描かれることが多い。今後何らかの役に立つ可能性はボロ布よりは高いはずだ。

 それに何と言っても小さいので、嵩張らないのがとても良い。

 

「よし、やれるな」


 立ち上がりながら、手を握り締める。

 何の抵抗もなく、危なげなく戦闘を終えた。

 その成果はきっと、思った以上に大きいはずだ。

 もちろん精神的にも、肉体的にも。

 索敵し、半消音で近づき、そっと首をへし折る。

 その手順さえ間違えなければ、ダンジョンで死亡する確率はグッと下がるのだから。

 俺は変化の乏しいダンジョンの光景を眺めながら、ゆっくり足を踏み出す。索敵して、歩いて、また索敵して、歩いて、索敵して___そして、再びの発見、接敵。


「いた」


「ギギギッ」

 

 同じような行動を繰り返す。

 機械の様に。

 初めからそう、プログラムされているかのように。

 感情を殺し、体を動かし、ゴブリンの首をへし折るだけの簡単な作業をこなし続けるのだ。

 ゴブリンが黒い霧に変わる。魔石だけを回収し、先へと歩き出した。そしてまた索敵の繰り返し。

 とにかく体力の消耗だけは最小限に留めたい。

 余計な思考は省き、眼前の敵と戦う事だけに集中する。

  

「___」


 一体何戦同じことを繰り返したのであろうか。


 十戦、二十戦?

 もっと少ない?

 それとももっと多い?


 うん……正直分からない。

 ただ言えるのは、いつの間にやら片方のズボンのポケットがパンパンに膨らんでいる事だ。

 これ以上魔石をここへ収納することはできない。

 仕方がないので、俺はこれから倒すゴブリンの魔石もボロ布同様に捨て去ることに決めた。


「先が長すぎる……ほんとに、長い……出口なんてあるのか?」


 不安は常に襲い掛かって来る。

 もうすでに一、二時間時間は経過し、距離にして三、四キロは歩いたはずだ。

 だというのに、出口には一向に辿り着かない。

 手がかりすら掴めない状態が続く。

 曲道は在れど、岐路の様な道はなく。

 ただ長い一本道を歩いて来ていた。


「ともかく前に……前に進まないと___」

 

 己を叱咤する様に呟く。

 孤独は非常に危険な毒だ。

 勝手な思い込みを修正できないし、すべての事を一人の力だけで乗り越えなければならない。


___誰か、誰か、いませんか?


 この頃にはすでに、俺は俺ではない誰かを無意識に求めていたのだと思う。けれども、その心の要求をラノベ的思考を持ったもう一人の俺が常に否定してくるのだ。

 

___一人で頑張れよ。ここを乗り越えればお前は英雄だ!


 聞き心地としては最高の言葉。

 だが、その選択肢はどうにも『生か死かを選べ』とでも言われているように聞こえた。

 己を蝕む毒は常に苦しく、辛い物ばかりではない。

 心地よく、甘美に、いつの間にか隣に座っている毒だって世の中にはあるのだ。


「……」


 ああ。

 そもそも。

 なんで一人で頑張っているのだろうか。


___英雄になるためだろ?


 なんで英雄にならなければいけないのか。


___地上に出て地位と名声を思うがままに手にしたいからさ


 地位?名声?なんだそれ。

 そんな物、ほんとに手に入るのか?


___さぁ?出て見ないと分からんだろう


 本当に、バカみたいな自問自答だ。

 だが、そんな自問自答を肯定し、地上に出た時の妄想に耽る自分がいることも確かだ。

 

「違う……違う……俺は……ただ、生き残りたい……ただそれだけなんだ」


 腹の音はもはや気にならない。

 時折出て来るゴブリンを即殺そくさつし、無感情に只管進むだけだ。


「___」


 意識も定かではなくなって来た俺は、幽鬼のように体を揺らしながら、先の見えない真っ暗な洞窟を歩んで行くのだった。




★★★


___と言っても、そんなネガティブな感情に支配されたのは、ほんの一刻の間だけだった


 俺のネガティブな感情をぶち壊す、喜劇みたいな出会いがあったから。


「この先に、ドーム状の部屋……か?」


 無意識に索敵をしながら歩いていると、ふと、少し先に体育館ほどの大きな空間があることが分かった。 

 そして、その空間の中で何匹ものゴブリンが急速に数を減らして行っているのである。


___なんだ?

___一体この先に、何がいる? 


 消えて行くゴブリンの反応。

 それとは別に、高速で動き回っている別の反応を俺は捉えていた。


「……行くしかない、よな?」


 熟考するまでもない。

 道はずっと一本道であり、ここを通る他に選択肢はない。

 警戒の心を十二分に持った俺は、慎重に慎重を重ね、そっと通路の先から中を伺ってみる。

 すると____。


「あぁぁぁぁぁッ! あれはッ! 私のッ! 私のッ、大事なカレー肉うどんだったんだーーーッ!」


「グギャバッ」


 ああ、うん。

 なる……ほど。

 そう、来ますかぁ。

 部屋の中を覗くと、そこにいたのはとても見覚えのある先輩が、刀を片手にバッサバッサと何匹ものゴブリンをぶった切っている光景だった。

 すいません、それ、何て無双ゲームですか?


「……えぇぇ」

 

 思わず戸惑いの声が漏れる。

 恐らく、一人コツコツと洞窟アドベンチャーゲームをやっていたのに、なぜか同じゲームをやっているはずの人が、いつの間にか無双ゲームをしていらっしゃる……まさに、そんな謎の状況が一番当て嵌まるだろう。


「お腹、空いたんだよぉぉぉ!」


「グギャバッ!?」


 さて。

 それはともかく、まず確認しよう。

 あの先輩は、食堂の中で俺の前に並んでいた人物と同一人物だよね?


 赤いリボンをして___ゴブリンを切り裂き。

 肩口で切り揃えた黒髪を揺らしながら___叫び散らす。

 さらに、手足が細長くって、容姿端麗____逃げるゴブリンを背後から無慈悲に惨殺……していても、同じ人物ってことでオーケーですか?


「私の、唯一の、お昼の楽しみが……月に一回だけ許された、カロリー無制限のお昼ご飯だったのに……どうして、こんなことになっちゃったの?」


「ああ、うん。あれは、間違いない。カレー肉うどんの先輩だ」


 にへら、と言う表情を浮かべつつも凛々しさ満点だった、あの憧れかけていた先輩。

 ああ。

 さようなら、俺の甘酸っぱい青春。

 良い夢見せてもらったよ。

 そして、こんにちは、俺のちょっとバイオレンスな青春。

 頼むから一瞬で過ぎ去ってくれぇ。


「あれはっ、私のっ、私の大事な大事なご褒美だったんだ! 分かるか! わ・た・し・の!! 唯一の、ご・ほ・う・び!! だったんだぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ」


 先輩は心からの叫びを挙げつつ、最後に残ったゴブリンの首をがっつり握りしめ___次の瞬間、高速でシェイクし始めた。

 白目を剥き、幾人もの残像を作り上げるゴブリンさん。

 きっと、彼?彼女?の意識はすでにそこにはないに違いない。

 今頃、空の彼方にブッ飛ばされているはずだ。

 

___止めたげて!ゴブリンのライフはもうゼロよ!


 と、ツッコんであげたいところだが、さらに先輩の狂気は続いた。

 ゴブリンを揺らしていた行動が徐に治まると、今度は突然無表情になり、握った拳をひたすらに振り下ろし始めたのだ。

 何度も。何度も。何度も。

 殴る、殴る、殴る、殴る。

 まさに、恨み骨髄に徹するとは、この事。

 泣いても喚いても、拳の連打音だけが部屋に木霊する。


「あの先輩、ヤバくね?」


 ドーム状の部屋をこっそり覗きながら、そう呟く。

 あれは、もう、すでに、何人かヤッている人の目と躊躇のなさだ。

 世が世なら、立派な兵士や、武将になっていたに違いない。

 環境適応能力が高すぎて、ダンジョンがヌルゲーと化しているのだから。


「うーーーん。さて、どうするべきか……」


 そっと頭を引っ込めた俺は、右手で顎の先端を擦りながら悩む。

 この状況、一体どうするのが一番いいのか。

 

___無視して真っすぐ進む?


 いや、それ無理ゲー。

 部屋に入った瞬間、謎の感性で気づかれそうだ。


___戻りますか?


 戻ってどうする。

 あの『ゴゴゴッ』とか効果音が鳴ってた、危ない洞窟の先に行くのか?

 俺はごめんだね、まだ死にたくない。


___じゃあ、怒り狂ってる先輩に話し掛けに行く?


 うーん。

 結局、それしかない気がする。

 でもさ、アレ、見てみ?


「フンッ、フンッ、フンッ」


 普通に怖い。

 めっちゃ怖い。 

 凛々しい見た目で、クール系美女っぽかった先輩はもういない。

 緩みに緩み切った表情を見せていた先輩も、俺の記憶領域内の遥か彼方に消えて行った。


 あそこにいるのは、一人の修羅だ。


 般若の形相と悲哀の表情を交互に浮かべては、情緒不安定になる危険生物でもある。

 さらに食べ物の恨みを煮詰めに煮詰め切った化身の様な存在にもなっているので、俺の手に負える存在ではないだろう。

 頼むから、ないと言ってくれ。

 

「ああ、あれ。俺が、鎮めなきゃダメですか?」


 答えはもちろん返ってこない。

 何せ周りには、俺しかいないのだから。

 その事実に思わずゴクリと生唾を飲みこみ、頭を抱えた。


「いやいや、待て待て、良い方に考えよう。ポジティブ大事。前向き超大事。先輩は、話しかければきっと強力な仲間味方になってくれるはず……きっと、恐らく、たぶん。それにこんな状況だ、一人より二人の方が絶対に心強い。誰か、頼むから俺の意見を肯定して?」

 

 結論は出ている。

 話し掛けに行く。

 それ以外に選択肢はない。

 でも、なんでだろう……。

 協力を依頼する前に、一発はブン殴られるか、刀で切り掛かられそうな匂いがプンプンしている。

 と言うか近づいただけで、確実にヤられる気さえした。 


「フゥー___男は度胸ッ」


 短く息を吐きだして、己自身に喝を入れる。


___殴られるのがなんだ?

 

 踏ん張って耐えて見せろ。


___理性のない人間がなんだ?


 大丈夫、人類皆友達。理性ある人間だ。

 ラブ&ピース。

 世界はきっと優しさで出来てる。 

 何より俺は、この孤立した状況を打破したいのだろう?

 ならば、せっかくのこの出会いを逃す手はないだろう。

 勇気ある一歩を____踏み出せッ!


「___ッ!?」


 通路の先端からドームの中へと歩き出すと、ギョロリと即座に先輩が振り向き、発見された。


「あーーー、え、えっと……どうも?」


「フシュュュュュュ____」


 どうしよう、先輩の焦点が全く定まっていない。

 完全に理性を失ってらっしゃる。

 振り向いた先輩からは、暴走した某SFアニメ並みの狂気を感じ、吐き出された白い息が、もくもくと浮かび上り___あ、これダメかも。

 と、この時にはすでに、一発殴られる覚悟を決めた。


「えっと、先輩?ですよね?カレー肉うどんを食べていた」


「グルゥゥゥゥゥ」

 

 とてもにこやかに語り掛けたはずだ。

 だが、俺が今会話しているのは、恐らく理性のある人間じゃない。

 もはや獣だ。

 空腹と、訳の分からん状況で暴走した、人間の成れの果てだ。

 それでも俺は、会話することを諦めない。

 精一杯の勇気と人類皆友達理論を掲げたこの身で、簡単に引きさがるわけにはいかないのだ。

 そうだ、俺こそが全人類の代表。

 変なテンションに支配された行動で俺は、唸る先輩へと___そっと手を差し伸べた。

 差し伸べてしまった。


「せんぱっ____」


「シュッ___」

 

 早い。

 恐ろしく早い動き。

 俺でなきゃ見逃し___以下略。

 俺が伸ばした手の先で、先輩が視界から消えた。


「あーーーれはーーー、私のッ、カレー肉うどんだ!かえせぇぇぇぇぇ!!!」


「ヒェッ___グハッ」


 直後、左斜め下あたりから、低い叫び声が聞こえると同時に___俺はすでに宙を舞っていた。

 何が起こったのか、分からない。

 だが恐らく、振り抜かれた拳は惚れ惚れするほどのアッパーカットだったのだろう。

 昇竜拳直後の姿勢のままの先輩を尻目に、顎に鋭い痛みが走ると脳みそが高速で揺らされた。


「あ、あ、ぁ」

 

 一瞬の空中浮遊。

 あ~~~れ~~~、とグルグル意識を飛ばした俺の目の前にいたのは、天国に行ったはずの爺ちゃんだった。


___一志、おいで


 頭に白い輪っかと柔和な笑顔を浮かべた爺ちゃんが、三途の川の向こう側から、こちらへと手を振って笑いかけている。

 

____ああ。爺ちゃん、俺も今そっちに行っ


「だッ、ハァッ!」 


 そう言いかけて、背中全体に衝撃が走った。

 急速に、意識が浮上してくる。

 どうやら俺は、地面に叩きつけられた衝撃で、戻って来れたようだ。

 はぁはぁはぁ、今のは、本当に危なかった。

 あのままだったら、間違いなく爺ちゃんと天国でスローライフ送っていたに違いない。

 ごめん、爺ちゃん。

 俺、まだこっちでやりたい事があるから、後百年はそっちに行けないよ。

 だから、ゆっくり見守っていて?


 『あい、わかった』


 と言う言葉は聞けなかったが、俺の脳内爺ちゃんは笑顔を浮かべながら天国へと去って行ったので、これで一件落着。

 次は、この事件を起こした張本人の問題だ。


「げっ」

 

 地面に倒れたまま目を開けていると、綺麗な声で汚い言葉が聞こえた気がした。

 俺も自分で何を言っているのかは、分からない。

 でも、恐らく、そのままの表現で問題ないはずだ。

 これは戸惑った先輩の声だろうから。


「いつつっ」


 声を発したのが先輩だとあたりを付けた俺は、少し無理をして体を起こすことにした。

 少しでも早く確認したかったからだ。

 先輩が理性のある人間へと戻ったのか。

 それとも、敵を喰らって暴走するヤバい系の先輩のままなのか。

 頼む。

 心の底から願うから、正常な先輩に戻っていてくれ。


「え、えぇっと……同じ学校の生徒? だよね?」


「……」


 体を起こした先には、バツが悪そうな表情を浮かべる一人の理性的な人間がいた。

 頬を掻く姿も。

 目をキョロキョロ動かす姿も。

 とても様になってる。

 どうやら先輩は正気に戻ったらしい。

 

 ああ。

 俺、超頑張った。 

 よく、あの危険生物を鎮め切ってみせたよ。

 顎と言う犠牲はあった物の、目標は達成した。

 拍手喝采雨霰!!

 やっふぅぅぅぅ!!

 と一人、心の中でガッツポーズをしていると、正面に立つ先輩がソワソワとし出した。

  

「ええっとね? 私も突然こんな状況になったものだから、混乱していて……でも、いきなり襲い掛かって、ごめんなさい。完全にこの場に人間なんていない、そう思い込んでいたから、出来ればこの気持ち、分かってもらえると嬉しいんだけど……無理にとは言わないよ。あっ、えっと、そうだね。うん。殴ったのは事実だし、さすがに殴り返されるのは嫌だけど、その、他の手段での埋め合わせとかなら、比較的前向きに検討させてもらうから、何でもいっ___」


 そして始まったのは、息をも吐かせぬ程のマシンガントークだ。

 アワアワしたり、バツが悪そうに眼を逸らしたり、申し訳なさそうに頭を下げたり。

 謝罪が、非常に忙しない。

 だが、その忙しない中にも人間の良さ言うか、性格の良さとかが現れている様な気がして……まって、今なんでもって言った?


「おっとっと?」


 ふと、バランスを崩し、視界がぼやける。

 あれ?

 なんだ?

 先輩の声が、段々遠ざかり、意識が遠のいて行く気がする。

 どうしてだ? 


「ぉーぃ?___???」 

 

 ああ、そうか。

 実は結構、拳のダメージが効いているらしい。

 さらに、無事、生きた人間と出会えたことに安心し___俺は完全に気が抜けたんだ。

 

「ぉーぃ、ぉーぃッッ!!」


 バタリッ。

 再びの背中への衝撃。

 鬼気迫る様に話す先輩の声が、夢現の様な感覚で聞こえてくる。


___ああ、心配しないでください先輩。

___大丈夫、大丈夫ですから。

___おれ、すこし……休むだけですから。


 伝わらないとは、分かっていた。

 それでも俺は心の中でゆったりと先輩へと呟き____そのまま意識を手放すのだった。

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