絶対に危険な目に遭わせない!

 俺の分のオムライスはそんなに丁寧に作れなかった。

 卵は少し焦げてしまい、半分に割る感じにできないし、何より中がトロトロではない。オムライスとしては見た目は30点と点けるくらいだろう。

 プレートの上に乗った赤く染まったライスの上に布団を掛けるように敷いた卵。もう半分に割る前から割れていた。

 あちゃー、と内心思った。だが、自分が食す方でよかったという安堵に包まれた。


 「先輩、ケチャップとかいらないんですか?」


 「いらない。そんなのなくても美味しいもん」


 「わかりました。水とか入れましょうか?」


 「うん。お願い」


 俺は紙コップに飲料水を注ぐ。もう空になった。


 「はいどうぞ!」


 「サンキューね」


 「もうそれしかないんでペース配分考えて飲んでください」


 そう伝えると、俺もテーブルの方に向かう。


 下手くそなオムライス。果たして味の方は…


「うん…52点…」


 自分の口でそう言った。


 「亮ちゃん上手く出来なかったの?」


 「えぇ、味もちょっと焦げるし。52点…いや、もっと低いかも…」


 「嘘!?」


 そう言って勝手に先輩は、俺の方のオムライスの焦げてる部分と、綺麗に焼けてる部分の半分の割合で取って口にする。


 「52点…そんな事無いと思うけど…」


 「そ、そうですか…」


 俺が食べた部分を取って食べた…。普通は食べてない部分を掬い取って食べるのがいいんじゃないかと思ったが、これも俺が童貞だから過剰に反応しているだけなのか?

 いや、スプーンで掬い取ってるから関節キスでは無いから大丈夫か。いや、なんかそうでもないかも。そもそも食べた部分から取るのが変だ。何故先輩はどこにも手を付けてないところから取らなかったんだ?


 「80点くらいかな?ちなみに私に作ってくれたやつは150点!」


 ニコニコとそう言ってくれた先輩。


 「そ、それはどうも、あ、ありがとうございます。そんなに評価してくれるんですね」


 「うん。味と亮ちゃんの優しさを含めて!」


 なんだこの可愛くて微笑ましい生き物は。なんか養ってあげたい気分だ。

…いや、そうじゃない。ストーカーだけではなく、あらゆる悪意に満ちた人間から守ってあげたくなる!

 先輩は今の立場からして、ストーカー対策に甘かったり、人の家で、しかも異性の家であんな格好でいたり、あとカレーしか作れないとかも含めて心配だ。だから俺は、先輩を養っ…守ってあげたいという、俺の中の母性本能らしいものを燻らせてきた。

 

 「亮ちゃんって料理とかどこで覚えたの?」


 「いや、俺料理なんて周りの誰からも教えてもらった事無いですよ。ここに来てから動画とかを見よう見真似でやってみたんです。そしたらこんな感じに出来上がった訳です。まだまだですよ、俺なんてね。ところでカレーが作れるんですよね?」


 「うん。それが?」


 オムライスを口に持っていきながら問いかける。


 「それは家族からですか?」


 「いや、家族に教えてもらってない。って言うか…」


 「…先輩?」


 急に食事の手が止まる先輩。少々落ち込み気味になった。


 「……私さ、家に追い出されたんだよね。だから一人暮らししてる…いや、させられているの」


 俺も手を止めた。


 「追い出された?なんでですか?」


 「私は元々行きたかった大学があってさ、そこの大学に落ちた…。私が今行ってる大学はあくまで滑り止めの大学なんだけど、ここの大学に行くなら、家から遠いから養えないって言われたんだよね。私の家、三人子供がいて、私、妹、弟なんだけど、今後の二人の事を考えて、私の分の交通費とか学費とかは全て出せないってなって、家族から交通費だけでもなんとかしなさいって言われてさ。そっから一人暮らしをするようになったんだ。それで家族に迷惑掛けない為に一生懸命一年の頃は勉学に励んだの。友達と一緒にね。そしたら二年になって余裕が出来て、少しはゆっくり出来ると思った矢先にストーカーに悩まされてさ。親にも言ったけど、何にも相談に乗ってくれなかったし。どうしようもないなって怯えてた」


 「家族のみんなも心配の連絡とかもなしですか?」


 小さく頷いた先輩。


 「だから亮ちゃんも、一年の時は真面目にやっといた方がいいよ。何があるかわからないし。……と、言っても私が迷惑掛けているんだもんね。今…」


 「そうな事ないですよ。先輩は真面目にやってきたんだし、この先もストーカーなんかに悩まされないで、俺が守りますよ。その為に今一緒にいるんじゃないですか」


 「…そうだけど、亮ちゃんにいつまでも甘えてられないよ。もし亮ちゃんの身に何かあったら私のせいになるかもしれないし」


 「…もうそんな事言わないでくださいよ。俺、色々と大学とかにも相談してみますから」


 「ありがとう…。私、亮ちゃんに頼る代わりに何かお手伝いする!お皿洗いとかするよ」


 「あ、ありがとうございます。あっ、お皿洗いとかいいんで、一つだけいいですか?」


 「何?」


 先輩が正座して真面目に聞いてきた。


 「光熱費をもし今後ここで住む場合、半分出して貰っていいですか?」


 「いいよ。その他は?」


 「いや、それ以外は別に…」


 やった!光熱費はなんとかなりそうだ!


 「じゃあ、光熱費の半分だすね。あっ、なんなら今日の分も」


 「いや、それはいいですよ」


 まぁ今月はもういいとして、来月から手伝って貰おう。正直、今もピンチなのもある。別に趣味とかにお金を注ぎ込むということがあまりないが、この先三年の間に住むのであれば、それくらいして貰いたいのである。ケチな俺はそこだけは譲れない。

 しかし先輩は余裕そうだった。


 「私もこんな事で貴重な大学生活を費やしたくないからね!はい!ご馳走様!」


 黙々と食してくれた先輩は、見事にオムライスを平らげてくれた。その食べっぷりは、なんだか漢らしい。ガツガツと残さずに食べてくれて、米一粒も見つけたら口に含んでくれた。


 流石ジムに通っているだけある運動系女子と言った感じだ。さっきも俺に抱きついてきた時も恥じらいなどなくボディタッチで攻めてきては、胸をしっかりと押し当ててきたし。肉食系なのか先輩は?


 「先輩最初はストーカーとか全然平気そうなのに。やっぱり怖いんですね」


 「正直、今日出会ったんでしょ?私をストーカーしていた人に。それ聞いたら身近にいるって思うと怖くなるよ。なんか心霊系とはまた違う恐怖に襲われそうになるんだよ」


 「なるほどね。しかも被害者ですからより身近に思う訳ですね」


 「だから正直、リモート授業とか私取ってないからずっと大学に足を運ばないといけないんだよねぇ。それが嫌だ…」


 確かにリモート授業の良さってそこにもあると思った。世間を騒がせたウイルスによってリモート授業が増加して、自宅で講義が受けられるようになった。それがストーカー対策にも役立っていると納得した。

 

 「じゃあ、明後日は何限から授業があります?その時一緒にいきましょう」


 「…二限と三限だけある」


 「じゃあ俺三限からなんで、二限の講義に間に合うように一緒にバス通学にしましょう」


 「……うん。わかった!」


 そして約束した後に俺もオムライスを平らげたのだった。

 笑顔に戻った先輩は、俺の分のプレートを持って台所まで持っていく。


 「やっぱこれ洗うの手伝うわ。手伝っていい?亮ちゃん」


 「あ、ありがとうございます。助かりますよ」


 「洗剤とスポンジ借りるなぁ」


 「はい、使って下さい」


 そして俺は風呂掃除でもするかと立ち上がった。

 

  

 


 


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