第33話 片瀬への一席
この場は父から依頼された健司が取り仕切っている。当然最初の進行も父に代わって始めるが、それはかなり簡略化されている。帰国報告と将来の会社の展望を説明した後に乾杯すると、みんな粛々と箸を動かしている。
だったら最初からそうすれば良いのにと紀子さんは千鶴さんとヒソヒソ話をしている。健司は希未子さんの隣には片瀬が良いだろうと気を利かしたのだが当てが外れたようだ。バスでは片瀬さんとあれだけ喋っていたのに今は鹿能さんとお喋りしている。
「あの二人は仲が良いのかあたしにはピンとこないんですけれど」
「そりゃそうでしょう鹿能さんはお通夜の飾り付けと片瀬さんの歓送会に家に来ただけですから紀子さんとはなじみが薄いでしょうね」
「だから向かい側で話が興じている希未子さんと鹿能さんを見て驚いたわ」
その紀子さんは「健司さんと片瀬さんが昔は家に来てああやって良く呑んでたから余り変わらない」と聞かされて、千鶴はそっちの方に関心がいき、更に二人の様子を聞き出した。
最初は会長さんが片瀬さんを家に良く連れて来ていた。健司さんは放浪人生を送っていて家には余り居なかったけれど、丁度片瀬さんが来た辺りから会長は健司さんを入社させた。その頃に千鶴さんはお見合いして、去年の暮れから我が家の一員に収まる。だから鹿能さんより片瀬さんの方をよく知っている。
「どんな風に片瀬さんを」
「まあきちっとした方で、それは健司さんとは正反対ですけれど家で呑んでいると結構話が合うんですよあの二人は、だから片瀬さんが来るときは缶ビールの買い置きをしてました。それとつまみも良く買い出してました。片瀬さんは飲み出すと良く喋るんですよ。まあ主に世間話が多くてそれに対して健司さんは旅行の話ばっかり」
「それはあたしも良く聞かされている、崖から落ちかけたとか増水した川に流されたとか」
「片瀬さんは世間話でしょう、もう二人の話はてんでバラバラなのよ良くあれで飽きないと謂うか双方が違う話ばかりでよく続くもんだと、そして会長の場合はこれがまた今度は似たような世間話でも片瀬さんは律儀に合わせて喋っていて、こっちはつまみは簡単な物では会長の口に合わないから結構凝った料理を作って差し上げましたよ」
「まあ紀子さんも大変ね内の健司とおじいちゃんの酒の賄いに駆り出されてちゃんとその分のお手当ては戴いてるんでしょうね」
「ええ帰りが遅くなると弾んで貰っていました」
「じゃあ片瀬さんはおじいちゃんと内の健司からと自宅には結構招かれていたんだそのホステス役を紀子さんはさせられていたんだ」
「そんな大げさなもんじゃ無いけれど夕食を終えれば帰宅していたのが片瀬さんが家に招かれだしてから残業続きだけどその分のお手当てが上がったけど片瀬さんが海外勤務になってからはお手当てが下がっちゃったの」
「痛し痒しか、でもまた健司が家に連れてくれば忙しくなるのね」
「多分んそれは無いと思うだって会長は片瀬さんと希未子さんを一緒にするために海外勤務を切り上げようとしていたんですもの」
それが全部ご破算になったかと千鶴は向かい側に目線を投げた。
向かいでは健司と片瀬が話し込む。健司にすれば新婚旅行では片瀬には色々と面倒を掛けてしまった。それで帰国すれば一席設けて寛いで貰うつもりでいたが、親父がこんな余計な手配をしたもんだから。紀子さんにまで被害が及んでしまった。
「紀子さんは元気で良かったですね」
「お前を招くたんびに彼女の帰りが遅くなって居たからなあ」
「わたしの
「おじいさんはあれでお前を随分と買ってたからなあホテルの披露宴の席で気に入られたそうだなあ」
「学生時代はいろんなバイトを掛け持ちしてましたからお客さんの気持ちは大体掴めましたから」
「それでおじいさんはお前は商社マンに向いてると引き抜いたのか」
「各企業訪問が解禁になる前から会長は密かに接触されましたよ」
「花嫁候補まで用意するんだからおじいさんも余程の惚れ込み用だが。これからは親父の時代だからどう転ぶか分からないから妹の件は案外重しが取れていいんじゃないのか、最も惚れて居れば別だがあれはお前には手を焼かせるぞ」
「そんなこと謂っていいんですか隣に聞こえますよ」
「その心配は無いよ隣の鹿能とは随分と熱心に話し込んでいるあれを元の鞘に収めるのは生易しいもんじゃないぞ妹の性格を俺はよく知っているだけに」
「人生七転び八起き最後にこちらへ転べばいいんでしょう」
「転んでもお前なら後が大変だぞ、それより気分転換にもう一度海外へ赴任する気は無いか今回の呼び戻しは亡くなった会長の意向だった、そのつもりなら俺から親父に働きかけてやるが此処に居るよりその方が
確かに希未子は剥きになる方だから今の状態を考えると、距離と時間を空けた方が確率は上がるが、片瀬はそれは否定して、こうやって傍に居られるだけで
「バカだなあ置き物じゃないだぜ俺みたいに妹でずっと傍に居られて見ろそんな考えは直ぐに吹っ飛ぶだろう」
「それは相手によるでしょう」
「まあなあ、それが夫婦と言うもんかも知れん」
と変な処で納得する。
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