第二十五話 『風邪。看病。二人きり。そして何も起こらないはずがなく…③』

小学生の頃、昼休みにクラスの男子全員でかくれんぼをすることになった。

まぁぶっちゃけるとこの全員という括りに俺は含まれていなかったわけだが。

補足するとクラスの男子全員(無意識のうちに俺除外)みたいな感じだと思う。

いやまあクラス全員って言うから俺も参加すると思っちゃうじゃん。


そうとは知らず(というか気付かれていないことに気付いてない)まだ分別というか割り切りが出来てなかった俺は校庭の大きめの滑り台の下というちゃんと確認すれば簡単に見つかるような場所に隠れた。

その当時から俺の影が薄すぎることはやんわりと認識してはいたものの、かくれんぼということは鬼役も気合を入れて探すだろうから見つけてくれるだろうという考えもあって、あえて分かりやすい場所を選んだのだが。


最初の十分はワクワクしていた。

もう十分経った時は、まだ見つけれてないだけだと考えた。

もう十分経てば、もう不安しかなかった。

チャイムが鳴った時はもう諦めていた。


教室に戻り、クラスのリーダー格の男子に、


『…なあ◯◯君』

『うおっ!大輔かよ。相変わらず影薄いなー』

『昼休みのかくれんぼだけど…』

『うん?男子全員でやったやつか?』

『それ。お、俺滑り台の下に隠れてたんだけど、目の前通ったよね?』

『えっ!お前参加してたのかよ!悪い気付かなかったわ。ていうかお前のこと完全に忘れてた!あははは』


今にして思えばクラスの男子全員なんて言っといて俺を忘れてたとかマジでふざけんなってキレるとこだけど、当時はここまで自分がクラスの、さらに言えば学校という社会において認識されておらず全くと言っていいほど馴染めていないとは思っても見なくて、それを自覚した時の精神的なダメージが大きすぎた。


それからだ。俺が人との会話が満足するように出来なくなったのは。

……いや嘘ついた。会話できないのは元々だったわ。

ま、まあ人付き合いに関して滅茶苦茶消極的になったのはこの時からではある。

どれだけ交流を持とうとしても、相手側からのアクションが皆無であればそれは徒労に終わってしまう。

ならわざわざ疲れるだけの行為をするよりも、全部諦めて殻に閉じこもる方が遥かに楽だった。


最近その殻を粉々に粉砕されているような気がしないでもないが。


---------------


「……何で今更こんな夢見たんだろ」

「どんな夢ですか?」

「くぁwせdrftgyふじこlp」


目が覚めると、側に高瀬さんがいた。

見知らぬ天井ならぬ、見慣れた女神だ…なんちゃって。

忘れて下さいお願いします。ていうかやっぱ見慣れても無いわ。綺麗すぎて眼球潰れる。


「今時その悲鳴は死語になりつつありますよ」

「誰目線の話それ!?……ていうか高s、いや魅依さん」

「はい大輔君。おはようございます」

「お、おはようございます。その、今何時ですか?」

「今は7時半前ですね。大輔君のお母様と、お父様もまだご帰宅してません」


眠り始めたのが四時過ぎくらいだったから、大体3時間は寝てたのか。


「母さんはまあ置いといて、父さんはこの時間に帰って来てないってことは…多分残業だと思います」

「残業、ですか。それは頻繁にある事なんですか?」

「いや滅多に無いですね。父さん曰く『うちの会社はホワイト企業なのが売りだからな。というか、そんなに残業してたらお前たちとの時間を取れないだろう?』だそうですから』

「成る程。つまり、大輔君の不調時にご両親が二人とも都合悪く用事が重なってしまったと」

「そういう事なんですかね」


確かに、今まで体調を崩したことがなかった俺が熱を出した時に両親二人ともちょうど不在とは、さすが俺。見事すぎる不運だ。いっそ惚れ惚れするわ。


「と、その前にこんな時間なのに魅依さん自分の家に帰らなくていいんですか?」

「え。あ、その…気付きませんか?」

「?」


なんだなんだ?あの高瀬さんにしては珍しく言い淀んで。というか気付くって言ったって、何に気付くんだ?

高瀬さんの服装は来た当初から変わらず、おそらく一度自宅に戻って着替えたのであろう私服。

窓の外は真っ暗でよく見え……待て。寝起きだから気付かなかったが、よーく耳を澄ませば、屋根を打ち付ける音が聞こえてくる。つまり。


「え、もしかしなくても、雨で帰れなかったりします…?」

「はい。そうなりますね…」

「魅依さんの親から何か連絡は無かったんですか?」

「いえ、あるにはあったんですが…どちらも迎えには行けないと」

「えぇ…」

「もとより大輔君の夕食を作るまで帰るつもりは無かったのですが、5時頃から降り始めたこの大雨で帰るに帰れなくなってしまいました…ひょっとしたら大輔君のお父様もこの雨でトラブルがあったのでは無いですか?」

「そうかもしれないですね…一旦連絡してみます」

「はい。あと、この嵐は明日の朝前まで続くみたいですね」

「マジですかー…」


その後母さんと父さんの両方に連絡してみると、母さんは友人の家にいるとのことで、父さんは高瀬さんの予想通り、電車が嵐で止まっているため会社で一泊するとのこと。


つ ま り。


(今日1日は高瀬さんと二人っきりで、しかも高瀬さんは俺の家に泊まり、だと!?)


「不幸中の幸いですが、今日は金曜日。明日は休みで朝に急ぐ必要がないのでそこはラッキーでした」

「いや…(俺はラッキーじゃねぇぇぇぇ!!主に理性が!俺のガラスで作られたハートが!)」

「なってしまったことは仕方ないので、ひとまずご飯にしましょう」

「……はい」


ぶっちゃけ内心大荒れの状態でご飯なんて食べてる余裕はないが、ひとまず布団から出ようとすると


「あ、ご飯は既に作ってあるので持って来ますね」

「本当に何から何までありがとうございます…」


………ん?あれちょっと待てこれってもしかしなくても高瀬さんの手料理を食べるってこと!?

無意識で気付かないようにしてたのにとうとう現実を直視してしまった。

あ、やばい。本格的にまずい。何がまずいって俺の理性やら羞恥心やらが制御できなくなる。

普段から制御できてないなんてそんな訳ないじゃないですかやだー。

そんなのウソダドンドコドーン!!

…ふざけてないと正気を保てないわ。


「あー不味いですよコォレは……」


俺の試練?はまだ終わりが見えない。








---------------


『どうする?明日の朝まで嵐が続くようだが、今すぐにでもお迎えにいk』

『いえ大丈夫です』

『大丈夫って…まさか、泊まるなんて言うんじゃないよね?そんな訳ないよね?』

『そのまさかです。明日まで嵐が続くということはおそらく大輔君のご両親も帰宅することは困難なはずです。だとすれば体調を崩している大輔君は一人になってしまいます。いくら高校生とはいえ、体調が悪ければ心も弱ります。その状態で一人ぼっちなのはかなり辛いと思いますし、そんな風に私がさせたくありません』

『う…し、しかしだ。年頃の娘であるみーちゃんが男の家に二人っきりになるのは流石に見逃せないというか…』

『しかしも何も、そもそもまず迎えに来れるのですか?』

『難しいが、根性で迎えに行けるさ!』

『危険なので普通にやめて下さい』

『ぐぐぐ……あれ母さん何、いやちょっともう少し話させt』

『?』

『魅依、多くは言わないけれどコレはチャンスよ。しっかりしなさいね?』

『分かってます…では大輔君の夕飯の準備があるので切りますよ』

『待ってくれみーちゃん!絶対にそんな行為、お父さんは認めてなんかn』


こんなやりとりが、実際にあったとさ…

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