第十六話 『デートではないと言ったな、あれは嘘だ③』

時を遡ること10分前……


「すいません葉山さん、ちょっとお花摘みに行ってくるのでしばらくここで待ってもらっていいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。てか、朝散々待たせちゃったので……」

「ふふ、時間には間に合ったのでいいんですよ。では」


と、無事に目的地に着いたはいいのだが高瀬さんがトイレに行くために一度別れてしまった。

こういう時どこでどんなふうに待っていればいいのか全く分からなかった俺は、流石にトイレの前で待っているのはいけないと思い、しばらく付近の店を見て回っていた。

と言ってもトイレからさほど離れているわけでもなく、高瀬さんが出てきてもすぐに合流できるとたかを括っていたのだが……


「ねえ、君。この後時間空いてる?」

「……」


いやちょっと高瀬さんの魅力を侮ってたわ。

まさかこんな一瞬でDQNが引っかかるとか想定してないし。いや俺が目を離してブラブラしてたのが悪いか…

いや反省は後だ。助けようにも、こんな人目がある場所だと流石に以前助けた時みたいに股間を蹴り上げるなんて真似は出来ないからなあ……まあバレ無さそうだけど。

かと言ってこのまま見てるだけなんてのは下の下、男の風上にも置けないクソ野郎になっちまう。

さてどうするべきか。


「ねえ君ぃ、名前ぐらい教えてくれても良く無い?」

「………」

「ねえ聞いてるの?ねえ!」


ああ流石にこれはアウトだわ。

考えもまとまらぬまま感情のまま男に近づき…


「おいお前」

「葉山さん!」

「……?気のせいか…ねえ君!」


ええー…今ので気づかないの?だって今高瀬さん俺の名前呼んだよね?それを気のせい扱いって…

俺の存在感の無さを嘆けばいいのか、こいつの注意力の無さに呆れるべきなのか。


「おい!そこの人の話を聞かないアホ!」

「誰がアホだって!?って誰お前!?」


お、やっと気づいたか。

さてこっからどうするか。

まずは高瀬さんにしつこく詰め寄るのをやめさせるには…


「ていうか何?俺この子と話してる最中なんだけど?」

「彼女は俺の……俺の彼女だ!?」


んんんんんんん!?!?今俺なんて言った?

いやこいつのあまりの身勝手さについ咄嗟に口から出てしまったが、いやいつも通りの高瀬さんならこの状況を何とかする為のことだって分かってくれるはず!


「か、彼女?今葉山さんから彼女って…はわわわ!」


いや何かやばい気がする。高瀬さんが小声で何か言ってるけどまずいつも通りの高瀬さんじゃ無い気がする!


「はぁ?お前みたいな地味で目立たないやつがこの子の彼女ぉ?」

「だ、だったらなんだよ?」

「似合わねえな!全く釣りあってねえわおま…」

「は?」


普段の高瀬さんの優しい声音ではなく、全てを凍てつかせるブリザードみたいな声だった。

何なら体感気温が五度ぐらい下がった気がする。

これ、まずい。


「あなたみたいな碌に周りも見えず誠実さの欠片もない人が、大輔くんになんて言いました?」


高瀬さんがキレてる。過去に例がないくらいに。


「釣りあってるとか釣りあってないとか、さっきから好きに言わせておけば…放っておけば直に飽きると思って無視してましたが、彼を馬鹿にしたのであれば話は別です。彼のことを何も知らない部外者が私と彼の関係に口を出すなんてまず論外、しかもあなたは彼のことを侮辱しましたね」

「いや、そ」

「彼はあなたみたいな人と違って、他者を思いやって誰かのために行動できる優しい人なんです。あなたのような人よりも遥かに優れた人なんです!」

「た、高瀬さんストップ!それ以上は俺が恥ずか死ぬって!」


やばい冗談抜きで羞恥で死ぬところだった。

いやていうか高瀬さんがここまで俺を評価してくれていたなんて…やばい口角が意識しないと上がってしまう。落ち着け葉山、落ち着…てっやぱ無理ー!恥ずかしいいい嬉しいいいいい!!


「…はっ!すいません葉山さん。ついお見苦しいところを見せてしまって…」

「す、すいませんでしたーー!」

「「あ」」


何かあのDQNは高瀬さんの圧に負けて逃げ出したけど、それよりも…


「そのすいませんでした高瀬さん…」

「え?」

「来るのが遅くなってしまって…それにあいつに納得してもらうために彼女だなんて言ってしまいましたし」


本当に申し訳ないことをしたと思う。高瀬さんからしてみれば、俺みたいな奴と恋人なんて絶対なりたくないだろうし……


「い、いえいえ!ちゃんと助けてくれたじゃないですか、だから大丈夫ですって!あと、彼女って言われたのは嬉しかったです(ボソボソ)」

「今なんてい…」

「さて、色々トラブルが起こってしまいましたが、気を取り直して楽しんでいきましょう」

「は、はい」


やっぱり高瀬さんごまかす時結構強引だよな…くそ、俺も高瀬さんみたいに心を読むことができたら…!

いやどっちにしろ高瀬さんの心は読め無さそう…


まあ、高瀬さんの言う通り楽しめば問題ないか!

もう問題も起こらんやろ!(フラグ)










「……彼女、彼女。ふふ、次は正式に呼ばれる様に頑張りますからね、大輔くん?」

「どうかしました高瀬さん?」

「いえ、葉山さんに楽しんでもらえるように考えていただけですよ」

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