第4話 ミシャナ族の(ポンコツ)戦士・ルーナ

 武光はルーナに案内されて森を脱出した。

 上空には太陽が昇っているが緑色をしており、「なるほど。異世界ですね」と彼は納得する。


「とりあえずさ、君にお礼がしたいんだよっ! あたしの村に来てくれない?」

「そのようなお気遣いは不要です。と、申し上げたいのですが、実はかなりの疲労感でして。お言葉に甘えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「当たり前でしょ! あたしの命の恩人だもんっ! 村で歓迎会しなくっちゃ!!」

「お聞きしてもよろしいでしょうか? ルーナさんはどうして森の中に?」


 ルーナは「うっ」と言葉に詰まり、ばつの悪そうな顔をする。

 だが「命の恩人に隠し事はなしだよ!」と思い直した彼女は、武光に秘密を打ち明ける。


「あのね、あたしミシャナ族なの。ミシャナ族って知ってる?」

「いえ。存じ上げません」


「あぅぅ……。そだよね、辺境の一部族だもん。えっとね、ミシャナ族では一族から戦士を1人選ぶの。当代の戦士があたし!」

「なるほど。失礼を承知でお聞きしますが。よろしいですか?」


「ほへ? なーに?」



「ミシャナ族はそこまで人材が不足しておられるのですか?」

「本当に失礼だよぉ!! あたし、まだ駆け出しって言ったでしょ!! 伸びしろだらけなんだぞっ!! もー!!」



 武光は「これは大変失礼しました」と詫びて、さらに疑問をぶつけていく。

 まず、ルーナの恰好を不思議に思った敏腕営業マン。


「どうしてそのように露出の多い服を着ておられるのですか? 戦士でしたら、鎧などをお召しになられた方が良いかと思いますが」

「ちょ、そんなジロジロ見ないでよ! いいじゃんかー。こっちの方が動きやすいんだから! あと、鎧なんて重たいもの着たら、あたしの力じゃ歩けないよ!!」


 ルーナは短いスカートとノースリーブのインナーの上に、ロングコートのような防具を羽織っている。

 腰にはナイフが二本差してあり、小物入れのようなバッグがベルトに付属していた。


「ルーナさんはナイフが武器なのですか?」

「そだよ! ふっふふー! あたしのナイフ捌きを見たら、君だって驚くよー! これでも、ミシャナ族で一番の使い手なんだから!!」



「ミシャナ族の人材不足が深刻だと言う事はよく分かりました」

「むきーっ!! 君、もしかして性格悪い人!? さっきはあんなにカッコよかったのにぃ!!」



 話題は武光に移る。

 今度はルーナが質問をする順番らしい。


「君、この辺りの人じゃないよね? すっごく珍しい服着てるもん。帝国から来たの?」

「帝国ですか。情報としては存じております。グラストルバニアにおける人間最大のコミュニティですね」


「え、ああ、うん。ほへっ? 帝国の人じゃないの?」

「改めて自己紹介をさせて頂きますね。私、榎木武光と申しまして、前職は日本と言う国でナメタケ企画に勤めておりました。今は、エルミナと言う女神様の下で、営業マンをしております」


「ニホン? それって、どこにあるの?」

「恐らくですが、次元もしくは時空が違うかと思われます」


「うぇぇ? 時空? えと、営業マンってなに?」

「自社の商品やサービスをご紹介させて頂き、契約を結び円滑な業務を提供するために尽力する者でございます」


「ほへー。全然分かんない! あ、でもでも! 女神様は分かるよ! クラリス様とか!」

「……ああ。クラリス様と言うのは、生命の女神ですね。確か、序列第4位の方でした。弊社の代表のエルミナはキノコを司る女神です」


 質疑応答でまったく何も理解が出来なかったルーナだったが、唯一分かったのは「この人はキノコを崇拝する宗教の宣教師か何かだね!」という事だった。

 それほど間違っていないのが悲しい。


「それにしても、ずいぶんと何もないところですね。道もかなり荒れています」

「うー。君は思ったことをハッキリと言いすぎだと思うなぁ。そりゃ、ここは帝国領でもない僻地だもん。道の舗装なんてしたってさ。人がほとんど通らないから意味ないじゃん」


 武光は「とりあえずこの世界の地図が欲しいところですね」と、エルミナに与えられた資料に地理関係のものがなかった事を残念がった。


 さらにしばらく歩くと、ルーナが「あっ! 待って!!」と声を上げた。

 彼女の視線の先には、直径2メートルほどの草の塊が動いている。


「モンジャールだよっ!」

「なるほど。モンスターですね」


「うんっ! 君は下がってて! あたしがやっつけるから!!」

「分かりました。ルーナさんのお手並みを拝見します」


 ミシャナ族の戦士の実力。

 そのベールを脱ぐときは今。


 まず彼女はロングコートを脱ぎ捨てて、身軽になる。

 武光は「どうして元から軽装備なものをさらに脱ぐのでしょうか」と疑問に思った。


 露出は増えたが、ルーナの体にはあまり起伏がないため魅力値の変動は僅かだったと付言しておく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「たぁぁぁぁっ! やっ! はっ!! せぇや!! むきぃぃぃぃ!!」

「素晴らしいナイフ捌きですね。先方がまったく傷ついておられません」


「い、今のは素振りだもん!! これからが本番!! てぇやぁぁぁ!! あだっ! ふぎゅっ!!」


 ミシャナ族の戦士、草の塊に攻撃される。

 体勢を崩してしりもちをついた彼女に、モンジャールから伸びる無数の植ツタが迫っていた。

 そしてそのまま、普通に絡みつかれるルーナさん。


「ふにゃぁぁぁっ!! 助けてぇー!!」

「ミシャナ族の戦士のお手並みは拝見し終えたと考えてもよろしいでしょうか?」


「うぅぅ! いじわる言わないで助けてぇよー! このままじゃ、あたし食べられちゃうよぉ!!」

「だから言ったじゃありませんか。そんな薄着では危険だと。鎧を着ていれば食べられなかったでしょうに」


「食べられる前提で反省しないでよぉ!? ふぎゃぁぁ!! 引っ張られるぅぅ!!」

「仕方がありませんね。……そぉりゃ!!」


 武光の腰を落とした姿勢から繰り出されたパンチが、モンジャールを吹き飛ばした。

 ルーナは「あぅぅ。助かったよぉ……」と目に涙を浮かべて武光に抱きつく。


 「どうやら、モンスターの強さにも相当なバラつきがあるようですね」と、武光はまた1つグラストルバニアの見識を深めるのだった。



~~~~~~~~~


 私は昨日、今日は2話更新と予告しましたがあれは嘘でした。

 本日も3話更新でございます。


 次は12時にお待ちしております。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る