第3話 ヤバイ奴。KING

そして、気付けば――――



ベシッ


頭を打たれる私。





「った!暴力した!」


「はあぁぁぁっ!?それで暴力ってありえねーだろ!?希美のせいだ!」


「違いますぅーー!蒼介が下手くそなんだよ!」


「てめーだろ!?」




ゲームでバトり負けたのが私のせいと言う蒼介に腹が立つ。


蒼介とは、こんな感じで喧嘩友達としてお互い呼び合っている。




「また始まったで!」

「夫婦喧嘩がね〜」


「ちげーし!」

「違うし!」



私と蒼介と同時の声。



ワアーワアー騒ぐ私達。


これは勇真とも変わりはしない。


優人君とは、こうなる事はないんだけど――――




そんなある日の事だった。





「こらーーっ!待てーーっ!」



そんな声がする中、私達の前に突然の人影。



「うおっ!」

「わっ!」



誰かが走り去った。


その背後には警察官だった。




「………………」




「何だよ!」と、蒼介。


「猛突進してきたし!」と、私。


「イノシシやん!」と、勇真君。


「闘牛だろ?」と、蒼介。


「誰か赤色着てるん?」と、勇真。



そんな暢気(のんき)な会話の中、ふと、優人君を見ると厳しい顔をしている。




「優人君?どうかした?」

「…えっ…?…いや…」



そして――――



「…今のってさ…もしかして…」



優人君の容姿や普段のおっとりした口調や話し方からは想像もつかないくらい口調や話し方が変わる。



「…南波…了…?」



「…えっ…!?」

「いやいやいや、だってアイツ服役中やろ?」

「…脱獄したかもよ?」

「…まっさかーー」

「ありえへんやろ?」



話が見えない。



《つーか、脱獄とか…服役中とか…ヤバイ奴なんじゃ…?》



しかも3人の表情も明らかに違う。





「………………」



「ねえ…ヤバイ人…?」

「えっ…?」

「あ…いや…」

「…そうか…それが答えだ」

「希美?」



「…ヤバイ人って事でしょう?会話聞いてると、そんな感じだし」



「……………」



「希美ちゃんも結構、侮(あなど)れないね〜流石!孫娘!」



「それ関係ある?」


「さあ?どうでしょう?」



そして、さっきの人の話を聞いた。



南波了。19歳。


少年犯罪の KING(キング) ともいうべきか?


かなりの悪事をしているらしい。




不良グループなど、仲間に入らないか?と言う声をかけ、自分の仲間に入れたりするらしく、グループ内では、かなりの有名人のようだ。


知らない人はいないとか?




「…でも…もし本当に、アイツ出てきたらやばくないか?」


「なくはないよね〜」



「………………」




ある日の事。



用事で一人街に出た帰りの事だった。

外は薄暗い。



そこへ――――



「彼女、一人。」

「今から帰る感じ?」

「そうですけど」

「ねえ、帰らないでさ遊びに行こうよ」

「…えっ…?いや…ごめんなさい!急いでいるので」

「そう言わないでさ」




肩に触れ、抱き寄せるようにされる。

私は、その手をつねった。



「ってー」

「人の肩に馴れ馴れしく触んなっ!」




そう言って去り始める。

そして、路地裏に差し掛かった時



背後から――――




グイッと引摺り込まれた。



「や……」



手で口をふさがれ、押さえ付けられた。

私は過去の事が蘇るようにフラッシュバックし……



ドカッ

股間を思いっ切り蹴った。




「…っ…」


「私をその辺の女と一緒にすんなっ!」



そして逃げ去ろうとすると、再び、同じ仲間の連れの人から捕まり壁に押し付けられた。



「良い度胸してんじゃん!?」



「………………」




「おい、おい。お前らさぁーー、何、高校生相手に手こずってんだよ!?」


「すみません!いや…コイツ、ちょっと変わってる奴で…」


「変わってて悪かったな!」



ドカッと足を蹴った。




「…っ…この女、マジムカつく!」


「あー、つまり…男みたいな性格ってやつだ。どけっ!」



「………………」



「女だからって甘くみんなってやつか?」




両手を片手で掴まれ、もう片方の手で、顎を、クイッと掴まれた。



「…あれ…?…つーか…お前…」

「何よ!?変な事したら警察呼ぶからねっ!」


「おい、おい。警察(さつ)だけは、死んでも勘弁してくれよな!ただでさえ…あっ!思い出した。お前…蒼介達と一緒にいた女じゃね?」


「えっ!?」




記憶辿っていたのか、思い出したかのような様子で私に言った。


そんな私も記憶を辿る。




『今の…南波了?服役中…脱獄…?』



そんな3人の会話が脳裏に過った。




「……!!!」



《ま、ま、まさか…コイツ…南波了…??》

《嘘でしょう!?》



「………………」



私達の間に沈黙が流れる。



「…急にだんまりっつー事は…俺の事をアイツらから聞いた感じか?」



「………………」



「図星」



《ど、ど、どうしよう…??ヤられる…!!》

《でもコイツらと…そんな事は…やだっ!》

《逃げなきゃ!》



その時だ!



「おいっ!誰かいるか!?」



ビクッ



「…ヤッベー…警察(サツ)かよ…」



パッっ離れ、背を向ける南波了。

後、二人は身を何処かに隠したようだ。



「君!そこで何してんだ?」と、私にライトを当てる。


「えっ…!?私…?つーか、眩しい…」


「まだ制服じゃないか!こんな時間に何をしているんだね?」


「み、道…に迷っちゃって……」


「道…?」


「す、すみません!慣れない街に遊びに来て……私引っ越しして、ここの学校にも転校してきたばかりで右も左も分からない状況で。今、お兄ちゃんに迎えに来てもらって帰る所だったです。ね、お兄ちゃん」



ライトを彼に当てる。




「………………」



「あ、ああ…」



私は、答える彼を同時に隠すようにし、自分の方にライトを向けるようにする。




「とにかく、今から帰りますので」

「あ、ああ。そうだな。気を付けて帰りなさい」

「は、はい」



警察官の人は帰って行った。




「…お兄ちゃんって…いつから…お前のお兄ちゃんになったんだ?似ても似つかねーだろう?あんな状況で良くもまあ、あんな嘘を。普通なら警察(サツ)に突き出すだろう?」


「…そうだね。本来なら乱暴されそうになりました!ってね!」




「………………」



「それじゃ」

「おいっ!」

「何?」

「…一人で大丈夫か?」

「えっ?あれ?お兄ちゃんみたい心配してくれてる?」

「バ、バカッ!ちげーよ!」



私はクスクス笑い帰る事にした。



「おいっ!お前ら送ってやれ!」

「えっ?俺達がですか?」

「後付けて見届ける形で良いから」

「了解ッス!お兄ちゃん!」

「おいっ!てめー」


「わわわ…す、すみません!」

「行ってきます!」

「もし、何かヤバそうだったら助けてやれ!」


「えっ!?いやいや…俺達の出る幕ないかもしれないっすよ!」


「そうかもな…とにかく頼んだぞ」

「はい!」




そんな事など知るよしもなく、私は二人に見守られながら――――










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