第31話

洞窟に着くと、正也は言った。

「ここのところ、見た化け物の数が、四体、三体、二体、一体と減っていき、今日はとうとう一体も見なかった。やつらのせいでバランスが崩れて化け物が四体に増えたが、ひょっとしたら徐々に落ち着いてきて、元に戻ってきているんじゃないだろうか」

それにはるみが答える。

「その可能性はあるわね。でもとにかく捜索はこのままで、しばらく様子を見ましょう。それからまた考えたらいいと思うわ。そう早急には答えは出ないと思うの」

「それがいいわね。正也の言う通り、化け物の数が減る、もしくはいなくなるなんてことになればいいけど。当面の命の危険はなくなるし。自由に動き回れるようになるし。そうなるといいわね」

そうなったら本当にいいなと正也は思った。

化け物がいなくなったからと言って、すぐに村から出られるわけではないが、少なくとも命の心配はなくなるのだから。

捜索もやりたい放題になる。

そうなることを望み、そうなったときのことを想像していると、外が暗くなってきた。

そして眠る。


その翌日、捜索の時間はさらに伸びた。

伸ばすと言う話はなかったのだが。

しかも一度も化け物を見ることがなかった。

捜索が終わり、洞窟に帰るとはるみが言った。

「二日間連続で化け物を見なかったわね。最初は短い時間に四体も連続で出てきていたのに」

「そうね。一体から四体に増えた反動で、逆に化け物がいなくなったんじゃないのかしら」

「それだったらいいわね。まだしばらく様子を見ないとわからないけど」

わずかながら希望が見えてきた。

正也はそう思った。

いつもは静かな洞窟内だが、余裕が出てきたせいか、少しは世間話もできた。

はるみは今は母子家庭で、母一人子一人なのだそうだ。

父親ははるみが中学生の頃に、事故で亡くなったと言う。

はるみに武道を教えたのは父親と母親だが、父が亡くなってからは父の師匠でもあった祖父が教えてくれたと言う。

それは現在でも続いているそうだ。

武道は精神修行の面も大きいと聞いたことがあるが、はるみを見ていると、それはあながち間違いではないと思えてきた。

正也は基本的にインドア系で、子供の頃でもつかみ合いの喧嘩すらしたことがない。

――自分も武道を習っておけばよかったかな。

そう思ったが、まだ十九歳なので、今更遅いと言うことはない。

この村を出ることができたら、武道に取り組んでみるのもいいかもしれない。

正也は横にいるみまを見た。

いざという時に、彼女を守れる男にならないと。

目標ができた。

目標は人を動かす。

明日からはなにに対しても、これまで以上に真剣にやることに正也は決めた。


眠り、朝になる。

みまの提案で、今日の捜索は例の地蔵となった。

村を出ようとすると、車はいつでもあの地蔵の横に戻される。

陽介の車も、はるみの彼氏の車も、あの凶悪な連中のスポーツカーもそれは同じだった。

あの地蔵にはなにかがあるのではないのか。

三人で向かう。

そして二体の地蔵を穴が開くほど眺めたが、特に変わったところは見つからない。

正也はそのうちの一体を抱えてみた。

石なので軽くはないが、抱えられないほどではない。

地蔵の底も地蔵が置いてあった石も見たが、これと言ったものはなにもなかった。

その地蔵を置き、もう一体を抱え上げた。

重さはほぼ同じか。

地蔵の底も地蔵を置いてあった石も見たり触ったりしてみたが、やはりなにもない。

正也はその地蔵を置いた。

それでもあきらめきれずに三人で地蔵を眺めたり触ったりしてみたが、結果は同じだ。

ふと、はるみが言った。

「この地蔵をもとの位置からずらせば、ひょっとしたら村から出られるかもしれないわね」

大きな期待は持てないが、可能性はゼロではない。

ゼロでなければやってみるだけだ。

正也は地蔵を横に避けた。

運転免許ははるみが持っている。

車は死んだ四人が残している。

スポーツカーの中を見ると、狭いが後部座席があった。

あの体格代わりといい男二人が、この狭いところに乗っていたのかと正也は思った。

後ろに体の小さいみまが乗り、助手席に正也。

運転席はもちろんはるみだ。

「それじゃあ、行くわよ」

車はユーターンして、登りの山道へと向かった。

こちらの方が、結果が出るまでの距離が短い。

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