第13話

正也とみまが続く。

そして陽介は気を失ったままのさやかを背中に担いで、ぜえぜえ言いながらついてきた。


山道をそれて山の中をしばらく歩くと、洞窟の入り口が見えてきた。

はるみはまっすぐにその中に入って行った。

四人がそれに続く。

しばらくは人が一人通れるくらいの細く暗い自然のトンネルが続いたが、いきなり開けた。

そこには広く高さもある空間があった。

小ぶりの映画館くらいの大きさのそれは、仲が意外と明るかった。

見れば上の一部から外が見える。

そこから日の光が入ってきていた。

「ここは」

みまが聞いた。

「偶然見つけたの。少し前からここに寝泊まりしてるの。前の方は上に穴が開いているけど、奥は雨風もしのげるわ」

正也が聞いた。

「ここにはあの化け物は入ってこないんですか」

「わからないわ。今のところあの化け物が入ってきたことはないけど、今後も入ってこないと言う保証はないわ。見ての通りこれだけの高さと広さがあるから、あの化け物も頭がつっかえたりしないでしょうしね」

三人で洞窟を見回した。

確かに化け物が入ってこれそうな高さと広さがある。

そのまま洞窟を見ていると、声がした。

「うーーん」

さやかが目を覚ました。

最初は目の焦点が合っていなかったようだが、やがて洞窟を激しく見まわして言った。

「えっ、ここ、どこっ?」

陽介がなだめながら説明すると、とりあえずは理解したようだ。

でもさやかが言った。

「ここなら車の中の方がまだましなんじゃないの」

それにはるみが答える。

「車のなかに長くいるのは危険よ」

「えっ、どうして?」

「私の彼氏が喰われたって言ったでしょ。その時私たち二人は、車の中にいたのよ」

「えっ!」

「私たちの車、見ないでしょ。あなた体の車が今ある場所にあったのよ。二体のお地蔵さんの横よ。何回も村を出ようとしてけど、毎回あそこに戻されてしまったのね」

みまが言った。

「私たちもそうです」

「そうだと思ったわ。そしてここに来て何日目かのある日、車の中で二人で休んでいたら、いきなり目の前にあの化け物が現れたの。私は反射的に車から飛び出したんだけど、彼氏はびっくりして動けなかったのね。あの化け物を何回も見ているのに、いきなり目の前に出てきたから。そう、いきなり。いきなり現れるのよあいつは。いつも。そして化け物は彼氏の乗った車を持ち上げると、そばに叩きつけたの。車は大破して、中に乗っていたかれには完全に気を失ってしまったわ。すると化け物は車から半分身体が出ている彼氏を引きずり出して、そのまま喰ってしまったの。私の目の前でね。そしてそのまま車を川に放り投げたわ。あの川はああ見えて所々に深い穴が開いているの。何故だかはわからないけど。車はその穴の中に沈んでしまったわ」

「……」

「だから車の中は危険だわ。ここも出口は一つしかないけど、車の中よりは安全だと思うわ。ひょっとしたらこの洞窟には化け物が出ないと言う確率が、ゼロではないし。で、あの化け物、あんなに細い腕をしているのに、かなり力が強いのよ。普通車を軽々と持ち上げて叩きつけるし、おまけに遠くに投げ飛ばせるほどに。そして大きな口と鋭い牙。人間なんてあっという間に食べてしまうわ。でも彼氏を喰った化け物は私を襲うことなく、いつの間にか消えてしまったわ。おそらく、おそらくだけど、一度に複数の人間は襲わないみたいね」

「……」

「それで、私はこれからもここをねぐらにするけど、あなたたちはどうするの?」

「私たちもそうします」

最初にみまがそう言うと、残りの三人も同意した。

「それじゃあ、決まりね。でね、私、一度やってみたかったことがあるのよ」

みまが聞く。

「やってみたいことってなんですか?」

「それはね、車ではこの村を出られなかったけど、歩きならどうかしら。みんなで山道を歩いてみない。いいでしょ」

「……」

誰もなにも言わなかった。

お互いの顔は見るが、口は開かない。

それは少し前に止めようと言う話になった提案だ。

その様子をしばらく見ていたはるみが言った。

「わかったわ。それじゃあ私一人でやるから」

「私も行きます」

みまがそう言うと、残りの三人のつられるように同意した。


洞窟を出てしばらく歩くと山道に出た。

ここを登る。

はるみが先頭で、正也が最後尾だ。

陽介もさやかも、一番前も一番後ろも露骨にとことん嫌がったからだ。

陽介とさやかが気にしているのは、もちろんあの化け物のことだ。

あの化け物が突然現れるとしたら、危ないのはもちろん一番前と一番後ろだ。

前は怪物が前に出てきたら真っ先に狙われるし、後ろは後ろが見えないのでそれだけ危険だ。

並ぶ順番などでもめたくはないので、正也が名乗りを上げたのだ。

みまはすごく気の毒そうな顔で「変わってあげてもいいよ」と言ったのだが、十九歳の女の子、ましてや自分の彼女にそんな危険な真似をさせるわけにはいかない。

正也が名乗りを上げると、陽介もさやかも喜び、浮かれた口調でそれがさも当然のように言った。

正也はこの村を無事に出ることができたなら、この二人とは一切縁を切ろうと思った。

おそらくみまも同じように思っていることだろう。

先頭ははるみが真っ先に名乗りを上げ、それについてはみながなんとなく納得した。

結果、はるみ、陽介、さやか、みま、正也の順になった。

山道は広くはないが、人間が何人か並ぶことは可能なのだが、その順番で縦に並んで進むこととなった。

横に並ぶ方がより危険だと判断したのだ。

――どれくらい歩かないといけないのだろうか。

山道なのでそれほどスピードは出していなかったが、分かれ道から村に着くまで、三十分弱といったところだろうか。

そこを人が歩くのだ。

しかも登り道。

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