第18話 三週間だけの転校生・・・?



「おはよぉ~」


「おはよう。ずいぶん眠そうだな」


「うん~、昨日夜更かししちゃって・・・」


 ふぁあと大きな欠伸をしながら靴を履き替える大空に並びロッカーを開けると、靴の上には数枚の便箋が乗せられていた。


「うわ・・・今朝もご苦労さんだね」


 手に取って靴を出していると、それを目撃した大空は眉を下げて同情するかのように履き替えた靴をロッカーに戻し扉を閉めた。

 海矢のロッカーにはこうして時々手紙が入っていることがある。ファンレターといえるものが多いが、時には問題を解決した相手からの感謝状や、呼び出しの手紙などもある。生徒会の活動に対する励ましや応援の声は嬉しく思う海矢は、貰った手紙は一枚一枚丁寧に目を通している。今日も誰宛か、どのような内容だろうかだけ見て後は生徒会室でゆっくり読もうと差出人の欄を見ていると、最後の一つだけ差出人が書かれていないものがあった。大抵はクラスと名前が書かれているので、珍しいなと真っ白な封筒を見つめる。

 一体どんな内容を宛ててきたのかの方が気になり、海矢は教室につくとすぐに封を開けて手紙を開いてみた。


「えっ、呼び出しじゃーん」


 教室まで先日の辰巳の試合の話をし、大空は感心したような反応をする。海矢の周りにいる奴はスペックが高いなと笑いながら二人で教室に入り、それぞれ鞄を机の横にかけ椅子に腰掛けた。

 そして早速差出人不明の手紙を読もうと取り出したところ何が書かれているのか興味津々になった大空が横から覗き込むのを容認しながら手紙を開くと、そこには大空の言ったとおり海矢を呼び出す旨が書かれていた。指定されているのは今日の授業後だ。

 にやにやとする大空の顔を『顔がうるさい』と言って背けさせていると、担任が教室へ入ってきてすぐにホームルームが始まった。

 何気なく担任の話を聞いていると、担任は提出期限が明日に迫った書類があることを伝え、学校全体の連絡事項へと最後の話題に入っていった。


「それと、連絡だが-・・・、これから三週間の間、南校の方から一人の生徒が来ることになった。我がクラスの海野が発案し今期から導入された新しい制度についての話を聞き、なんでもうちの生徒会の活動に興味を持ったらしい。ということだから、海野、頼んだぞ」


 少し動揺しながら返事をし、横の大空の『話が早いなぁ・・・。っつーか生徒会に興味あるからって一定期間転校って・・・・・・聞いたことねぇぞ』という言葉に海矢も頷き同意を表す。担任の教師からこの話を聞いたときはまだ一人の南校の生徒が生徒会の見学にやってきたという情報しか知らず、その相手が誰なのか全く知る由もなかった。


 ********


「では、ホームルームは以上。海野、彼は校長室で待機しているみたいだ」


「はい、行ってきます・・・・・・。じゃあ大空、俺その生徒を迎えに行ってから生徒会室行くから、先行って鍵開けておいてくれ」


「了解ー。じゃ、また後で」


 手を軽く振り鞄を肩に掛けて教室から出ていった大空を見送り、海矢は校長室へと向かった。


ノックをし入室の許可が出てから扉をそっと開ける。するとそこには、ゆったりとした椅子に腰掛ける校長と、来客用のソファに座っている南校の制服を身につけた生徒がいた。校長に挨拶をしてから目の端に映った、こちらに顔だけ向けている生徒の方を向くと、なんとそこには先日顔を見かけた犬君隼がいた。


「南高校の生徒会で会計を務めております、犬君隼です。三週間の間、よろしくお願いいたします」


 簡単な自己紹介に頭を深々と下げられ、慌てて海矢も名乗った後に礼を返す。そんな様子を校長はにこにこと微笑みながら眺めていた。


「こちらの生徒会の活動は好評だといつも窺っていて、生徒会一同是非見学をしたいと思っておりました。そして先日、新らしく導入された制度を耳にし・・・・・・うちも男子校ですので、そのような被害は多くて・・・だから、制度のことを聞いてとても素晴らしいと思いました!」


 海矢が考え、生徒会と委員会の繋がりを強固なものにし作り上げた制度について、熱っぽく語る隼に、海矢は少しくすぐったいような気がした。自分一人の力ではない分、皆の努力がこうやって他校の生徒にも伝わっているかと思うと、くすぐったくなるような嬉しい気持ちが浮上する。

 隼は校長に『では、失礼します』と頭を下げて海矢に続いて退出し、静かに扉を閉めた。


 礼儀正しさと立ち振る舞い、そして少し褒められたことも加算され、海矢の中の犬君隼という人間は好印象だった。そしてそのためか、以前竜が話していたこの人物の本性というほの暗い部分を、全くといって良いほど忘れてしまっていたのだ。

 海矢は様子を窺おうとちらと後ろを振り向くと彼とバッチリ目が合い、海矢は内心少し焦った。まるでずっと自分を見ていたかのような顔の向きに、そんな訳ないよなと思い直して愛想笑いをするとあちらも爽やかな笑顔を返してくる。廊下を通る生徒たちは隼の姿を見るとざわめきだし、皆顔を寄せ合って噂話をしているようだった。

 完璧な笑顔、完璧すぎる笑顔にどこか作り物のような感覚を抱いたが、あまり気にせず前を向いて歩き続けるが、今まで好印象だった彼に対する違和感が頭に引っかかりどこか浮かない気持ちになってしまった。

 そんな、なんとなく晴れない気持ちで海矢は生徒会室へ向かった。














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