異世界の無人島に転移したら追放された美人エルフと二人きりで生活することになった

冷水湖

第1話

 水神舞弥が目を覚ましたのは砂浜だった。

「ここはーー」

 痛む頭を押さえながら、舞弥はつぶやく。

「確か、修学旅行の帰りの飛行機がアクシデントを起こして、それで、えーと、そうだ、飛行機から放り出されたんだ。よく生きていたな、私」

「ここ、無人島だよね? 多分だけど」

 舞弥は立ち上がり、制服のスカートに付いている砂を無意識に手で払いながらキョロキョロと周りを見渡す。視界に映るのは舞弥が名前の知らない草木で構成された森と真っ白な広い砂浜、そしてどこまでも続く海だけ。人工物はおろか、それ以外のものは存在しない。

「どうしよう。助けが来るまで私、大丈夫かな? サバイバルどころかキャンプすらした事がないのに」

 不安げにこぼした言葉は舞弥の肩甲骨にまで伸びた黒く綺麗な髪を揺らす風に乗って消えた。

「うじうじしていてもダメだよね。何とかして生き延びないと。まずは飲み水を確保しないと。確か、毎日2リットル飲まないといけないのよね」

 見つかるかなあと呟きながら舞弥は森へと入っていった。

「森に入ったはいいけどちょっと怖いな。何か出てきそう」

 まだ100メートルほどしか歩いていないが、舞弥の予想は外れたのか恐ろしいほど何も出てくる気配がない。ただ舞弥の歩く音と葉擦れだけが聞こえる。

「なんで何も出てこないのよ。逆に怖いじゃない」

 それは、舞弥の恐怖心を煽り心の中で小さな虫や安全な動物が出てきて欲しいと、最初とは異なることを望んでいる。

「何か出て来てもいいのよ。今日の夕食に変えてやるだから」

 さらに奥へと歩いたがやはり何も出てくる気配がない。それどころか、葉擦れさえも聞こえなくなり、舞弥の恐怖心は最高潮にまで達していた。今にも泣き出しそうな表情で、それでいて強がっている。

 涙を堪えながら歩き続けたが遂に限界を超えた。その場にしゃがみ込み泣き始めた。

「……」

 ガサッ

 泣いている舞弥のそばの茂みから今までなかった生き物の気配がした。

 舞弥はその音に一瞬体を強ばらせると、今まで泣き沈んでいたのが嘘のように悲鳴も上げずに走り出した。

 舞弥がさったその跡に一匹の小さなウサギが飛びだでてきた。


 森から抜け出した舞弥は砂浜で丸くなっていた。

「もう無理だよ…… 早く家に帰りたいよ…… 誰でもいいから助けてよ……」

 10分ほど泣いた後、舞弥は立ち上がった。

「…… 喉が渇いた」

 舞弥はこの島に来てから約二時間、それどころか飛行機に乗ってからの二時間も何も口にしていない。それに加えて、約二時間の森歩き、泣くと水分の消費が多い。唾液が出ないほど渇いていた。

 舞弥はゴシゴシと制服の裾で涙を拭いた。下手な処置をしたこともあって目元は赤く腫れている。

「泣いちゃダメだよね。涙も立派な水分なんだから」

「とりあえず口を開けるのは水が見つかるまでは最小限にするとして、まずは何をすればいいのかな? 何の成果もないのにもう日が沈みそう」

 舞弥から見て右の水平線に太陽が見える。いつ陽が沈んでもおかしくない。

 舞弥は早速行動を始めた。少しずつ世界が暗くなっているので森には入らず、周辺に手ごろな木材がないか探している。

水とは違い火おこしに使えそうな木はあっさりと見つけることが出来た。

 舞弥は見つけた木同士を擦り合わせる。薄く平らな木の板に約30センチの細長い木を手で錐揉みする。昔の人もこの手法で火を起こしていたのだから自分にも出来るだろうと軽い気持ちで始めた舞弥だったが、意外と難しく、同じ場所に擦り付けることがほとんどできない。わずかな体力と時間だけが消費され、舞弥の両腕は限界を迎えた。

 完全に陽が沈み辺りは暗闇に包まれた。星の光だけが微かに舞弥を照らしている。

 光源が星だけということを考えると、この島は十分明るいが、エジソンが白熱電球を開発して以降、夜は克服された。その100年以上未来を生きる舞弥にとっては島の夜は暗すぎる。

 震える体を抑えるように自分の体を抱き寝ることを試みるが寝られない。疲労はピークで、闇の恐怖から逃れるためでなくてもすぐには寝てしまいたい。そう思ってはいるが体は言うことを聞かない。

 それも当然のことで、現在の時刻は19時を過ぎたところ。普段24時近くまで起きている舞弥には早すぎる時間であるし、飛行機が事故を起こす数分前まで仮眠をとっていたこともあり、まだまだ舞弥の目は覚めていた。

 寝ることが出来ないのならと、舞弥はスマホを取り出す。圏外であることは先ほど確認済みだが、オフラインでも使うことのできるアプリをいくつかダウンロードしているのでその中から適当に気分で選び起動する。

 アプリを起動して数分、舞弥はため息を吐きアプリを閉じる。眠気が訪れたわけではない。ただ暇つぶしに飽きただけ。

 スマホを制服のポケットに戻し、目を閉じる。

 1分が1時間にも感じられるような地獄な時を過ごした後舞弥は気を失うように眠りについた。

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