第3話 初めて迎えた朝

 「ん・・・。」

 育子が目を覚ましたようだ。


 「おはようございます!お美しい娘さん!」

 育子は目を見開き、自分の着衣がそのままであることなどを確認した。


 「拓斗・・・。」

 「俺んちですよ。昨夜、泊まってくれて、嬉しかったです!」

 拓斗が笑顔で育子の相手をした。


 ジュワー・・・

 台所から、フライパンで何かを焼く音がして、いい匂いが漂ってきた。

 美味しそうなものが調理されているようだ。


 「ハムエッグ、・・・俺、こんなものしか出来ないんですけど、もし良かったら一緒に食べましょう!」

 優しい顔でこのようなことを言われて、育子は感極まって涙目になってきた。


 育子の結婚生活は、こうであった。

 旦那はいわゆる、子供が出来ない体質であった。

 育子は、子供を待ち望んでいたわけではないけれども、そのようなことが判明した後の会話のない旦那との生活は、男性好きな育子にとって地獄とも言えたのである。

 旦那は家に帰って来なくなり、今は浮気相手の家で暮らしている。

 友人に勧められたホストクラブは、体験のつもりで入店して遊んでみただけであったが、思った以上に育子の心を満たしたのだった。


 「どうしたの?泣かせるつもりなんかないよ。」

 拓斗は優しく育子の肩に手を置いて語り掛けた。


 「・・・ごめんね・・・嬉しくて・・・うちじゃこんな事、ないでしょ?」

 「ああ、旦那さん・・・のこと?」


 育子が求めていたことは、男性に優しくされることだったのだ。

 ホストである拓斗の優しさが、欺瞞ぎまんに満ちたものであってもいい。

 それでも、その薄っぺらな表面的な優しさが必要だった。

 

 「昨夜は・・・何もしていないの?」

 着衣に全く乱れがないことから、育子が聞いてみた。

 「何もしていないって?ははっ、そんなこと、できないよ!だって、旦那さんに申し訳ないでしょ?それとも、何かして欲しかったの?」

 拓斗が育子に聞くと、育子は嬉しそうに笑顔で首を横に振った。


 「結局、俺の変なハムエッグトーストを食べただけだったけどね。はははっ。」

 「そんなことないわよ!とても美味しかったし、嬉しかったわ。ありがとう。」

 「・・・また来てくれる?」

 「もちろん!また、呼んでくれるの?」

 「あなたさえ良ければ、俺はいつでも大歓迎だよ!」


 金を限界まで引っ張るためだ。

 警戒させないために、拓斗は長期戦に出ることにした。

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