第6話

「戦況はこっちに有利だぞ」

 シーゲル曹長は当たり前の報告を行う。

「そりゃあそうでしょ。振り返ったら何隻か爆発してたし」

 碧は呆れて返す。何を当たり前のことを、とばかりに舌を突き出す。曹長もこの反応は予想通りだったので、言葉を続ける。

「でもな、あちらさん、戦艦を全艦喪失したぜ?」

「えぇ~っ!?」

「本当に全部なの?」

 碧もリーラも驚きを持ってその事実を迎えた。勝ったとは思ったが、まさか4隻の主力艦が全滅とは。

「直に、A・B小隊も戻って来る。って、しょげんな碧坊」

 名誉挽回の機会が無くなった碧は、傍目にもションボリとしていた。

「敵がいないんじゃどうしようもないじゃないですか…!」

「敵はまだいるぞ」

「え、まさか別の艦隊が?」

「ああ」

 今戦っているのは木星軍第3艦隊だが、もう1つの第8艦隊が別航路を取って侵攻中なのだという。主に星を攻め取る海兵隊を伴う兵員輸送部隊らしいが。

「まあ、放っておいたらやられるだけだ。至急転進し、あっちに行くことになった。まあ、奴さんらのお目当ては海王星だからな」

 海王星はハデス帝国の唯一の本星外領土だ。対木星を考える上で、緩衝地帯となる。木星からすると邪魔なことこの上ない。

「つまり、次こそは!」

「応よ、だから次って言ったんだよ」

 話している間にも、続々と出撃していた部隊が帰って来る。修理班以外の整備部、大忙しである。

「おお、シーゲル曹長」

「よっ、大将!どうだった?」

 シュナイダーも帰ってきた。あの後、大小の艦艇3隻に直撃を食らわせたらしい。

「すごい!」

「良くやったわね」

「そうだろう、そうだろう」

 高揚感で何を言われても肯定するに違いない。

「お給料、上げてください!」

「良いだろう、良いだろう!」

「今日は良いお酒で乾杯よ!シュナイダーの手配で!」

「そうだな!わはは!」

 女2人の要求はすんなり通る。シーゲルも便乗した。

「おう、じゃあ妻に送る土産を見繕ってくれ」

「良いぞ、任せとけ!」

 安請け合いも良いところだが、とにかく了解したシュナイダーだった。


「紅茶を持ってきました!」

「よう、ハンス」

 修理班のハンス一等兵。どこにもいなかった上官の姿を見つけ、抗議する。

「班長!なんでこんなところで油を売ってるんですか!飯づくりも忙しいんですから!」

「すまんすまん」

 じゃあな、と控室を離れるシーゲル。パイロットたちは出撃から帰って来ると、まずは紅茶で胃を慣らして、軽食に移る。それを作るのは手の足りない補給班に加えて仕事が無い修理班も加わる。

「ベーメン隊長、敵艦隊は全滅ですね!」

 上機嫌なシュナイダーが上官に話しかける。

「そうだな、旗艦となり得る戦艦も全て沈んで…ほとんど何も残ってねえ」

 今は敵艦に接舷し制圧する海兵隊を乗せた強襲艦が向かい、残った艦艇を接収している。

「このままα回廊の敵艦隊もやるんですか?」

 木星方面から海王星に向かう安全な航路は3つあり、戦闘があったのは最短距離のβ回廊。大きく回り込むγ回廊に敵艦隊は無く、α回廊に増強された1個艦隊が進軍中だという。

「まあな。今、艦長がモニター会議中だ。それが終わったらわかるさ」

 艦隊は今、艦長級以上の指揮官たちがモニターで会議を行っている。一刻を争う事態なのでα回廊に向かいながら、その傍らで碧たちは手紙を書いたり休息したり、思い思いの余暇に勤しむ。焦ることは無かった。戦乱はまだ、始まったばかりなのだから。

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