第5話
「碧機、被弾!帰投する模様です!」
「何?
「本人の申告によれば、無事です!」
カイゼル髭に白いものが目立ち始めた「アルトナ」の艦長はフォッケ大佐。進取的な人物で、新し物好きなために新艦種の宇宙母艦の艦長に選ばれた。駆け出し時代には雷撃艇の艇長(3人乗り)を務めた経験から、搭乗員たちにも心情を寄せており、彼らからの信頼も厚い。
「良かった。緒戦を経験したパイロットたちはこれからの帝国にとって何よりも貴重だ」
心情的にも立場的にも本心から来る言葉だった。戦争では尖兵となる彼らは経験を積めば積むほど能力が磨かれて行く。死ねば経験値の高い精鋭はいなくなる。それ以上に、フォッケ艦長は若者に死んでもらいたくない。
「よし、第2カタパルト解放。2機を受け入れろ」
「あ…ちょっと待ってください!リーラ二飛曹より入電!」
≪艦長!私はまだ戦えます!≫
「許さん!第二波に備え、補給を済ませろ!」
フォッケ艦長は1度で全てが済むとは思っていない。木星国家と冥王星国家の国力は10対1、軍事力は良くて5対1、最大比率の推定値で12対1までの大差があるのだ。艦隊が1個だけとは限らない。
「本来ならシュナイダーも戻って来るべきであった。リーラと碧は補給を済ませたらすぐに配置に就け!」
≪くぅ…了解!≫
まだ仲間が戦っているというのに、呑気に補給などとはリーラからすれば度し難い。しかし、まさか被弾した碧を1人で帰せるわけもなかった。
「その、ごめんなさい」
「アオイのせいじゃないよ」
アルトナの搭乗員控室に戻った碧は、リーラに申し訳なくて堪らなかった。自分さえ被弾しなければ3人で小隊ごと攻撃を続けられたのにと。
「被弾するかしないかなんて、当たる時までわかんないでしょ。それは結構、誰にでも言えることよ」
「はい…」
実は、他に気を取られていたなどとは言えない。まあ、気を取られていようがいなかろうが、当たる時は当たっていたという話なのだが。
「それよりも、良かったよ?しっかり訓練が身になっててさ。データ解析したら誰の弾がどこに当たったかわかると思うけど」
航跡データを解析して、小隊3機の位置と敵艦の位置を当てはめれば、どの機から発射された弾が艦体のどの部分に当たったかがわかる。
「エンジン部に当たってた弾があったわ」
先頭で突入したリーラは真っ先に爆発する敵艦を確認した。戦果確認係でもある。
「でも、シュナイダーさんの弾かも」
「だから、誰にも分らないのよ。私のだったかも知れない」
「お前ら、気持ちよさそうに駄弁ってんなあ!」
搭乗員控室を覗いてきたのはシーゲル曹長。整備部修理班長。つまり。
「碧坊、お前いきなり俺に仕事作ってくれたなあ!」
嬉しそうだ。被弾しないことが前提のコメットの修理担当は、仕事が無いのが前提。被弾しても撃墜されたら仕事は無い。
「良く帰ってきたな。俺っちが直しといてやるからよ、次は予備で暴れて来いよ!」
アルトナには10機の艦載機の他、補機が3機ある。
「なんでそんなに嬉しそうなんですか…」
「そりゃあだっておめぇ…」
コメットの修理班は運用思想的に無駄飯ぐらい扱いである。簡単な修理なら整備班がやれるので、忙しい整備班の下働きが主な仕事。
「肩身が狭いのよ…」
「なるほど」
整備部内のヒエラルキーは整備班から始まり、出撃帰投担当の出納班、補給班、その最後に修理班。これはどこの軍でもほぼ変わらず、旧来の艦隊では修理班が補給班に並ぶこともある、程度だった。
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