第3話
冥王星国家「プルート帝国」の新戦術。新艦種・宇宙母艦に10機程度の新開発したロケット多空間戦闘機「コメート」を搭載し、戦闘宙域まで運搬。宙域の端から艦載機隊を射出し、敵艦隊を襲うのである。
「そのヒケツは、高速飛行するコメットが敵艦の砲撃をどれだけ引き付けるかによる」
碧が復唱するように、敵艦隊、従来の宇宙艦隊は4隻程度の戦艦、その周りを固める10数隻の艦艇が占める。その半分は輸送艦など補助艦艇が多くを占め、戦闘力を持つ艦艇は艦隊の半分ほど。その10隻程度が張る弾幕同士で牽制し合いながら距離を近づけ戦艦の命中弾を狙っていく。200年近くに渡り、続けられてきた宇宙艦隊戦闘の形だ。
「シミュレーターでは一発も当たらなかったけど」
新兵器「コメート」はそれまでに存在した各種小型艇とは一線を画する小型化と高機動を成立させ、敵の砲撃を取り残して間近に張り付き、1小隊の火力を集中して艦を撃破していくのが基本戦術になる。ロケットエンジンの極小化にはこの時代になっても成功した者は少なく、その量産化となると冥王星の技術者たちが初の例だった。それまでの小型雷撃艇は最小のものでコメットの3倍近い大きさになる。
≪搭乗員の皆さん。戦闘宙域まであと5分です!≫
艦橋より、オペレーターのベティーナ・ワンツベック軍曹が状況を伝える。戦闘宙域に到達した時、碧ら飛行隊は射出される。
≪ね、碧≫
「何?ベティ」
ベティーナ軍曹から限定通信。兵種の違いがあっても1つ上官だが、2歳差の幼馴染なので、気安いのだった。
≪初陣ですが、どうですか?碧初等飛行兵≫
「先輩たちに付いて行くだけだよ!」
それしか無いのでそう答えるしか無いのだ。
≪だよね。ワンコの碧はそうだよね≫
地元ではいつもベティーナにくっ付いて回り、予科練でも懐く相手を見つけて忠犬っぷりを披露。ワンコなる仇名が付いている。
「人を犬扱いしないで!もう!あと何分!?」
≪はいはい。後2分だよ。じゃ、コホン。プツッ。搭乗員の皆さん、エンジンの具合はいかがでしょうか?≫
営業トークに戻ったベティーナ軍曹。彼女なりの緊張を解いてやろうという気づかいだと、気づけぬ碧ではない。
「ありがとうね、ベティ」
≪戦闘宙域到達。各機、射出します≫
ベティーナの声がコクピット内に響く。A小隊1番機から、射出されて出撃していく。碧はC小隊3番機なので、最後から2番目の射出になる。最後は飛行隊長機だ。
≪頑張れ、碧っ≫
「行ってくるね」
限定通信と磁力カタパルトに送り出されて、碧は先に射出されて行った仲間たちの後を追いかけ始めた。6隻の宙母から送り出されたコメートは70機以上。多数の小さな戦闘機が木星艦隊に向かって行った。
それに対して、木星艦隊の反応は鈍いものだった。
「提督、敵艦隊に動きが…何やら、小さな…やけに小さい雷撃艇と思しきモノが、敵の珍妙な艦から出てきます」
「何だと?小さい雷撃艇?そんなもの捨て置け!それより、敵艦隊の戦艦との距離は!」
「はっ!距離60000はあります!」
「よし!30000までに打ち方用意!」
冥王星艦隊の戦艦数は旗艦の1隻のみ。数が少ない上、距離を取りがちに戦おうとするなら組し易い。木星艦隊提督はそう考えたのだった。
「そう思ったのが失敗だな」
ランブルク提督はそうつぶやいた。今の敵将の思いは手に取るように分かる。自分もかつてはそうだったのだから。
「提督!『ミッテ』A小隊が会敵しました!」
艦載機飛行隊の1つが敵艦隊を射程に収めた。それが、本格的な開戦を告げる一言であった。
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