第8話 風の妖精

「あ、だめ!そこは!」


「ヒヒーーーーン!!」


 風の妖精の力を借りたシェリーによってペドロはまるで翼を得たかのように空を駆けていた。


「い、いい加減に!集中できない!」


「ちょっ!?」


「ヒヒーーーーーーーーーーン!!」


 移動速度は非常に早く、地球一と言われるハヤブサの急降下スピード時速約300kmに引けを取らないのではないかと思われた。

 このスピードで振り落とされず話せてもいるのは魔法の力が働いているのだろう。


「しぇ、しぇりー!?」


「ぅ……ん!…て、…放して!!」


「無理無理無理無理無理無理!!」


「ヒヒーーーーーーーーーン!!」


 急遽ペドロに二人乗りする形となった今回の風魔法は、知識はあれど二人にとって初めての体験だった。


「あ、あ、あ、あ、あ!」


「ヒヒーーーーーン!!」


 ペドロは荷馬であるため二人は鞍に跨る事ができずにいた。

 そのため両側に積んである荷物の入った箱とペドロの背を利用して二人はバランスを取る必要があったのだが。


「あああああああああ!」


「ヒヒーーーーーン!!」


 青い空がどこまでも広がっていた。

 何が起きているかは誰一人知る事が無い空の世界。

 地上の風景はまるで人形や玩具の様に現実味が無い絶景が広がる中、二人と一頭の声だけが響き渡る。

 程なくして二人の声は途絶え、それにあわせて高度も下がっていく。

 

「あ、あれはなんだ!?」


「鳥か!?魔物か!?」


「いや、馬だ!!馬が落ちてきた!!」


 突如として下界が騒がしくなる。


「ヒヒーーーーーン!!ブルルルルルルルッ⁉」


「…あ、れ?しぇ、しぇりー!?」


「…あ、あわわわわ!?よ、妖精さん妖精さん!!」


 騒がしくなる馬上。


「うわ!?なんだ!?光っているぞ!?」


「ま、魔物じゃ!!魔物に違いない!!矢を持て!!早く!!」


 ペドロは再び空を駆け始める。


「くそ!逃げたぞ!矢はまだか!?」


「あれではどちらにしろ射程外ですよ!」


「なんだったんだあれは…」


 先程より速度は落ちていたがシェリーの魔法制御が間に合い十分な速度を再び飛翔する。

 

「ふぅ…なんとか間に合った…」


「あんなに早いとか聞いてないよ!危ない…危ないよあれは」


「妖精さんが悪戯してた気もするけど、フィノのせいで制御できなかったのが原因かも」


「想像してたより早くてバランスを崩しちゃったんだよ、触りたくて触ったわけじゃないよ」


「ほんとかなぁ…」


「と、とにかく!もしかしてマーチャンに着いたんじゃないの?」


「たぶんそうかな…」


 一瞬見えたのは石壁に守られた街、街を包囲する集団。

 そしてペドロは石壁から包囲する集団へ向かって飛んでいた。


「え、これってもしかしてマーチャン通り越して包囲網に飛び込んで行ってない?」


「たぶんそうかな…途中で気絶しちゃったから自信ないけど」


 あまりにも無策、急いだ事が裏目に出てしまう。


「ナンダアレハ」

「トリ?」


 気を失っていた二人はペドロの機転で目覚めて事故を回避できたものの、それ以上の事はペドロにはできない。再び速度が落ち、ペドロの翼は薄くなる。


「あわわわ、妖精さん限界だ」


「えええ!? と、とりあえず着地して!?」


「ヒヒーーーーーン!!」


 二人を乗せたペドロは翼が消える直前でなんとか降り立つ。


「ウマだ」

「ヒトだ」

「オンナだ」


 オーククラン『百鬼夜行』の本陣に。

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