第5話 Sランクパーティー

 わなわなと震えていた伝令は大きく咳払いをして仕切り直しをはかる。


「な、何にせよ、我の機転で状況を確認して催促できる状態になった」


 強引に話を進める伝令を他所よそにシェリーは情報をまとめ始めた。


「フィノ、ポットリドの話をもっと思い出せそう?」


「嫁にならんか?」


「ヒヒーン!!ブルるるるる!!」


「違うよ、先に送られてたかもしれないパーティーの事。

 『百鬼夜行』がどうだとか『100人帰ってきた』とか。

 私その時は眠くてちゃんと聞いてなかったから。

 伝令さんもポットリドに依頼した内容を詳しく教えて貰っても?

 私達が直接依頼された内容と比べたいので」


 伝令はムッとした表情で自分に非は無い事を訴える。


「依頼内容に責任があるような言い方はやめて頂きたい、我ら商人は商売が専門で敵の陣営などは詳しく分からんのだ。

 端的に話すとオークの集団が街を襲う気配がある、我らは籠城するゆえ、至急Sランクパーティーを複数派遣願う。こんなところだ」


「まぁ…うん…、そんなものか」


「我らの街は難攻不落として近隣にも有名だ。

 石造りの外壁に囲まれているし鉄製の門もある。

 街の護衛にアーチャークランも雇っている。

 その辺の説明までは不要であろう?」


 伝令は誇らしげに語るが、シェリーは特に応じず事実を伝える。


「私はマーチャンが有名な街だっていうのを今知った」


「なんだと…やはり新参者なのか?

 聞いた事が無いパーティー名だとは思っていたが」


「初めての依頼だ」


「……」


 伝令の脳裏には絶望の二文字がよぎっているだろう。


「あ、そう言えばこんな事を言ってる人がギルドに居たよ。

『オークスレイヤーと百鬼夜行、どっちに賭ける?』

『奴は相当オークから恨まれてるからな、百鬼夜行に賭ける』

『なんだよ、俺もだよ』ってね」


 無駄にフィノはモノマネの再現力が高く、あたかもそこに真似されている本人がいるかのような声音だ。


「ギルドの人間がそんな事を…」


「オークスレイヤーって確か武器だよね?」


「オークスレイヤーは巨大剣の名称だが、ギルドの人間が話しているオークスレイヤーはおそらくソードマン団長の『通り名』の事だろう。

 数多くのオークを退治してきている経歴からそう呼ばれるようになっている」


「おーくのおーく?あぁ、親父ギャグ?」


「シーッ!!フィノ!!」


「ブルるるるる!!」


 ここぞとばかり畳みかける2人と1頭に恥ずかしさから伝令は気持ちを仕切り直す。


「こ、こほん!

 とにかく、オークスレイヤーはオークとの戦いに絶対の自信を持っているし傭兵個人のランクでもSランクと非常に評判が高い人物だ。

 にもかかわらず、ギルドの人間が『百鬼夜行』に賭けるというのは狙われれば多勢に無勢、ひとたまりもないという判断なのだろう」


 推測しながら説明する伝令は語るにつれて声が小さくなっていった。

 伝令の脳裏に浮かぶ絶望の二文字をなんとか打ち消そうと伝令は情報をまとめていく。


「…考えたくは無いが互いの話から考えて昨夜の火の手は先程話したSランクパーティーの『ホムラー』によるもので、連携して奇襲をかけた『ソードマン』が敗北したと考えて…良いだろう。

 『ハンドレッド』がいれば話は違ったのかもしれない事が悔やまれる」


 伝令はあったかもしれない未来を想像し顔を歪めた。


「逃げるような奴がいても邪魔なだけな気もするけど、時間稼ぎにはなるのかな」


「『ソードマン&ホムラーVS百鬼夜行』ってどのくらいの兵力差?」


「おおよそだが、80対800程だと思われる」


「ふ~ん。一人当り10人殺ればいい、しかも夜襲。

 うまくいけば混乱して同士討ちしだすかもしれない。って感じかな?」


「腕に自信があったならそうなんじゃない?」


 現状認識を終えた伝令の顔からいよいよ血の気が引く。まるで幽鬼のようだ。


「と、いう事は!

 派遣されているSランクパーティーは私達しかいないわけだ、シェリー?」


「え、私に振るの?」


「ヒヒーン!!」


「む!無茶を承知で頼む!」


 馬から降り素早く土下座する伝令は額を地面につけていた。

 プレートアーマーを着ているとは思えない身のこなしだ。


「頼む!!

 マーチャンの民を助けて欲しい、このとおりだ。

 Sランクパーティーが4組派遣されて解決できなければ傭兵ギルドもこれ以上は手を引くだろう。

 最後の希望を若い娘に託すのは心苦しいところだが街を救える可能性は貴殿らしか残されていないのだ。

私のできる事なら何でもすると約束する」


「うーん」


「SSランクの力を貸して欲しい!!頼む!!!!」


 2人と1頭は伝令の姿を見てそれぞれの顔を見合う。


「ヒヒーン!」


「シェリー?」


「はぁ…伝令の方。まずは立ち上がって下さい」


「で、では!」


 伝令は願いが叶ったかのように顔をほころばせて立ち上がる。

 額についた土埃も気にせず姿勢を正し、真っ直ぐシェリーの瞳を見上げる。


「お、お主。馬上より薄々感じていたが、女ながらにその見事な巨躯、流石SSランクといったところか。さぞ武芸に秀でているのだろうな」


 成人男性の平均身長より背が高いシェリーは伝令を見下ろしながら眉をひそめ応えた。


「いえ、まだ受けるとは言ってませんよ?

 できる事なら何でもすると言われても…。

 そもそも貴方、―――――何者なのですか?」

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