第4話 伝令

「お、女!ふざけるな!

地獄の釜傭兵ギルドにはSランクパーティーの派遣を要請したんだぞ!?」


「それは間違いない、私達はSランクパーティーだ」


「ヒヒーン!」


 伝令の男は態度を急変させる。

 口元に見事な髭を貯えており、プレートアーマーを装備している姿は伝令と言うよりは指揮官のような威圧感があった。

 シェリーの眉唾な発言を鵜呑みにしない知識と真面目さも備えており、深い皺からはベテランの風格が漂う。


「ば、馬鹿を申すな!

 仮に2人でSランクだとして依頼を達成できると思っているのか?!

 依頼内容は分かっているのだろうな!?」


ポットリド傭兵ギルドマスターから商人街マーチャンの救援を依頼された。 

 兵力差から籠城ろうじょうしていると聞いている。

 陥落かんらくするまでに到着できれば必ず依頼を達成してみせる」


 シェリーは伝令の怒気などどこ吹く風で淡々たんたんと返した。


「ぐ、依頼内容はあっている。

 しかし、2人でSランクパーティーなど聞いた事がない、30人から100人規模のパーティーを期待していたというのに。

 そもそも2人でSランクなど傭兵個人の等級はどうなっているんだ」


「2人ともSSだ」


「馬鹿な!!勇者に匹敵する力だというのか?」


「それは分らないけど、越えたいとは思っている」


 勇者の力。

 今から10年程前、神に転送されて来た異世界人に与えられたという異常な力。

 勇者はその力をもって神の代行と称し乱れた世を改めた。

 最近では勇者世界のインフラ整備をこの世界にも導入しようとしていると聞く。


「ええい、何を夢みたいな事を!

 しかし今は疑っている時間も惜しい、とにかく話を進めさせてもらう!」


 伝令は焦っている様で早口で一気にまくし立てる。


「依頼の請負確認に使う伝書鳥は知っていよう?

 1週間前に到着した伝書鳥には貴公らと違って名の知られたSランクパーティーの『ハンドレッド』『ソードマン』『ホムラー』を送るとあった。

 更に昨日『火赤・葉緑ファイアレッド・リーフグリーン』を送ると連絡があったのだが、Sランク4組の混合パーティーの斥候せっこうが貴公らなのだろう?

 招集に時間がかかっているのかと血路けつろを開いて催促さいそくに来たのだ。

 教えて欲しい、他のパーティーはどの辺りまで来ている?」


 血路を開いて来たという割に伝令は返り血も浴びておらず、馬の毛並みも美しい。


「他のパーティーについては聞いてない」


「馬鹿な!?そんな訳がなかろう!!」


「シェリー、そう言えばあのハゲ頭ポットリド、先に何組かのパーティーを送って失敗しているとか言って無かった?」


 予想外の返答に声を荒らげる伝令を諭すでもなく、フィノはシェリーに確認する。


「ごめん、覚えてない」


「ブルるるるる!」


「確か最初に100人送ったけど戦わずに戻ってきて返金されたとか言ってたはず。

 街を包囲してるのが『百鬼夜行』とかいうオークのクラン集団だと知らされてなかったとか苦情がきたとも言ってたかな」


「その100人…まさかハンドレッドでは?」


 伝令には何か思い当たる事があった様で唾が飛ぶ勢いでほえ始める。


「む、娘‼それは既に他のパーティーが送られていたという事か⁉」


「詳しくは聞いてないけど、そうだと思う。

 そもそも私達は二人で救援する依頼だと思ってたし」


 シェリー同様フィノも大声に気圧される事無く淡々たんたんと返すと伝令の顔色は一気に青く急変する。


「なんという事だ…その話が確かなら納得いく事がひとつある。

 昨夜遅く、敵陣に火の手が上がったのだ」


「奇襲だ」


「卑怯な傭兵らしい」


「ヒヒーン!」


 シェリー達は伝令の話に興味が湧いたのか次の言葉を期待するように次々口を開く。


「我らもそう思って期待した。

 街を包囲していた陣が解かれると火元に集まり対処している様に見えたからな。

 しかし陣が動くと大きく燃えていた火はすぐに小さくなり消えてしまったのだ。

 あまりの鎮火の速さに奇襲では無く単なる事故かと思い直し、包囲が崩れたこの機を逃すまいと我ひとりが急遽きゅうきょ確認のため参ったのだ」


 伝令の話に集中していたシェリーは茶化すように疑問を挟んだ。


「おかしい、さっき血路を開いて来たと言ってたような?」


「…言葉のアヤだ」


「ヒヒーン!」


「商人っぽいね」


 伝令の顔色は一気に赤く染まる、嘘が苦手のようだ。


「しょ、商人で何が悪い!物流の操作こそが我らの戦場」


「そんなに顔色が変わる商人でうまくいくの?嘘つけるタイプじゃないですよね」


「なななななな」


 伝令はわなわなと震え始めた。

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