第6話

 私たちの馬車が家に着くと、お義母様やお義姉様や義妹が慌ててやってきました。


「これはこれは王子様。お目にかかれて光栄です」

 お義母様がお辞儀をすると、お義姉様もお辞儀をし、不慣れな義妹も慌てて二人に合わせて、お辞儀をする。お義母様やお義姉様は驚きながらも、とても期待した目をして王子を見る。特にお義姉様は王子を魅了したいのか、目をいつもより見開いて、何度もまばたきしている。

「なっ・・・・・・なんで、あなたがっ!?」

 私が王子の手を借りて、馬車から降りると、三人が驚く。

「ここへ来る途中、商人に会ってね。彼から彼女を送り届けるように頼まれたので、ここへ参りました」

 王子は平気で嘘を付きました。

「そっ、そんなあいつが女を手放すはずがない・・・・・・」

 そして、お義母様がどんなリアクションをするのかよくよく見ていました。

「そうそう。彼が言ってましたよ。あなたに頼まれて、あなたの夫を殺す毒を売ったと」

「そっ、そんなことはでたらめです。あっ、あの男がその女を欲しいがために夫に毒を盛ったのです」

「それはおかしな話だ。この屋敷の主を殺して、なぜ、この子が手に入るのだい?」

 王子はお義母様の一挙手一投足を見ていました。もう王子には真実は見えているようでした。

「そっ、その女があの男と結婚したいと、持ちかけてきたのです。そして、私の夫は大反対をして」

 この期に及んで、まだそんなことを・・・・・・。私は彼女らに虐められ続けてきて、悲しい思いはしたけれど、歯向かう気力は奪われていて、怒りなんて感情はもう薄れてしまってもうないと思っていた。でも、心の内からメラメラと怒りがこみ上げてきた。

 文句を言おう、そう思った時、王子が「大丈夫だよ」という目で私を見ながら、背中を擦ってくれました。

「それは、これのことかい?」

 王子はさきほど中年の男から取り上げた証書を出しました。

「ええっ、そうですとも」

 上擦った声でお義母様が返事をするけど、目が泳いで瞳孔が開いたままだった。そんなお義母様の顔は初めてだった。

「でも、筆跡が違う」

 王子はニヤリとしました。

「ここに、さっき彼女に書いてもらったものがある。けれど、この二つの筆跡はまるで違う。おかしいじゃないか?自分から結婚したかった彼女がこの婚約書を自分で書かないなんて」

「それは・・・・・・・・・・・・」

 王子の言葉にお義母様は答えられませんでした。もちろん、お義姉様も義妹もバツの悪そうな顔をして、機転の利いたフォローなんてこともできませんでした。

「これは、こうだ」

 私と中年の男の偽装の婚約書を王子はビリビリに破いてくださいました。

 その瞬間、絶望だらけの私の暗い心も一緒に引き裂かれた気がして、とても心が晴れやかになりました。

 私はこの日を一生忘れないでしょう。

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