「……ウィン王子も、クレアも正気かよ?」


 カイジンが思わず声を漏らす。


「いいえ、嘘です」


「はぁっ!?」


 カイジンの間抜けな声が部屋に響く。何か言いたそうですが、私は無視して話を続ける。もちろん、私が見るべき相手は、ウィン王子。


「だって、私は学がないですもの。急に女王になったからと言って、何をしていいのか分からないですし、無理ですわ」


 ちょっとした仕返し。

 私は気持ちが少しすっきりしました。


「ウィン王子。人には役目がございます。ウィン王子が王子というお立場を嫌になっても、代わりはおりません」


 ウィン王子は真剣な瞳で私の話を聞いている。


「そして、私がアナタの命を取ってしまえば、全国民から憎悪を集めて誰かに殺されて、結局アナタに命を取られたことになってしまうでしょう。それほど、アナタは優れた君主で完璧なお方です。ですから、私はアナタから何も奪えません」


「金くらい……」


 カイジンが無粋にも口を挟む。本当にこの人は頭の中はお金のことしかないのでしょう。

 哀れです。


「ただ、ウィン王子。私はアナタ様を完璧とお伝えしましたが、お見受けしたところ唯一足りないところがございます」


「それは?」


「王子はポーカーがお強すぎるんです」


 私はテーブルの上からハートのエースを手に取って、ウィン王子に見せる。


「王子の理解者。心を許せる相手。愛すべき相手」


 自分でも何を言っているんだろうかと思うと、顔が熱くなってきて、柄にもないことを初めて言ったので、自分の顔がどんな風かも分からず、恥ずかしくて、ハートのエースで顔を隠した。本当は、ウィン王子には私が必要だから、私が王子の隙間を埋めて差し上げる、と言おうと思っていたけれど、やっぱり私には言えなかった。


 こんな滑稽な私を王子はどんな目で見ているでしょうか。

 私は恐る恐る王子の顔を覗くと、王子は魂の籠った目をしていた。


「じゃあ、キミの願いは……」


 あぁ、またっ。この御方はっ!!


「ウィン王子はお優しすぎます。例え……話ではございますが、ある女性は学が無いので、悪態をついてしまうこともございます。ですが、全ての悪態やワガママを許すような御方がいれば、その女性は罪悪感を抱えて苦しむそうですっ!! 王子は……女性にワガママを言わせて、叶えるのがお好みですか?」


「フッ……ハハハッ」


 ウィン王子は表情を崩して大笑いして、素晴らしい笑顔で私を見て、こう仰ってくださった。


「クレア、僕はやっぱりキミが欲しい。どんな手を使っても」


 ここで、ウィン王子がハートのエースを持った私の手をぎゅっと強引に掴むとは、思っていなかったので、ドキドキしてしまいました。



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