第3話

「カイジンッ、カイジンってばっ!!」


 カイジンは頭を掻きむしる。本当はさっきのように怒鳴りたいのだろうけれど、それをウィン王子が許さないのだろう。


 カイジンじゃ駄目だ。じゃあ―――


「ウィン王子っ!! 助けてくださいっ!! 私はっ!!」


 モノなんかじゃない。


「ボクはキミを助ける立場の人間じゃない」


 そんな……


 ウィン王子の声は穏やかだった。


「くっくっくっ」


 それを笑うカイジン。ひどい。


「貴方となんて、婚約しなければ良かったわっ」


「ふっ。今更か」


 カイジンは振り向かずに手を擦り、いいカードが配られるのを楽しみにしていた。


(今は駄目だわ)


 暴れても、体力を消耗するだけ。なら、体力を温存して、一瞬のすきを見て逃げるしかない。

 私はそう思った。

 

 ディーラーがカードを配る。

 すると、カイジンの背中が喜んで反応したのがわかった。


「ふっ。安心しろ。クレア。レイズ」


 そう言って、私を担保にしたチップの山の一部を前に出すカイジン。チップは山のようになるくらいあったけれど、私という人間の価値をお金の代わりであるチップに変換されるのは量が多くても本当に嫌だった。


「……コール」


 王子が配られたカードとカイジンを交互に見ながら、コールを宣言し、カイジンと同じだけチップを前に出す。


「ふっ。オールイン」


 カイジンが全部のチップを前に出す。興奮しているのか、一部のコインが崩れていく。


「ちょっとっ」


 私は思わず口を出してしまう。賭け事、それもポーカーで外野から口出しするのはご法度中のご法度。そんなことは賭け事をしない私でも教養として知っている。だけど、つい先ほどカイジンは負けており、雰囲気的にはその前にもかなり負け越していたような雰囲気だった。なのに、全てを賭けるなんて、私のことをなんだと思っているのだろう。


「ふふふっ、安心しろ」


 ちらっと、ふり返ったカイジンの顔は自信に満ち溢れていた。いつものカイジンではないとはいえ、一応婚約者であるカイジンのその顔がブラフだとは私は思えなかった。


「さあっ、どうしますか? ウィン王子」


「オールインコール」


 ウィン王子はなんのためらいもなく、コールして、同額のコインを出しました。


「なっ……」


 それにはカイジンも驚いた様子でしたが、


「ふっ、知ってますか、ウィン王子。東洋では百里を行く者は九十を半ばとす、って諺があってですね…」


 ウィン王子はカイジンを無視して、ディーラーに進行を進めるようにアイコンタクトする。


「オープンっ」


 ディーラーが言うと、カイジンは話を聞かなかったウィン王子に対して少し怒った表情を見せていましたが、見返してやると言った顔で、


「ジャックのフォーカードだっ。フォーーーッ」


 おさるさんのような声で興奮するカイジンはガッツポーズをする。


「ハートの5のストレート」


 ウィン王子はさらっとそう告げて、カードを自分の無気力に開く。


「じゃあ、この勝負は……俺の勝ちですね」


 そう言って、カイジンがチップを取ろうとすると、またディーラーからストップがかかる。


「はっ!? ルールはルールだろっ。ストレートよりフォーカードの方が……って嘘だろ、おいっ」


 カイジンの目がウィン王子のカードの出した場所に行くと、カイジンは脱力して椅子に落ちるように座った。


「だから、言っているだろ? ハートの5のストレート。つまり、ストレートフラッシュだ」





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