第14話 詩織の初恋に気付いた親友


 お泊りの約束をした新上、詩織、理沙の三人は途中まで一緒に帰宅して家に繋がる分岐点で一度別れた。

 帰り道での出来事。


「ね、ねぇ新上?」


「どうした?」


「そ、そのなに? あのね、やっぱりいきなり二人の夜はちょっと……うそ、結構緊張しちゃうから詩織に一緒にいてもらいたいな~って」


 緊急していることは見て取れる。

 それに親友としてならともかく恋人となった二人に今は壁という壁はないとも言える。

 事件が起きるとしたら夜しかないだろう。

 少なくとも新上にはある自信がある。


「安心しろ! 俺に手を出す勇気があると思うか?」


 ドヤ顔で言い切って少しは安心してもらおうと思ったのだが逆効果だった。


「…………」


 理沙が黙り、詩織が「はぁ~」と首を横に振ったのが目に入った新上。

 恋愛弱者である新上に乙女心はまだわからない。

 良かれと思って言った言葉が上手く二人に伝わっていないのか、そもそも二人が求めていた言葉が違う言葉だったのか。

 反応から見るに後者な気がしなくもないと新上。


「ってか、私をさり気なく巻き込まないでよ理沙」


「だって~」


「あ~もお、わかったわよ。だからそのウルウルした瞳で見つめないで」


「やったー!」


「新上もそれでいい?」


「当然!」


 結局は仲の良い三人一緒。

 でもショックじゃない。

 確かに新上としては理沙と今夜二人きりかと思って心が浮ついていた部分もあったが、正直急に夜二人になっても緊張して上手く会話をする自信がない。

 だったら、お互いの理解者でもある詩織がいてくれた方が色々と安心できる。

 と、言いたいのだが、新上は顔には出さないが、「それはそれで逆に緊張する」と苦笑いをした。

 初恋相手と初めての夜は初めての恋人との夜とか新上人生における大事件である。

 こんなの緊張しかないだろう!

 いつもの帰り道。中学時代と何も変わらない三人での帰宅のはずなのに早くも手汗がヤバイ。ズボンで何度も汗を拭いても永遠と手が汗で濡れる。

 これは一体どういう状況なのだ!? とテンションが上がり過ぎてもうどうしていいかわからない。

 こんな経験絶対俺しかないだろ!!!

 そんな言葉しか出てこない。

 恋の神様超オメガハイパーウルトラグッジョブである。

 新上は心の中で恋の神様に土下座をして誠心誠意感謝する。


 そんな事があり、今は異常にテンションが高い新上は急いで二人が来る前に部屋の片づけをしておく。

 二つの意味で初めての夜は今から待ち遠しい。

 詩織と理沙は夜ご飯とお風呂を済ませからくるとのことなのでまだ二時間程時間がある。



 ■■■


 家の立地の関係上一足先に新上が別れた。

 春を代表する桜の木から花びらが舞う私立大楠高校へと繋がる通学路に繋がる大通りに小さな公園がある。

 詩織と理沙は少し寄り道をして公園のベンチに並んで腰を下ろしていた。


「ねぇ、詩織?」


「なに?」


「今日の放課後……嫉妬したよね?」


 笑顔だった詩織の表情の雲行きが怪しくなった。

 理沙は親友だからこそ詩織の些細な変化に気付いた。

 今日ほんの一瞬。

 親友が今まで誰にも見せた事がない感情を表にだしたと。


「気付いていたの?」


「私ね、三年間ずっと片想いしてきた。その間ライバルのことも新上と同じくらい見てきたの」


「……そうだったんだ」


「教えて。やっぱり新上のこと好きなんでしょ?」


 理沙の真剣さが伝わり、詩織の表情から笑顔が消えた。


「うん……好きだよ、た、ぶん」


 少し変な間があったが、理沙は気にしない。


「まだ、たぶんなの?」


「うん。本当にこれが異性として好きかってわからないの。でもね、幸せそうな理沙とその隣にいる新上を見ていると最近心の中がモヤモヤする時があるんだ」


 詩織は夕日でオレンジ色になった空をぼんやり見ながら告白した。


「今まで隣にいて当たり前だった新上が……いなくなっちゃうんじゃないかって……」


「だったらどうするの?」


「それを聞いてどうするの?」


 空から理沙に視線を移す詩織。


「気になっただけ……」


「そっかぁ。なら白状するね。理沙が今日私を誘った本当の理由が多分その答えだよ」


「それって……うそっ、気付いていたの?」


 理沙の目が大きく見開かれた。

 そんな理沙を見た詩織が一度頷く。


「まぁね。私も理沙のことはよく見ていたからね。本当はえっちな展開になっても理沙は受け入れた。違う?」


「……恥ずかしいからそれは言わない」


 内心ちょっと期待していただけに顔が真っ赤になってしまう。

 だけどそれ以上に初夜からは色々と恥ずかしいと言う気持ちがあったのも事実。

 本当は心に余裕がなく羞恥心が強い今は詩織に護ってもらおうと思っていたのだが、残念ながらそれだけの夜にはなりそうにはないと考える理沙。

 ただ、詩織の言葉を聞いている限り理沙の想定を超える発言はなかった。


「だよね。どの道私はバカなことをしたなって今さらながら思うよ。でも後悔してても未来は明るくならない。それにまだ終わったわけじゃない。万に一つでも可能性があるなら私は自分の気持ちを今日確かめて、もしそうだと確信できたら全力で地の底から這いあがるつもりだよ」


「…………」


「もう少し早ければ戦わなくても良かったのかもしれない。でもはそれを望まなかった。ってことはやっぱり私たち理沙が言うように親友でライバルになる運命だったのかもしれないね」


「【】」


白雪七海しらゆきななみの言葉ね。でも私は【】と思うの。だから私と詩織の出会いは必然だったと思うの。そして私と初恋相手との出会いも」


「やっぱり私の最後の敵は詩織だったか~。身近な存在がラスボスって笑える」


「そんなことないよ。正直理沙が新上とここまで仲良くならなかったら、たぶん今頃、これが恋なのかな? すら思ってないからね」


「そっかぁ。なら今日さっさと確かめてよ。そっちの方が私としてもどうしていいのかわかるし」


「せっかく成就した恋を邪魔してごめんね」


「いいよ、いいよ。最初からこうなる気はしてたから。それでも私は勝てると思ったから告白したんだし」


 まるで全てを知っていたと言わんばかりに理沙が不敵に微笑んだ。

 詩織は「本当に恋が絡んだ関係になっちゃうのかな……」とボソッと呟いて、理沙の手を取って公園を後にする。

 二人の会話を知らない周囲は手を繋いで帰る女子高生二人を微笑ましいと思うが、それは恋が絡まないことが前提条件であることを誰も知らない。




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