第6話 訪問者は笑い、新しい道を


 ――ピンポーン


 居留守を使う事にした新上の意図に反して玄関のチャイムが鳴り響く。

 食事のためにと思い、階段を降りて一階にやってきた新上。

 ふとっ、思う。


「もしかして……知り合い?」


 新上は考えてみる。

 平日の昼間から自由に動けて新上家にやってくる人物。

 父親、母親の顔が最初に浮かんだ。

 二人は海外出張で少なくとも今年は帰国すらできそうにないと言って家を留守にして出て行っているため違う。

 そうなると、今年から女子大に通い一人暮らしを始めた姉だろうか。

 可能性としては十分に考えられる。

 大学ならば講義がない日なら自由に動けるし、講義があっても休むことができる。


「……姉ちゃん説はあるな」


 大学の近くに一人暮らし。

 と言っても、家から車で三十分圏内と意外に近いからだ。

 去年免許を取って親の了承を強引に得て車の無期限借りパク権を手に入れた人物であればありえる。まだ姉の部屋は私物だからけと生活の名残が残っている。もしかしたら荷物を取りに来たのかもしれない。


「ただ、姉ちゃん鍵持ってたはずなんだよな……」


 結局考えてもわからないので、リビングに向けていた足先を玄関へと向ける。

 念のため、不審者ではないかを覗き穴を使って確認。

 扉を開けた途端手に持っていたナイフで刺された、なんてオチは一切求めていない。幾ら心が疲弊してもそんな死に方は絶対に嫌だから。


 ――ガチャ。


 覗き穴の先にいる人物が怪しい人物でないことを確認して扉を開ける。


「お待たせ」


「あっ、おそーい!」


 来客に対して失礼だとは思うも苦笑いしかでない。

 だって唐突過ぎて何がどうなっているのかがわからないから。

 潤いがあり綺麗な肩下まである黒髪美少女が目の前に立っているのだ。

 髪の毛をクルクルと指に巻いては離してを繰り返しながら。

 新上のクラス内で男子が極秘裏に行った調査結果。

 彼女にしたいランキング一位二位を争う人物にして中学生から白井詩織の親友でもある。


「……なんで、ここに理沙がいるんだ?」


 無視すれば出るまでチャイムが鳴りそうなため出らずにはいられなかった。


 田村理沙。

 にこっと微笑む美少女は天使か悪魔か。

 問うまでもない。


「小悪魔帰れ」


 そのまま扉を閉める。

 が、扉が閉まる前に理沙が「えい!」掛け声と一緒に入ってきた。


 二人の距離が手を伸ばせば抱き合えるぐらいに急接近。

 理沙の吐息が微かに顔を触れる。


 慌てるも早く。


「お邪魔しま~す♪」


 新上は大きく息を吐き出す。

 それも理沙に聞こえるように。


「やっぱり見る感じだけど、私の勘が当たってて病欠じゃないんでしょ?」


「…………何しに来た?」


「まぁ、なに? 詩織が気にしてたからね」


「……そっかぁ。なら悪いが帰ってくれ。今は一人の時間が欲しいんだ」


「諦める。そんなに簡単にできないと思う。だから私の話しちょっと聞いてみない?」


「今はそういう気分じゃ……」


「話し半分でいいからさ。私今日生理が酷いってことで早退しちゃったんだけど、生憎薬を持ってなくて今辛いんだよね~。ってことで私の看病と思ってどう?」


 理由が理由だな、と新上は心の中で呆れた。

 振られた男をわざわざ心配して学校に嘘をついてまで来る理沙に。

 なによりここに来た本当の理由は玄関の扉を開けた瞬間に頭が理解していた。

 理沙は――。


「立ち話もなんだしリビングに行こっか? ちなみにお昼は?」


「まだ」


「ついでに軽い物作ってあげるから、ソファで腰下ろして五分程度待ってて」


 そのまま我が家のように慣れた足取りで奥の方へと歩いて行く。


「学校休むと決まって理沙が俺の家に来ること忘れてた。それだけ色々とショックで疲れてたんだな、俺」


 理沙の背中を追いかける形で新上はリビングへと足を向ける。

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