第5話 動き出した時間と突然の違和感


 色々と心の整理をしていた。

 その中で色々と今後の事を考えてみた。

 まず明日から学校にはちゃんと行く。

 これが午前中の時間をかけて考えた結論。

 残念ながら詩織との今後の事はまだ荷が重すぎて向き合おうと頑張ってみたもののまだ無理だった。


「ってことでとりあえず、ご飯食べよ……気付いたら昨日の昼から何も食べてなかった」


 時計に目を向けるとちょうど十二時と時間も良い。

 二十四時間振りのご飯は何が良いかと考えていると、


 ――ピンポーン


 と、玄関のチャイムを鳴らす音が聞こえてくる。

 ただ今は誰とも接したくない、そんな気分なので恐らく荷物を届けてくれたであろう業者さんにはまた後で出直してもらう事にする。

 今は心の安定が一番。


「さて、ご飯はなににするかな」


 ちょっとでもポジティブな方向に思考を持っていきながら、新上はリビングへと向かった。

 よく見れば足取りは昨日に比べると少し軽くなっていた。




 ■■■


 数時間前。


「はっ? なんで?」


 私立大楠高等学校一年一組の教室で驚きを隠せない人物がいた。

 今まで無遅刻無欠席が取り柄だった幼馴染が何の連絡もなしに学校に来ていないからだ。いつもなら体調不良や急用の時は必ず何かしらの連絡が入ってくる。なのに今はスマートフォンで確認しても連絡がきてない。

 もしかして来る途中に事故に巻き込まれたとかじゃないかと。

 少し心配になった。

 まだ登校時間まで時間は十分程余裕がある。

 学校には余裕を持って登校してくる新上は基本的にこの時間には必ず学校にいる。

 なのに、今日に限っていない。

 やっぱり心配だし気になる。

 昨日の今日だけあって、いつも以上に気になってしまう詩織。

 一クラス四十人の教室を見渡すも新上の姿は何処にも見えない。

 逆に姿がないぶん耳を澄ませば「あいつ振られたショックで来てないんじゃね?」「ついに撃沈てか」「まぁ当然の結果だよな」とクラスの男子が言いたい放題言ってるのが聞こえてくる。

 イラっとしたので机をバンッと強く叩くと陰口を言っていた男子の身体がビクッと反応してすぐに聞こえなくなった。


「……もしかして、詩織怒ったの?」


「べつに。ただイラっとしただけ」


「ふ~ん。それで告白はどんな結果に?」


「断ったよ? それより理沙知らない? 新上がまだ来てない理由」


「えっ、……それは普通幼馴染のアンタの方が知ってるんじゃないの」


 肩下まである髪の毛をクルクルと指先に巻いて手遊びをしながら今は空席となっている新上の席に腰を下ろすのは中学時代からの詩織の親友の一人理沙。

 慎ましやかなボディではあるが、美意識が少し高めで同性の詩織から見れば女子力が高く、実際にクラスでも男子に人気が高い女子の一人。


「知らないから聞いてるのよ」


「ふ~ん。アンタってたまに冷たいからね~。それで傷付いたとかじゃないの?」


「そ、そんなことないわよ?」


「そう?」


 ニコッと微笑みながら言葉を続ける理沙。


「昔から仲が良いからこそ、たまに新上に対しては心を開いてるからこそ冷たいのかな~? って感じることが私は昔からあるよ?」


「全然心当たりがないんだけど」


「でしょうね」


 だと思った。と小声で付け加える理沙。

 表情はどこか楽しんでいるように見える。


「ずっと思ってたんだけど、詩織って新上のこと好きだったんじゃないの? 受験の時だって一緒に受かるといいな~ってよく口にしてたじゃん?」


「う~ん、好きは好きだけど……私理沙のことも好きよ?」


「なるほどね~。そりゃこうなるわな」


 理沙の言葉がいまいち理解ができない詩織は口を尖らせて「大丈夫? なんかあった?」とLINEを新上に送ってみる。


「聞いてるの?」


「うん。やっぱり気になって」


「そんなに気になるんだったらさ、もしこのまま来なかったら放課後家に行ってみたら? もしかしたら大したことじゃないかもしれないけど、病気で倒れてるかもしれないし。新上は両親海外出張で一人だからさご飯とかも苦労するだろうし」


「それもそうね」


 スマートフォンの画面を気にしながら返事をする詩織。

 既読が付かないことがこんなにもどかしいのは初めて。

 普段ならとにかく今日は昨日の事もあっていつも以上に気にしてしまう。

 ここに来るまでは新上とどう接していいのかをずっと考えていた。

 だけど良い意味で杞憂に終わり悪い意味で心配に変わってしまった。

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