超地球救済戦記!G〈グレート〉ダンザイオー‼~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!バカで愚かな人類は身長170センチ以下の無職童貞ニートの俺が全員滅亡させる‼~

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超地球救済戦記!G〈グレート〉ダンザイオー‼~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!バカで愚かな人類は身長170センチ以下の無職童貞ニートの俺が全員滅亡させる‼~

第一話  爆誕!断罪王〈ダンザイオー〉‼~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!極悪非道な人類から宇宙船地球号を守れ!

人類は今、滅びようとしている。地球上に増えすぎた人類は己の欲望を充足させるために自然を破壊し続ける。

 人びとは地球の住人でありながら自らの生活に必要不可欠な住居を破壊し続けているのだ。

 わかりやすく言えば自分の家を自分たちで破壊しているようなものである。

 ではその結果どうなるか?

 自然破壊により人間の住むことができなくなった地球上で人類は絶滅するしかない。

 人類が絶滅すれば、確かに自然破壊は止まるだろう。 

 しかし、人類が一人もいなくなった地球上には破壊尽くされた自然とその愚かな人類が残した建造物だけが残されるのだ。

 生命体の命と同じく一度失われた自然は二度と元には戻らず、人類が自らのために作り上げた建造物は人類が絶滅した地球上では存在価値がない。

 そして自然環境が破壊し尽くされた地球上には人間以外の動物や昆虫も無論、生き延びることは不可能である。

 つまり、地球上で今一番必要ない生命体は自然破壊が悪と知りながらそれを止めることができない人間である。

 そして、命の危機を感じた地球は自らの命を人間達から守るために地球上に存在するあらゆる命をおよそ人知を越えた力で人間を遥かに超越した生命体に進化させた。

 人類はその生命体の名をアンノウンと名付けた。

 地球上のあらゆる生命体、つまり人間を含めた命あるすべての生命体は地球そのもの意思により人知を超えた方法でアンノウンに進化してしまう。

 ミミズだってオケラだってアメンボだって人間だってみんなみんなアンノウンに進化して人間を殺し、食い尽くす。

 そして人類に生息するすべての人類を食いつくしたアンノウンはやがて栄養失調でみんな死ぬ。

 地球そのものを怒らせた人類に逃げ場なし、生きる資格なし!

 しかし、アンノウンの正体と約束された終末を知りながら人類はあらゆる知恵を兵器を使って人類防衛組織、至高天を結成して環境破壊を繰り返し人型起動兵器・銀装天使の開発に成功する。

 人類はアンノウンから身を守るために銀装天使を操縦して世界中で不定期に出現するアンノウンを撃破することで愚かにもまだ生き延びようとする。

 なんの目的もなく、ただ生きていたいそれだけのために、このお金では買うことのできない自然という命で満ち溢れた母なる星、地球の平和をアンノウンから守ると称し、自らの家である地球を破壊し続ける。

 人類は自分たちが絶滅すれば食料である人間を失ったアンノウンもまた絶滅すると知りながら、今も多くの自然を犠牲にして対アンノウン兵器である銀装天使の開発を続けている。

                 *

 平日の午前中から一人の成人男性が大量の汗を流しながら住宅街の道で竹刀を両手にもって素振りをしている。

 その男は地球上の全ての人類に対してアンケートをとったら地球上の全ての人類が醜悪と認めるであろう姿をしていた。

 そう、俺、石川マサヒロ身長170センチ以下で二十二歳無職童貞ニートの前にある日突然、恋愛シュミレーションゲームに出てきそうな美少女が空から降ってきたんだ。

 早朝のテレビニュースで見た天気予報にはないアクシデントに俺は驚愕と若干の期待を覚えられずにはいられなかった。

 そう、この俺、身長170センチ以下で二十二歳無職童貞の石川マサヒロはずっと待っていたのだ。

 この終末とアンノウンの進化におびえ続ける糞みたいな日常をぶっ壊してくれる何かを。 

 そしてそれは空から降ってきた。

 恋愛シミュレーションゲームに出てきそうな完璧完全美少女の姿をしたそれは、空から降ってきたというのに痛い顔せずに二本の両足でしっかりと地面に立っていた。 

 例えばその美少女について具体的にどんな容姿なのかと問われても、その人間によって美少女の物差しは違う、つまりこの地球上に寄生し続ける愚かな寄生虫地球人類の数だけ、その人間の美少女像は異なるので、あえて細かくは説明しない。

 上空から突如飛来してきた美少女の容姿についてはこの作品を呼んでいる諸君のご想像にお任せしよう。 

 「そこの美少女!空から降ってきたのにどうしてそんなに平気そうな顔をしてるんですかっ!足痛くないんですかっ!」

 「我が名はメシア、人類からこの星を守るために地球に創造された救世主である」

 ほれ見ろ!俺的完璧完全美少女は俺が名前をたずねたわけでもないのに自らの名をメシアと名乗った。

 もしかすると地球上で愚かな人類を食い殺しているアンノウンとなにか関係があるのだろうか?

「俺の名前は石川マサヒロだ!俺は今、人生がうまくいかなねぇ!ついでに地球上で人類の平和を守るとか言って巨大人型兵器・銀装天使でアンノウンをぶっ殺している地球人類が許せねぇ!その銀装天使の開発のせいで多くの自然が犠牲になるからだ!アンノウンを地球上から滅ぼしたところで俺達愚かな糞人類はいずれ自らによる自然破壊のせいで絶滅してしまう!お前は救世主なんだろ?だったら今すぐ、なんとかしてくれよ!」

 俺は俺的完璧完全美少女であるメシアに土下座しながらガチギレした。

 「だからこそだ…身長170センチ以下で二十二歳で無職童貞ニートの石川マサヒロよ、地球の意思は愚かな人類から地球を守るために私を創造し、地上に投下した。そして私とお前が一つになり地上に断罪王〈ダンザイオー〉が誕生する」

 どうやら地球の意思とやらは平気で他人のプライベートを詮索するのが好きらしい。

 「断罪王〈ダンザイオー〉…?」

 「そう、断罪王。地球の自然を破壊する愚かな人類を断罪する究極の巨大人型兵器。いいからコレを読め、その本の名は終末黙示録」

 メシアは俺に向かって辞書のようなものを片手でぶん投げてきた。

 そしてその辞書のようなもの、終末黙示録が俺の顔面に直撃した瞬間、俺の脳内にあらゆる情報が流れ込んできた。

 「そうか…そういうことだったのか…」

 俺の脳内に流れ込んできた情報について俺はどう説明すればいいのかわからない。つまり説明はできないが、確かに理解したのだ、全てを、そう俺は全てを理解した。

 「そうか…やはりそういうことなんだな?」

 「そうだ…そういうことだ…では始めなさい」

 「シンゴォォォォォォォォォォォォッ!」 

 俺は先程まで竹刀で素振りをしていた住宅街の道で終末黙示録に記されていた呪文を叫んだ。

 そして次の瞬間、俺の身に着けていた衣服は一斉に全部切り裂かれ、目を開けると全身真っ黒な巨人と化していた。 

 そして足元を見ると、俺の両親が住んでいる家や近所に住んでいる学生時代好きだったメス、ミサキちゃん、学生時代に俺を苛めていたヨシキの家もぺしゃんこになっていた。

「よっしゃあっ!ざまぁみろ!バーカ!死ねバーカ!イエイ!イエイ!イエイ!イェェェェイッ!ハァァァァァァッ!」

 断罪王と化した俺の足がかつて俺に対して極めて失礼な態度をとった俺の両親とミサキとヨシキと俺と何の関係もないクソ野郎どもの命と家族と居場所を踏みつぶしていたことを確認した俺は歓喜の呪詛を青い空に向かって放った。

 「自分の親やなんの罪のない人間たちの命を奪ったというのに石川マサヒロはずいぶんと平気そうですね…」

 俺の脳内に俺と一つになったメシアが語りかけてきた。

 「平気?ああ、平気だぜ!母さんも父さんもあの大多数の認識を共有することが正しいと思ってる馬鹿どもが開発した四角い電子機器から放たれる少数派の人類がこの世で生きていくのを否定するような思想を強制する呪詛に心を蝕まれ今の俺を否定し続けた!血のつながった家族なのにな!ミサキちゃんは俺のことを好きになってくれなかった!ヨシキは言葉と暴力で俺の存在を否定した!強制的に終末黙示録を学習させられた俺は全てを見た!全てを悟ったのだ!断罪王と化した俺は神だ!それが過去であろうと未来であろうと、神である俺を否定するものはみんなぶっ殺してやる!そうだ断罪してやるんだ!俺は断罪王!俺が馬鹿で愚かでクソみたいな人類を地球上から一人残らず滅ぼしてやるぜ!そう…この地球のためにな」

 全身が黒色の超巨大ロボット断罪王と化してテンションマックスな俺は勢いででんぐり返しを繰り返し、付近の住宅と住民を破壊し続ける。

 「ぼあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんあッ!」

 新世紀の神にして断罪王である俺が気持ちよくなっていると、足元で血塗れで体から内臓が飛びだしている母親の死体を抱いた少年が急に叫びだした。

超先進国日本に生きる他の連中の奏でる美しい悲鳴や罵声と違い、そのクソガキの叫び声だけが発展途上国モンゴルの国民が歌うホーミーみたいに聞こえたので俺はなぜか不機嫌になる。

そして次の瞬間にはクソガキホーミーの肉体は崩壊し、中から最近地球上で人間を食い殺しているので有名な巨大生物・アンノウンが現れた。

 「あのクソガキ…神であるこの俺の許可もなくアンノウンに進化しやがった…もうぜってぇ許さねぇっ!」

 「どうしてお母さんを殺したんだ!お前は何者なんだよ!」

 俺の脳内に俺に母親を殺されたクソガキの声が響いてくる。なんということだ!あのクソガキはアンノウンに進化してしまったというのに自我が残っているではないか。

 しかし俺の抱いた疑問は事前に超速学習させられた終末黙示録の情報補足によってすぐに解決することになる。

 「なるほど…進化に決まった形はないというのだな、ゆえに大多数の価値観で構成された形こそが人のあるべき形であることを強制する今の人類は滅ぶべきであると…ふむふむ…つまりこの世界にルールなんて必要ないということか!そうだ…この天然自然の極楽浄土である地球上に人間のバカげた精神論が産んだこの社会なんて必要ねぇんだ!所詮この世は弱肉強食、弱い者は死に強い者だけが生き残る!それが自然の法則!そして、この断罪王である俺だけが神!この世で生きるにふさわしい生命体は神であり断罪王である俺!石川マサヒロただ一人!」

 「あたまがおかしいのかぁ!貴様ぁッ!」

 アンノウンに進化したクソガキのパンチが断罪王である俺の顔面に向かってくる。

 断罪王と化した俺はクソガキパンチを片手で受け止め、クソガキの拳を粉々にした。

 「まあああああああああああああッ!痛いよぉおおおおおッ!ママぁぁぁッ!」

 「くく…ママか…お前もしかしてマザコンか?気持ち悪い、死ねっ!」

 「なんだと…お前こそ!大人のくせして自立できないくそ野郎じゃないか!」

 「なんだと貴様ァッ!俺は断罪王だぞッ!」

 「有名だからな!この近所で無職で童貞で身長170センチ以下で毎日、家の前で竹刀で素振りしているニートの石川マサヒロの噂はな!僕の隣のミサキお姉ちゃんもお前のことを学生時代のころからキモイって言ってたぜ!」

 俺はクソガキの暴言に応える代わりにアンノウンと化したクソガキのバックゲートに思いっきり断罪王の拳をぶち込んでやった。

 「うあああああああああああああああああああああ、バックゲートが、バックゲートが痛いよぉぉぉぉぉぉ!」

 「当たり前だァ!俺がてめえのバックゲートに正拳ぶち込んでやったんだからなァ!」

 巨大なアンノウンに進化したクソガキのバックゲートから流れる大量の血液と糞がその真下にある住宅街を真っ赤に染める。

俺はバックゲートから大量の血を流し続けるクソガキアンノウンに向かって、空間を切り裂き異次元から呼び寄せた必殺剣・断罪剣を右手に持って正面から振り下ろす。

断罪剣により真っ二つになったクソガキアンノウンの体内から吹き出した血液がかつて俺の故郷で会った埼玉県さいたま市を真っ赤に染めた。

 「さよならかがやくさいたま」

 「どうやら、もうすでに手遅れだったみたいだな…」

 上空から巨大な何かが俺の目の前に落下してきた。

それは人類が自然を破壊し尽くし、アンノウンを破壊するためだけに開発した正義のロボット銀装天使のうちの一機、シェムハザだった。

「私の名はマルヤマ!この銀装天使シェムハザの名において、私は人類の敵である貴様を断罪する!」

 「天使…?断罪?くくく…ちがうな…断罪されるのは貴様の方だ!」

両手が剣になっているシェムハザの二刀流斬撃攻撃が断罪王である俺に襲いかかってくる。

俺は異次元から2本目の断罪剣を地上に召喚して左手に持ち、その攻撃を受け止める。

 「お前…フェミニストだな…おまけにまあまあ美少女だ!」

 「貴様…なぜわかる…」

「俺は終末黙示録を読んだからな、今の俺に不可能はない!お前の夢は完全な男女平等である。しかしだァ!もしこの世界が完全な男女平等世界になり果てたら、銭湯もトイレもスポーツも徴兵もすべて男女で共有しなければならない!つまり、銭湯やトイレで貴様らフェミニストが男に無理矢理フュージョンされても、お前たち薄汚ぇ!三次元の雌豚どもはなんの文句も言えねぇ…いや!神である俺が言わせねぇ!」 

 俺は眼力だけで異次元から地球上空に三本目の断罪剣を召喚して銀装天使シェムハザの頭部に向けて超速落下させる。

 「何、上から剣が降ってくる!」

 シェムハザは上空から突如、降ってくる断罪剣を回避するために右に移動する。

しかしその結果、クソガキの血と便で真っ赤に染まった埼玉県さいたま市内の住宅街に巨大な断罪剣が突き刺さってしまう。

 「おい!おい!おい!お~いっ!いいのか!フェミニスト?お前が俺の断罪剣を回避したせいで本来お前が守るはずの一般市民が断罪剣に串刺しにされて血まみれになっちまったぜェェェェッ!断罪剣ツインブレェェェェェェードッ!」

 俺はシェムハザが上空から飛来する三本目の断罪剣を避ける隙を狙ってシェムハザの背後に超速移動していたのだ。

そして背後からの俺の攻撃、二刀流断罪剣ツインブレードがシェムハザの背中に直撃した。

 「くっうああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 「いい声してやがるぜ!銀装天使のパイロットよりエロゲ声優のほうが向いているんじゃないか?」

 「黙れ!この大量殺人鬼の無職が!無職の貴様に人の職業を馬鹿にする資格はない!貴様のような自立できない生活能力ゼロの無職は死ねぇ!」

 「うるせぇ!俺を誰だと思ってる!俺は新世界の神!断罪王石川マサヒロだ!」

 二本の断罪剣に串刺しにされたシェムハザの背中が風船のように膨らみ始める。

 「マルヤマ!お前は一体何を始める気だ!」

 「銀装天使は世界最高民族日本国の人類防衛部隊である至高天が機械工学でもって開発したスーパーロボットなんだ!無職なんかの貴様にフェミニストである私が負けるわけがないんだ!」

 蝉が脱皮するようにシェムハザの背中を突き破って美少女マルヤマの顔をした全身白色の巨大なアンノウンが出現する。

しかしその全身には高齢者男性と思われる顔が無数に浮き出ており。俺は断罪王の口から嘔吐してしまう。

クソガキアンノウンの血と便で汚れきった埼玉県さいたま市に新世界の神・断罪王の吐しゃ物が滝のように直撃する。

 「この…新世界の神である断罪王石川マサヒロを嘔吐させるとは…ふふふ…しかし今この瞬間、終末黙示録と繋がった俺にはすべてがわかる…貴様の全身に浮き出たクソジジイの顔は全て同じ顔をしている!そうだ貴様はあの日!世界の滅亡が予言されていた1997年の7月に人類の滅亡が来なかったことに絶望したオカルト教団の教祖である義父に無理矢理フュージョンされたんだよ!貴様は今も生活のために義父に思うがままにされた自分を許せない、そしてかくかくしかじかでフェミニストになった!」

 「それが一体なんだというのだ!私はたとえこの身が人類の敵アンノウンになろうとも人類を滅ぼそうとする断罪王と女を玩具としか思わない男たちを地球上から滅ぼしてやる」

 「黙れェェッ!マルヤマァァァァァァッ!愛してるぅぅぅぅうッ!」

 アンノウンに進化してしまったマルヤマの全身に浮き出した無数の丸山の義父の顔の口から一斉に歪んだ愛の叫び声が発せられ、それと同時に無数の触手が放出される。

俺は断罪王の両胸の装甲版を展開、断罪ビームで俺に向かってくる触手を消滅させる。

 「マルヤマァァァァァァッのことがスキダカラァァァァッ!」

 マルヤマの全身から浮き出た義父の人面からは義理の娘への歪んだ愛が一昔前に世界最高民族日本の女性高齢者の間で流行した韓流スターのような声の超音波になって断罪王に襲いかかってくる。

 「なるほど物理的な攻撃が断罪王に効かないことを知り、感覚的な攻撃に切り替えたか、賢いな、だがしかし!俺には終末黙示録が見せてくれた真理がある!貴様の歪んだマルヤマへの愛は俺が打ち砕く!断罪フラッシュ!」

                *

 一九九七年七月×日

 「おいおいおいおいお~い!教祖様!俺たちは今日、この日に人類が滅亡すると信じてあんたに高い金を払い厳しい修行に耐えてきたんだぜ!なのに世界の終わりは来ない!一体どうしてくれるんだ!」

 「そうだ!金返せ!このインチキ教祖!」 

 「そうだ、そうだ!」

 「ボアしてやる!」

 マルヤマの通う聖バディグディ中学校の体育館内で大勢の信者に糾弾されるマルヤマの義父は驚愕と絶望でなにも言葉にすることができない。

 大勢の元信者がボアの曲を歌いながらマルヤマの義父である教祖をボコボコにリンチする。 

 元信者がいなくなった聖バディグディ中学校の体育館にはマルヤマとその義父だけが取り残される。

 「私はパパのこと信じてる…いつかかならず人類が滅びるって…世界中のみんながパパの敵でも私だけはパパも味方だよ!」

 「お前は私を慰めてくれるのか…」

 「え…?パパ…何するの…」

 まだ幼いマルヤマに覆いかぶさるマルヤマの義父…その後のことはあえて語るまい。

 「なるほど…これがマルヤマのトラウマだったのか…こうしてマルヤマはかくかくしかじかで男性に対して強い嫌悪感を抱きフェミニストに覚醒してしまう…」

 「メシア…すごいな…断罪王は…こうして他人の精神世界に干渉できる!」

 「断罪王は神。この世のあらゆるものは神が想像し、創造した、そう時間でさえも…」

 俺は時間をマルヤマの義父がマルヤマに無理矢理フュージョンをする寸前に巻き戻す。

 「そのくらいにしろロリコン!」

 「なんだ貴様は!」

 「俺の名は断罪王、未来から来た。でも未来じゃもうアンタもアンタの娘も死んでるぜ」

 そうだ、あと数日後に自分の子どもをマルヤマに中絶され発狂したマルヤマの義父はアンノウンに進化して高校生のころ俺の愛の告白を断ったハルカの操縦する銀装天使バラキエルに破壊される。

 そしてマルヤマは自分を救った銀装天使に強いあこがれを抱く。

 マルヤマの通う聖バディグディ中学校の体育館の屋根を突き破ってマルヤマの精神世界で断罪王になった俺はマルヤマの義父を片手で握り潰した。

                *

 そしてマルヤマの精神世界からもとの時間軸の世界に帰還した俺の頭の中にある一つの疑問が浮かぶ。

「しかし…なぜあの時間軸にハルカが存在するんだ…?」

俺の目の前にいるアンノウンに進化したマルヤマの全身にあったマルヤマの義父の顔は全て消えていた。

 「マルヤマ…お前が義父に無理矢理フュージョンされた事実は俺がこの世界から消した…」

 男性への恐怖と憎しみから解放されたマルヤマの顔をしたアンノウンは満面の笑みを浮かべて直射日光を受けたアイスクリームのように溶けていく。

 クソガキの血液と便と新世界の神、断罪王の吐しゃ物に塗れた俺のふるさと埼玉県さいたま市をアイスクリームのように溶けていくマルヤマアンノウンの肉体が全ての汚れを浄化する様に真っ白に染め上げていく。

 俺は断罪王の背中に生やした断罪ウイングで飛翔して茨城県つくば市を目指す。


 第二話 自分達の国に自殺者が出ていることを知りながらも、なぜ人びとは子作りをやめることができないのか?自分たちの子供がその自殺者の中の一人になってしまう可能性があると、なぜ想像できないのか?そもそも自殺者の出るような世界に生まれてくることを望む子供がいったいどこにいるというのか?


終末黙示録とリンクした俺はあることに気づいてしまった。

 俺が断罪王に覚醒したあの日、ついうっかりぺしゃんこにしてしまった我が家に俺の父親である自称冷静沈着の石川タカユキは不在だった。

 そう、石川タカユキは俺が断罪王に覚醒する前に中国人の若い愛人キンカイとホテルでフュージョンしていたのだ。

 そして終末黙示録によれば今、石川タカユキは俺の母の死を確認してわずか五秒で中国人で愛人のキンカイと再婚していたのだ。

 俺は自らの足で踏み殺した母さんの無念を晴らすためにマルヤマの操縦する銀装天使シェムハザを破壊した後に石川タカユキとキンカイの住居があると思われる茨城県つくば市に断罪ウイングで超速移動した。

 俺は復讐をより面白かっこよくするために一度、変神を解いて人間体に戻った。

「ここが石川タカユキの家か…」

 石川タカユキがキンカイと共に第二の人生を始めるにあたって新築した二千万円のNEWホームの標識にはアルファベット大文字でISHIKAWAと書かれていた。

 「日本人の癖に表札に英語なんて使ってんじゃねぇよッ!死ねッ!バ―カァッ死ねぇーッ!」

全裸の俺は世界最高民族日本国の国民でありながら表札に我が国、日本に原爆を投下した米国がこの国に広めたアルファベットを使用している志の低いわが父に向けて呪詛を吐きながらインターホンに正拳突きをぶちかましてやった。

 新世界の神であるこの俺の正拳突き・断罪拳を正面から授かることに成功したその宇宙一運のいいインターホンからは二十二年も生きていれば聞き飽きるであろう音を発して二秒もかからずに一瞬スパークを見せた後にすぐに爆散した。

 インターホンの音と外から聞こえたまるで血のつながりなどないかのような俺の呪詛とインターホンの爆砕音に気付いたキンカイが玄関のドアを開けて出てきた。

「石川マサヒロ…?」

 玄関から出てきた若い女、二十代の若い女は小首をかしげて全裸状態の現存神の名をつぶやいた。どう考えても五十代の石川タカユキと二十代のキンカイが付き合い結婚できるのはおかしい。

 この二人の間にあるのが愛ではなく金と肉欲と虚偽に塗れた薄汚いビジネスライクな関係であるのは神に選ばれたこの世界最高民族である我が日本人の全人口約一億人が一億人見ればわかるであろう。 

 俺はまるで俺のことを異界から来た不審者のような視線で凝視しながら首を傾げているキンカイの顔を凝視し返しながらノールックでアルファベットでISHIKAWAと書かれた表札を外壁から剥ぎ取り、膝で真っ二つにして窓ガラスに向かって両手でぶん投げた。

 神の膝によって真っ二つにされたアルファベットの表札、ISHIを一階の窓に、KAWAを2階の窓に向かってぶん投げる。

 自ら世界最高民族日本国民であることを否定する様なデザインの標札が直撃したガラス窓二枚が割れる耳触りのいいデュオが俺の鼓膜を満たしてすぐに窓から石川タカユキと見たことがないクソガキの顔が現れた。

 石川タカユキと見覚えのない未確認クソガキのまるで異界の魔獣の肛門から出たばかりの汚物を見るような失礼極まりない視線に俺は魂のシャウトを上げる。

 「おい何神を見下したような目で神を見てんだこのクソガキとエロジジイッ!」

 新世界の神である石川マサヒロ二十二歳無職童貞の魂のシャウトをあざ笑う低知能な非国民共の失礼極まりない不敬罪な視線に対して俺は奴らの家族の一員であるキンカイの首を両手で絞めることで反撃してやった。

 「おい!このクソバカ女に死なれたくなかったら俺の質問に今すぐ嘘偽りなく答えるんだ!まず一問!デーデッ!おいそこの未確認クソガキ!てめぇはいったい誰だ?1!2!3!は~い残念ッ!俺はたった今、終末黙示録とリンクしてその答えにただどりついてしまいましたぁ~ッ!おめぇの名前はカズキ9歳キンカイの前の交際相手との間にできた子供ッ!しかし!かくかくしかじかでキンカイと交際相手は破局。作るもんだけ作ってペットの餌も買えないほぼ無一文のてめぇの母ちゃんキンカイはてめぇの学費のために俺の親父とズッコンバッコン!ということで俺の質問に3秒以内に応えられなかった罰としてキンカイは死刑!異論は認めねえっ!ソイヤッソイヤッソイヤッソイヤッ!ハァッ!」

 新世界の神である石川マサヒロ二十二歳無職の両手が小学校の帰りのホームルームの前にある掃除の時間の水に濡らした雑巾を絞る様にキンカイの首を両手でねじり上げるとキンカイは目に涙、口からは中国語で呪いの言葉を吐きながらその短い人生を終えた。

 大切な家族を己の無知と無礼が原因で失ったカズキと石川タカユキは涙と鼻水を出して泣いていた、俺も終末黙示録から流れてきた俺と母親の目を盗んで行われていた疑似家族3人の心温まるエピソードについ庭に植えられているハナミズキを見ながらもらい泣きしてしまった。

 「お前は一体誰なんだ!どうして石川タカユキじゃなくて僕のママを殺したんだ!」

 割れた窓ガラスから自らの母親の理不尽な死を嘆くカズキ。

 カズキの言葉に含まれた毒に、涙と鼻水塗れの石川タカユキの表情が一瞬固まった。

 そりゃそうだ。

 カズキにしてみればキンカイは自分の学費のためにエロジジイである石川タカユキに体を売っていたのだ。

 そして見事キンカイの色仕掛けに騙された石川タカユキは二千万の家を買わされてからキンカイに前の交際相手との間にできた子供、カズキがいたことを知らされる。

 自らの学費のためにエロジジイと嫌々生活している誇り高き中国人であるキンカイはカズキにしてみれば素晴らしい母親であることに違いはない。が、しかしだ!

 「新世界の神である俺が馬鹿を殺して何が悪い!いいか!てめぇのママはイカれた馬鹿野郎だ!大した金もないくせにガキなんか作りやがって!よく考えろ!ペットの餌買う金もないのにペット飼う馬鹿がどこにいるんだぁ?おい!しかしびっくり実際いるんだよなぁ~そういう馬鹿な飼い主がよぉ~っ!どこのどいつか教えてやろうかぁ!てめぇの母親じゃあボケェッ!クソ馬鹿死ねボケェッ!ヒャッハー!」

「あ?えおえおえおえおええおえおえ…」

 俺の目の前では先ほど殺したはずのキンカイが奇怪な呪詛を吐きながら立ちあがり始め、その両手両足はコキコキと音を鳴らしながら本来向いてはいけない方向へと曲がる。

 「ちっ…始まりやがった…」

 「お…おかあさんが生き返ったよ…や、やった…」

 「カズキ…あれはお母さんじゃない…あれはおそらく…」

 「そうだ…てめぇの母親は死んだ!新世界の神であるこの俺の手でな…さあ…始まるぞ…世界の破壊者アンノウンへの進化がなぁ!」

 「イオイオイオイオイオイオイオイオーン」

 肥大化したキンカイの肉体は人の形を失いサンゴ礁のようなカラフルなアンノウンへと進化した。

 そしてサンゴ礁から放出された黄色い粒子が近隣住民やつくば市内の野良ネコ野良犬ホームレスを人面恐竜型のアンノウンに次々と進化させてしまう。

 「ククク…これは面白い…」

 「おい、石川マサヒロ…お、俺はまだ死にたくない…た、たのむ断罪王の力で俺だけでも助けてくれないか?」

 まるでカズキなどはじめから存在していないかのように命乞いをしてくる石川タカユキに不快感を感じた俺の人差し指が無意識のうちに石川タカユキの右目を貫いていた。

 「うぐあああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 「いいだろう…お前には色々と聞きたいことがあるからな…」

 俺は終末黙示録から得た知識を使い、人間のまま空間に異次元へと繋がる穴を両手で開けた。

俺は右人差し指で石川タカユキの右目を串刺しにしたまま、異次元に放り込んだ。

 そして石川タカユキに続いて異次元へと侵入しようとする俺のあとに続いてカズキもついてきた。

 「なぁ冷静沈着の石川タカユキちゃんよぉ…お前どうして俺を作ったんだ…」

 「め…目がぁぁぁぁぁぁぁッ!痛い痛い痛い痛いーッ!フミコママッー助けてぇーッ!」

 「俺の質問にとっとと答えろ!じゃないと左目もぶっ潰すぞぉコラッ!」

 石川タカユキを罵倒する俺の横でカズキは巨大なサンゴ礁になり、つくば市内のありとあらゆる生命体を人面恐竜に進化させている母親の姿を俺が異次元にわざわざ創造してやったテレビを通して見ていた。

 やさしい。

 「どうだ!自分の母親が世界を終わらせようとしている、この光景を!見てて苦しいだろ?」

 俺の挑発にカズキは何も答えない。

 ただ黙々と異次元内に俺が作ってやったテレビの画面を見て沈黙しているだけだ。

 「けっ…母親が化けものになって気でも狂ったか…おい!石川タカユキ!どうして俺を作ったんだ!教えろ!」

 俺は右目から滝のように血を流す石川タカユキの顔を何度も踏みつける。

 「俺はもう終末黙示録を通して全部知ってるんだぞ!お前には兄ノブタカがいた。一家の長男だった兄ノブタカはお前の母親フミコと父親ケンタロウの期待を一身受けて受験勉強にのめり込み最終的には夜中に自室のラジカセから洋楽を大音量で流しながら木刀を振り回す気狂いになってしまった。

 そしてその半面、両親であるフミコとケンタロウから特に何の期待もされていなかったノブタカの弟、石川タカユキは両親への愛に飢えていた。そして両親への愛に飢えていたお前は俺の母親や愛人たちに自分の母親の影を投影してフュージョンを繰り返すことでそのマザーコンプレックスと体内回帰願望を満たそうとした。

 そして光のある場所に闇が生まれるのと同じで俺はお前のマザーコンプレックスと体内回帰願望を満たす課程で俺の母親の体内に宿った。

 しかしだ!俺は別に誰に作ってくれとも産んでくれとも望んでもいない!頼んでもいない!なのに!母親、父親の子どもが欲しいという人の命の重さと尊厳を無視した極限に無神経な自己満足欲求を満たしたいがためにこの糞みたいな世の中に俺は!産み落とされた!

 その糞みたいな世の中で死の恐怖に怯えながら生きていかなくてはならない地獄の日々を強制されたッ!父は自分の性的欲求を満たすため、だそれだけのために、そして母は母性欲求を満たすただそれだけのために本来何の罪もない俺はこの地獄で生きていかなくてはならなくなった。

 だから俺は自分達の邪〈よこしま〉な願いを成就させるためだけに俺を作ったお前ら両親が許せない!なのにお前たち両親はその地獄みたいな現代社会に適応できず自宅に引きこもる俺をまるで人間の出来損ないであるかのように侮辱した!

 自分たちの身勝手な欲求を満たすためだけに俺を作ったくせに、このイカれた現代社会という地獄を無理矢理俺に押し付けたくせに、あたかもフュージョンしてやった、産んでやった、育ててやったことに感謝しろと恩着せがましく説教をしてきた!

 そして石川タカユキ!お前は俺をさんざん馬鹿にしておいて、裏で若い女キンカイと不倫の限りを尽くしていた!俺はお前が憎い!どうしてよりによってお前達みたいな失敗作から誕生してしまったのだろうか?俺には!子供には!これから生まれてくる命には!一体こんな地獄を体験する義務が本当にあるのだろうか?死ね」 

 「マサヒロ、それが自然の摂理なんだよ…それがこの現代社会の常識なんだよ。この社会は大多数の価値観を受け入れることができない人間は必ず不幸になるように出来ている。だからみんな大多数の価値観に疑問を抱きつつも自分が幸福に生きるために仕方なく大多数の価値観に魂を蝕まれることを受け入れる。石川マサヒロよ、お前が何度、断罪王で地球上のあらゆる命を滅ぼそうと地球はまた何度も新しい命を創造するだろう。そこには倫理も道徳もなくあらゆる生命が自然の摂理に基づいて生殖行為を行い続ける。つまり不倫フュージョンは自然の摂理だ。お前に言っていることはただの子供の屁理屈だ。お前が新世界の神なら時間なんて簡単に巻き戻せるのだろう?なら、今すぐ愛する妻、キンカイを世界をすべてを元通りにしておくれ!」

 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇッ!わかった…終末黙示録を見た俺はお前の言う通り新世界の神だ。時間を巻き戻すなんてお茶の子さいさいだ。でも一つ条件がある。石川タカユキ!お前がカズキと殺し合うことだ!」

 「お、おかしな話だ…い、いったいどういうつもりなんだ!時間を巻き戻してくれるならわざわざ殺し合う必要はないだろ?」 

 あのなぁ…貴様ごときただの現代人類の願いを新世界の神であるこの俺が聞き入れること自体がまずおかしな話なんだよ!わかるか?とにかく意味があるとかないとかじゃねぇんだよ!いいからとっとと殺し合えやぁ!愛するキンカイを生き返らせたいんだろう?このエロ糞ジジイ!ホイッ!早くする」 

 「カズキ、さっきの話聞いていただろう?悪いが俺はたとえ時間が巻き戻ることがわかっていても死ぬのは痛いし怖いし嫌なんだよ!お前の母さんのために一度俺に殺されてくれぇ!」        

 石川タカユキの両手がカズキの首に回されようとする。

 石川タカユキの接近に気づいたカズキは正面から石川タカユキの頬を右手でぶん殴った。

 き…貴様ぁ!血は繋がらずとも、育て親に向かって拳を振るうなど、この身の程知らずが!いったい誰の金で学校に通えると思ってるんだ!おとなしく俺に殺されればお前の母親も平和な生活ももとに戻るんだぞ!」

 「うるせぇエロジジイッ!俺はママにもおめぇみたいなエロジジイにも学校に行きたいなんて頼んでないよ!学校なんかにいくより俺は家でずっとゲームしていたんだ!」

 「なにをバカげたことを言ってるんだ!学校にいかなきゃ、お前はこの社会では生きていけない!学校に行かないということはこの社会では生きる権利がないのと同じなんだ!」

 「じゃあ聞くけど、四捨五入!みはじ!方程式!平方根!歴史人物の名前が社会に出て一体何の役に立つんだ!いつどの場面で役に立つというんだ!勉強は学校の先生になりたい奴だけすればいいんだ!俺は勉強が大嫌いだ!自分の好きなことだけずっとできればそれで満足なんだ!エロジジイはパソコン見ながら自分の右手でチンコシコってればそれでいいんだ!」 

 「貴様ァッ!こっちはもともと好きでお前の面倒を見ているわけじゃないんだぞ!俺はお前の母親に騙されたんだ!お前の母親キンカイは最初、子供はいないと言っていたんだ!それがどうだ、婚姻届けに判を押してお前の母親のために二千万もする家を買ってやったとたんに実は子供がいると言ってきやがった!だからあえて俺はお前を人質にとってやったのさ、お前の母親に俺の言うこと全てを聞かなければカズキの面倒も学費も払わないと言ってな!」

 「そもそもお前みたいなエロジジイに俺のママみたいな若い女が金目当ての目的以外に近づくわけがないんだ!お前はただのエロバカジジイだ!」

 「うるせぇクソガキ!俺はこう見えても会社では冷静沈着の石川さんって言われてるんだよ!俺は馬鹿じゃねぇッ!」

 「若い女の色仕掛けに騙されて二千万の家買わされてるエロジジイの一体どこが冷静沈着なんだ!いいからエロジジイは死ね」 

 「くくく…それにしてもお前の母ちゃんの体はとても産経婦とは思えないほどなかなか味わい深かったぜぇ…」

 「貴様ァァァァァァァッ!俺のママを侮辱するなァーッ!」 

 「うるせぇ!ガキがいるくせに金目当てに俺に近づいてきたお前の母ちゃんのほうがよっぽど俺のことを侮辱してるぜ!とっとと中国に帰れこのクソガキ!ロクな貯金もなしに作られ産まれたおめえは所詮誰にも望まれてねぇ命なんだよ!」

 石川タカユキの両手が異次元を駆け回るカズキの首を捕らえ締め上げる。

 そしてカズキは石川マサヒロが窓ガラスを割った時にたまたまズボンのポケットに入ってしまった窓ガラスの破片を右手で取り出して石川タカユキの喉を切り裂いた。

 石川タカユキの首からまるで噴水のように血液が飛びだし新世界の神であるこの俺が作りだした異次元の床を汚した。

 「い、いやだ…このあと時間が巻き戻ることがわかっていても俺は死にたくない!フミコママ助けてぇぇぇぇぇッ!」

 「おい!石川マサヒロ二十二歳無職童貞!お前の言う通りに石川タカユキを殺したぞ!だから時間を巻き戻してママとつくば市を元通りにしてくれ!」

 「ダメだ」

 「え?」

 「俺は最初から時間を巻き戻す約束を守るつもりはなかった。俺はただお前と石川タカユキが本音をぶつけあって殺し合うのを見たかっただけだ。カズキ…お前はもう用済みだ…死ねバーカ死ねぇぇぇッ!バーカ!死ねぇぇぇぇッ!」

 神世界の神である俺の念力によってカズキの体は粉々になった。

 「でも…なかなか面白かったぜ…お前たちの限界バトル」


第三話 命とは死に至る病である!自分が死ぬのが嫌で子供にも死んでほしくないのであれば最初から子供なんか作るんじゃねぇよ!バカ野郎!子供だって最終的には死の恐怖に怯え苦しみながら死んでいくんだぜ!自らの欲望を満たすために罪なき命に死を伝染させる子作りは人殺しと同じなんだよ!


俺が異次元からつくば市上空に出ると、つくば市ではキンカイが進化した巨大なサンゴ礁型のアンノウンを中心にして無数の人面恐竜と銀装天使数機の死闘が繰り広げられていた。その光景はまさに地獄絵図と言っても過言ではない。

 つくば市上空を全裸のまま浮遊していた俺の背後にはいつの間にか超絶美少女のメシアが立っていた。

 「これで両親を二人とも殺してしまった断罪王石川マサヒロに帰る場所はなくなった。つくば市内は放っておけば銀装天使とアンノウンとの戦いで勝手に崩壊すると思いますがどうなさいますか?」

 「愚問だな、銀装天使だろうがアンノウンだろうがそこ命がある限り俺が全て断罪してやる!」 

 俺は全裸のまま、つくば市上空から付近の公園に着地して断罪王召喚の雄叫びを上げる。

 「シンゴォォォォォォォォォォォォォッ!」

 次の瞬間、俺は地球にあまねく全ての命を闇に葬り去る完全無敵の究極神・断罪王に変神していた。 

 戦場と化したつくば市内に突如出現した断罪王に市内で暴れ回る無数の人面恐竜型アンノウンと戦っていた銀装天使バササエルのパイロット、オオヤマはすぐに他の銀装天使たちに断罪王の出現を報告した。

 「こちらバササエル!つくば市内にシェムハザを撃墜したヤツが出現した!誰かこっちに加勢してくれ」

 しかし、その瞬間にはもう断罪王の断罪剣が背後からバササエルを真っ二つにしていた。   

 「あえて仲間を呼ぶ必要はないぜ!どのみち全員この俺、断罪王の方から闇に葬り去ってやるんだからな…」

 「こちらオオヤマ…シェムハザを撃墜した奴の名は断罪王…」

 爆散したバササエルの破片がつくば市内のあちこちに突き刺さる。

 そして上空からダネル・アラキバ・ベガの三体の銀装天使が断罪王を円で囲む様に舞い降りてくる。

 「こいつかシェムハザとバササエルを撃墜した断罪王…」

 ダネルのパイロットである美少女保育士ヨウコはダネルの背部双翼に搭載された無数の天使の羽根の形をした斬撃兵器を全て断罪王に向けて射出した。

 「目的は不明だけど銀装天使を使う私たち至高天に喧嘩を売るってことは人類の敵だ!みんな油断するな!」

 アラキバのパイロットである美少女ОLサナエはアラキバの全身に搭載された全ミサイルを断罪王に向けて射出した。

 「そんなこと言われなくてもわかってる。録画したアニメ見たいからとっと終らせてあげる…」

 ベガのパイロットである美少女腐女子ユーコはベガの両手に搭載された大型バスターライフルを最大出力で断罪王に向けて発射した。 

 3人の美少女が操縦する銀装天使三体から無数の羽根型斬撃兵器にミサイルに二本の極太ビームが一斉に断罪王に向けて発射される。

 「無駄だぁ!断罪フラァァァッシュ!」

                *

 目が覚めた俺の顔をベガのパイロットである美少女腐女子のユーコが覗き込んでいた。

 「あ、お義兄ちゃんやっと起きた!早く起きないと学校遅刻しちゃうよ」

 「なんだここは…?」

 周りを見渡す限り、ここは誰かの子供部屋に違いない。

 見たことろベットがもう一つあるので俺はこの部屋を血のつながらない妹であるユーコと共同で使用している可能性が高い。

 血のつながらない妹、ユーコと手をつないで一階に降りるとダネルのパイロットである美少女保育士のヨウコがエプロンを着用してキッチンで朝ごはんを作っていた。

 「あらマサヒロ君おはよう。昨日の夜は上がだいぶ騒がしかったけど大丈夫?」

 「ちょっとヨウコお姉ちゃん!変な言い方しないでくれる?サナエお姉ちゃんに誤解されちゃうでしょ?」

 美少女保育士のヨウコの言葉にユーコは俺とつないだままの手をぶんぶん上下に振り回しながら頬を赤らめて必死に反論する。

 「ま、マサヒロとユーコは血がつながってないからね~そんなに恥ずかしがることはないんじゃないか?」

 スーツ姿のアラキバのパイロットである美少女OLのサナエがタバコ片手にユーコに話しかけた。

 「もうサナエお姉ちゃんもへんなこと言ってからかわないでよぉ~」

 ユーコはそう言いつつも先程よりも俺の手を握る力を強くした。

 思い出した…!

 俺は昨日の夜…血のつながらない妹であるユーコが俺の脱ぎたての下着の匂いを嗅ぎながら自家発電をしていた場面に遭遇してそのままいきおいで…。

 俺は急に気まずくなったのでとりあえずユーコとつないでいた手を離して洗面所に行くことにした。

 「ほら、ヨウコお姉ちゃんとサナエお姉ちゃんがからかうからお義兄ちゃん照れてどっか行っちゃったじゃん!」

 洗面所で顔を洗い終え、だれもいない廊下に出るとユーコと再会してしまった。

 「昨日のことは二人だけの秘密だよ」

  ユーコは頬を赤らめて恥ずかしそうにそう俺に向かって小声でつぶやくと速足で洗面所に入ってしまった。

 義母のヨウコと義姉のサナエと義妹のユーコと共に朝食を摂り終えると高校の制服に着替えた俺はそのままユーコと一緒に家を出た。

 「お義兄ちゃん高校卒業したらどうするの?」

 「え?う~ん、俺はまだなにも決めてないけど…」

 「だめだよそれじゃあ、今のうちに自分のやりたいこと決めておかないと大人になったあと色々大変なんだから!」

 「そういうお前は高校を卒業したらいったい何になるつもりなんだ?」

 「私はもちろんお義兄ちゃんのお嫁さんかな♪」

 「お、お嫁さん?」

 ユーコの問題発言に驚愕した俺の腹部にユーコは思いっきり正拳突きをぶち込んできた。

 「な~んてね!冗談に決まってるでしょ!それじゃ、私、先に学校行ってるね!」

 ユーコはそう言い終えるとすぐに全力疾走でミニスカートをなびかせながら学校に向かって走って行ってしまった。

 その際にスカートの奥からミントグリーンのショーツが一瞬見えてしまったのは内緒だ。

 いったい誰に。

 「これだから素人は…あれはね~わざと見せてんだよ、わ・ざ・と!」

 背後から通勤途中のサナエ義姉さんがOLの制服姿のまま話しかけてきた。   

 「うわっ、びっくりした!サナエ義姉さん…急に驚かせないでくださいよ!」

 「あの日…あんたがあんたの父親、タケヒコからユーコを助けてからユーコも私たちも本来背負わなくてもいいものを背負うことになってしまった…。ちゃんと責任とってやりな…」

 あの日…?思い出した…っ!

 俺はヨウコ義母さんと再婚した自分の父親、タケヒコがユーコにいたずらをしようとするのを阻止するためにタケヒコを金属バットでぶん殴って殺してしまったんだった!

 そしてそれを知ったユーコとヨウコとサナエはタケヒコの死体をバラバラにして冷凍庫に閉まった…そうだ…俺達家族は自分たちの生活を守るためにタケヒコ殺害を誰にも知られるわけにはいかないんだ。

 「おい…マサヒロ…急に頭なんか抑えてどうしたんだ?具合でも悪いのかい?」

 そりゃそうだ。タケヒコの死体…つまり人間の体をバラバラにしている最中の光景なんて思い出して体調を崩さない奴のほうがどうかしている。


 そして目を開けると自室の天井が俺の視界全体に広がっていた。

 上体を上げるとすぐに俺を看病してくれていたヨウコさんが慌ててこっちに駆け寄ってきた

 「あら、やっと目が覚めたのね!急に道端で倒れちゃったってサナエちゃんから電話があって急いで二人で家まで連れ戻したのよ」

 「すいません…なんだか急に気分が悪くなって…」

 「いいのよ別に無理しなくて…あんなことがあったんだから…まだ心の整理がつかなくて当然よ…」

 そう言ってヨウコさんはいきなり自分の唇を俺の唇に重ねてきた。  

 「ヨウコ…さん?」

 「ユーコをあの人から助けてくれたお礼よ…安心して…まだあの二人が返ってくるにはまだ充分時間があるわ」

 俺はそのままヨウコさんにされるがままだった。

 誰にも言えない秘密がまた一つ増えてしまった。


 シャワーを浴びた俺はこれが悪夢であることを確かめるためにキッチンの奥にある冷蔵庫の二段目にある冷凍庫をゆっくりと開けてみた。

 やはりそこには想像通りのものが六等分されてクレラップに包まれて置いてあった。

 気が付くと背後からシャワーを浴び終えたヨウコさんがバスタオルを一枚体に巻いたままの状態で立っていて、ゆっくりと冷凍庫を閉めてしまう。

 「だめよあんまり深く考えちゃ…ダメになりそうな時はまた今日みたいに慰めてあげる…」

 俺に耳元でそう呟いたヨウコさんはそのボリューミーな体格の割には静かな足跡で俺から離れて行ってしまった。

 もう朝なんてこなければいいと思った。

 誰にも言えない悩みがあることがこんなにつらいとは正直思わなかった。


 次の日、学校に登校すると朝のホームルームで転校生の紹介があった。

 転校生の少女の名前はメシア。

 メシアの容姿を日本語で表現するとずばり美少女である。そんな美少女メシアの席は俺の隣で、メシアは俺の目も見ずにいきなり小声でそっと呟く。

「あなたには誰にも言えない秘密がありますね…六つのタケヒコ…三人の魔女…」

 なぜメシアが俺の悩みを知っているのだろうか?

 俺の心は足元が崩れそうになる恐怖とやっと自分の悩みを他人に相談できそうな期待感の両方を感じていた。

   放課後、俺の携帯にメシアからメールが来ていた。俺はメシアにメールアドレスを教えたことは一度もないというのに。

 その疑問を解明するためにも俺はメシアからのメールの内容通りに屋上に向かう。

 頭上に茜色の空が広がっている。

 放課後の屋上のフェンス越しにはメシアが立っていた。

 「ごめん…待たせたね。それで話って何?」

 「話があるのはマサヒロ君の方では?」

 「そうだ!メシアはなぜ俺のメールアドレスを知っているんだい?」   

 「メールアドレス?ああ…そういうことですか…正確に言えばメールアドレスではなく終末黙示録と言った方が正しいですね」

 「終末黙示録?」

 「そうです、終末黙示録。私は終末黙示録というこの世界の始まりと終わりが記された本の全ての情報と一つになりマサヒロ君の携帯にメールしました。どうやら…本当に全てを忘れてしまったようですね…」

 「忘れてしまった?終末黙示録?君はさっきから一体何を言っているんだい?」

 「とにかく、それ以外に私がマサヒロのメールアドレスを知る方法がありますか?」

 確かに今日この高校に転校してきたばかりのメシアが俺のメールアドレスを知る方法は信じたくないけれど、終末黙示録とやら以外考えられない。

 「マサヒロは今は悩みを抱えていてる。血のつながらない妹を守る為とはいえ、自分の父親タケヒコを殺してしまった罪悪感。そして自分の犯した過ちのせいで血のつながらない妹とその血縁者達を証拠隠滅に巻き込んでしまったこと。そしてその者たちと体の関係をもってしまったこと…」

 「君はいったい何者なんだ?ボクを脅してお金もうけでもするつもりかい?」

 「私の名はメシア…その名の通り救世主です。間違った種から地球の平和を守る断罪王を導く者…」

 「断罪王…?」

 激しい頭痛と同時に俺の目の前は真っ暗になる。


 気がつけば今度は風呂に入っていた。風呂の湯には使い終えたと思われるピンク色の使用済みの風船が五つ浮いていた。

 「お母さんから聞いてたけど、キミって案外すごいんだね」 

  サナエ義姉さんがシャワーで体を洗いながら使用済みの風船が五つ浮かぶ湯につかる俺に向けて言う。 

 「ええ…まぁ…でも…どうして…」

 「どうして?細かいことはいいのよ、とりあえず嫌なことがあったら気持ちいいことして全部忘れちゃえばいいのよ」

 「そうだ…気持ちいことして全部忘れてしまえば…でもサナエ義姉さん…父さんは…いや、タケヒコはあの時…自分が気持ちよくなるためにユーコを…ユーコを…」

 「浮気者!」

 気付けば浴室には右手に包丁を持ったパジャマ姿のユーコが入ってきていた。

 「ユーコ…えっとこれは…」   

 「サナエお姉ちゃん言い訳しても無駄だよ…声、上までちゃんと聞こえてたんだから…というかお風呂に浮かんでるソレでバレバレだし…なによ私の時よりも使った数、多いじゃない!お義兄ちゃん!」

 「は…はい!」 

 「お仕置き…だね…」

 次の瞬間、俺は下腹部に強い痛みを感じると同時に風呂の湯が真っ赤に染まった。

 「ユーコ!よしなさい!」

 サナエの静止もむなしくユーコは包丁で俺の身体のあらゆる部位を切り裂いていく。

 「お義兄ちゃんが悪いんだからね…お義兄ちゃんがタケヒコを殺したせいでこうして人肉をバラバラするの癖になっちゃったんだから!」

 泣きながら笑って俺を包丁で切り裂くユーコ。そして風呂の鏡を見ると、なぜかそこにはいないはずのメシアが鏡の中で何か俺に向かってなにか喋っている。

 「シ…ン…ゴ…」

 「ちょっとユーコちゃん!なにやってるの!そんなことしたらマサヒロ君死んじゃうわよ!」騒ぎに駆け付けてきたヨウコさんが包丁で俺を切り裂くユーコを俺から引き離そうとする。 

 サナエ義姉さんは浴室で尻もちをついたまま失禁してしまっていた。

 そして俺はメシアに言われた通りに叫ぶ。

 「シンゴォォォォォォォォッ!」

 次の瞬間、浴室内の鏡をぶち破って出てきた断罪王の巨大な手が俺の体を掴んだ。

                * 

 気がつけば俺の目の前には巨大サンゴ礁、あの後妻業もどきのキンカイが進化したサンゴ礁型のアンノウンが放出する粒子が原因で炎の海と化したつくば市が広がっていた。

 「なるほど…さっきの幻覚が貴様ら三人の過去ということか…ククク…銀装天使とは名ばかりに義父に義兄、人を二人も殺めているとはな…貴様らに殺されたマサヒロと俺の名前がたまたま一致していたせいで殺された方の石川マサヒロの過去を追体験させられてしまっていたようだな…なかなか刺激的で強烈なビジョンだったぜ!」

 メシアが殺されてしまったほうのマサヒロの通っていた高校の転校生としてあの三人の過去に干渉してくれなかったら俺は自らの放った相手の過去に干渉する断罪フラッシュにより魂の抜け殻になっていたかもしれない。

 断罪王と化した俺の目の前には断罪王に向かって一斉攻撃するダネル・アラキバ・ベガの三体の銀装天使がまるで時間を止めたように静止していた。

 しかし、時間を止めようと止めまいと断罪王には意味のないことだ。

 俺は時間停止を解いた。

 俺に、断罪王に向けて無数のミサイルやビームが直撃した。しかし断罪王に直撃したミサイルもビームも断罪王の体に吸収されてしまう。

 「そんな…攻撃が吸収された…一体何がどうなってるんだ」

 ダネルのパイロットであるヨウコが断罪王の力に驚愕している隙に俺は超高速移動でダネルを背後から断罪王で抱きしめた。

 「サナエお姉ちゃん!ヨウコお姉ちゃんが捕まっちゃった!」

 「言われなくてもわかってる!」

 サナエはアラキバを高速移動させてダネルを抱きしめている断罪王の背後に超至近距離で無数のミサイルを一斉発射させた。

 しかしアラキバの放ったミサイルは全て断罪王の背中に溶けていくように吸収されてしまった。

 そして断罪王の背部装甲がドアが開くように縦に解放されると無数の触手がダネルとアラキバを捕らえ、コックピットを突きやぶってヨウコとサナエに接近してきた。

 「ちょっとあんたお姉ちゃん達に一体何する気?」

 ユーコは断罪王の背部装甲が開いている部分、無数の触手が放出している部分にほぼゼロ距離でベガの大型バスターライフルを最大出力で発射しようとした。

 しかし断罪王の背部から放出される無数の触手はベガの大型バスターライフルそのものを貫き爆砕すると、そのままベガのコックピット内に侵入してしまう。

 ダネル・アラキバ・ベガ、地球の平和を守るために結成された至高天に属す三体の正義のスーパーロボットのパイロット達は断罪王の触手に捕らえられ、その触手がパイロットスーツを破ってパイロットスーツの内側からヨウコ、サナエ、ユーコの体内に侵入してしまった。

 「ちょっと何よコレ…ダメ!変なところ触らないでっ!」

 ヨウコはパイロットスーツの内側から侵入してきた断罪王の触手の感触に不快感とどこか懐かしい高揚感を覚える。

 アラキバに侵入してきた断罪王の触手はサナエの全身をパイロットスーツの内側から捕らえ支配する。

 そして一本の触手がサナエの目の前で動きを止め、その形を変えていく。

 「う…嘘でしょ…」

 一方、ユーコの搭乗するベガのコックピット内でもアラキバのコックピット内で行われているのと同じ現象が起きていた。

 「ダメ!お願い…お願いだから…それだけはやめて!」

 サナエと時と同じくユーコの目の前で一本の触手が形を変えていく。

 真っ赤なお風呂、サナエの失禁、ヨウコの悲鳴。 

 そう、触手はユーコに快感と絶望の両方を与えた忘れたくても忘れられないあるものに変形していく。 

 それがこの世からなくばればそれこそ人類は滅んでしまうに違いない神聖な槍に。

 「ソーセージ…」 

                *

 ユーコがそうつぶやいた次の瞬間、ユーコは自分が殺した義兄が立っている白い部屋の中にいた。ユーコも義兄も全裸だった。

 「久しぶりだねユーコ」

 「久しぶりお義兄ちゃん…私っ!」

 「そうだ、ユーコは人殺しだ。人殺しの癖に至高天に入って銀装天使を操縦してアンノウンから人類の平和を守ってる。ユーコは人殺しの癖に自分のことを正義の味方だと思ってる頭のおかしい腐女子。ユーコは卑怯者だよ、俺のことを殺したくせに、正義の味方面して何にもなかったかのように今も生活している」

 「なによ!悪いのは浮気したお義兄ちゃんでしょ!確かにお義兄ちゃんは私がタケヒコに変なことされそうになったとき助けてくれた、殺してくれた!その時からお義兄ちゃんはわたしの中で白馬の王子様になった。そしてそれと同時に私はお姫様になったの!王子さまはお姫様のことだけを大切にしなきゃいけないの!どんなおとぎ話でもそうよ!でも白馬の王子様であるはずのお義兄ちゃんは私を裏切った!お姫様が寝ている間に他の女と…サナエお姉ちゃんとフュージョンしてた!だからお姫様を裏切った王子さまは死刑にされて当然なのよ!」   

 「サナエさんだけじゃなないよ…ヨウコさんともフュージョンしてたよ」

 義兄の告白を聞いたユーコは正面から憤怒の形相で義兄の首を両手で思いっ切り絞める。

 「サナエさんはユーコより上手だったし…ヨウコさんはゴムなしでもしてくれた…」

 ユーコは義兄の首を絞める手に先ほどよりも力を込めた。それでもユーコに殺されたはずの義兄は薄ら笑いを浮かべて笑っている。

 「どうしてよ…どうして死なないのよ!」 

 「俺が死んで君はスッキリしたのかい?」

 「するわけないでしょ!大好きなお義兄ちゃんを殺してバラバラにしてから私は何度も泣いた、泣いて泣いて泣いてお義兄ちゃんの代わりの人を見つけては何度もフュージョンした。でも私の心にお義兄ちゃんは戻ってこなかった。死んだ人間は生き返らないんだってことがよくわかった。だから私は教祖様に全てを捧げて至高天に入った。そして人類のために銀装天使でアンノウンと戦うことを決意した」

 「でも無駄だよ、ユーコみたいな人殺しのクズには誰にも救えない。ほら、現に今もこうしてユーコは俺をもう一度殺そうとしている」

 コキという音と同時にユーコに首を絞められていた義兄は白目をむいてしまった。

 「お…お義兄ちゃん…また…死んじゃったの…?」

 義兄の死を悟ったユーコは義兄の首から手を離す。義兄の体はなんの抵抗もなく地面に仰向けのまま倒れた。

 「俺はユーコのことが好きだった…」 

 義兄の死体がいきなり話し始めた。

 「俺はユーコのことが好きだった。ユーコを守るためなら世間から人殺し扱いされても構わないと思った。だから俺は血のつながらない妹の命を守るために血のつながっている父親を、タケヒコを殺した」

 「結局、俺もユーコも人殺した。人間のクズだ…」

 「なにが…言いたいのよ…」

 地面にしゃがみ込んだユーコが何度、義兄の体をゆすっても義兄が目を覚ますことはなかった。ユーコはもう義兄の体をゆするのをやめた。

 「さようならマサヒロお義兄ちゃん…」

 ユーコはまだ自分の体にもう一つの命が宿っていることを知らない。


 「お前…一体何が目的なんだ?」

 ユーコと同じく白い部屋に連れてこられた全裸状態のサナエは同じく全裸状態の石川マサヒロに問いつめた。

 「目的…?そういうあなた達の目的はなんですか?」

 「話にならないな。しかし、これだけはわかる…お前はマサヒロの姿をしているがマサヒロではない!」

 「僕にもわかりますよ、あなた達3人が人を殺して、しかもその死体をバラバラにして冷蔵庫に閉まっちゃうクズだってね…」

 「お前…どうしてそのことを…でも殺したのは私じゃない…」

 「でもバラバラ殺人に加担していたのは事実ですよねぇ~。あなた達はどうして警察に自首せずにこうして銀装天使に乗って正義の味方ごっこができるんですか?いったいどういう神経をしてるんですかねぇ~」

 「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!私は…私達はただ幸せになりたかっただけなんだ!それのどこか悪い!幸せになるために人を殺してバラバラにして冷蔵庫にしまって何が悪い!私たち3人はこうして至高天に志願して銀装天使で人類の脅威と戦うことで自らの罪を償うと決めたんだ!教祖様だって私たちの思想を認めれくれた!」

 「教祖様…ね。サナエ義姉さんがどうして今こんなに苦しんでいるかわかりますか?答えは簡単ですよ、この世界からルール、つまり法律を失くしてしまえばあなた達三人はこんな目に遭わずにすんだ…だってよく考えてください法律がなくなれば義父と俺の殺害に関わったあなた達三人がこうして自ら犯した罪に苦しむこともない」

 「そんなこと今更…言ったところでいったい何がどうなるんだ!ではお前は一体どうやってこの世界から法律をなくすというんだ?」 

 「簡単ですよ、法律ではなく、法律で他人を支配している人類と世界そのものを破壊してしまえばいい。人間のいなくなった世界にはもはや法律は意味をなさない。人類の一部である、あなた達三人も死ねばもう辛い思いをしなくて済みますよ」

 「しかし、それでは人類の一部である、お前も滅びることになるぞ!」

 「今、この空間と状態が果たして人類に作り出せると義姉さんは思いますか?もう、本当は気づいているはずだ。あなたの義弟のふりをしているこの俺が人間を超越した最高神であることを」

 「黙れ!この世で神を名乗っていいのはただ一人、教祖様だけだっ!」

 「我が名は断罪王…俺が神である証拠にたった今、あなたの体の中にちょっとしたプレゼントをしました…」

 断罪王の指摘に対して体になにか違和感を感じたサナエは両手で腹部を抑えた。

 「断罪王…お前一体、私の体になにをした!」

 「サナエ義姉さんだけではありません、ユーコにもヨウコさんにも同じものをプレゼントしました」

 全身を駆け巡る苦痛にサナエは急にしゃがみ込んでしまう。

 「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い…なんだ…何かが体から出ている…産まれる…のか?」

 サナエがしゃがみ込んだ地面は血で真っ赤に染まっている。

 そして全裸姿のサナエは自分の大事なところからもうすでにこの世には存在していないはずの人間の頭が出てきてこっちを向いているのを痛みにより反射的に確認してしまった。

 「タケ…ヒコ…さん」


 一方、断罪王に作り出された異次元空間でユーコとサナエと同じくすでに故人とかしてしまった方のマサヒロのふりをしている断罪王と対峙させられている全裸姿のヨウコは激しい痛みと同時に自分の大事なところから出てきた本来であれば死んでしまったはずの元再婚相手のタケヒコの姿を見て発狂してしまう。 

 発狂しているヨウコをまるで血の海から出てきたように全身ヨウコの血液と体液で塗れた状態のタケヒコはなぜか満面の笑みを浮かべている。 

 「どうして…私の体の中からタケヒコさんが出てくるの…?」 

 「全部ヨウコが悪いんだよ…ヨウコが僕とのフュージョンを拒否し続けるから僕はユーコちゃんとフュージョンするしかなかった。なのに僕は息子に殺されてしまった。どうして僕のお嫁さんなのに僕と一つになるのを拒否したんだい?答えは簡単だ。ヨウコは僕のお金目当てで僕と結婚したんだ。だから僕みたいな見た目の悪い高齢者とはフュージョンしたくなかった。本当は若くて顔のいいマサヒロのような男とフュージョンしたかったんだよね。でもそれはよくないよ、マサヒロと君たち三人の生活を守っているのは僕のお金なんだから…僕の言うことを聞いてくれないのはダメなんだよ…」

 「それで…どうして私の中から出てきたの」

 「僕は君に愛されたかったんだ。だからヨウコがお腹に痛みを感じて産んでくれた僕ならヨウコは愛してくれると思ったんだ…」

 「お願い…こないで!断罪王様…お願い!わたしを助けてください!」

 俺はヨウコの懇願を無視した。

 タケヒコがヨウコ抱きしめる。

 「生まれてくるのは男の子かな?それとも女の子かな?」

 「嫌…やめて!」

 「僕たちの子供の名前、なににしようか?」  

 「お願い!本当にやめて!」


 サナエもヨウコと同じく、タケヒコを出産させられていた。  

 サナエは自ら産んだタケヒコの姿を見て何度も嘔吐していた。

 「ひどいなぁ…人の顔を見て吐いちゃうなんて…そういう礼儀のなっていない子にはお仕置きだね」

 サナエは自分に顔を近づけてくるタケヒコに向かって盛大に嘔吐した。

 しかしタケヒコは顔中サナエの吐しゃ物に汚れてしまっているというのに、そんなことはまるで気にしていないかのようにサナエを正面から抱きしめて押し倒した。

「うーん♪吐瀉物のイタリアンなスメルがたまらんね♪始めようか新しい命の創造を…」

 サナエは目の前が真っ暗になってしまった。

 

 出産後の痛みにまだなれないユーコの目の前にも他の二人同様、全裸姿のタケヒコが立っていた。

「どうして…あんたがいるの…?」

「リベンジフュージョンしに来ました。それにしてもひどいなぁ…ユーコちゃんは、僕の息子を二回も殺すなんて…これじゃあもう、僕に何をされても文句は言えないよね」

 「なによ…!お願い!来ないで!」

 「これでようやくユーコちゃんとフュージョンできる。いやね、本音の部分を言うと前からずっとユーコちゃんのこと狙ってたんだよね。それにきっとマサヒロより僕のほうがずっとユーコちゃんのこと愛してるよ。うん、自身があるね、ほら僕の体を見ればわかるだろ?ヨウコがなかなかフュージョンしてくれないからね、もう…たまっちゃってたまっちゃってね…」

                *

 現実世界の茨城県つくば市では断罪王の背部から放出された無数の触手に捕らえられたダネル・アラキバ・ベガの三体の銀装天使の下半身から大量の巨大タケヒコを出産していた。巨大タケヒコは巨大サンゴ礁から放出された粒子のせいで人面恐竜に進化してしまったつくば市民と死闘を繰り広げていた。

 人面恐竜と戦っていた他の銀装天使たちは突如仲間の銀装天使から生まれた巨大タケヒコの出現に戸惑い、機体のエネルギー切れを心配してつくば市から撤退してしまった。

 「ククク…自らの命の惜しさにつくば市を放棄したか…しかしそれでいいのか至高天?キンカイが進化したあのアンノウン・巨大サンゴから放たれる粒子がこのまま世界中に広まれば人類のアンノウンへの進化は加速する。そして断罪王があの三人のメス豚を通して三体の銀装天使から出産させている巨大タケヒコの増殖を止めることがきなければ、この人類はあと一週間もしないうちに滅びるぞ!」

 結局、ダネル、アラキバ、ベガの三体の銀装天使は断罪王の触手から開放されてからも局部から巨大タケヒコを出産し続けた。

 俺は茨城県つくば市に巨大サンゴと無数の人面恐竜と巨大タケヒコを放置したまま、断罪王の状態で世界最高民族日本の心臓と言われる東京都へと移動を開始した。


第四話 爆誕!グレート断罪王!戦争も環境問題も人類が抱える全ての問題は人類そのものが滅びれば全て解決する!真の倫理とは全人類が地球という天然自然の奇跡の星のために自らの手によって滅びる勇気を持ち、それを実行することである!


 東京都に着いた断罪王をアルマロス・タミエル・サルタエルの三体の銀装天使が待ち構えていた。

 アルマロス・サルタエル・タミエルの三体の銀装天使が断罪王を囲んだ瞬間、断罪王の足元になにやら魔法陣のようなものが浮かび上がり、その魔法陣から出現した光の檻が断罪王の動きを封じてしまう。

 「なるほど…国界議事堂を破壊しにきた俺の動きをとめるつもりか…だが…」

 しかし次の瞬間、石川マサヒロの目の前は真っ暗になってしまう。

 気がつけば石川マサヒロは人間の姿に戻っている。そして隣には石川マサヒロの理想の美少女メシアが立っていた。

 「メシアッ!これは一体どういうことだ?」

 「石川マサヒロ、これはまだあなたが完全な神ではなく人間である証拠です」

 「なるほど…そう言われてみれば、のども乾くし、腹も減る…ククク…つまりエネルギー切れということだな…」

 「そういうことです、どこかで休息をとりましょう」

 俺は渋々、メシアの意見に賛成することにした。

 疲労により身体が元の人間のサイズに戻ってしまったが、そのおかげでアルマロスが作り出した光の檻の柵と柵の間を通り抜け、全裸のまま光の檻から脱出することに成功した。

 「ククク…今頃、銀装天使の奴らは大慌てだろうな…」

 「石川マサヒロ…笑っている場合ではありません。今このタイミングで命を失えば断罪王もおしまいです」

 「うるさい!そんなことはわかってる…」

 メシアに激怒する俺の目の前には懐かしい人間、学生時代に俺の愛の告白を断ったミサキがメイド服姿で立っていた。

 「石川マサヒロ君…?」

 「そんなミサキ…お前…実家を出ていいたのか…?」 

 「そんなの当たり前でしょ?私もう二十二歳だよ、まぁ、就職活動には失敗しちゃったんだけどね…そんで今もこうしてメイド服着てビラ配ってるってわけ。ところで石川マサヒロ君はなにやってるの?」

 「俺は…」

 ふと横を見るといつの間にかメシアの姿が消えていた。

                *

 目を開けると見知らぬ天井が見える。

 「ここは…どこだ?」

 「あら、やっと起きたのね石川マサヒロ君」

 「ミサキ…?ここは一体どこなんだ?」

 「ここは私の家だよ。ほら、石川マサヒロ君が全裸のまま私の家でいきなり気を失うもんだから、こうして家まで連れてきたってわけ」

 「すまんな…なんかいろいろ…」

 「今、カレー、ご飯にかけて暖めるね、具はないんだけど…」

 テーブルに置かれた具無しカレーライスから就職活動に失敗してメイドカフェでアルバイトをして生計を立てているミサキの苦労が伝わってくる。

 「ごめんね…こんなものしか出せなくて」

 「いや…俺の方こそいろいろごめん…俺は君の…」

 君の実家ごと君の家族を断罪王で踏み殺したなどと言えるわけもなく、俺は全裸の状態で具なしカレーライスを食べ続けた。

 「うん、意外といける」

 「そうでしょそうでしょ!一人暮らしてると実家に住んでいたころに比べて苦労も多いんだけど、一人暮らしならではの発見もいろいろ多いんだから!」

 ミサキは笑っていた。でも、その笑顔が心の底からの笑顔じゃないことぐらい今の俺には終末黙示録の力の影響でお見通しだった。それでも俺は全裸のままであえて聞く。

 「どうして家出たんだ?」

 「私…実はアイドル目指してるんだよね…でもお母さんに反対されちゃってさ、それで口喧嘩した勢いで家出してそのまま東京都に来たんだ。でもどこのオーディション受けても落選続きでね…なんかもう疲れちゃうよね」

 「いや、立派だよミサキちゃんは…俺なんか高校卒業してからずっと家に引きこもってた…」

 「そっか…なんかさ、歌の歌詞で人生色々ってあったじゃない?」

 「うんうん…」

 「子供のころはその歌詞の意味よくわからなかったけど、大人になってみるとなんか色々しっくりくるのよね」

 「そうだな…ミサキのこと見てると本当にそう思う」

 「なによ!自分は親離れもできないひきこもり君のくせに~!ごめん…言い過ぎた…怒ってるかな?」

 「いや…怒ってないわけじゃないけど…別にそんなに気にしてないよ…」

 「そっか…よかった!でも、本当に大変よ一人暮らしって、生きていくのがこんなに大変だなんてどうして学校じゃ教えてくれないんだろうね」

 「うん、その通りだよね、学校の科目に人生っていう教科を付け足したほうが絶対にいい」

 「そうそう!その通りよ!よし!あしたはバイト休みだし、今日は朝まで飲もう!」

 ミサキは座っていた椅子から急に立ちあがると冷蔵庫から缶ビールを二本出して、勢いよくテーブルに置いた。

 「ほい、それでは…久々の再会を祝って乾杯~!」 

 全裸の俺は自分の分の缶ビールをもってミサキが突き出してきた缶ビールに軽くぶつける。

 「乾杯」

 「ぷは~っ!本当、辛いときはビールが一番!これも東京都で一人暮らしするようになってからわかったことなんだけどね」

 「そっか…うん、なんか苦いね…」

 「もしかして石川マサヒロ君ビール初めて?」

 「うん…でもなんか喉乾いてたから多分、大丈夫…」

 「そうそう、どんなにダメな時でも表向きは大丈夫って思ったり、言ったりできるのがこの社会では結構重要だったりするんだから」

 「なんか嫌だね…そういうの…聞いてるだけでこっちがつらくなってくる…」 

 「ダメだね~石川マサヒロ君は!そんなんじゃ何年経っても社会復帰できないぞ~」

 「ハハ…返す言葉がありません…」

 そう呟いた俺にミサキは自分の顔を全裸の俺の顔に近づけて笑顔で一言。

 「ならさ、私が石川マサヒロ君の社会復帰を手伝ってあげるよ」

 「酒…飲みすぎだよ」

 「まだビール一杯目なんですけど」

 よく見るとミサキはTシャツの下にブラジャーを付けていなかった。

 「今、おっぱい見てたでしょ」 

 「いや…どうして見る必要があるんですかね…」

 次の瞬間、俺の唇はミサキの唇に塞がれていた。

 とてもうれしかったけれど…俺はミサキの両肩に両手を置いて、自分の顔からミサキの顔を離した。

 「ごめん…嫌だった?」

 「いや…うれしかったけど…ほら、ミサキアイドルになるのが夢なんだろ?だったらもうちょっと自分の体は大事にしたほうがいいと思う…」

 「この臆病者!引きこもり!童貞!」

 ミサキはそう俺を罵倒すると、ビール缶を一気飲みした。  

 「ごめん…さっきのは私が悪かったかも…」

 ミサキは急に泣き始めた。目もとを拭うミサキの右手首にはリストカットの跡と思われる傷があった。この子の親を殺してしまったという罪悪感が今更ながら俺自身を追い詰めてくる。

 そしてテレビニュースでは茨城県つくば市の人面恐竜と巨大タケヒコの一部が県外へと移動を開始したことを緊急速報で報じていた。

 もっと早くミサキと再会できていればきっとこんなことにはならなかっただろう。しかし俺が断罪王になっていなければミサキと再会することもきっと出来ていなかったはずなのだ。

 俺はなにも考えずに缶ビールを一気飲みするとミサキの作ってくれた具無しカレー食った。

 アルコールの影響で睡魔に襲われた全裸の俺は具無しカレーを食べ終わるとそのまま近くにあったクッションに横になって寝てしまった。


 次の日の朝、目が覚めた俺の目に映ったのはパジャマを着たまま踊るミサキの姿だった。

 どうやらミサキがアイドル志望というのは本当のことらしい。

 「ありゃ?おこしちゃったかな…」

 「いや、いいよ別に…でもまだ五時か…。それにしてもあんなに飲んだのに随分と元気なんだな…」

 テーブルの上には中身が空っぽだと思われるビール缶が六つほど置いてあった。

 「そりゃ、今日バイト休みだし♪そうだ!コレ!」 

 ミサキが引き出しから出して俺に見せたのは履歴書だった。

 「今日は私が一緒に石川マサヒロ君のアルバイト捜し手伝うの付き合ってあげるよ!」

 「でも…求人誌とか…俺持ってないし…」 

 「そんなのコンビニでもらってくればいいんだよ!どうせタダだし!よっしゃ、私今からコンビニ行ってくる!」

 ミサキはそう言ってパジャマ姿のまま裸足にサンダルで早朝のコンビニへと出かけて行ってしまった。

 やっぱりなにかがおかしい。

 なぜ、俺みたいな無職童貞ゴミクズ野郎にいきなりキスをしてくるのか?

 なぜ、自分はフリーターのくせしてホームレスの俺の社会復帰を手助けしようとするのか?

 そして手首にあった傷跡。今のミサキは俺の知ってるミサキとは違う。

 そりゃ、もう長い間会っていなかったのだから何かしら変わってしまうのは当然なのだが、なにか納得いかない。

 俺の知ってるミサキ…俺が学生時代に告白したミサキと今のミサキは何かが違う。


 「ただいま、ほい」

 ミサキは海鮮風味のカップヌードルが入ったレジ袋から求人誌を取り出し、それを全裸のままクッションに座っている俺に向かって投げる。

 「このカップ麺、最強なんだから!」

 「知ってる」 

  全裸の俺はそう言ってすぐに求人誌を両手でビリビリに破いて電気ポッドの沸騰ボタンを押したミサキに向かってぶん投げた。

 「ちょっと、あんた!なんで破っちゃうのよ!ふざけんじゃないわよ!」

 怒ったミサキは俺の両肩に手を置くと何度も揺さぶってきた。泣いていた。 

 「ごめん…こうしたらミサキがどんな反応するのか急に気になっちゃって…気になっちゃって…」

 俺も全裸のままでなぜか泣いていた。

 「石川マサヒロ君…ごめん…そうだよね…石川マサヒロ君の気持ちを確かめないまま無理矢理社会復帰させようなんて…よくないよね…私…よかれと思ってはしゃぎすぎちゃったね…」

 「俺もごめん…俺…働きたくないって言ったら…きっとミサキに嫌われると思ったから…それで…どうしようって思って…それで…気付いたら…なんとなく…求人誌破いてた…」

 「ラーメンにお湯入れるね…熱湯」

 ミサキはレジ袋から出した二人分の海鮮風味のカップヌードルを両手に持って俺から足早に離れていく。

 全裸の俺は床に散らばった、さっきまで求人誌だった紙くずを拾い始める。

 「いただきます」

 「いただきます」

 三分後、俺とミサキは両掌を合わせて、海鮮風味のカップヌードルを食べ始めた。三分前の気まずさがまるで嘘みたいにおいしかった。

 「うん…うまいよ」

 「言ったでしょ!最強だって!」

 俺はさっきミサキを傷つけた。なのにミサキは海鮮風味のカップヌードルを称賛する俺に目元を泣きはらしたまま、ほほえんでくれる。

 俺はミサキからもらった履歴書の名前を書くところににマジックペンで働きたくないでござると記入してミサキに渡した。

 するとミサキはマジックペンで履歴書の志望動機の欄に働かざる者食うべからずと記入して俺に渡して口を開く。

 「ここにずっといるんだったら家の掃除ぐらいはきちんとやってよね」

 「うん…わかった…」

 ミサキの言う通り俺は本当にここにいていいのだろうか。

 朝食を摂り終えたミサキは電子ピアノを引きながらなにか歌い始めた。

 「どう?この曲」

 「い、いいと思うよ、歌もうまいし楽器も弾ける、ミサキはいつか必ずアイドルになれるよ」 

 「そうだといいんだけどね。ほら、最近、意味わかんない化け物がいろんなところで暴れまわってるっていうじゃない?なんかさ、そういうニュース見るとさぁ、もうすぐ人類が滅びちゃうかもしれないのにアイドルなんて目指す意味あるのかなぁ~なんて思っちゃうのよね」

 「だ…大丈夫だよ…そうならないように至高天に所属している人たちが毎日、銀装天使に乗ってがんばっているんだから!」

 「そ、そうよね、銀装天使が、正義のスーパーロボットがいればなんとかなるわよね?よし!練習練習!」

 ミサキは再び歌い始める。昔からミサキは人前で歌うのが好きな女の子だった

 クラスメイトの誰もがミサキが将来、アイドルになることを信じていた。

 でも俺の目的が人類を滅ぼすことである以上、そんなミサキのアイドルになりたいという夢が叶うことはないのかもしれない。

 俺が自分の道に迷って入ると、ミサキは携帯から鳴り響いてきた着信音にいったん歌と演奏をやめてしまう。

 携帯に耳を当てていたミサキはなんどかあいまいな返事を繰り返して携帯の通話の切った。

 「警察からね…お母さんとお父さんがアンノウンと銀装天使の戦いに巻き込まれて死んじゃったってお知らせがきたの…でもめんどくさいから、そっちでなんとかしてくださいって言って切っちゃった!」

 「それでミサキはいいのかい?」

 「うん…だってお母さんもお父さんも自分の娘の夢を馬鹿にするような人たちだったし、そんなの親でも何でもないよ」

 「それはミサキのことを心配して…」

 「そう、そこなのよ!私の両親は自分達が安心したいから私にアイドルになってほしくないだけなの!自分たちが安心するために、私に夢を諦めて、結婚して子供作って平和に暮らしてほしいっていうそういう考え方の人たちなのよ!

 普通、親だったら最後まで娘の味方でいるべきなのよ!だってそうでしょ?私、別に両親にも誰にもこんなくだらない世の中に産んでくれなんて頼んでないんだから。

 両親の勝手で産んでおいてそれで、今度は両親のために自分の心を殺して夢をあきらめろですって!そんなの私は認めない!いつかかならずアイドルになってあのクソ親共に謝罪させてやるんだから!でも…でも…」

 自分の意見を俺に向かって声高らかに語っていたミサキは急にしゃがみ込んでうなだれてしまう。床に涙が次々とこぼれ落ちていく。

 「ごめん…やっぱ…つらいわ…」

 そうだ、全裸の俺にはミサキにちゃんと説明する義務がある。

 実はミサキの両親が死んだのは全部俺のせいなんだ…。俺の目の前に糞ラノベに出てきそうな美少女が突然現れてさ、それで俺はその美少女と契約して地球の平和のために人類を地球から滅ぼす巨神、断罪王になったんだよな…それでその巨大化した時に、断罪王の足でがミサキの実家を踏みつぶしていたんだよ…そのせいでミサキの両親は死んでしまった…」

 「やさしいね…石川マサヒロ君は…でも、その作り話…意味不明過ぎて説得力なさすぎ…」

 「作り話なんかじゃない!本当の話さ!」 

 「ごめん…ちょっと外の空気吸ってくるね…」

 ミサキはそのまま、走って自宅から出ていってしまった。

 ミサキの手首に出来ていた傷を思い出した俺は、全裸のまますぐにミサキの後を追いかけた。でも自宅アパートを出て、どの方向を見ても走り去るミサキの後姿は見えなかった。

 一体どういうことだ?瞬間移動でもしたのだろうか?そして全裸の俺はあることに気付いた。

 ミサキの自宅アパートにすぐ近くに大きなサンゴ礁が立っていることに。

 その巨大生物を見た俺はふと頭によぎった最悪の可能性を否定するために自分の主観を全て捨ててあえて終末黙示録にリンクしてその生物の生態について調べた。

 終末黙示録にはこう記されていた。

 地球が人類から自分自信を守るためにあらゆる生命体を強制的に進化させた人食い人間および人食い人間に進化させる粒子をばら撒く生物のことを人類はアンノウンと呼んでいる。

 「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 タイミング的にはおそらく…そうなのかもしれない…でもよりによって…どうしてこのタイミングでミサキが…やっと…俺の居場所ができたと思ったのに…どうしてよりによって…ミサキがアンノウンに進化してしまうんだ…。

 「そこまで絶望する必要はありませんよ石川マサヒロ…アンノアンノウンは地球を浄化するために人間を殺し捕食する。むしろアンノウンは断罪王の味方と言っても過言ではありません」

 「メシア…お前…今までどこに行っていたんだ?」

 「いましたよ、ずっと…石川マサヒロのそばに…。それよりここにアンノウンが出現したということは、至高天の銀装天使もここにくるかもしれませんよ、ほら来た」

 「銀装天使どころじゃねぇ…周りの人間がみんなミサキが進化したサンゴ礁のアンノウンがばら撒いた粒子で次々とアンノウンに進化していきやがる…どうして…どうしてこうなっちまうんだ…俺はただ…ミサキと…好きな女の子と一緒に居たかっただけなのに…」

 以前、疲労で石川マサヒロに戻ってしまった断罪王を取り逃がした銀装天使アルマロス・サルタエル・タミエルは各々の武器でミサキサンゴ礁がばら撒く粒子によってアンノウンに強制進化させれられた東京都民を殺害していく。

 そしてタミエルの大剣がミサキサンゴ礁を一刀両断しようとしたその瞬間、タミエルの大剣はタミエルの機体ごとマサヒロが変神した断罪王の断罪剣に真っ二つに斬殺されていた。

 「たとえアンノウンでも!ミサキは…俺が守る…!」

 断罪王の断罪剣により爆発したタミエル。

 しかしサルタエルの発射した無数のニードルガンの銃弾が爆風をつらぬいてミサキサンゴ礁に向かって放たれる。

 断罪王はサンゴ礁型のアンノウンに進化してしまったミサキを守るために自分の体を盾にして無数のニードルガンの直撃を受けてしまった。

 「うふふふ…馬鹿な坊やね…」

 サルタエルのパイロット、マナカは自分の体を盾にしてアンノウンになってしまったミサキを守る断罪王石川マサヒロをあざ笑う。

 「好きな女の子を守ってなにが悪い!」

 「だから、それが馬鹿だって言ってんのよ」

  サルタエルはミサキサンゴ礁に向けて何度もニードルガンを放つ。

 そのたびに石川マサヒロは断罪王の体を盾にしてニードルガンの直撃を体に受ける。

 「やっぱり…具無しカレーと海鮮風味のカップヌードルだけじゃ…体力は完全に回復できていなかったようだな…でも…そのおかげで…ミサキのおかげで…俺は…まだ…戦える!」

 断罪王は残り全ての少ないエネルギーで時間を巻き戻し、断罪王が全身に受けるはずだったニードルガンの銃弾すべてを念力でサルタエルに向けて放った。

 自らがミサキサンゴ礁に向けて放った攻撃を全身に受けたサルタエルは爆散した。

 「うふふふ…これでチェックメイトよ…」

 マナカが死に際に放った言葉を聞いた断罪王石川マサヒロは背後に光の檻を作り出す銀装天使アルマロスの姿を確認する。

 「残念だがまたエネルギー切れだ…お前の巨大な檻では人間体の俺を捕らえることはできない」 

 光の檻が断罪王を取り囲んですぐに、断罪王は人間体、つまり石川マサヒロの状態に戻っていた。

 「くっ…身体がもう…思うように動かん…。もっとエネルギーを補給できていれば…時間を巻き戻してサルタエルの攻撃を跳ね返すだけでなく…サルタエルに受けたダメージもなかったことにできたのにな…」 

 石川マサヒロの目の前には無傷のミサキサンゴ礁が全身から人間をアンノウンに強制進化させる粒子を放っていた。

 「ごめん…俺…もう体が動けない…アルマロスから…ミサキを守ってあげることができない…本当にごめん…」


 「安心して石川マサヒロ…今度は私が守ってあげるわ…」

 全裸のまま地面にうつ伏せに倒れている石川マサヒロの頭上からアンノウンになってしまったはずのミサキの声が聞こえる。

 そして頭上を見上げるとそこにはアルマロスのコックピットから外でに出たミサキが倒れている石川マサヒロに向けて銃を向けていた。

 「どうして…ミサキが銀装天使に…?」

 「私が移動できないサンゴ礁型のアンノウンに進化したって石川マサヒロ君が勘違いすれば、断罪王になった石川マサヒロ君はサンゴ礁型のアンノウンを守るためにサルタエルの攻撃に対して自分の体を盾にするしかない」

 「そんな…じゃあ…今までのは全部…この時のために…」

 「そうよ…私が石川マサヒロ君に好意を抱いているように見えたのは全て演技。具無しカレーも海鮮風味のカップヌードルも神に等しい力を持つ断罪王をエネルギー切れにして生きた状態で捕獲するための餌にすぎない」

 「そ、そんなぁ…じゃあ…それだけのためにタミエルやサルタエルのパイロットは…自分の命を犠牲にしたっていうのか…?」

 「そうよ!人類を守るためなら自分の命も何のためらいもなく犠牲にする!人類を守るためならどんな手段も選ばない!それが至高天に選ばれた戦士の使命!悪いけど…石川マサヒロ君…いや断罪王!あなたにはこれから我ら至高天の基地で罰を受けてもらうわ!」

 「そんな…そんな…嘘だ!お前はミサキの偽物だ!そうだ!絶対その通りだ!じゃあ!あの俺がミサキだと思っていたサンゴ礁型のアンノウンはいったい誰が進化したっていうんだ?」

 「あれはつくば市でサンゴ礁型のアンノウンが放出した粒子を我々が回収して、近隣住民に投与することで意図的に発生させたサンゴ礁型のアンノウンよ」

 「お前たち至高天は…自らを人類を守る組織と言いながら一般市民を無理やりアンノウンに進化させたというのか…どうなんだよ!人として!」 

 「言ったはずよ、至高天に選ばれた戦士は人類を守るためならどんな手段も選ばないと…とにかく、断罪王!あなたを基地まで連行します!」

 「ちくしょう…ちくしょう…やっと…やっとこのくそったれでできそこないの世界にやっと自分の居場所を見つけることができたと思っていたのに…」

 「働かざる者食うべからず…悪いけどこの世界は石川マサヒロ君みたいなニートで無職で露出狂の人殺しに居場所を与えるほど甘い世界じゃないの。それに正直アンタキモイのよ、アンタみたいなキモイ男なんか死んでしまえばいいのよ!どうしてこの世界に産まれてきたのよ!多くの人々と私の両親を殺しておいて殺されないだけ、ありがたいと思いなさい!」

 「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!お前はミサキじゃない!ミサキはそんなこと言わないんだよぉ!お前はミサキの偽物だ!うおおおおおんっ!シンゴォォォォォォォォォッ!ダメだ…エネルギー切れで断罪王に変神できない…そうだ…メシアはメシアはどこだ?」

 泣きながら笑うミサキの放った麻酔銃の銃弾が全裸のままうつぶせで泣き叫んでいる石川マサヒロの背中に直撃する。

 その瞬間、石川マサヒロは目の前は真っ暗になる。

                *

 ミサキの操縦するアルマロスは気絶した石川マサヒロを右手で掴み、飛翔すると左手のひらから出したビームの鞭で一般市民を無理矢理進化させたサンゴ礁型のアンノウンを爆散させると至高天の基地に向かった。

                *

 目を覚ますと俺は全裸のまま檻の中に閉じ込められていた。

 目の前にはコップに入った水と食パンが一枚あるだけだった。この程度の食料では断罪王に変神してこの至高天の基地から脱出するのにおそらく百年はかかるだろう。

 至高天の奴らがなぜ俺を生かしたのかについては不明な点は多いが、今俺にできることはとりあえず食料を摂取して生きることだけだ。

 「石川マサヒロ、ようやく起きたみたいですね」

 俺が食パンを食っていると、いったいいつからいたのか、無表情のメシアが隣で体育座りをしながら知恵の輪で遊んでいる。

 「メシア!お前はなぜ俺を助けなかったんだ!」

 「助ける必要がないからです。つまり、この状況を石川マサヒロに身をもって知ってもらうためにはこうするしかありませんでした」

 「一体どういうことだ?」

 「どこの世界に空腹と栄養不足が弱点の神様がいますか?」

 「そ…それは…」

 「つまりまだ、黒の断罪王は完全体ではないということです」

 「完全体?お前はいったい何を言っているんだ?」

 「とにかく石川マサヒロが人間をやめればいいんです」

 「人間をやめるだと?断罪王に変神できる俺がまだ人間だというのか?」

 「そうですよ、だから石川マサヒロは今、至高天の基地の檻の中にいる」

 「なるほど…なら俺はいったいどうすればいい…」

 「これを食べてください」

 メシアが地面に右手をかざすと地面に浮かんだ魔法陣から俺の母親が出てきた。

 「どうして地面から母さんが出てくるんだ…その前になぜ生きている?俺が初めて断罪王に変神した時、断罪王の下敷きになってしまったはず!」

 「どうやら奇跡的に無事だったので私がここに連れてきました。血のつながった自らの母を殺し、喰らう。これが果たして人間のすることでしょうか…?さぁ、どうしますか、母親を喰らうことで人間を捨て完全究極神となるか。このまま不完全な神として銀装天使に断罪されるか」

 「俺は…」

 「マサヒロ…生きていたんだね…よかった…本当によかった…」

 俺の身の安全を確認した母さんは泣いていた。

 お腹を痛めて産んだ子供が、ずっと死んだと思っていた子供が生きていて、喜んでいる…まるで…自分の命より我が子のほうが大事だと言わんばかりに。

 でも俺の脳裏を駆け巡るのは俺が他者から受けたいじめの数々だった。

 そしていじめがきっかけで学校と職場に行くのをやめれば、母さんや父さんは俺を出来損ないの臆病者と侮辱した。

 そうだ…俺自身が産んでくれと望んだわけでもないのに、どうして大多数の固定観念が作り上げた幻想の世界・現代社会に適応できないだけで俺ばっかりがこんなに苦しい思いをしなければいけないのだろう?


 どうしてもっと綺麗な顔に産んでくれなかったのか?


 どうして不細工な人間が子供を作ってしまうのか?


 どうして?どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてぇぇぇぇぇぇぇなんだよぉぉぉぉぉッ! 


 気がついたら手錠につながれた俺の両手が大好きだった母さんの首を絞めていた。母さんは自分の息子に殺されようとしているのになぜか笑顔だった。

 「母さん…ごめんなさい…こんなダメな息子で…でも俺…今度はちゃんとした神様になるから…母さんを食べて立派な神様になるから…」

 そのあとのことはもう何を覚えていない。

 いや、思い出したくもない。気付いたら俺の体は至高天の基地の天井をぶち破っていた。

 俺は自分が殺した母さんを食べてメシアの言っていた完全究極神グレート断罪王に変神していた。

 そして目の前には俺を再び捕らえにきたミサキが操縦するアルマロスが立ちはだかっていた。

 「一体どういうことだ!あの、エネルギーが残り少ない状態からいったいどうやって断罪王に変神したというんだ!」

 「黙れ…俺は身長170センチ以下で無職で童貞でニートの完全究極神だ…」 

 次の瞬間、ミサキは腹部に強烈な痛みを覚える。

 「こ…これは一体どういうことだ?」


 「おめでとう」


 「貴様…何をした…?」

 「俺とミサキの愛の結晶をミサキの子宮の中に創造しただけだよ。残念ながら俺とミサキが結ばれる世界はどのパラレルワールドにもなかった。だから俺は超能力、つまりある方法で自分の精子をミサキの卵子に無理矢理送りつけて受精させた」

 お願い…お願い…誰か殺して…あんたみたいなキモイニート無職のガキなんて出産するくらいなら今すぐ死んだ方がマシよ!嫌ぁぁぁぁぁッ!誰か助けてぇぇぇぇえっ!」

 アルマロスのコックピットの中のミサキは制服のポケットから出したカッターナイフで何度も自分の手首を切り裂く。

 しかし、ミサキの腹部はどんどん膨らんでしまう。

 「俺の精子はね、応募者全員サービスだからね、だからね、俺とミサキの子供ができればね、きっと天国のお母さんも喜んでくれるからね…」

 「う…産まれる…産まれちゃう…い…嫌…絶対嫌ァァァァァァァァァァァッ!」

 そして石川マサヒロの子どもをスピード出産したミサキは下半身を血塗れにした状態で白目をむいて気絶してしまった。  

「アルマロスが倒れた…一体何があった?」

 グレート断罪王の出現により現場に緊急出撃したハスデヤのパイロット、ヨシキは敵からなんの攻撃も受けていないアルマロスが突然倒れたことに困惑する。

 「次はお前か…」

 「き…貴様!俺のミサキに何をした!」

 ハスデヤがグレート断罪王に向かって両手で突き出した槍をグレード断罪王は指一本で受け止めてしまう。

 「精子を卵子に着床させた…ただ、それだけ」

 石川マサヒロの言葉が終ってすぐに何もない空間から突如出現したハスデヤの槍数千本がハスヤデの四肢を貫く。

 「くっ…これでは動けない…貴様…なぜ俺を殺さない!」

 「お前は今、ミサキのことを俺のミサキと言った。そう、俺は今さっきあらゆる平行世界に干渉してミサキと俺が結ばれる世界を探し、今俺がいるこの世界との融合を試みようとした。ところが、どうだ!どの平行世界でもヨシキ!お前とミサキは愛し合い結ばれていた。

 だからだよ!俺はわざわざ超能力を使って自分の精子をミサキの卵子に完全着床させた!そして、ミサキはアルマロスの中で俺の子ども出産した!そして俺は子供が苦手だ。つまりヨシキ!お前は残り少ない人生の中でミサキと共に俺とミサキの子どもを育てるんだ!

 そしてお前とミサキは俺とミサキの子どもを見るたびに絶望する!つまり俺はお前たちを苦しめるためにお前とミサキを生かすんだ!」

 「い、意味がまったく理解できない!貴様…それでも人間か!」

 「お前はこの俺、完全究極神グレート断罪王の姿を見ても俺がまだ人間だと思っているのか?超能力で精子を女性の卵子に着床させることのできるこの俺が人間であるとお前は本気で思っているのか?」

 「確かに貴様のしていることは人間離れしているが、貴様の行動原理はただの嫉妬だ!自分の好きな女が自分の相手をしてくれないから超能力で無理矢理受精させる、貴様の行動原理は極めて人間的だ、人間に嫉妬する神がいるものか!」

 「貴様ァッ!失礼だぞ!いったい自分が誰の情けで生きていられるのか?いったい誰がお前の愛する女を生かしているのか?貴様ら二人の人生!この完全究極神グレート断罪王の掌の上で転がしてもらえることをもっとありがたく思えやぁぁぁぁッ!」

 ハスデヤと共に出撃したイタオの操縦する銀装天使コカビエルの両掌から放たれた無数のエネルギー弾がハスデヤの動きを封じている槍数千本を粉々にした。

 「いまだヨシキ!同時に断罪王に攻撃を仕掛けるぞ!」

 イタオの指示通りにヨシキは自由に動かせるようになったハスデヤで槍をグレート断罪王の頭部に狙いを定めて投擲した。

 しかし、ハスデヤがグレート断罪王に向けて放った槍は一瞬消えるとイタオの操縦するコカビエルのコックピットに直撃していた。

 「イタオさぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」

 ヨシキの操縦するハスデヤが放った槍に串刺しにされて爆散するコカビエル。

 そう、ハスデヤの放った槍の動きはグレート断罪王の念力によって変えられていたのだ。

 「断罪フラッシュ…!」

 愛する女性をグレート断罪王に妊娠させられ、自ら放った槍が固い友情で結ばれた戦友の命を奪ってしまった厳しすぎる現実にヨシキはショックで目の前が真っ暗になってしまった。

                * 

 気がつけばヨシキは都内を歩いていた。  

「あれ?もしかしてヨシキ君?」

 都内を歩いていたヨシキに話かけて来たのはビラを配っていたメイド服姿のミサキだった。

 「ミサキ!お前も埼玉を出て東京都に来てたのか?」

 「う、うん…まあね、ぶっちゃけ家出だけどね…それより、もうちょっとでバイト終わるからさ一緒に飲みに行かない?」

 「ああ、いいぜ」

 お互いの携帯電話の電話番号を携帯に登録し終えたヨシキとミサキはいったんその場で別れるとすぐに待ち合わせ場所のレストランで食事をしながら昔話に花を咲かせた。

 「それにしても驚いた、あのヨシキ君が東京都でスーパーの店員をしているなんて!」

 「ああ、昔から食品でみんなの笑顔と明日を作るのが俺の夢だったからね」

 「私はぶっちゃけヨシキ君ってイケメンで学校でも運動神経抜群で成績優秀だったから将来はスポーツ選手か芸能人になると思ってたよ」

 「ハハハ…正直僕はあんまり目立つのは好きじゃないからね…」

 「でも学生の時はイケメンで運動神経抜群で成績優秀だったからヨシキ君にめちゃくちゃ目立ってたしモテモテだったよね~。でもどうしてスーパーで働こうと思ったの?」

 「ミサキは人の明日に必要なものってなんだと思う?」 

 「人の明日…?う~ん、あ、そういうことか!食べ物!」

 「正解!食品がなければ人に明日は来ない。いい思い出も芸能界もスポーツのどんな記録も経済発展も食品から始まっているんだ!食品業は人の幸せをつくる最高の職業なんだ!」

 「へぇ~なんかヨシキ君の話って昔から聞いてるだけでこっちも幸せになっちゃうよ~」

 「ハハハ…大げさだよ…。それでミサキはどうしてメイドカフェでバイトしてるの?」

 「え、私?う、うん…じつは私アイドル目指しててさ…それで親に反対されて喧嘩してそのまま東京都に来ちゃったの…でもオーディションとか何回受けてもあんまり結果が出なくてさ…それでとりあえずアイドル目指しながら生活費のためにメイドカフェで働いてるって感じかな」

 「ふ~ん…そっかぁ…でもミサキ可愛いからさ、きっといつかアイドルになれるよ!俺、絶対信じてる!ミサキがアイドルデビューしたら俺が真っ先にファンクラブ会員一号になってあげるよ!」

 「うん…ありがと…でもヨシキ君…結婚してて子どももいるんでしょ?」

 「う、うん…大丈夫!大丈夫!俺のカミさん産経婦だからねアソコも心もガバガバなんだ!あはははは!」

 レストランで食事を終えたヨシキとミサキはそのまま談笑しながらお互いの家のある方向に向かって歩き始める。 

 「へぇ~ヨシキ君の家って、私の家と結構近いところにあるんだね~」

 「本当!俺もミサキの話聞いてびっくりしちゃったよ~もしかしたら今までも気づいてないだけでどこかですれ違っていたりして」

 いつのまにか二人はミサキの住んでいるアパートの前まで来ていた。

 「ヨシキ君さ…こういうこと言うのは反則なんだろうけど…私、実はヨシキ君のことが学生時代からずっと好きだった…」

 「ミサキ…酒…飲み過ぎだよ…」

 「私、お酒飲んでないんだけど…」

 「そ、そうだったな…でも」

 ヨシキの次の言葉はミサキの唇と舌に塞がれてしまった。

 ヨシキも勢いでキスしながらミサキの体を抱きしめていた。

 気がつけばヨシキはミサキの家のベットの上にいた。そして隣には汗だくのミサキが気持ちよさそうに寝ていた。

 よく見るとミサキの手首にはリストカットと思われる傷跡がたくさん残っていた。

 「んん…ヨシキくん?もう起きちゃったの?ああ…ごめん…変なものみせちゃって…」

 「ごめん…俺の方こそ…」

 「こっち来てからかな…なんか色々うまくいかなくって…たまに死んじゃいたくなっちゃうの…」

 「ミサキ…大丈夫…俺がミサキのそばにいるから…だから死んじゃいたくなったら…おれがいつでもミサキの傍に駆け付けるから…」

 「ヨシキ君…でも…ヨシキ君には奥さんと息子さんが…」

 「大丈夫!ミサキに比べたら嫁も息子もゴミクズみたいなもんさ!」

 「ヨシキ君…愛してる…」

 「俺もだ…ミサキ愛してる…」

 翌日、ヨシキは会社をミサキはアルバイトを休んでフュージョンしまくった。

 そして数日後、ヨシキの嫁が第2子を妊娠した。

 「よっしゃあっ!これはめでたい!今日も仕事頑張ってくるからな!よっしゃあっ!行ってきまぁ~す!愛してるぜ!」

 「うん、帰ったら三人で一緒に子供の名前考えましょうね!いってっらっしゃ~い」

 しかし、その日がヨシキの家族の最後の日になってしまった。

 家を出たヨシキの行先は会社ではなく東京都内のホテルだった。

 そうヨシキは嫁に休日出勤と偽り、ホテルでミサキと待ち合わせをしていたのだ。

 そしてヨシキとミサキがホテルでフュージョンしている間に都内に突如、東京都民が進化したアンノウンが発生し大暴れしていた。

 そのアンノウンと銀装天使バラキエルの戦いに巻き込まれたヨシキの自宅は全壊全焼、もちろんヨシキの嫁も息子も死亡してしまい、まさにゴミクズになってしまった。

 翌日、自宅に朝帰りしたヨシキは真っ黒な瓦礫の山と化した自宅と嫁と息子の焼死体を見て泣きながら何度も嘔吐した。

 ヨシキは泣きながらその場を立ち去り、人差し指でミサキの家のインターホンを高速で連打した。

 何事かとアパートのドアを開けたミサキをヨシキは玄関内で押し倒した。

 大泣きしながら体を求めてくるヨシキをミサキは何の事情も知らないまま、ただ受け入れるしかなかった。

 いったん落ち着きを取り戻したヨシキから事情を聞いたミサキはヨシキの胸の中で抱きしめられながら泣いていた。 

 ヨシキとミサキは互いの体を抱きしめ合いながら泣き続けた。

 そして泣きながら再びフュージョンした。

 

 それから数日後、テレビのコマーシャルでアンノウンと巨大ロボットで戦う秘密結社、至高天の存在を知ったヨシキとミサキは罪滅ぼしのために至高天に志願した。

 そして至高天での軍事訓練を終えたヨシキとミサキは人型機動兵器・銀装天使のパイロットになり、アンノウンを人類から絶滅させるために戦い続けた。

                * 

 「そうだ…、平行世界を巡っても、俺とミサキが結ばれる世界は存在しなかった…なぜだかわかるか?それはヨシキ!全部お前のせいだ!どの平行世界を巡ってもミサキは必ずお前と結ばれていた!そして今、グレート断罪王の力を使ってお前の世界に干渉してよくわかった…ヨシキ!俺の名前を言ってみろ!」

 断罪フラッシュにより、自分のこれまでの人生を他人の視点から見せられ、体感させられたヨシキは突如、目の前に現れた人物に驚愕する。

 「石川マサヒロ…じゃあ…断罪王の正体はあの石川マサヒロなのか…」

 「そうだ!学生時代、お前にいじめられていた、あの石川マサヒロだ!」

 「俺もびっくりしたぜ!まさか、俺を苛めていた男が俺の最愛の女ミサキと不倫していたなんてな!なぁ!ヨシキ!お前、死んだ嫁と息子に会いたくないか?会いたいだろう?」

 「貴様…一体何を言っている…死んだ人間が生き返るわけがないだろ!」

 「ああ、そうだ。死んだ人間は生き返らない。でも、グレート断罪王の力を使えば時間を巻き戻すことができる…もう遅い!味あわせてやる!グレート断罪王の力をな!」

                * 

 石川マサヒロの言葉が終った瞬間、ヨシキは都内の道を歩いていた。そして、視線の先にはメイド服に身を包んだミサキがビラ配りをしていた。

 「そうか…そういうことか…俺はミサキと不倫する直前の状態にタイムスリップしてしまったのか?」

 「すこし違うな…」

 下から聞こえてきた声の方向に顔を向けると、ヨシキのズボンのチャックが見えない力によって強制的に下ろされる。

 そしてその中から石川マサヒロの顔が出てきた。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 「確かに俺は断罪王の力でヨシキを過去にタイムスリップさせた。このまま、お前がミサキと再会して不倫をしなければ、お前の嫁と子供は死なずに済むだろう…しかしそうはさせねぇ!」

 ヨシキの体は自分の意思とは関係なく、メイド服姿でビラ配りをするミサキの方向に歩いていく。

 「身体が勝手に…一体何が起きたんだ!」

 「俺がお前になっただけだよ」

 ヨシキの右目から石川マサヒロの顔が飛びだし、ヨシキは自分の体がなんらかの方法で石川マサヒロに操られていることに気付いた。

 「よ、よせ石川マサヒロ!俺はミサキを無視して嫁と息子の命を守りたい、頼む!人生をやり直させてくれ!」

 「ダメだ!俺はお前の体を使って今度こそミサキと一つになる!」

 そしてその日、石川マサヒロに体をのっとられたヨシキはミサキと再会し、不倫した。

 

 行為の後、ミサキのアパートのトイレの中でヨシキは頭を抱えていた。

 「石川マサヒロ…どうしてだ…せっかくタイムスリップできたのに…ミサキと不倫しなければ嫁と息子の命を救えるかもしれないのに…」

 「その通りだよ、お前はすでにミサキと不倫している最中に家族を失うという経験をした。その経験をもとに、お前は嫁と息子が死んでしまうはずのあの日ミサキと不倫せず、嫁と息子と一緒に東京都の外に避難していれば、お前は家族の命を救える。でも、それは俺が認めない。俺はお前にチャンスを与え、そしてそのチャンスをお前が掴む直前で破壊する。

 分りやすく言えば、お前の目の前にあるテーブルの上に置かれた御馳走の乗った皿をお前が食べようとした瞬間に俺が皿ごとその御馳走を地面にぶちまける。そうしてお前の精神に苦しみを与える。お前の望みが叶う寸前にその望みを断ち切るっ!それが俺のやり方なんだ!そしてお前の体を使ってミサキを味わい、最終的には妊娠させる…最高だな!」

 「なるほど…そういうことか、ミサキが妊娠していたのは…お前が俺の体を使ってミサキを妊娠させていたからなのか…」 

 「その通りだ!お前の体を直接支配した状態の俺がミサキとフュージョンする。ミサキが先ほど出産した子供は表向きはヨシキとミサキが不倫してできた子供だが、その事実は俺がヨシキの体を支配したことで生まれた事実!つまり、ミサキが白目むいて股を血塗れにして産んだガキは遺伝子学的にはヨシキとミサキの子供だが、真実を言えは俺に支配されたヨシキとミサキの子どもだということになる!

 つまり、この悲劇を生んだのは全ての平行世界でヨシキとミサキが結ばれていたのが原因!そして俺がお前の体を内側から支配することで全ての平行世界でミサキと結ばれた全てのヨシキの魂は俺になるということだ!

 つまりお前とミサキが不倫したのは今から全部俺のせいになったということだ!つまり、全ての平行世界で見た目がヨシキの俺はミサキと結ばれるが、すべての平行世界のヨシキの嫁と息子は見た目がヨシキの俺とミサキがホテルで愛し合っている最中にアンノウンが原因で焼き殺される!

 いいか、ヨシキ!全ての平行世界でお前の全てを支配し奪い、本来ならば俺と結ばれる運命にないミサキと一つになり、愛の結晶を創造する!それが俺の復讐だ!」


 つまり、ミサキが卵子に着床した精子は生物学的に言えばヨシキの精子であるということだ。

 石川マサヒロはミサキとフュージョンするためだけにグレート断罪王の力を使いヨシキの過去に干渉した。

 ヨシキの過去に干渉した石川マサヒロはグレート断罪王の力で魂だけの状態になりヨシキの体に侵入、支配する。

 石川マサヒロに体を支配されたヨシキはグレート断罪王の力で嫁と息子が生きている時間軸の世界に戻ることに成功するも、身体を石川マサヒロに支配されてしまっている。

 嫁と子供の命を救うために未来を変えようと願うヨシキと違い、ヨシキの体を支配している石川マサヒロはヨシキの体を使って愛するミサキと何度もフュージョンがしたいだけだ。

 結果的に、ヨシキは過去に戻るも嫁と息子が死ぬ未来は変えられず、石川マサヒロに体を支配された状態でミサキと不倫してまう。

 当然、ヨシキの嫁と息子はアンノウンと銀装天使の戦闘に巻き込まれ死亡。

 

 つまり、過去にタイムスリップしたところで石川マサヒロのミサキとフュージョンしたいという願いだけが叶えられ、ヨシキは過去に戻ることができても、何もできずに石川マサヒロに体を支配された状態で家族を失うということだ。

 そして石川マサヒロがグレート断罪王の力でヨシキの過去に干渉、肉体を支配、ヨシキの体でミサキと何度もフュージョンした結果、アルマロスのコックピット内でミサキはスピード受精、スピード出産。出産した子供は遺伝子学的に言えばヨシキとミサキの遺伝子を受け継いでいる。

 しかし、グレート断罪王の力でヨシキの過去に干渉し、ヨシキの体を支配した石川マサヒロがミサキとフュージョンしたという過去改変が成立してしまっているため、ミサキが白目を向いて血を流しながら出産した子供は生物学的にはヨシキとミサキの子どもであるが真実では石川マサヒロとミサキの子供ということになるのだ。


 そして、それがあらゆる平行世界において真実となるのだ。

                *

「じゃあ、石川マサヒロに過去を改変されたせいで石川マサヒロに体を支配された俺は…今の俺は一体なんなんだ?」

 ハスデヤのコックピットの中で意識を取り戻したヨシキは自分自身に向かって問いかけた。 

 すると頭の奥から石川マサヒロの言葉が返ってくる。

 「今、お前は迷っているよな、それすらも、もうすでに俺の思い通りってことだ。お前が自分自身で決めて行動したと思っていることも、今、息をしているのも全部、お前の体の持ち主である俺が決めたことなんだ」

 「俺は…俺はこれからどうすればいいんだよ!」

 「ミサキとのフュージョンに成功し、子孫を残せた今となっては、お前はもう用済みだ。大体、いじめなんかするやつは地球に必要ない。というよりヨシキよぉ、お前どうして産まれてきたんだ?いじめとかで人に迷惑かける奴なんかが産まれてきていいわけないだろ!正直なんの意味もねぇんだよ!なぁ?お前、どうして産まれてきたんだよ!はっきり言って、いじめとかで人に迷惑かけるなら産まれてくるんじゃねぇよ!馬鹿野郎!生まれてくるな!バカ野郎!死ね!」

 「お…俺だって…俺だって好きで産まれてきたわけじゃないんだよ!」

 「そうだ!俺に許可なくこの世界に産まれてきたお前も悪いが、俺に許可なくお前を作った両親も悪い!そもそもお前が産まれこなければお前の嫁は死なずにすんだ!お前が産まれたせいで何の罪のない女が死んだ!本来であれば断罪王の名においてお前を誕生罪で死刑ししたいところだが、お前には俺に心と体を支配された状態で俺とミサキの子どもの面倒を見てもらうために生かしておいてやる!お前はこの先死ぬまでミサキと共に俺とミサキの子どもを育てるのだ!」

 「あ…ありがとうございます…」

 ヨシキはハスデヤのコックピットの中で自分の体を内側から支配している目には見えない石川マサヒロに向けて感謝の気持ちを伝えた。  

 その口から出た言葉が最初から石川マサヒロによって仕組まれていたことも知らずに。

 グレート断罪王の精神汚染攻撃によりハスデヤはアルマロスと同様に動きを停止した。

第五話 登場!白いグレート断罪王!バカの話は長い!バカの話はわかりにくい!おい、おめぇらよぉ!人間同士で傷つけあうこんなクソみたいな世の中に親の都合で無理矢理誕生させられて、本当に満足なのか!答えろ!答えろって言ってんだよぉぉぉぉぉぉぉ!


 「久しぶりね、石川マサヒロ君…」

 アルマロス・コカビエル・ハスデヤの三体の銀装天使を倒したグレート断罪王の背後にはいつの間にかマルヤマとヨシキの過去に垣間見た銀装天使バラキエルが立っていた。

 「バラキエル…貴様、ハルカだな…ミサキと同様に俺の愛を拒絶したこの狂人女が…しかし今となってはもはや人間かどうかも怪しいがな…」

 「あら失礼ね、私は人間よ。私が人間なのは学校が同じだった石川マサヒロ君が一番知ってるでしょ?」

 「それだよ!お前は俺と同い年でありながらマルヤマの過去にバラキエルを操縦した状態で出現した。つまりマルヤマが幼少期の時点から銀装天使を操縦できたハルカが俺と同い年であるわけがない」

 「あら失礼ね、私が幼少期からバラキエルを操縦できた可能性だってあるかもしれないわよ?」

 グレード断罪王が両手で持ったグレート断罪剣がバラキエルに向かって神速で振り下ろされる。

 バラキエルは全身から黒いバリアを発生させ、グレート断罪剣の攻撃を防ぐ。

 「ハルカ…貴様はいったい何者だ!」

 「そんなこと…私に聞かなくても断罪王の力を使えば簡単にわかると思うんだけど…それとも…もしかして断罪王の力でも私のことがわからないのかしら♪」

 「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇッ!」 

 バラキエルが全身から放つ黒いバリアはグレート断罪王のグレート断罪剣の斬撃を何度喰らってもびくともしない。

 「どうやら図星みたいね。なら味わいなさい、私自身を」

 バラキエルが全身から放つ黒いバリアがグレート断罪王を飲み込む。

                *

 気がつけば俺は父親の石川タカユキが運転する車の後部座席に座っていた。

 そうだ、俺は高校を卒業して介護系の短期大学に進学して老人ホームに就職するも、そこを三ヶ月で退職したのだった。

 いや、俺は逃げ出したんだ、責任から。

 自分のミスのせいで利用者の、誰かの命が失われるのが怖かったんだ。

 全ては自分の将来に関してなにもかも中途半端にしか考えてなかった俺が悪い。

 だから俺は精神的に不安定な状態のまま、その老人ホームに電話で一方的にもう出勤したくないと言い放ち、それから二度とその職場には出勤しなかった。

 そして後の手続きは全部、母親に任せた。

 職場を自らの個人的な理由で退職し、身も心も疲労困憊していた俺はなぜか当時、母親が通っていた心療内科を勧められた。

 そう、当時俺の母親は婚活サイトで知りあった年収一千万の交際相手の男がスキューバダイビングの練習中に海でおぼれて死んだことでかなり落ち込んでいた。

 それもそのはず、その交際相手の男にスキューバダイビングを勧めたのは俺の母親だったからだ。

 そして交際相手の男が事故死したことに強い責任感を感じた俺の母親は大学時代の友人である信号機(あだ名)に勧められた心療内科に通い始め、いつの間にか俺もその心療内科に通わされていた。

 その心療内科の先生に俺は強迫性障害と診断され、薬をもらっていた。

 その薬を水と一緒に飲むと、あら不思議まったく眠れない、射精できない。


 ある意味、地獄だった。


 俺の母親が勧めた心療内科の薬で体調を悪化させられた俺の体を心配した俺の母親はなぜか離婚した元夫で俺の父親でもある石川タカユキに相談した。

 石川タカユキと電話している俺の母親はなぜか泣いていた。

 そりゃそうだ、自分が勧めたスキューバダイビングのせいで恋人を失い、お腹を痛めて産み、浮気性の父と離婚して女手一つで育て、多額の学費を払ってきたにも関わらず、外で働かず、心療内科の薬のせいでひたすら寝たきり状態の息子を見続けていれば気がおかしくなるに決まっている。

 母親からもらった電話の受話器から石川タカユキの声が聞こえてくる。

 石川タカユキは今自分が年の若い交際相手と暮らしている茨城県つくば市に建てた家に一緒に住まないかと言ってきた。

 俺は気分転換にとりあえず母親のもとを離れ、石川タカユキの家に行くことにした。

 後に石川タカユキはこの時泣いていた俺の母親のことを病気だと言っていた。俺はそのとき自分の父親に初めて殺意を抱いた。

 石川タカユキの運転する車が見知らぬ家の車庫に入っていった。

 車を降りて家の中に入ると五十代の石川タカユキの年齢より二十歳近く若い交際相手、中国人女性のキンカイとその息子、カズキがいた。 

 カズキは石川タカユキの子ではなく、どうやらキンカイの連れ子らしい。

 ちなみに石川タカユキは長い間、キンカイに子供がいることは知らなかったらしい。

 それもそのはずだ、二十代の若い女が石川タカユキのような五十代のおっさんに近づくのになにかそれなりの思惑があるに決まっている。 

 おそらくはキンカイが石川タカユキに近づいたのは全て、自分の子どもであるカズキの将来のために違いない。

 女手一つで子供を育てるのが大変なのは俺も知っている。

 しかし、俺の母親が女手一つで俺を育てなくてはならなくなったのは石川タカユキが浮気性のせいで離婚したのが原因だ。

 その石川タカユキが今や、若い交際相手の女性の連れ子の面倒を見ている。

 そして俺がなぜツカバ市の家に住むことになったのかについてカズキに聞かれた石川タカユキはその理由について俺と俺の母親が病気だからと答えた。

 死んでしまえ。

 一体誰のせいで俺の母親は一人で俺を育てなくてはいけなくなったのか。

 

 死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ。


 俺が小さいころは全く母の料理の手伝いもしなかった石川タカユキはキンカイと共に豚しゃぶの準備をしていた。

 みんなで昼食の豚しゃぶを食べていると石川タカユキが俺にいつも家で働かずになにをしているのかと聞いてきたので、俺は素直に家で読書をしているといった。

 石川タカユキは俺が家で働かずに読書をしているという発言に対して、きっぱりと現実逃避だと言ってきやがった。

 では石川タカユキが好きな酒とタバコは現実逃避の内に入らないのか?

 ちなみに心療内科で俺がもらっていた薬は酒とタバコをやめることができない石川タカユキに取り上げられてしまった。

 「体に悪いからその薬は飲まない方がいい」

 石川タカユキが偉そうに俺にそう言った。俺にしてみれば酒とタバコのほうがよっぽど体に悪いと思うが。

 その日から地獄が始まった。心療内科でもらっていた薬を飲まなくなった俺は一日中、乗り物酔いのような不快感と頭痛と強い吐き気に襲われる。

 気付けば俺は目からたくさんの涙を流していた。

 石川タカユキが二千万円払って立てた家の二階の空き部屋に用意された布団の上で俺は一日中、死にたくなるような不快感とホームシックにひたすら泣き続けた。 

 泣いている時はなぜか母親の顔が脳裏に浮かび母親に対してなぜか理由のわからない申し訳なさを感じていた。

 俺が苦しんでいる最中、キンカイは鹿のウンコみたいな固形物をお湯と一緒に飲めと俺に勧めてきた。俺はもうとにかくこの苦しみから解放されたい一心で鹿のウンコみたいな薬をお湯と一緒に飲み込んだ。味ははっきり言ってまずかった。でも鹿のウンコはきっとその薬の何億倍もまずいと俺は思った。


 「バディグディンバベブディグディブボブンバ」

 俺の隣の部屋にあるカズキの部屋からは母親のキンカイと石川タカユキに放置されたカズキが一人でおもちゃ遊びをしている声が聞こえた。

 すると石川タカユキはクライマックスに向けて白熱している一人遊びをしていたカズキに対してうるさいと怒鳴った。

 それから、カズキは自室の床に脱ぎ終わった靴下を放置していたことについて、なぜか石川タカユキに家から出て行けと大きな声で怒鳴られていた。

 カズキの母親であるキンカイはそれを見て見ぬふりをして夕食の準備をしていた。

俺が石川タカユキに心療内科でもらった薬を取り上げられ、苦しみはじめてから二週間が経った。

 二週間も経てばさすがに乗り物酔いのような不快感や頭痛や吐き気はなくなっていた。心療内科でもらっていた薬を飲んでいたころと比べて世界がかなり美しく感じた。

 それにしてもおかしな話だ。

 母親に勧められた心療内科でもらった薬を酒とタバコをやめることができない父親に取り上げられ、死にたくなるような苦しみを味わったものの、薬の効果が完全に体から抜けたことで以前より世界を美しく感じることができるようになった。

 本当におかしな話だ。


 もう、みんな本当に死んでしまえばいいと思った。


 体調が回復した俺は外で働かずにつくば市内にある複合スポーツ施設の中にある運動場で早朝から昼までひたすらに走り続けていた。


 そして運動場にあるベンチにはいつも白い半袖Tシャツに青いジーパンを身にまとった髪の長い少女が座ってた。

 その少女はとくになにをするでもなく、ただベンチに座っていた。

 何度か話かけようと思ったのだけれど、俺はこわくて見て見ぬふりをするのが精一杯だった。

 石川タカユキの家に帰ると夏休み中のカズキがキンカイが俺のことを親殺しと言っていたことをわざわざ報告してきた。

 どうやらキンカイの価値観では無職やニートはみんな親殺し予備軍だそうだ。

 親より先にカズキとキンカイを殺してやろうと思ったが、そんなことをしてもあまり得しないのでやめておいた。


 俺にしてみれば、子どもなんか作る人間たちはみんな人殺しと同じだ。


 なぜなら子供は、親が子供が欲しいという理由から、ただフュージョンがしたかったから、無理矢理フュージョンまで、結局は男と女の自分勝手なおとぎ話を盛り上げるためだけにこの世界に産み落とされ、多く不幸に悩まされ、いずれ死の恐怖に苦しみながら死んでいく。

 子供をつくる人間たちは自分たちが原因で生まれた子供たちがやがて死んでしまうのを知っていて、それでも自分たちの欲求を満たすために子供を作り出産する。

 もっとわかりやす言えば、子供を作る行為というのは死体を作るのと同じということだ。自分達が死ぬとわかっている男女が自らの幸福のために自分たち同様にいずれ死ぬとわかっている命を創造する。

 自分が死ぬと知っていて生まれてくる命がこの世界に存在するわけがない。

 つまり、人殺しは俺ではなくカズキをこの世に誕生させたキンカイのほうである。

 つまり人殺しに人殺しと言われる筋合いはないし、石川タカユキみたいなエロジジイ頼らなければカズキにご飯も食べさせられず、学校にも通わせることができないような貧乏女が子供を作るほうがよっぽど人殺しに近いと俺は思う。

その日、つくば市にある石川タカユキの家にキンカイの友達が娘を連れてやってきた。

 キンカイの友達と言っても日本人ではなく中国人である。

 キンカイの友達が連れてきた娘は世界最高民族の日本人農家の夫の間に生まれた日本人と中国人のハーフらしい。

 自分の家の中を大声を出して走り回るキンカイの友達の娘を見て五十代の石川タカユキはキンカイにこれから子供を作るから、その時は女の子が欲しいと言っていた。

 五十代のくせに二十代の女との間に子供を欲しがる俺の父親石川タカユキは正直、気持ち悪いと思った。

 

 死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ。


「親のことをそんなに悪く言ってはいけませんよ」

 背後から聞こえてきた声に後ろを振り向くとそこには複合スポーツ施設の運動場のベンチにいつも座っているあの不気味な美少女の姿があった。

 「君は…複合スポーツ施設の…どうして石川タカユキの家にいるんだ…?」

 「私の名前はメシア…」

 後ろ向いてメシアと話している俺に対して周囲の人間たちはまるで何事もないかのように食事や談笑を続けている。

 「そうだ…俺はこのつくばの家では異物みたいなものなんだ…石川タカユキやキンカイやカズキの三人にしてみれは、俺は母さんが三人の生活を壊すために送り込んだ邪魔者みたいなものなんだ…」

 「そんなことを言ってはいけませんよ。石川マサヒロが邪魔者なら、なぜキンカイは石川マサヒロに食事を作り、衣服の洗濯をしてくれるのですか?」

 「そんなの全部カズキのために決まってるだろ!キンカイは一度、息子のカズキの存在を偽って石川タカユキを裏切ってる!だからキンカイが俺に食事を作ったり優しくするのは、そうすることで石川タカユキに忠誠心をアピールしているに違いないんだ!全部…カズキの将来のために決まっている!石川タカユキはカズキの将来を人質にして若いキンカイを自分の思い通りにしている!大人は汚いぜ!」

 「あなただって大人でしょう?」

 「うるさい!」

 俺はコーラの入ったコップをメシアに向かって投げた。しかし気付いた時にはコーラの入っていたコップは俺の目の前のテーブルの上に置かれていた。

 「そんな…俺は確かにコップをメシアに向かって投げたはずなのに…」

 すると今度はテーブルをまたいだ俺の前の席にメシアが座っていた。

 「では実際に私にコップを投げたらいったいどうなっていたと思いますか?」

 「俺は間違いなく精神異常者として、この家から追い出されて精神病院送りだろうな…」

 「石川マサヒロの実の父親である石川タカユキが本当にそんなことをすると思いますか?」

 「ああ!するさ!あいつは…離婚する前に、実際に俺の母親に暴力をふるっていた!あいつは、石川タカユキは人間じゃない!それに…メシア!お前はいったい何者なんだ?」

 「私はこの世界を美しく感じている、または愛しているものにしか見えない精霊みたいなものでしょうか…」

 「精霊?」

 「ええ…石川マサヒロは心療内科からもらっていた薬を服用することをやめて地獄を味わった。でも、その地獄を乗り越えて以前より世界を美しく感じれるようになった。だから私は石川マサヒロの前に現れた」

 「言っていることの意味がわかるような…わからないような…」

 「つまり、地獄のような日々を乗り越えた人は地獄を味わっていない人よりも世界を美しく感じることができる。私は地獄を乗り越え、この世界を美し感じ取れる人にしか見えない精霊みたいなものなのです…」

 「とにかく…頭で考えても無駄みたいだね…でもとりあえず、石川タカユキに薬を取り上げられてなかったら俺は君と会えてなかったということだ。それで君の目的は?」

 「目的?それはつまり私の願いということですか?」

 「ああ…ふざけているのか?」

 「別にふざけていませんよ、私はただ、せっかく世界を美しく感じ取れる才能を持っている石川マサヒロがまるで自分から世界を憎んでいるように見えたので助言をしに来ただけです」   

 「俺は世界を憎んでいるんじゃない!俺に許可なく俺を作った自分勝手な母親と父親石川タカユキと汚い大人たちを憎んでいるだけだ!」

 「人があり世界があります。つまり人なしに世界はありません。人を憎むということは世界を憎んでいることと同じことなのですよ」

 「だから…俺に石川タカユキを!母さんを!汚い大人たちを!この矛盾に満ち溢れた世界を愛せと君は言うのか」

 「現に石川マサヒロは心療内科の薬の苦しみから解き放たれたとき、この世界を美しく感じれたはずです。私が石川マサヒロの目の前にいるのが何よりの証拠。そして無理に世界を愛さなくてもよいのです…まずはこの世界を受け入れることから始めてみては?」

 「お前に…お前にいったい俺の何がわかるんだ!」

 「まずは外部と関わりもつことです。労働を通して誰かの幸福のために生きるのです。あなたの労働の上に誰かの幸福が創造されます、そしてその幸福はあなたの生まれてきた意味になると同時にあなたが死んだ後も目に見えないあなたの存在を証明する足跡になる」


 つまり、メシアが言っていることの意味を分かりやすく説明すると俺が外で働くことが他人の幸せに繋がり、それが俺の生まれてきた意味になる。

 そして仮に俺がいつ死んでも、俺の労働の上に発生した他人の幸せとやらが俺がこの世界に存在していた目に見えない足跡になるということだ。

 「確かにメシアの言っていることは素晴らしいよ。本気で心の底からそう思えるやつは幸せ者だ。でも、俺には無理だよ…他人の幸せのためだけに俺は死ねない」

 「別に永遠に労働を続けろとは言いません。自分のペースで自分らしく生きればよいのです」

 「でも自分のペースで生きていくのは今のこの世界ではメシアが思っているより難しいんだよ…自分らしく生きてる人間はみんなから嫌われる…だってそうだろ?自分らしく生きるってことは自分勝手に生きることと同じ意味なんだ。この世界に自分勝手な人間の居場所はない…。メシアの言っている方法じゃ労働を通して自分の生きた証を残せても、長生きはできない」

 「別に長生きする必要はありません。人生の目的は長生きすることではなく。どんなに短い時間でも自分の生まれてきた意味を理解することであったり、一度でも労働を通して他者の幸福に貢献することができればよいのです。労働を通して自分の存在価値を理解するのはあくまで自分の生まれてきた意味を見つける数ある方法の一つでしかありません」

 「じゃあ、俺は働かずに自分の生まれてきた意味を見つけることにするよ。働いたところで、人類はいずれ至高天とアンノウンとの戦争で滅亡する。俺の労働のおかげで幸福になった人々もみんな戦争で死んでしまう」

 「では石川マサヒロは働かずにどういった方法で自分の生まれてきた意味を見つけるおつもりですか?」


 「俺が断罪王になる。断罪王になって人類を滅ぼす」


 「しかし、それは本来アンノウンの生きる意味であり、あなたの生きる意味ではありません」

 「うるせぇ!俺の生きる意味は俺が決めるんだ!至高天だろうとアンノウンだろうと俺の邪魔をするならぶっ殺す!俺は断罪王になってこの地球から人類を一人残らず滅ぼすんだ!そして俺を断罪王にしたのはお前だ…メシア…」

 「私はあなたの知っているメシアではありません」

 「ではお前は何者だ?お前の生きる意味はなんだ?」

 「私の目的はあなたにもう一つの未来を経験させ、あなたを断罪王になる未来から遠ざけることです」

 「なるほど…ではここでの…石川タカユキ達との暮らしはつまり、俺が断罪王にならなかった場合の一つの可能性の世界ということか…」

 「そうです、しかし、どうやら無駄だったようですね…」

 「いや、無駄じゃない…ちょうどムラムラしてたところなんだ…」

 俺は俺の知らないメシアを押し倒した。

 「なにをするおつもりですか?」

 「どうせ、俺をもとの世界に戻すつもりはないんだろう?ならこのパラレルワールドを思いっきり楽しんでやるさ!」

                * 

 俺の拳が俺の知らないメシアの顔面に直撃した瞬間、現実世界で意識を取り戻した俺の目の前にいたバラキエルが粉々になっていた。そして粉々になったバラキエルの中から白いグレート断罪王が現れた。

 「なるほど…もう一つのメシアがいれば…もう一つの断罪王がいてもおかしくないということか…これで俺と同い年のハルカが俺やマルヤマやヨシキの過去に干渉できたのにも納得がいく」

 「石川マサヒロ君はどうしてそこまでして人類を滅ぼそうとするの?」

 「ククク…ハルカ…お前、俺と同じ断罪王のくせに、面白いこと言う…俺は俺以外の人間が嫌いなだけだ!それにわざわざアンノウンが手を下さなくてもどうせ人類は自滅し地球は壊れる。ならそうなる前に俺の手で人類を滅ぼし、地球をこの人類という間違った存在の支配下から解放し救済する!それがグレート断罪王!石川マサヒロだ!」

 「黒の断罪王を止められるのは白の断罪王だけ…私は黒の断罪王が石川マサヒロ君の中に覚醒するまで白の断罪王の力で何度も時間旅行をして苦難を乗り越え至高天を結成し、銀装天使を開発してアンノウンと戦ってきた…でも私は一度も人間を嫌いになんてなれなかった…私には石川マサヒロ君が理解できない…」

 「ならなぜ、俺の愛の告白を断った?ハルカが俺の心の居場所になってくれれば俺は人類への憎悪から断罪王に覚醒せずに済んだかもしれない。ハルカ!なぜ俺を拒んだ?」

 「そんなの石川マサヒロ君が気持悪いからに決まってるからでしょ?」

 「おやおや言っていることが矛盾しているな~さっきハルカは何度も時間旅行をして苦難を乗り越え俺と戦う準備をしていても一度も人間を嫌いになれなかったと言っていたはずだ!」

 「私は別に石川マサヒロ君のことが嫌いなわけじゃない…ただ恋人にはなりたくなかっただけ…」

 「それだよ…ハルカ…そこで大人になって俺を愛してくれれば…こんなことにはならなかった…ハルカは結局、俺の愛を受け入れるのが嫌になって至高天を作り、銀装天使を開発したんだ…」

 「違う!私はこの人類を滅ぼすために存在する白の断罪王の力を利用してアンノウンや黒の断罪王から人類を守ろうとしただけよ!そのために時間旅行の末にこの世界に絶望した人々を銀装天使の操縦者に誘った…そして私が至高天に誘ったみんなは自らの犯した罪を償うため、過去の辛い思い出を乗り越えるために戦ってくれた、今も戦ってくれている」

 「ハルカ!今ならまだ間に合う、俺の愛を受け入れろ!俺の居場所に!俺の真なる母になって共に人類を滅ぼし、新世界のアダムとイヴになろう!」

 「嫌…私はあんたみたいな気持ち悪い馬鹿の母親になんてなりたくない!私はこの白の断罪王で人類を救う!救ってみせる!」

 「お前は俺のママになるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 黒のグレート断罪王の振ったグレート断罪剣を白のグレート断罪王のグレート断罪剣が受け止める。

 二本のグレート断罪剣がぶつかりあうことで発生した衝撃波が至高天の基地とその周りの市街地を一瞬で塵にしてしまう。

 「ククク…フハハハハハハハ…!なぁ…ハルカよぉ…お前…白の断罪王をいったいどうやって白のグレート断罪王に覚醒させたんだ?」

 「なにが…言いたいのよ…?」

 「俺は自分の母親を殺して食って、断罪王をグレート断罪王に進化させた…お前はいったいどうやって白の断罪王をグレート断罪王に覚醒させたのかって聞いてるんだよ…イヒヒヒヒ…」

 「その様子だと…どうせグレート断罪王の力で私の過去に干渉して見たんでしょ…全てを…」

 「俺はお前の口から聞きたいんだ…」

 「私はあなたとは違う!私は私自身の命を守るために両親を殺した!両親の虐待から私が生きのびるためにはしかたなかったのよ!」

 「一度も人間を嫌いになれなかったお前が実は過去に人間を殺していた…むぅ~じゅんっ!矛盾!矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾矛盾~ッ!」

 「生まれてから一度も人間を嫌いになれなかったといった覚えはないわ!私には両親を殺した過去があったからこそ、至高天のみんなの痛みが、苦しみがわかったの!至高天のみんなも私の痛みに共感してくれたからこそ、一緒にアンノウンや石川マサヒロ君と戦ってくれた…だから私は矛盾なんかしてない!」

 「それはどうかな?もし、それが本当ならなぜそんなにムキになる?俺には見えるぞ…俺のこの黒きグレート断罪王の超終末黙示録を通してお前の心の闇が見えるぞ…」

                *

 テストで満点をとれなかった私は父の命令により、その日の夕食は与えられず、衣服をすべて脱いだ状態で朝まで真冬のベランダに放置された。

 そして朝、目が覚めると母は泣きながらわたしに何度も謝り衣服を着せてくれた。

 そしてテーブルに置かれていたのはコップ一杯の水とテーブルの上に直に置かれたコッペパン一つだけ。

 泣きながら謝る母親に私はどうして父の虐待から助けてくれないのかとは聞けなかったし、母の顔に増え続ける痣を見れば周りの人間に父の虐待について相談できるはずもなく。そしてとうとう母親の両手は私の首を絞めていた。

 「ごめんねハルカちゃん…ハルカちゃんが死んだらママも死ぬから…二人で一緒に意地悪なパパのいない天国で幸せに暮らしましょう…」

 嫌だ…私は死にたくない…天国なんてあるかどうかもわからないような場所なんて私は信じない…だから私は生きる…生きたい!そして気づけばわたしの首を絞める母の背後にあの人が立っていた。

 始めて見るのに初めてじゃない、知っているけど知らないあの人。 


 あの人は自分のことをメシアと呼んだ。

 

 メシアはどうやら人類を滅ぼすために生まれた魔法使いらしい。だから私はメシアに願った、生きていたいと。

 そして気がつけば母は首に包丁が突き刺された状態で死んでいた。

 いったい何が起きたのかとメシアに聞いたら、どうやらわたしが無意識のうちに母に首を絞められる前の時間、つまり過去にタイムスリップして母の首を包丁で突き刺したらしい。

 これで私の命はとりあえず救われた。次は父だ。 

 母の死体を見た父は急に怒り出すと私を何度も殴った。一応母を殺したのは私だし、そのこともちゃんと泣きながら父に説明した。 

 だから何度も殴られて当然だった。それぐらい罪滅ぼししてもいいかな~と私は思ったのだ。


 気がつけば私のソーセージは勃起していた。


 父は前から見慣れているはずなのにいつも驚いていた。そりゃそうだ、自分の娘にソーセージが生えていたらみんな驚く。

 ソーセージはどんどん大きくなって気づいたらわたしのソーセージは父のバックゲートに突き刺さっていた。父のうんちがソーセージについちゃったらどうしよういやだな~とか思ってたら私の大きなソーセージは父のバックゲートをつらぬいて父の口から飛び出していた、私のおおきなソーセージは父のうんちとゲロと血液とよだれですごいことになっていた、そしてそのあとすぐにソーセージからあったかい白いゼリーみたいな水がたくさん出てとっても気持ちよかったです。

 結局、父は死んでしまいました。涙はなぜか出ませんでした。


「この人殺し!」


 血だらけの実家のリビングで呆然と立ち尽くすまだ幼いハルカを石川マサヒロは攻める。

 「この人殺し!どうして産まれてきたんだ馬鹿野郎!」

 「あなたは石川マサヒロ…メシアが言っていた。あなたと私は共に協力して断罪王で人類を滅ぼさなくてはいけないと」

 「この人殺し!うるせぇ!死ね!」

 「さっきからどうしてそんなにひどいことを言うの?」

 「死ね!」

 「私…別に誰かに頼んで産まれてきたわけじゃないのに…お母さんもお父さんもどうして私のこと殺そうとするの?」

 「死ね!」

 「嫌!私は生きたい!」

 「死ね!」

 「私はもうこれ以上誰かに傷つけられたくない…傷つけたくもない!」

 「死ね!」

 「私はこの…断罪王の神のごとき力でだれも傷つかない、傷つけない世界を作って見せる…人類の平和は私が守る!」

 「死ね!俺は人類から地球を守る!死ね!」

 「みんなが死んでも私は死なない…それなら人類が滅びたことにはならない」

 私はお父さんとお母さんの死体をメシアと一緒にバラバラにしてカレーライスの具にして食べた。


 ビーフカレー。


 お父さんとお母さんが一つになったビーフカレー。

 そのビーフカレーと私はきっと同じ。

 そしてお腹いっぱいになったら私の体に言葉では説明できない力がみなぎってきた。メシアはそれを断罪王としての完全な進化だと言った。

 「石川マサヒロ君…あなたも、お父さんとお母さんが入ったビーフカレー食べる?」 

 「死ね!」

 私が突然、実家の中に現れた自称無職童貞グレート断罪王石川マサヒロ君にビーフカレーを勧めても、石川マサヒロ君は満面の笑みのまま私に向かって両手の中指を立てている。

 「死ね!」

 「ねぇ石川マサヒロ君は今いったいどの時間軸から私の過去に干渉しているの?」

 「未来だよ、断罪王に選ばれた俺とハルカが至高天の基地で戦っている未来。ま、もう至高天の基地はなくなっちゃけど…死ね」

 「そんなひどいよ…私がこれから頑張って作ろうとしてたのに…」

 「ああ、これからハルカが何度至高天を結成して基地を作っても俺が必ず破壊してやるよ…約束する…死ね」

 「ねぇ…その私に死ねって言うのやめてくれる。自分がそういうこと言われたら嫌じゃないの?」

 「死ね、何度でも言ってやるよ、約束するよ、死ね」

 「やめて!」

 「死ね」

 「じゃあ、私もグレート断罪王の力で石川マサヒロ君の過去に干渉してやる!」

 「なるほど…本来、ハルカは俺の過去には存在しない人間だったのか…死ね」

 「そうだよ…今まで石川マサヒロ君が私にフラれたと思っていたのは私が今、石川マサヒロ君の過去に干渉して後から作り上げた体験だったのよ。私は本来石川マサヒロ君と同じ学校には通っていなかった」

 「自分からバラしていてくのか…。じゃあ今、俺がハルカの過去に干渉していることがきっかけで俺がハルカにフラれた体験が俺の中で実際に起きたことになっていたのか?では今、俺がハルカの過去に干渉しているのは俺にとっては今だけどハルカにとっては本当に過去だというのか?もしそれが本当なら俺は今、ハルカの過去に干渉して改変してると思い込んでいる、ただの無職童貞だというのか!死ね」

 「そうかな…そうかも。でも今も過去も未来も結局、同じこと。今があって過去になる、過去があるから未来がある…」

 「そうか…じゃあ俺の知っているハルカは本来、俺とは全く無関係の他人なのか…ならハルカは女じゃなくて…死ね」

 「やめて!それ以上言わないで!」

 「ハルカは女みたいな顔した男の子だったのか…?」

 「やめて!それ以上言わないで!」

 「死ねって言ってないよ…」

 「お願い!私の心から出て行って!」

 「さっきは死ねって言ってないのに…俺は優しくしてるのに…どうして出て行けなんていうの?ひどいよ…」

 「お願い!これ以上私をいじめないで!」

 「そっか…ハルカは失敗作だったのか…ソーセージ生えてるのに自分のことを女の子だと思ってる…だから父親からは虐待されて母親は虐待から助けなかった…そりゃそうだよな…自分のことを女の子とだと思っている気持ちが悪い息子のために外で朝から晩まで働くなんて馬鹿馬鹿しいよな…失敗作のためにどうして辛い思いをしなくちゃいけないんだよって…そりゃ虐待するわな」

 「や~め~てぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 「じゃあ…出て行けなんて言わないでよ…いっしょにずっとここにいようよ…ここでハルカとお父さんお母さんのお肉で作ったビーフカレーずっと食べよう」

 「嫌!私…石川マサヒロ君のこと嫌い!」

 「どうしてそんなひどいこと言うんだよ…」

 「じゃあ、石川マサヒロ君は人に死ねっていう人とお友達になれるの?」

 「死ね」

 「ほら!」

 「死ね」

 「石川マサヒロ君が死ね!」

 「お前みたいな出来損ないは死ね!天国のハルカのお父さんとお母さんもきっとそう思ってる…だから死ね」

 「でも私が死んだら…石川マサヒロ君は私の過去の世界でずっとひとりぼっちになっちゃうよ…」

 「なら今度は過去じゃなくて平行世界に干渉すればいい。そこでまた俺はハルカの心を今みたいに傷つける…死ね」

 「もうやめてよ!私ィッ!もう!頭おかしくなる!」

 「みんなおかしいよ…みんな頭おかしいのさ…どうせ…この世の中に頭のいいやつなんてのは一人もいない。いるのは自分で自分の頭がいいと思っている馬鹿と自分の頭が悪いと思っている馬鹿だけさ…勉強や学歴なんて…百パーセント社会に役立つ保証はない…だってそうだろ?富岡製糸場なんて覚えたってなんの役にもたたない。富岡製糸場について勉強するぐらいならパソコンでエロ動画みてチンコから精子出してたほうが絶対得してるって、気持ちいいし」

 ハルカは俺が富岡製糸場の話をしている間に両親の死体をバラバラにした包丁で俺の腹部を刺した。

 「もう!そういう変な話やめてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 「無駄だよ」

 「え?」

 ハルカの背後にはついさっき包丁で殺したはずの石川マサヒロが立っていた。

 「ハルカに包丁で刺されたときに、ハルカに包丁で刺される前の時間軸にタイムスリップした。これは時間跳躍とも言うね…何度やっても無駄だよ…」

 「なら私は何度だって包丁で石川マサヒロ君を殺してあげるわ」

 それから石川マサヒロはハルカに包丁で12660回殺され、12661回の時間跳躍をした。

 「なんどやっても結果は同じだよ」

 ハルカの背後には12660回殺害したはずの石川マサヒロが立っていた。

 「そんなことない…あきらめなければ…きっとアンノウンと石川マサヒロ君から人類を救うことができる」

 「俺を殺しても人類は救われない。俺が、黒の断罪王とアンノウンが世界から消えても人類はいずれ自分たちの手で滅びる。今の人類はそれがわかっていても自分たちが生き続けることをやめられない、止められない…だから俺は人類を滅ぼす…この世界から一人残らず…そう、その人類の中には俺も含まれている」

 「それじゃ…石川マサヒロ君も死んじゃうじゃない…」

 「そうだよ…人はいずれ死ぬ…みんな人が死ぬとわかっているのに、自分たちは死ぬのが怖いことだとわかっているはずなのに子供を作ったり育てたりしている…それは狂気だよ。今の人類に生殖機能を与えるには早すぎたんだ…俺達人類は一度滅んで、次の頂点捕食者にこの地球の主導権を譲るべきなんだ…」

 「でも…次の頂点捕食者が今の人類より優秀になる保証はどこにもないわ…」

 「あるさ…現に、ただのサルが一度滅び、たくさんの進化を重ねて原子力のような自分たちの世界を滅ぼす力を手に入れるまで進化することができた。俺達人類が滅んでもきっと次の頂点捕食者、新人類は今の人類より優秀に決まっている。人類の進化がそれを証明している!俺はそう信じているから自分の命も含めて今の人類を滅ぼそうとしている。今の俺にとっては自分も含めて人類は全て悪でしかないんだ」

 「そんなの…そんなの私は嫌だ!私は死ぬために生まれてきたんじゃない!私は幸せになるために生まれてきたんだ!」

 「違うよ…ハルカはハルカの両親が幸せになるためだけに生まれてきたんだ」

 「違う!」

 「人はそうやって過ちを繰り返す…大多数の価値観による同調圧力とフュージョンの快楽に負けてね。だから俺はその過ちを正す、俺は俺自身と人類を犠牲にして新人類が作り出す神世界の神になる…」

 「でも…死んじゃったら神様も何もないじゃない…」

 「神はこの世には存在しない、だから俺はグレート断罪王の力でこの世界から人類と俺自身を消すことで神になる。ハルカ…白の断罪王に選ばれたお前にもその資格があるんだぜ…」

 「私は嫌だ…私はそんな救われない神になるのは嫌だ…どうせ神になるなら私は世界一幸せな生ける現存神になる…だってそうでしょ?どうして神様なのに!一番偉いのに、新人類とかいう曖昧な奴らのために死なないといけないのよ!私は白の断罪王で人類を救って幸せになるの!世界一幸せな、生ける神になるわ!ええそうよ、そうあるべきだわ!私が人類を救うんだもの!私が一番頑張ったのなら、私が一番幸せになるべきだわ…」

 「今の人類はみんなそう思っているよ…みんな自分が一番頑張っているから自分が幸せになれないのはおかしいと思っている。でも地球人口約六十億の人間が自分たちの幸福を追及して資源を消費し始めたら、今の地球は壊れてしまう…だから俺達人類の前にアンノウンと断罪王は現れた」

 「石川マサヒロ君のネガティブな終末論なんか私にはどうでもいい!私は絶対に幸せになってやる!」

 ハルカはそう言って12660回俺を刺した包丁で自分の首を切り裂いた。

 「こうすれば私はこの世界からいなくなったことになる…この先の未来では私はもうすでに死人なっているということよ…いくら断罪王の力でもあの世にまでは干渉できない!」 

 今、石川マサヒロがいる幼少期のハルカの世界がどんどん色を無くし、背景が刃物で切り裂かれるように崩壊していく。

 「そんなことをしたら、君は幽霊になって生ける神になれなくなってしまうよ。幽霊になるのが君の幸せなのかい?」

 「うるさい!私はもうここに居たくないだけ!あんたみたいな無職童貞の気持悪い顔を見たくないだけ!」

 背景が全て崩壊し真っ白になった世界に石川マサヒロと死体になったハルカだけが取り残された。

 石川マサヒロはグレート断罪王の力で冷たくなったハルカの死体内に究極精子を瞬間移動、超速受精させて、その世界から現実世界へと戻った。

                *

 石川マサヒロの目の前には白いグレート断罪王が立っていた。

 「どう?初めてお化けを見た気分は?」

 「ハルカがまだ生きていることぐらい、とっくに予想済みさ」

 「気にならないの?過去の世界で自殺したばかりの私がどうして今、ここにいるのか…」 

 「気にしたところでどうせ人類はすべて滅びるんだ…気にする必要がない…それよりプラスチックの原料って石油なんですよね」

 「人を馬鹿にするなぁぁぁぁぁぁッ!」

 いずこから復活した白のグレート断罪王の全身から大量の白い断罪王の顔や手足が飛びだしてくる。

 「なるほど…あまたの平行世界の自分自身と白の断罪王をこの世界に集合させて、一つにしたのか…」

 「そうよ…私は無数にある平行世界の自分自身と白の断罪王をこの世界に一つにまとめた。今ここにいる私はさっきまでいた私はとはまた別人なのよ!平行世界の存在に限りは存在しない!だからこれから先あんたが何度私の過去に干渉しようと私はその度に自殺して別の平行世界の自分と白の断罪王に生まれ変わることができる!」

 「ということはもはやお前と白いグレート断罪王を倒すには無限に存在する平行世界を全て破壊しなければならないということか。ならもうすでにお前にようはない。今からこの世界の人類すべてがアンノウンに進化する前に黒のグレート断罪王の力のみで人類を皆殺しにする」

 白のグレート断罪王との戦いを途中放棄した黒のグレート断罪王は上空に飛び立ち自分自身の体を両手で抱きしめるようなポースをとる。 

 「そうか…その手があったか…」

 「ハルカ…お前や銀装天使どもとの戦いなど所詮は俺が断罪王の力を確かめるための遊びに過ぎない…だが遊びはもう終わりだ。俺は今、この一瞬で無数に存在するすべての平行世界のハルカの体内に射精した。神であるグレート断罪王である俺の究極精子は男であるお前の肉体を変化および超進化させ無数の俺をお前の体に宿すことができる。

 そして出産自体は平行世界に無数にハルカが存在するのと同じく永遠に終わらない。お前は人類が滅んだこの星で無限に出産地獄を味わうことになるだろう。無論、人類が滅んだあとにこの星に新世代の頂点捕食者が誕生しても出産地獄は止まらない。この星で人類を超越した新たな頂点捕食者が繁殖・繁栄している間もお前は白いグレート断罪王と共に透明になった状態、つまり周りから知覚できない状態で出産地獄を味わう」

 「なら…今からのそのふざけた未来を書き換えてやる…」

 「無駄だよ…お前が無限に存在する平行世界に干渉して無敵の存在になった瞬間にそれは過去になる。一度過去になってしまえば、お前と同じ方法でその数秒前の過去に干渉すればいいだけのこと。俺は無限大に存在する平行世界のお前に無限大に存在する平行世界の数だけ干渉し未来を変えることができる。つまり、この勝負は最初からただの我慢比べだったということだ…至高天の基地に監禁された俺が母親を食い、断罪王をグレート断罪王に覚醒させた時点でお前はすでに負けていたんだ」

 黒のグレート断罪王が自分の体を抱きしめていた両手を横に広げると、石川マサヒロとハルカにしか見えない無数の粒子が黒のグレート断罪王を中心にして世界中に広がっていく。

 「この粒子は俺を含めた全人類の体内に寄生して激痛と共に殺す粒子だ。しかし、俺以外のバカな人類はこの正体不明の現象はすべて中国人がばら撒いたことにするだろう。つまり、そうなるように俺がすでに運命を創造した」

 断罪王に選ばれたものにしか見えない死の粒子を体内から放出する黒のグレート断罪王をもはや原形をとどめていない白のグレート断罪王は地上から見上げることしかできない。 

 「もう…人類を救う方法は一つも残っていない…」

 白のグレート断罪王の各部位から飛びだした無数の白のグレート断罪王の顔の両目から滝のように血の涙が流れていく。

 もうハルカと白のグレート断罪王が人類救済のためにできることは祈ることぐらいしか残されていないのだ。

 「本当にこれでいいんですね」

 黒のグレート断罪王のコックピット内に突然現れたメシアが石川マサヒロにそう語りかけてきた。

 「俺に人類を滅ぼせと言っておいて今更なにを言う」

 「そういう意味ではありません。石川マサヒロは人類を滅ぼすと同時に自分も殺し、本当の意味で神になるつもりなのでしょう。しかしハルカが墓穴を掘った今、人類を滅ぼした後でハルカが目指していた生ける神、つまり現存神となる道もあるはずです」

 「俺は人間が子供を作ることが許せないだけだ。人間が人間を作り育てるにはまだ、時間が早すぎた。それを表すように親が子を殺し、子が親を殺す事件が実際に発生している。俺はこの星に新たな頂点捕食者である新人類は今の人類より絶対にすべてにおいて優れた生命体になると信じている、人類進化論がそれを証明している。でも今の人類を滅ぼさなければ人類が自然に滅びる前に新人類の生活の場となる地球はあらゆる生命体が生きることができない星になっしまう。

 だから俺は新しい命の可能性を信じるために今の人類を滅ぼす。そして新人類が生きる場所にはもう俺みたいな古い人類は必要ない。確認する必要もない。もし新人類が今の人類より優れていなかったとしても、その時はまた断罪王に滅ぼしてもらえばいい。優れた新人類が地球に発生するまで何度でも断罪王に滅ぼしてもらえばいい。そう、地球には断罪王がいるんだ」 

 「この世界に神などいない、だから自ら人類を滅ぼし、自ら消えることで本当の意味で神になる。それが石川マサヒロの選んだ答え…」

 「メシア…俺はこんな世の中には生まれて来たくなかったよ…こんな死への恐怖と悲しみだけが広がっていく世界。結局、この国が子供つくるのに賛成的なのはただの税金対策と自分たちが生き延びたいというただの自己満足だ。こんなくだらない世界を罪なき命に無理矢理押し付けること自体が間違っている。子供が欲しい奴らはまず、子供をつくる前に自分たちの世界を今よりもっと素晴らしい状態にしなければいけない。こんな酷く醜い世界を両親の子どもが欲しいという簡単な理由だけでなんの罪もない命に無理矢理押し付け、大多数の価値観で洗脳するのは絶対に間違っている。

 今の人類が行うフュージョンは人殺しと同じだ。みんな死ぬのが嫌なのにどうして子供をつくるんだ?死ぬのが怖い奴らから生まれてきた奴らも結局死んでしまう。自分の嫌なことを何の罪のない子供に押し付けるのは絶対に間違っている。認知症になって自分のことがわからなくなるまで長生きして何の意味がある?意味なんてねぇよ!自殺者が一年に何万人も出るような世界で子供なんて作ってんじゃねぇよ!人間同士が永遠に争いを繰り返す世界で子供なんて作ってんじゃねぇよ。お前らこんな世の中で満足なのか?

 とにかく俺は俺を作って、この世界に産んだ父さんや母さんが憎い。そして父さんと母さんを生んだ奴らも憎い。つまり俺はこの世界が大っ嫌いだ!

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!

 地球上の全人類に向けてそう叫んだ俺を見てメシアは笑っていた。それは俺が見る初めてのメシアの笑顔だった。


 この物語はフィクションです。実在の人物や団体には一切関係ありません。

 

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超地球救済戦記!G〈グレート〉ダンザイオー‼~戦争もやめねぇ!環境破壊もやめねぇ!バカで愚かな人類は身長170センチ以下の無職童貞ニートの俺が全員滅亡させる‼~ @final69

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