大文字伝子が行く17

クライングフリーマン

大文字伝子が行く17

あつこのマンション。裸のままベッドから出ながら、久保田に声をかけた。

「ダーリン。まこちゃん。早くしないと遅れるわよ。」久保田は慌てて起きて食堂に行くと、もうあつこは着替えてトーストにはちみつをかけて食べていた。

久保田はコーヒーを啜り、トーストをかじりながら、あつこに尋ねた。

「ねえ。あっちゃん。一つ聞いていいですか?」「三つまでなら許すわ。」

「あの。何で僕を選んでくれたの?」「ああ。お見合い写真?なんで、僕みたいな朴念仁と?何で僕みたいな野暮天と?何で僕みたいな唐変木と?何で・・・。」

「無理矢理例えなくていいよ、もう。しかも、三文字。」「真面目そうだったから。納得した?」

伝子のマンション。朝の出来事を聞いていた一同が爆笑した。

「『あっちゃん、まこちゃん』、だって。」と、依田が腹を抱えて笑った。蘭が「もう新婚さんなんだ。挙式は来月なのに。」

「皆、笑いすぎだぞ。ここは大人の対応だろ?」「副部長、大人の対応って?」と福本が言った。「ぐっとこらえてやれ、って言いたいのよね、物部君は。」と栞が扇子で口元を隠している。

「愛宕にまで笑われるとは。話すべきじゃなかった。」「済みません、久保田先輩。」

「あ。白藤は同期だったよな。何か聞いてないか?」「んんん。真面目じゃダメですか、久保田先輩。」「ダメって訳じゃあ・・・。」

「僕の推理、聞いてくれる?」「なんだ、学。分かるのか?」

「これくらいワトソンでも分かりますよ、伝子さん。久保田刑事は久保田管理官の甥御さんに当たるんですよね。渡辺あつこ警部は久保田管理官の直属で、あちこちの部署に一時的に配属されていた。ここまでは合ってますよね、愛宕さん。」

「ええ。そうです。」「渡辺警部は久保田刑事の情報は所謂『釣書』以上に入手出来た。」

「他の見合い候補者は釣書以上の情報は取り寄せ難かった、ってことか、学。」と伝子は尋ねた。

「高遠さん、すごーいい。そういうことかあ。」と祥子が感心した。

「なんか楽しそうですね、みなさん。」と山城順が入って来た。

「山城。久保田刑事は来月結婚するんだよ。」と、愛宕が言った。

「あ、おめでとうございます。その節はお世話になりまして。」と、山城が頭を下げた。

「それで、どうなりました?(「大文字伝子が行く16」参照)と久保田が尋ねた。「はい。お陰様で、すっかりケアマネジャーさんは反省しまして、代わりのケアマネジャーさんと潔く交代しました。介護士さんたちもちゃんとトイレに連れて行ってくれます。」

「うちの母も、そこにいる栞も有資格者だからね。彼らのでたらめはすぐ分かったらしい。」と、伝子が言い、「また困ったら相談して。」と栞が言った。

「依田。そろそろ時間じゃないのか?」と伝子が言った。「そうですね。久保田刑事。マリッジブルーなんか吹き飛ばして下さい。みんなお似合いだと思っていますよ。」と、依田が言うと、「流石名MC。MCと言えばヨーダでしょう。」と福本が茶化した。

結婚式場。進行企画室。

「随分変わったなあ。中谷さんの事件の時(「大文字伝子が行く7」参照)と大分違う。」と、依田が感心した。

「あの時は無かったと思いますが、屋上にヘリポートがあります。久保田さん達の披露宴会場の部屋から、非常時に脱出出来ますのよ。」と進行企画室にいた彼女は説明した。

そこへ、社長の小田が出てきた。

「あ。いつもお世話になりまして。」「依田さん、また回りましょう。こちらが新郎新婦になられる・・・」「はい。久保田誠さんと渡辺あつこさんです。」と依田が紹介した。

「お似合いですなあ。お二人とも警察官だとか電話でおっしゃっていたが。立派な式になるよう、スタッフに葉っぱをかけて起きましょう。担当は企画室長の姪が担当します。」

「企画室長の小田慶子です。改めまして、よろしくお願いいします。」と慶子が挨拶すると、久保田とあつこも「よろしくお願いします。」と挨拶した。

「ちょっと、休憩がてら、披露宴会場を見ていただけますか。今、披露宴が終わったばかりでスタッフが片付けに入る所ですが。」

披露宴会場。

「やっぱり違うなあ。格が違うと凄い豪華。MC気後れしちゃうな。」

「あらあ。依田さんでも緊張することあるの?」「失礼だなあ。」と依田は苦笑いした。

「あ。ひとつ注文していいですか?小田さん。」「何でしょう?キャンドルサービスですが・・・。」「あ。それくらいなら推理出来ますよ、俺にも。キャンドルに細工して、火を点けさせ難くする輩。」

「勿論、対策はしてあります。キャンドルは、テーブルの上の物を、スタッフが別の物と入れ替えます、火を点ける寸前に。おっしゃる通り、そういう人ってどこにもいらっしゃるので、新郎新婦の困る顔見たくていたずらするんでしょうけど、二人にとって、トラウマになる場合もあるんですから。」

「良かった。」「まこちゃん。大丈夫よ。もしそうなっても、依田さんがうまく処理してくれるわ。言ってたでしょ、高遠さん達が。」「MCと言えばヨーダでしょう、ですか?」

「それは頼もしいわ。よろしくお願いします。」と小田が微笑した。

その時、隣の披露宴会場から、「どろぼー。」「捕まえてー。」という声が聞こえた。

久保田とあつこは頷くとダッシュした。

「気の毒な犯人だな。」と、依田が呟いた。

あっという間に、あつこと久保田が取り押さえた。警備員がやって来た。

「俺だ。」と、久保田が電話した。5分後。警察官が数名やってきた。

「生活安全課の久保田警部補です。」「警視庁捜査5課の渡辺警視です。」と二人が挨拶すると、警察官達は敬礼し、祝儀泥棒の二人を逮捕、連行した。

「あれ?今の肩書き?」と依田が尋ねると、「あ。今朝言い忘れた。二人とも、昨日辞令が出たんですよ。」と久保田が応えた。

「久保田さん。当日の警備は?副総監も出席するんでしょう?」

「そうです。特別チームを編成してあります。ついでみたいに申し訳ないが、依田さん、大文字さんを説得して貰えないですか?」「もう話してあるんですか?」

「ええ。出席はするが、それ以上は、って。」「何とかなるんじゃないですか?いざとなれば、今みたいにお二人も動けるし。」「動けないわよ、私は。文金高島田も被るし。」

慶子は考え込んでいた。

伝子のマンション。藤井の部屋。みちる、祥子、蘭、栞、高遠が押し寿司の仕方を教わっている。「なんだ、男の高遠君が一番上手いじゃないの。みんな、見習いなさい。」

高遠が一人恐縮している。「みちる、帰ろう。久保田先輩と渡辺警部、じゃなかった、渡辺警視が祝儀泥棒の常習犯を逮捕したんだって。」「はあい。」

「高遠君、二人は披露宴会場の打ち合わせに行ったんじゃ無かった?」と栞が尋ねた。

「まあ。どこでも事件は起きますよ。そろそろ伝子さんを起こして来よう。」と、高遠は出て行った。

「あの夫婦も、事件を引き寄せてばかりだけどね。」と祥子が皮肉った。

「じゃ、皆で持ち寄って、移動しましょう。」と、藤井の号令で伝子の部屋へ皆は移動した。

着替えた伝子が奥から出てきた。「眠れた?」と高遠が尋ねる。「うん。まあまあかな。何、こんなに。」「押し寿司教室開いて貰ったのよ、伝子。」と栞が説明した。

「ふうん。私は学の押し寿司を食べよう。」と、伝子は高遠が作った押し寿司を摘まんだ。「え、わかるの?先輩。」と蘭が言った。

「うん。学の押し寿司は一番上手そうなものに違いないって思ったから。ダーリンだから。」「やられた。」と蘭は後ろに転げた。

一同は爆笑した。

警察署取調室。久保田刑事と愛宕、みちる。それと、柴田管理官。

「という訳だ。損な取引じゃないだろ?」と、管理官が祝儀泥棒に言った。「旦那。都合良すぎるんじゃ?」「聞いたことないかな?アメリカじゃ、ハッカーを雇ってクラッカー対策しているって話。詐欺師を雇って、詐欺師対策しているって。」

「あ。映画で観た。じゃ、俺たちは、その格好いい役?」「そ。格好いい役よ。」と、みちるが言った。

「じゃ、これね。サインして。」と管理官が書類を出した。「旦那、判子持ってないけど。」「拇印でいいよ。」と、久保田が朱肉を出した。

本庄病院。「良かったね、南原さん。来月初めには退院出来ますよ。」と本庄医師が言った。「結婚式。間に合うかな?」「結婚式?」「大文字先輩の後輩の愛宕さんの先輩の久保田さんの。」「ああ。来月でしたか。」「服部も来いよ。大文字先輩に言っとくから。」

「いいけど。警察関係者の結婚式なんて初めてだな。」

福本家2階。福本が、劇団仲間たちと車座になって話している。「大事だなあ。でも、面白い。」と松下が言った。

「レンタル、ギリだけど、間に合いそうだよ。」と本田が言った。

「ホンは?」と、祥子が言った。「高遠に任せた。ザックリな奴。後は、アドリブな。」と福本が言うと、豊田が「ザックリねえ。」と、笑った。皆はつられて笑った。

スーパー。みちるの姉、高峰くるみがサービスカウンターで高遠と伝子の相手をしている。店長がやってくる。「『これはこれは』、大文字様。いつもお世話になっております。高峰くん。大量のご注文だとか。」「はい。」「大文字様。特別に2割引にさせて頂きます。高峰くん、総計から2割引にして。」「はい、店長。」「恐縮です。店長さん。」

「パーティーですか?」「ええ。結婚式の披露宴の余興です。」「なるほど。これからもご贔屓に。」と、店長は上機嫌で去って行った。

「大文字さん、お子さんの兆候は?」と、くるみが声を潜めて伝子に聞いた。

「まだです。」と伝子は普通の声で応えた。「みちるのところもまだみたい。まあ、待つしかないわね。」「何か?」「母がね、煩いのよ。」「うちもです。」「僕は、嫌味言われています。」3人は笑った。

サービスカウンターを覗き込んだ男が言った。「ひょっとすると、大文字先輩?」「今井かあ。今、何やってる?」「会社員だけど、テニスのコーチやってます。」「私は翻訳家だ。時間あるか?」「はい?」

本庄病院。南原の病室。服部が付き添って歌を歌っている。

「南原。来月退院出来るって?良かったな。服部も来いよ。」「俺、部外者だし。」「私は関係者だ。披露宴だけだ、参加するのは。お前も来いよ。」と、伝子は服部を誘った。

「分かりました。」と服部が応えるの確認してから伝子は「今井も来いよ。賑やかな方がいい。花嫁が喜ぶ。花嫁はな。私の妹分みたいな奴だ。きっと、喜ぶ。」

「ああ、行けそうなら・・・。」」「決まったな。学。帰ったら掃除だ、掃除。掃除だぞ。」「はいはい。何回も言わなくても、今日は僕の掃除当番です。」

翌月初旬。本庄病院。南原がMRI検査室に入っていく。

検査準備室。男が二人入って行く。検査技師をスタンガンで倒す二人。操作パネルを操作しようとしたところに声をかける伝子。「もう本当の検査は終わっているよ、今井。いや、今井の振りした誰かさん。」

今井と名乗っていた男と、もう一人の男は振り向きざまに伝子の手刀で倒された。

入って来た中津刑事。「後は任せて。大文字さん、間に合うんですか?」

「なんとかね。ドクターヘリを用意して貰いますから。」と言いながら、警察官達と入れ替わりに検査準備室を出た。本庄医師と池上葉子が待っていた。「さ、急いで屋上へ。」

「服部。南原のこと頼むぞ。」「任せといて下さい。ちゃんと退院させますよ。」

その頃。久保田刑事の披露宴会場。

会場にいた招待客の中から一人の女が仮面を着け、天井に向け拳銃を撃った。そして、副総監に拳銃を突きつけた。どこからか現れた3人の仮面の男が袋を持っている。

「そこのMCの男!」と女は言った。「は、はい。」と依田は縮み上がった。

「そいつらを手伝って、拳銃、スマホを回収しろ。」と依田に命じた。

暫くして、回収が終わった。拳銃を持っていたのは、久保田管理官と副総監のSPたちだけだった。仮面の男達は、部屋の奥にある掃除用具入れに袋を収納した。招待客は皆、会場の部屋の隅に退いた。

「やっぱり、あんただったのね。牧村みどり。副隊長から昇格させてあげたのに。」と、あつこが言った。「こんなことしたくなかった。でも、どうしようもないのよ、隊長。」と、みどりが仮面を取った。

「国賓館の時も、志願したのはあんたの雇い主から指示があったから?」「よく分かったわね。」

本庄病院の屋上。「急病人じゃないんですか、本庄先生。」「急病人が出るかも知れない所に行って貰う。」「追って、警察から連絡が入ります。警察関係のお仕事よ。高遠君、怖がっていないで早く乗りなさい。」と池上葉子は言った。

披露宴会場。「牧村君。血迷うな。君の仕事ぶりは渡辺君からよく聞いている。将来のことを考えれば・・。」「将来?血迷っているのは管理官でしょ。こんなことして、将来があるはずがない。」

「MC!」「は、はい。」「一緒の女と副総監を立たせろ!」依田が慶子と副総監を立たせると、今度は「副総監を跪かせろ!」とみどりは命令した。

「木村達也を覚えているか?」と、みどりは副総監に尋ねた。「いや・・・。」

「20年前。お前が盾にした為に犬死にした刑事だ。私はずっと、お前の復讐がしたかった。」

「それは違うな、牧村。」と、仮面の男の1人が仮面を脱いで言った。「お前の従兄を殺したのは、副総監じゃない。お前に事実誤認をさせた男こそ、真犯人だ。お前の復讐しようとしている相手が違う。」「筒井さん。本当のことなのか?・・・いや、嘘だ!!」

みどりが拳銃の引き金を副総監に引こうとした瞬間、部屋の隅にいた松下や本田が紐を引いた。途端に、天井近くにあった箱からテニスボールが降ってきた。ボールはみどりの方に転がっていく。

思わず、みどりが拳銃をそらした。その時、飛んできたテニスボールが、その拳銃を吹き飛ばした。「観念するんだな。皆さん、遅れて申し訳ない。衣装替えに手間取ってしまってね。」と、バットウーマンコスプレの伝子が言った。

近くにいた副総監のSPが副総監を待避させ、久保田管理官がみどりを確保した。入って来た柴田管理官が久保田管理官に手錠を渡し、久保田管理官はみどりに手錠をかけた。

そのみどりの腕を筒井がたくしあげた。麻薬か覚醒剤か、沢山の痕跡があった。

「やはりか。」と、筒井は呟いた。みどりは柴田管理官の部下が連行した。筒井も姿を消した。

仮面を着けていた残りの2人が、仮面を取り、柴田管理官に拳銃を渡した。「旦那。所持品は、奥の掃除用具入れです。」「よくやった。」2人は愛宕とみちるに連れられ、出て行った。祝儀泥棒の二人が、不審な三人組を柴田管理官に通報し、三人は密かに逮捕され連行されていた。

慶子が掃除用具入れを解錠し、警察関係者に所持品を渡して行った。

依田は呆然としていた。「おい、大丈夫か、ヨーダ。」という高遠の声に正気を取り戻した。

「高遠。じゃ、あれは?」「おねえさまに決まっているでしょ、依田さん。」とあつこが言った。「着替え終わったようだな。」どこからともなく、伝子が現れた。

「さ。続けましょうか、未来の旦那さん。」と慶子が声をかけ、披露宴は再開した。

伝子のマンション。「じゃあ、警察のヘリが間に合わないから、ドクターヘリを使ったの?」「池上先生に僕から頼んで貰った。スーパーヒーローの弱点は、同時に複数の現場に出向けないことだからね。」と高遠が言った。

「早着替えは、祥子が予め教えておいたんだよ、先輩に。サチコの世話で作戦に参加出来なくて悔しがっていた。」「そりゃ悔しいわよ。」と、福本の言葉に祥子が反応した。

「俺たちは参加出来て嬉しかった。芝居の仕掛けをあんな使い方するなんて、高遠さんって、やっぱ凄い。」「同感。」「凄い凄い」と、松下、本田、豊田が口々に言った。

「照れるなあ。」と高遠は赤面した。

「流石、小説家、ですよね。」と愛宕が続けた。「みんな、あんまり褒めるなよ、つけあがるから。」と、伝子が言った。

「でも、よく間に合ったわねえ。」と栞が感心した。「間に合わない時は、新郎新婦が何とかするって言ってくれたから。犯人の目星はついていたからね。衣装替えが手間取ってって言ったら、皆黙ってて。」

「大文字。受け狙ってたのか?大したもんだ。これ、領収書。高遠、払ってくれ。今回はレンタルなし。実費な。」と、物部が言った。

「私も行きたかったな。」「南原はどうなんだ、その後。」「最終的な抜糸は来月です。でも、もうあまり痛まないですね。」と、南原が言った。

「楽しそうな倶楽部だな。」と、服部が言い、「倶楽部?」と南原が返した。

「みたいなもんでしょ。」「中年探偵団って言う人もいるけどな。」

「そうだ、何で、今井って人物が偽物って分かったの、伝子さん。『掃除』を3回言われたから『調子を合わせろ』の暗号ってすぐ分かったけど。」

「実はな。今井は死んでいるんだ、小学校の時。」と伝子が言うと、「でも、卒業アルバムには、クラスや部活の仲間と写っている?親御さんの希望ですか。」

「さすがは教師だ。その通り。死んだ息子は、皆と卒業したかったに違いないからって。」

「で、あの犯人は卒業アルバムを見て、久しぶりだから、分からないだろうと。偽物に扮した。名簿詐欺の名簿ですね。」と、愛宕が続けた。

「それで、南原の検査に襲ってくるだろうと張り込んだんですね。」

「多分、他の事件があれば、時間稼ぎが出来る、と計算したんだろうな。あ、愛宕。20年前の事件って?」「アンタッチャブルって。久保田先輩は調べるなって。」

「そうか。復讐劇だったことは分かった。副総監の替え玉を狙撃したのも、国賓館の事件(「大文字伝子が行く13」参照)の黒幕も、牧村みどりだったんだな。筒井が腕をまくって注射痕を確認していたから、何らかの組織も絡んでいるに違いないな。」

「あ。そうだ。ヨーダ。いつ婚約するの?社長が付き合っているって言ってたぞ。」と高遠は言った。

「あ。」、と依田は絶句した。「すまんな、蘭。依田の嫁は蘭がいいと思っていたが、あの社長はどうもヨーダのことがお気に入りでな。ゴルフに誘ったりする位で、姪をキャディーにして観察させていたらしい。姪の慶子の一目惚れで、久保田刑事の結婚式をいい機会だから、と付き合いさせたらしい。」

「私はいいわよ。依田さん、素敵だけど、譲るわ、その人に。私、まだ若いし。」と、蘭は言った。

依田は暫く考えていたが、「折りを見て、正式にします。」と泣いた。

「泣くことはないだろ、依田。おめでたいことじゃないか。なあ、逢坂。」と物部が言った。「そうよ。依田君。少し早いけど、おめでとう。」と栞が言った。

皆も口々に「おめでとう。」と、言った。

「しかし、バットウーマンかあ。見たかったなあ。」と服部が言うと、「僕もだ。」と、南原が同調した。

「バットウーマンは見られなかったのが残念なら、ヨーダ、あれ、見せてやれよ。」と福本が言った。

依田はスマホに保存してある、学祭の時のワンダーウーマンと事件の時(「大文字伝子が行く9」参照)のワンダーウーマンの姿の伝子を服部に見せた。ついでに、チアガール姿も。

「凄いなあ。南原はこんな凄い先輩と親交があるんだな。羨ましい。」と服部が言うと、「お前も既に『準レギュラー』だよ。」と南原が笑った。

そこへ、山城順が現れた。「あ。もう一人、準レギュラーだ。」と福本が言った。

「あのー。先輩。高遠さん。皆さん。先日はお世話になりました。(「大文字伝子が行く16」参照)」

「ああ。山城、紹介しよう。南原さんと同じく、大文字先輩の高校の後輩で服部さん。」と、愛宕が言った。「あ、よろしく。」と、山城が皆に頭を下げて回った。

「僕はコーラス部じゃなかったけどね。」と服部が言うと、「部活の後輩でないパターンは初めてだけど、ようこそ、中年探偵団へ。」と、高遠が言った。

「これ、何がいいか迷ったんですけど。」と山城は商品券を高遠に差し出した。

「そんなの、いいですよ。ボランティアなんだから。」と高遠が言うと、伝子は「いいよ、学。おばあちゃんに言われたんだろ。貰っておこう。」と言った。

祥子、みちる、藤井がカツサンドを運んだ。

「さ、沢山召し上がれ。今回はみちるちゃんと祥子ちゃんが作ったカツサンド。皆で点数点けて。」

そこへ、久保田管理官がやってきた。「大文字君。牧村みどりの黒幕はいなかったよ。20年前の事件の恨みが原因だ。弱みを握った者を配下にしていたらしい。」

「じゃ、当面、副総監が狙われる心配はないんですね。」「ない、と言いたいが別口があるかも知れん。ま、事件は解決した。誠達も安心して新婚旅行に旅立った。大文字君や中年探偵団には非常に感謝している、と言っていた。」

「管理官もどうですか?おいしいですよ。」と、蘭が管理官にカツサンドを勧めた。

「うん。うまい。誰が作った?」「私と祥子さんです、管理官。」と、みちるが言った。

「白藤が?料理苦手と言っていたが。」と管理官が感心し、「お隣の藤井さんは元料理教室の先生なんです。」「いい師匠に恵まれた訳ですな。藤井さん、今度甥の嫁にも教えてやって下さい。」「はい。いつでも。」

「渡辺警部、いや、警視も料理苦手なんですか?」と高遠が言った。

「料理、じゃないわね。私食べたことあるの。あれ、サチコなら即死よ。」とみちるが応えた。

「料理苦手な人間が言う台詞かよ。」と愛宕が呆れて言った。一同は爆笑した。

試食会はまだまだ続く。

―完―


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