第18話 上海攻略/多勢に無勢?

ボストア級ステルス艦アーシェント

 この艦は、隠密、索敵、強襲に特化した次世代型ステルス艦であり、位置づけ的には強襲揚陸艦と言う立場にある。未来では初の量子リアクター搭載艦であり、主に宇宙空間での作戦をメインとして運用されていたもので大戦中には、その高度なステルス性能で多大な戦果を挙げた名鑑である。

 現在はレインと隼人の母艦として運用されており、現在光学バリアを用いて日本海上空を航行している。艦の内部にはラビロンの小型艦が停泊していた。


 『戦闘記録。訓練課程B1-2終了。初戦にて敵IAレイヴン、チェイサーの撃破を確認総数約60体。本戦闘における篠崎隼人の戦績データをアップロード。データから篠崎隼人の育成状況は良好。しかし、過度のストレス並びに戦闘能力の不足によって、戦闘継続は一時中断。戦闘評価:C』


 初陣にてIAを60体撃破した事にレインは感心した。スーツのお陰にせよ数字を見れば誰もが驚くだろう。今回の戦闘による敵IAの数は少なかったがレインはSN-1レイヴンの戦闘データから興味深い事が分かっている。それは前回よりも全体的にIAの性能が向上していることだった。近接戦が大幅に強化されている印象が見受けられるのがデータからわかる。


 ...本番はここからですか...


 ピピピピピッ

 

 アラームが鳴るとカプセルから隼人が出てきた。身体をタオルで拭きながら脱衣所に向かうと衣準強化補助服インナーを着た。先の戦闘から数時間は経過しており現在は午前9時を回ったところだ。



 「おはようございます。調子はどうですか?」


 「ああ、なんともないよ」


 「了解です。出撃まで1時間あります」

 

 「このまま訓練してくるよ。ご飯はさっき食べたし」


 「わかりました」


 そう言って隼人は部屋を後にした。


 ...すこし不機嫌でしたか?...


 レインは隼人の素振りからそんな感じがしていた。


 ...まぁ、いいでしょう。彼には死んでもらっては困ります...


 レインにとって隼人は現状においてIAに対して唯一まとも対抗できる存在だ。一刻も早く上達してくれなくては人類を救う事などできはしないのだから。


 ...まさか昨日の事をまだ根に持ってるのではないのでしょうか?...


 そう思い昨日の出来事を振り返った。


―――――――――――――――――― 


数時間前


 帰投してデッキから戻るとレインが出迎えてくれていた。


 「隼人、お疲れ様です」


 「う、うん。お疲れ様。さっきは助かった、ありがとう」


 ヘルメットを脱ぎ取ると隼人は疲れ切った顔でそう答えた。


 「いいえ、サポートAIとしてできる限りのことをしたまでです。まずは休みましょう」


 「うん」

 

 レインから、光が照射され隼人の体をスキャンする。


 「外的な損傷はほとんど見受けられません。打撲と精神疲労を検出しました。カプセルに入ることを推奨します」


 隼人は言われた通り着替えて治療カプセルに向かった。

 カプセルに入りマスクをつけたら、液体が下から湧き出て皮膚に浸透し、所々の青譚が消えていく。目は開けていても違和感はない。効能の一つに体の神経細胞の修復や体の歪みや異常な部位を直す効果がある。そのせいで、部位が少ししびれるような感覚が出るのは、身体が安定したバランスに戻るために起こる身体的現象らしい。


 これがとても気持ちよくてマッサージされているかのような感覚だ。まるで熟睡直前かのようなうに瞼が重くなるのを感じた。

 




 目が覚めると眼前には、レインがいた。


「おはようございます」


「おはよう。今何時?」


「隼人が熟睡してから10分しかたっていません」


「なんだって」


 確かに時計を見ると確かに10分しかたっていなかった。しかし、身体は何のストレスも感じないぐらい快適で目も頭も、全回復した快眠したての朝のような感じだ。


 「人間は体に必要なエネルギー量を与えると睡眠時間は短くなるのです」


 ...なるほど、分からないが体は良くなったらしい...


 カプセルから出ると、レインがある提案をしてきた。


 「隼人、今回の戦闘で立体機動戦闘術の訓練ができませんでした。なので、今から教えますので準備が出来次第仮想訓練に参加してください」


 それを聞いて身が震えるのがわかった。新しい訓練と聞いて少しワクワクするのは、おかしい事なのだろうか。


 「わかった。ちなみにどんな感じの訓練になるの?」


 「やってみればわかりますよ」

 

 「そっか」


 指示のもと軽やかな足取りで仮想訓練に挑むのだった。


――――――――――――


「これじゃ駄目だ」


 早く撃ち次の目標を捉えて、射撃。接近戦では光粒子剣で切り伏せる。ターゲットは、次々と破壊されていくが数が多い。360度どこからともなく攻撃が襲ってくる。

 

 背中に鈍い痛みが走った。


 「クソ、こっちか!」


 隼人は振り返り名が光粒子剣フォトンソードで切る。

 立体機動戦闘術。あれを見たとき隼人は驚愕した。こんな動きができる人間がいるのかと、訓練映像を見たがバカげた機動をしていた。敵の状態をすべて把握したような動きで相手を翻弄し隙をついたところを一撃で叩く。攻撃の体制が回避行動と同一させることで、無駄な動きをしないようにしている。しかも搭載している武装をフルに生かしてだ。一人で複数の敵を相手取る戦法。はっきり言ってどこぞの天パでない限りできないであろう動きだった。


 「こんな戦法考えたのどこのバカだよ!」


 吠えるが、そんな余裕などすぐに過ぎ去る。正直甘く見ていた。自分にできるような物なのだろうと隼人は高をくくっていたのだ。普通の人間には無理を言わせるほどの情報処理と先読み能力が必要となるのがこれの特殊なところだろう。記録によるとこれをできた兵士は過去に一人もいないそうな。


....当たり前だ、出来たら人間じゃない...


 遂には、足を使って近くのターゲットを蹴り飛ばす。


 「そっち!」


 ヴァリアブルライフルとリンクして腕を後ろに向ければノールックショットまがいなこともやって見せる。


「クッソーーー!」

 

 そして、このなぶり殺しに会うかのような訓練は5時間近くまで行われるのだった。


 

 そして現在、


「これよりブリーフィングを始めます」


 隼人はベクタースーツを装着しLPDレーザープロジェクションディスプレイを見つめる。


「今回作戦は、上海中枢部にある敵拠点の殲滅です。ここでは主にIAの補給を目的とした施設が確認されています。これを破壊し周辺IAの撃破をお願いします。また、増援が予想されますので十分注意を」



 「了解」


 「大丈夫です。訓練の成果は保証します」


 「まだ、実践してないのにそれ言えるの」


  軽蔑するかのようにジト目でレインを見つめる。


 「何事もやりすぎな位が良いと思われます」


 「AIにあるまじき発言なんだけどそれ」


 「さぁ、行きましょう。私達の戦いはこれからです」


 「おい!話しを逸らすな!」


 逃げたレインに問い詰めるも、ブリーフィングは終了してしまった。


 「まあ、いいや。後で話そう」


  行き場のない思いを堪え隼人はカタパルトに移動する。


 前には高度3000mの世界が広がっている。足を固定し、各部の動作チェックを行い準備は完了した。


 3...2...1...


 「行くぞ」


 再戦と訓練の成果を胸に空中に身を大空へ投げ出したのだった。



 

―――――――――――――――――


 隼人は以前第二次世界大戦に従軍していた祖父から戦場での話を聞いたことがあった。人肉の焼ける臭いは、タコが焼けるような臭いだと。それが広範囲に広がるのだとか。確かにそうなのだが、付け足すなら卵の腐敗臭がすることだろう。空中でも臭いが鼻に響く。


 『ネクシス1、前回のやり方は覚えていますね』


 「強襲の方法だよな。覚えてるよ」


 『では最初はそれでいきましょう』


 「了解」


 索敵スキャンで周囲を探る。


 ...見つけた...


距離はここから3㎞もない。5体が飛行して巡回しているようだ。


 粒子スラスター全開で一気に距離を詰める。


 光粒子剣フォトンソードを展開し突き出すようにして真正面から編隊エレメントの中に突っ込んだ。


 刺突、急制動をかけ粒子スラスターを切りSN-1レイヴンを放り投げる。直ぐに粒子スラスターを全開にして離脱。



 残り4体のSN-1レイヴンは、一呼吸空けて反応したがもう遅かった。カメラには爆散した両機が視界に移りこんでいたのだ。


 即座に周囲索敵するとレーダーから上方にいることが分かる。直ぐにAG5で迎撃を始めるが高速で急降下しながら迫る的に弾が当たるはずもなく、前方からのビームで1体に命中した。爆発する前には既に離脱している。


 隼人は着地すると大地を蹴り、光粒子剣フォトンソードで切り裂く。レーザーで残りの二体を撃ち抜いた。


 「よし!」


 『撃破確認』


警告音アラートが頭の中に響いた。


 『11時方向から、IA多数接近中』

 

 レーダーでも確認できた。視界が敵反応を記す赤で塗りつぶさるほどの数だ。


  「まじかよ...」


 余りに多すぎる、そう思うと全身に悪寒が走り隼人は咄嗟に振り返り敵とが反対方向へ動いた。


 『ネクシス1、どこへ行くのですか?』


 「....逃げる」


 『無駄です。見つかってしまっては、交戦する以外の選択肢がありません。貴方を地平線の彼方まで追い続けるでしょう』


 「じゃあ、あれとどう戦えばいいんだよ!」


 隼人は止まって後ろを指した。そこには、数えきれないほどのIAが見えていた。見れば誰もが言うだろう、単身で相手にできる量じゃないと。それもそのはず、確認できただけでも400体以上のIAがこちらに接近しているのだ。


 『貴方が、今までやってきた訓練を思い出してください』


 「それで倒せると思うのか」


 『できます』


 「根拠は?!」


 『貴方を信じているからです』


 「・・・」


 隼人の頭の中は恐怖と使命感で混乱していた。それはもう頭痛と吐き気を模様してしまうほどに。収まらない動悸が限界にきて咄嗟にバイザーを開いて開けて中の物を吐き出した。


 自ら背負っている物よりも自分の命が優先になってしまうのが今の自分なのだと隼人は思った。それを増長するかのように恐怖心がその思いを掻き立てる。


 『貴方以外にやれる人間はいないんです。そうしなければ貴方の知り合いや友人でさえ命を落とすことになります』


 ...友人誰だっけ?...

 

 朦朧とした状態で思考を働かせる。自分を蔑んだり、バカにしてくるような人の中に自分を見てくれる人は誰かいただろうか。すると、一瞬だけ歩美と長浜そして沙穂の顔が脳裏に浮かんだ。


 思い出した。三人は隼人にとって大切な友達。彼女は今でも声をかけてくれる。それだけでも嬉しかった。長浜は本当に数少ない一人の親友だった。沙穂は小説仲間としていてくれだけでも心の支えになっていた。彼等だけは殺されたくなかった。


 ...三人のために戦うというのも悪くないのかもしれない...


 あんな辛い思いをもう失ってたまるかと、そう思うと膝をついてゆっくり体を起こした。


 一旦深く体から緊張を吐き出すように深呼吸する。


 ...篠崎隼人、準備はいいか...


 バイザーに隠れた瞳は、一層覚悟が決まったまっすぐな瞳へと変わっていた。


 『一定の熟練度に到達しました。条件を解放、リフレクトフィールド展開します』


 突然のアナウンスに隼人は驚いた。


 「今のは?」


 『ベクタースーツが装着者の熟練度に応じて機能の一部を解放しました。解放した機能は”リフレクトフィールド”。これにより、大気の影響を受けにくくなり、より機動力が向上します』


 「なるほど」

 『索敵スキャン完了。敵IAの情報を表示します』


 眼前には、SN-1レイヴンSD-1Aチェイサーが確認できた。


 眼前に迫るIAを前にして向き合うと重たい足で踏ん張り粒子スラスターの出力が上昇していく。


 




 「突っ込む!!」


 粒子スラスター全開で隼人は、敵IA郡に正面から突撃した。


背部10連装ミサイルポッドをマルチロックし、発射。


 『着弾確認』


 全弾命中するが、それを無視するかのような物量が隼人に迫る。

 

 「はぁー!!!」

  

 隼人は、接近してくるSN-1レイヴンをヴァリアブルライフルと光粒子剣フォトンソードで次々と切り伏せていく。


 『警告、ミサイル接近中』


 飛翔するミサイルは背部の小型ガトリングユニットが起動してミサイルを迎撃していく。


 目視で隼人は接近するSN-1レイヴンを捉えるとヴァリアブルライフル構えてビームを放つ。向こうもそれに対応して回避しつつ接近する。隼人は一気に加速して距離を詰めると左腕に光粒子剣フォトンソード展開しさらに加速。SN-1レイヴンは、隼人の想像以上の加速に対応できず、両断された。


 『警告、SD-1Aチェイサー接近中、数30』


 ...多いな...


『ネクシス1、ステップブーストを覚えていますか?』


 「もちろん」


 『それで回避可能です』


 隼人は、粒子スラスターを瞬間的に噴射し、まるで空中を跳ねるかのように時にはステップを踏み、特攻してくるSD-1Aチェイサーを躱す。


 隼人はマガジンをレーザーに切り替え、チャージしながら横に回転すると同時に眩い光線が隼人を中心に走った。


 周囲を飛翔していた、SD-1Aチェイサーは光線に両断されすべて爆散する。


 リロードして、直ぐに次の目標へ移動した。


 警告音アラート。座標は右だ。


 隼人は直ぐに急制動を掛けると時間差で右から接近するSN-1レイヴンを見た。実体剣を振りかぶって一文字に切り掛かるが、隼人が急制動を駆けたせいでタイミングがずれ隼人の目の前で空ぶる。

 隼人は直ぐにSN-1レイヴンの胸部装甲を掴み光粒子剣フォトンソードをで頭部を貫く。そのまま、斜め後ろからの鉛玉の雨に対してそれを盾に接近する。


 SN-1レイヴンの隙間から迎撃しつつ、抵抗力を失ったところをヴァリアブルライフルで穴の開いた胸部装甲にねじ込み発砲。


 レーダーでその後ろからSD-1Aチェイサーが数体接近するのを確認すると、ヴァリアブルライフルを強引に抜きながら、機能停止したSN-1レイヴンを蹴る。


 SD-1AチェイサーSN-1レイヴンに衝突する寸前にミサイルを発射。着弾、誘爆し共に爆散した。


 隼人はSN-1レイヴンを盾代わりとして攻撃を防ぎながらIAを墜としていく。装甲が戦車とほぼ同じなため、多少の実弾を物ともしないのがこれのすごいところだろう。

 

 「こりゃ使えるな」


 突然、警告音アラートがなった。


 『注意、ロックオンされています』


 前方だ、隼人も一瞬だけ隙間から確認できた。


 ...カール・Mk-2!...


 隼人は、持っていたSN-1レイヴンを離して回避する。瞬間、SN-1レイヴンが木端微塵に吹き飛んだ。


 ...あっぶな~...


 今度は左斜め下から強い衝撃を受けた。

 

 「!?」


 SN-1レイヴンが隼人の脇腹に抱き着き加速したのだ。


 空中で振り回されながら隼人は、肘で叩き引きはがそうとするガッチリホールドされていて剝がれない。進行方向を見ると向かう先は倒壊したビルだ。


 「こなクソ!」


 ヴァリアブルライフルをラックに固定し、右手でSN-1レイヴンの手首を握ぎり力を入れる。


 ミシミシミシミシバキン!


 金属の拉げるを音を横耳にマニュピレーターを千切り取る。

 ホールドが外れると、一瞬SN-1レイヴンの体勢が宙に浮くのを見逃さなかった。腕力で無理やり引き剥がし、ガトリンングユニットの餌食になった。


 警告音アラート


 その場から離れると、目の前すれすれをロケットが通り過ぎていった。


 「やっぱり早いな」


向き直ると加速を掛ける。

 

 ...ならばそれ以上に動くだけだ..


 2射目が放たれる。隼人は加速を止めることなくスッテプブーストで回避する。発射直前に警告音アラートが未だ助けになっているのが救いだろう。

だがこの時、隼人はあることに気付いた。


 ...ロックオンされた時に動きが止まった?...


 タイミングが合えば、その隙に叩くことは可能だが一つ間違えば直撃の後にハチの巣にされる未来が見える。


 ...チャンスは一度きり...


隼人はいつでも撃てるようにヴァリアブルライフルを構え接近する。


 警告音アラートが鳴ると隼人は斜め前に蹴り出すように飛んだ。


瞬間、ロケットが隼人の真横を通り過ぎた。


 ....今だ!....


急激に加速を掛けて、一気に自分の間合いまで詰める。

発射されたビームは、ランチャーを直撃し爆散。


 「うおぉぉ!!」


 爆発でよろけた隙に光粒子剣フォトンソードSN-1レイヴンの横っ腹を両断した。


 『目標全滅を確認。お見事です』


 「ハァ...ハァ...何とか出来た」


 荒げた呼吸と、今までの戦闘の余韻が自分に達成感を匂わせる。

 だが、それはまだ早かった。


 突然レーダーが何かを捉えた。


 『高速で接近する機影を確認。数は3』


 隼人は向かってくるIAを見た。SN-1レイヴンをベースとした鋭角的な容姿だ。


 「識別名SN-1FレイヴンFと判定しました。SN-1レイヴンの近接タイプです。機動力が通常SN-1レイヴンの3倍であり、最大の特徴は両腕から繰り出される拳撃です。接近されればMマッハ4の拳撃が襲ってきます』


 「嘘だろ!」


 『なので一定の距離での迎撃を推奨します』


 3体は、3方向に分かれて襲い掛かった。隼人は一定の距離でを保ちビームで迎え撃つ。


 機動力が他よりも上なだけ今までの様に命中することは難しい。余裕で避けられてしまう。3体は連携しながら前と左右から取り囲むように隼人に接近する。


 隼人は前進し前のSN-1FレイヴンFを避け包囲網から脱すると、急速反転しミサイルをロックし発射。


 SN-1FレイヴンFも反転した。ミサイルに対し避けるそぶりもせずに寧ろ手持ちのビームライフルですべて迎撃しと再度接近する。


 そこからはドックファイトが始まった。間合いを詰められないように隼人は自分の持ちうる兵装で応戦する。対するSN-1FレイヴンFもその高い機動力で追いかけた。


 ガトリングユニットで迎撃しながらもじりじりと間合いを詰められる。


 

 『ネクシス1、後方に注意を』


 「なに?」


 ドカァン


 直後、背中に衝撃が走った。体勢を崩し地面を転がるように転倒した。


 ...なんだ!...


 直ぐに起き上がり前を見ると折り曲がっている信号機があった。


 ...あれにぶつかったのか...



『ネクシス1、前に!』


 レインが叫んだ瞬間隼人は前を見た。SN-1FレイヴンFが一気に間合いを詰める。


 「しまった!」

 

 SN-1FレイヴンFが懐に飛び込むと足を大きく踏み込み構えの姿勢を取った。次の瞬間、空気が割れる音と炸裂する拳が隼人の脇腹を殴打した。


 「ごはッ!」


 今まで感じたことない強烈な痛みが襲ってきた。その威力から後方に吹き飛ばされ瓦礫に激突する。





「ハァ....ハァ....」

  

 余りの痛みに呼吸すら困難で脚が上がらないし口が動かない。起き上がろうにも、脚が動かないのだ。視界には迫りくる3体が写った。


 「がぁーーーー!」


 叫びながら、激痛を上げる体を無視して無理やり起き上がる。


 手元にあるヴァリアブルライフルをラックに移し迎撃させながらその場を離れる。直後、その場所に拳撃が叩き込まれた。


 「クソ!」


 思考する隙などなかった。させることすら許されないのが戦場であり、すべての判断を直感で下すことが生き残る最善策なのであることを隼人はこの時に理解した。


 ビームの雨をバク転で回避しその勢いで、再度仕掛ける。隼人のビームが、SN-1FレイヴンFのビームライフルを破壊した。誘爆する前にライフルを放り捨て被害を免れるがまだ奴は生きている。


...妥協はしない!...


 隼人はミサイルポッドをパージし奴の目の前に蹴飛ばした。そこにまたも拳撃が放たれ、衝撃でともに爆発する。しかしそれはなかった。煙から出てきた奴は腕と腹部が少し吹き飛ばされただけだ。構えの姿勢で向かっ来るが隼人もそれを予測していた。


 自らの距離に入ったSN-1FレイヴンFは、拳撃を繰り出した。だが、ここで片腕しかないことからバランスを保てずに大きく体が流れる。隼人は光粒子剣フォトンソードを手に持つと、奴の頭を後ろに回り込み首元でビーム展開した。


  「一つ目、次」


 機能停止したSN-1FレイヴンFを振り捨てると前方から2体が襲ってきた。片方はライフルをもう片方は実体剣は握られている。隼人はヴァリアブルライフルで迎撃させながら、実体剣の方に接近する。接触する直前に、振り下ろされた剣に対しは腕で振り払うようにして弾いた。体勢がぶれたところを光粒子剣フォトンソードで斜めに切る。


 「2つ目、次ラスト!」


 残り一体に対して真正面から突進する。ビームが数発関節に当たって痛みが走るが被弾は覚悟の上でのことだった。一定の距離になるとライフルを捨て拳撃を放った。隼人は左腕で構えて拳撃の軌道を逸らすとを懐にタックルをかける。SN-1FレイヴンFが腰からくの字に曲がった。そこから膝蹴りをかまして後方に大きくよろける。さらに追撃で全身を縦に回転をかけてアッパーを繰り出した。勢いで後ろに飛ばされた隙に片腕を突き出し照準を定める。瞬間、乾いた空気音と共に電磁加速された光粒子剣フォトンソードSN-1FレイヴンFの胸部に突き刺さる。隼人は接近し突き刺さった光粒子剣フォトンソード逆手で引き抜いた。

 

SN-1FレイヴンFは損傷部からスパークを起こし爆散した。


 『拠点見えました』


 「あれか!」

 

 前方には四角い大きなコンテナのような物体が見えた。脈打つかのように赤い線が走っている。拠点からの対空砲火が隼人を襲う。

 マガジンをビームに切り替え照準を定める。 


 「終わりだ」


 瞬間、砲身から特大のエネルギーが放射された。実弾は焼かれ風を切り、着弾と同時に大地は焼かれた。最後は目視で確認し機能停止を確認する。

 

 『目標の撃破確認。作戦区域の敵影を認めず。作戦終了お疲れ様です』


終わったのだ。レインの声を聞いた瞬間、身体にどっと疲れが押し寄せた。


「やっと終わったか」


 疲れ切った声を絞るように出すと地面に降り立ちそのまま座り込んでしまった。隼人は今回の戦闘で分かったことがあった。それは、怯えればすぐに死ぬ。死を伴う戦場で感情を出せば判断を遅らせ誤らせて死ぬということだ。そこに思考は不要であり、直感によって行動することで生き延びることができるということを学んだ。

 

 緊張から解放され腹部がにズキズキと痛みが走る。そのせいで呼吸をするたびに刺さるような痛みが苦しく感じた。


診断結果からさっき受けた拳撃で装甲シェル越しに打撲とあばらが1本折れていた。装甲シェルに損傷がないのは、分析をかけると結果外部と内部の両方を破壊目的とした攻撃であることが分かったのだ。


『よく頑張りました。今回の戦果で上海のIAは掃討完了しました。まずは、帰って体を休めてください。本当にお疲れ様でした』


 「うん、そっちもお疲れ」


 AIに疲労は感じないであろうが隼人は労いの思いも込めてレインに感謝した。疲労で動けない隼人は、迎えに来たサプライドローンに回収されて戦場を後にしたのだった。

 


 

  


 

 

 

 


 

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