第2話 転生前に十分に検討したい(主人公は慎重です)

第2話と第3話は本編ではありません。転生の経緯を説明しています。まどろっこしい場合には第4話へスキップしていただいても大丈夫です。


♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡


 俺の名前は……。なぜか思い出せない。前世のことは忘れろということなのか。

 太陽系第三惑星、地球、日本、山梨県出身。両親はイギリスからの帰化外国人。外見はいわゆる欧米の白人だが、中身は完全な日本人。英語は日本人の学校レベルだ。

 大学から東京へ出て、卒業後もそのまま東京でサラリーマン。その2年目だったのは記憶している。抜け落ちているのは個人としての情報だけのようだ。


 死んだ記憶はないのだが、目の前にあからさまに「神様」と思われる存在がいる。これはやはり死んだと理解するべきだろうか。

「突然でたいへん申し訳ないのだが、あなたにはある世界を救ってもらいたいのです」

 神様は4柱いた。

 なんとなく地・水・火・風を想起させる。

 その中で地を思わせる神が代表で話していた。

 他の神はじっと俺を見つめている者と、感心なさげにそっぽを向いている者、楽しそうに俺をみている者とだった。落ち着いてまともに話せそうなのはこの1柱だけだからこちらも助かる。

「俺は死んだのですか? 死んだ記憶はないのですけれど」

「死んではおりませんが、他の世界へ転生していただくことになりました。死んでいないのに転生といってよいかわかりませんが。なににせよ、その点はお詫びしなけれなばいけませんね」

 誠実な謝意は感じられるが、どこか人間とは感覚がずれているようだった。神様が相手ではそれはしようがあるまい。ここで怒ったり取り乱してもどうにもなりそうにない。

「そうですか……。詳細は後で聞かせてください。前世にそれほどの思い入れがあるのではないので、目的と条件次第では構いません」俺は答えた。「詳しいお話を聞きしたいです」


 俺は平凡な家庭の次男だった。大学卒業後にサラリーマンになってから、その平凡と思っていた暮らしを維持するのは決して容易なことではないことを思い知った。両親は経済的にもその他の面でも家族のために頑張ってくれていたのだ。

 俺は大学で工学を学び、プライム上場企業にエンジニアとして就職した。

 仕事はそれなりにやりがいもある。職場の人間関係も特別親しい相手がいるのでもないが、特に支障はない。楽に過ごせていた。

 人生としてはまずまずのスタートをきれたと思う。だから嫌だとか、人生を捨てていたというのではない。一方でそれらは絶対に捨てられないというものでもなかった。若死にするのは家族に申し訳ないなと思う。でも兄もいるしな。何か新しく生きがいが得られるならばそれもよいと思えた。


「それはありがたいところ。

「転生先での目的はその世界を破滅から遠ざけること。転生先はそなたの知識に基づいていえば、剣と魔法の世界というのが最も適切であろう世界だ。そこに今ある危機的な状況を一定程度でよいので解消してもらえればよい。このままだと人族が自滅してしまいそうなのだ。なんとか発展しつつ自滅を回避してもらいたい。

「条件としてはそなたの望むスキルを与えましょうぞ。もちろん我々が地上の者に与えられるスキルには限度があるし、世界のバランスを悪化させるようなものでは破滅が近づいてしまいかねないから認められぬ。それでは本末転倒なのでな。例えば、神のような力を求められても与えることはできぬ」

「その目的はまるでSDGsみたいだ」

 俺は思わずつぶやいた。

 SDGs、持続可能性、サステイナビリティ。動画やTVでもよく扱われるようになっているし、大学でも持続可能性、サステイナブル、SDGsについての講義があった。

 これらの言葉は理解はできるか、あまり関心をもっていなかったというのが俺の正直なところだった。

 それがまさかこんな転生するタイミングで聞く話に結びついてくるなんていうのは想定外だ。自分たちの生きる地球を維持しようという話だったはずだが、まさか死後の転生の目標設定になるとは……。

「環境保全が依頼されている?」

「部分的にはそうとも言えるが、それだけではない。いずれにしても簡単なことではないのだよ」

 神はうなった。

「我々の世界では主に人族が世界に広がっている。人族にはそなたと同じ姿形をした人間もおるが、エルフやドワーフといった人と似た種族も人族に含まれる。人型の身体を持ち、知能を有する存在全般ということじゃな。

「近年、それなりに多くの人族の間で急速に刹那主義的な考え方が広まっておるのだ。長期的な視点を持たず、目先の利益や快楽を求めてしまう。多かれ少なかれ人族の修正でやむをえないところだったが、魔法技術の成熟と共にその影響は大きくなっている。このままでは世界そのものが揺らぐほどに。

「質の悪いことに、この悪い状態を嗅ぎつけた<魔王>がこの世界への侵入を試みておる。魔王はある意味で地球のイナゴの大群のような存在なのだ。何も生産せずただひたすらに一切を消費する。イナゴの群れは大陸を縦横無尽に移動して山野や野畑を食い潰すのだろう? 魔王は世界を渡り歩き、世界を食い潰していくのだ。もし魔王の侵入を許せば、もはやその世界そのものが食い尽くされてしまう。まさしく災害だよ」

「本当に世界の危機だ」

「そういうことになるな」

 俺は頭を抱えた。地球と同じような問題があるが、それが魔王まで出てくるとなれば、やはり剣と魔法のファンタジー世界ということだ。

「引き受けてもらえぬ、ということではなさそうだが」神はいった。「何か問題でも?」

「いえ、何事も学んでおくべきほうがよいと反省していただけです。わかりました。なにができるかわかりませんが、魔王の侵入を防ぐべく尽力せよということですね」

「そうなるな」

「転生スキルについては少し考える時間をもらっても?」

 俺は申し出た。このまま転生するのは無茶だ。いくら何でも準備が足りない。せめてよく検討しなければ。

「この天界の時間と地上の時間は大きく異なる。1年程度であれば時間もとれぬことはないだろう。だがここで何かトレーニングしても転生へはもっていけぬぞ? 知識ぐらいじゃな。それも天界固有の情報は抹消させてもらう」

「そうじゃないかと思っていました。むしろ記憶が基本的には残るというのなら僥倖です。

「転生スキルの選択がすべてを決めると思うんですよ。そのためにはいろいろと検討しないと」

 神々は顔を見合わせた。

「まぁ、よかろう」


♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡


次と合わせて2話が回想会です。異世界転生の経緯を書いています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る