第5話 メイドさんください
「…もしかしてこの世界性別不詳か女の子しかいないの?」
「まさか」
俺の言葉にシエラがそう即答した。
いやだって騎士も執事も女の子だし、唯一男だと思ってたライナスも性別不詳だったし…。
よく考えてみればこの異世界にきてから俺はまともな男を見ていない。
「その、俺、男の人見てないけど……」
シエラは割と四六時中、俺の世話をしに来るのでシエラとの会話はだいぶ慣れてきた。
俺の言葉にシエラは首を傾げた。
「仰っている意味が少し…」
「騎士とか執事とかって…ほら男の人が多いし…」
「そうでしょうか?まあ執事は…、男女比率は半々です。特に私の場合は念のための護衛も兼ねている為、中でも動きやすい服装なのですが」
まずそう言われてハッとした。
そういえばリディア皇女がシエラは元暗殺者だと言っていた。そんな実力があるなら護衛を兼ねていても確かにおかしくはない。
つまり俺には護衛が三人?厳重すぎない?
神子ってそんなに重要なものなのか。
「男性は騎士より文官になります。確かに肉体は丈夫ですが、魔法が使えない男性は庇護すべき対象ですから女性に守られていますし」
「えっ?」
この世界の男って魔法が使えないの?????
「男性は家庭を守るか文官や商いをして働くものです…、魔法の必要な力仕事は女性の仕事でしょう?カイト様の世界では違ったのですか?」
不思議そうにシエラはそう言って首を傾げた。
「…俺の世界には、魔法、無かったから…」
この世界はまるっきり俺の世界とは反対だったのだ。魔法を使えない男性を女性が守る世界、それがこの世界。
アルマの行動に納得がいった。男性だからこそ守るべき対象だったって事だ。
「純粋な身体能力だけなら男性のほうが優れていますからね…なるほど、逆だったのですね」
俺の言葉にシエラが納得したように反応した。
「エルフも男性は魔法使えないの?」
「正確には、人間の男性が魔法を使えないのです。魔法は女性にだけ受け継がれるものです。それはこの世界の神が全て女神様だからとされています。魔力も神の権能の一部ですから」
「な、なるほど…」
宗教的な理由だったらしい。この世界はどうやら神が随分身近な存在のようだ。
だからこそ神子というのは重宝されるのだろうか。
「ちなみにメイドはいないの?」
「メイドとは?」
シエラが不思議そうに首を傾げたことに、俺は衝撃を受けた。まさに雷が落ちたような、そんな感じ。
まさかこの世界にはメイド服がない…!?メイドが居ない…!???
リディア皇女は可愛らしいドレスを着ていたのでスカートがない訳ではないと思うんだけど…メイドが存在しないなんて……!!!
シエラに聞くに使用人というのは皆執事で動きやすいようにスラックスを採用しているとのこと。
「スカートを履いた使用人はいない…?」
「居りませんね。動き難いですし」
「そ、そんなっ…!?」
メイドさんが存在しないなんて!(2回目)
せっかく西洋風ファンタジー世界に転生したのに生メイドが拝めないなんてショックでしかない。
ジェンダーレス文化が元世界より進んでいるならいいのかもしれないけど…!
いや女性と男性の立場が逆転してるだけか?よく分からない。
「ちなみに男性がスカート履いたりする?」
「個人の自由では?」
個人の自由なんだ…????
いや、まあそうなんだけど…???
元の世界だってスカートを履きたい人は履いていただろう。でも生きにくいあの世界、それはおかしいと世間にはされていた。
最近はだいぶ緩和されていたようにも思うけど揶揄ったり悪意を向ける人間はやっぱりいるのだ。
この世界にはきっとそういう人はいないんだろう。常識がまるっきり違う。
「カイト様、メイドというのは何ですか?」
「女性の……使用人……」
「私は女性の使用人ですが…」
「そうじゃないけどそうじゃなくてぇ!うう、難しい…!!!ドレスっぽい仕事着なんだ…!黒に白いエプロンでっ…えっと、エプロンドレスってやつ…?」
「動き難くないですか?」
「確かに…!?」
ドレスって言われるとそう思うよな。
もうよく分かんなくなってきた。まあいないならいないで諦めるしかない。
「フリルなどはあまり動くと引っかかります。伸縮性もありませんし動き辛いです。白いエプロンは汚れなど目立ちますし見栄えがよくありません」
「メイド服の悪口はやめてぇ…、その、多分その辺工夫があるんだよ。多分。仕事着でもおしゃれしたいとかそういうさあ…なんかあれだよ。多分」
まあ俺が見たかっただけなんだけど出来た経緯にはそういうのがあるはず。知らんけど。
俺にはオタクが好きなコスプレという認識しかない。
そう、ミニスカ猫耳メイド服とかは至高。
「多分が多いですねえ…」
俺のHPはもうゼロよ!!!!!
「生地が多いと風の抵抗が…全力で走るのに向いてませんし、高く飛び上がるのにも邪魔です。白い生地は血の汚れが…しかも服が重いとそのぶん武器を減らす必要が……」
それは何視点!?????
とりあえず普通のメイドは高く飛び上がったり全力で走ったり武器を携えたりしないと訴える。あと血の汚れって何?怖すぎる。
家事とかするんだよ!メイドさんは!ハウスキーパーなんです!
それにシエラはふーむと考えている。とりあえず俺の言いたいことは伝わっていると嬉しい。
女性が魔法使えるこの世界では使用人でも戦ったりするもんなんだろうか?
「まあ、あまりオシャレとか、そういった視点で考えることはありませんでしたね。ドレスのような見た目の動きやすい仕事着ですか…、中には喜ぶ者もいるやもしれません」
「マ?」
「ええ。リディア皇女にお伝えしてみます」
俺の提案でメイドが生まれるかもしれない!?やったー!!!!
心の中で小躍りしているとシエラがクスッと笑った。
えっ、めちゃくちゃ可愛い。
この世界で出会った人はまだ数人だけど、みんなすごい顔が良い。顔面偏差値が高い。
シエラは綺麗だけど初見は美少年に間違えてしまった。
でもこうして笑うとなんということでしょう…まるで普通の(美)少女のようだ。
「カイト様は感情が表情に出やすいですね」
「えっ!?そうかな!?」
思わず両手で頬をびたーんと挟んでむにむにした。
にやついててキモいと思われたかもしれん。
「キモくてごめんなさい!!!!」
思わず平謝りした。一番一緒に過ごすシエラに嫌われたら辛すぎる。気まずいじゃ済まない。
しかもシエラは黒髪黒目、日本人に近くて親近感があるのだ。
「キモ…?よく分かりませんが、カイト様が謝ることは何もありませんよ…?」
不思議そうにシエラが首を傾げた。
変な人ですね、と再び微笑むシエラはやっぱりかわいいのであった。
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