第43話 守る存在。

ストルトにエグス達を捕まえるように言われた兵士は冷静になって「何を言ってるんです!この者たちを捕らえてもエグス様が旅立たれたらダメなんですよ!」と意見をするとストルトは怒り狂って「いいから従え!雑兵!」と怒鳴った。


このやり取りを見ながら戦場 闘一郎は横にいた大塚 直人に「今のうちに距離を取れ、アイツは俺達とエグスしか見ていないから皆は離れられる」と指示を出す。


大塚 直人が「追いつけるんだよな?」と聞くと戦場 闘一郎は「当然だ」と返事をした。

この言葉に従ってジリジリと離れていく梶原達。


ここで戦場 闘一郎がトドメをさしてしまう。


「一つ気になったのだがいいか?」

この言葉に反応したのはストルトに絡まれていない兵士で「何か?」と返す。

友好的に話せるのはそもそもコルポファは加護に守られた国で、のんびりしている部分も大きかった。


「コルポファの姫が姫なのはなぜだろうか?」

「それは前の王のご息女と言う事もあるが、多くは加護の力による所だ。エグス様の加護を力強く受けているからあのような青々とした髪色をなさっている」


「ふむ。やはりそうか」

「何か?」


「いや、人質のプリンツァ達にも聞いてみたら同じ返答だった。こちらに攻撃の意思はない。髪色を見せてくれないか?」

訝しみながら兵士の見せた髪色は薄まってはいたが確かに青がわかる水色だった。


「ありがとう」

「それで何の話だ?」


「いや、髪の青さが権力の象徴であれば何故あなた方はストルトに従うんだ?隊長だからか?だがその隊長は錯乱していて冷静な判断ができていない。この場合なら髪が青い方が強制力を持ったりしないのか?」


この言葉に兵士達は固まって顔を見合わせると今も口汚く言う事を聞け雑兵等と悪態をつくストルトを睨みつけた。


ストルトは兵士達の視線に気付くと「な…なんだ?」と言う。


「ストルト様…いや、ストルト。加護もないくせに威張るんじゃない。姫の元に戻るぞ」

「そうだ、青みの一つもない金髪のくせに威張るな」

この言葉から口々にストルト非難が始まるとストルトは奇声を発して頭を振り乱すとエグスに向かって走り出して「お前!加護を!加護ぉぉっ!!」と叫ぶ。


「ひっ!」と言って身じろぐエグスの前に立った戦場 闘一郎はストルトを綺麗に投げ飛ばす。

背中から落ちたストルトは「ぐぅぅぅ」と辛そうに唸ると涙を流しながら「加護」「加護をくれ」「耐えられない」「エグス様ぁっ」と叫んでエグスに迫る。


コルポファの兵士達は冷めた目でストルトを一瞥して何もしないどころか馬の向きを変えてコルポファに帰ろうとしている。


エグスに迫るストルトを戦場 闘一郎と群馬 豪で何度も撃退するがストルトは諦めない。今は戦場 闘一郎と群馬 豪に身体を押さえられて行く手を阻まれている中で「いい加減あのアナグラに帰れよ!なんで出てきた!何で出れる!」とエグスに向かって叫ぶ。


エグスが「お前達があの国に壁を張ったから出られなかった!フェルタイした時、エグスの力が強まった今しか出られないんだ!」と返すと「出るなよ!ずっと1人でアナグラに住んでろよ!それで加護を寄越せよ!」とストルトが怒鳴りつけた。


その瞬間、この場を支配していた空気が変わった。

一瞬でヒヤッとした空気が辺りに立ち込め嫌な風が吹く中、エグスは「やだ…エグスはフィーデンを探すんだ」と言うと震え出す。


「エグス!?どうした!落ち着け!大丈夫だ!フィーデンは一緒に探すだろ?」

群馬 豪が、声をかけてもエグスは耳をかさずに「嫌だ」しか言わない。


戦場 闘一郎は振り返ってそっと移動を始めていた皆に向かって「まずい!もしかするとエグスが爆発をするぞ!梶原!走れ!」と指示を出すと群馬 豪を見る。群馬 豪は頷くと「戦場!エグスは俺が抱える!お前は玉ノ井や女子供だ!」と返した。



群馬 豪が話している最中にエグスの足元、青々とした草原がユータレスのように赤い傷口のようになり独特の悪臭が広がった。


「お前達も逃げろ!スタークが現れる!」

戦場 闘一郎の言葉に兵士達はストルトを置いて撤退を始める。


その事にストルトが気づいた時には置いて行かれていて「お前達!俺を見捨てるな!」と声をかけたが本格的にストルトは見捨てられていた。


戦場 闘一郎と群馬 豪はストルトを放り投げると脇目も振らずにエグスを回収して長時間の運動が出来ない玉ノ井の肩を担いで走る。


後ろではグジュグジュとブヨブヨとガチガチが一体ずつ生み出されていてストルトを襲い殺していた。


「まずい!まだ出るとこちらに来るぞ!」


「振り切れるか!?」

「走るしかない!」


「ストルトの次に近いのは俺たちだ、まだスタークの足は遅いから逃げ切るしかない」

だがエグスを抱える群馬豪の足元が赤く光り始めた。


「まずい!エグスが落ち着かないと新たなスタークが生まれ続けるぞ!」

「エグス!落ち着け!逃げ出したぞ!ユータレスに戻ることはない!」


群馬 豪がいくらはなしかけてもエグスは落ち着かない。

どうしたらいいか悩んでいると谷塚 龍之介が草加 岬から桔梗を借りるとエグスの横に来て一緒に走りながら「エグス!見ろ!桔梗だ!」と声をかけて桔梗に「桔梗!頼む、エグスが怖がって泣いている!声をかけていい子いい子をするんだ!」と言うと桔梗は一瞬の後で「えぐす…いい子いい子」と言って身を乗り出してエグスを撫でた。


エグスはハッと気がつくと桔梗を見て「桔梗?」と言った。

ここで群馬 豪が「エグス!逃げられた!スタークを止めてくれ!」と声をかけるとエグスは慌ててスタークを止めたのだろう。足元の赤い光は収まった。


皆で地面に座り込んで「助かった…」「桔梗様のお陰だな」と喜ぶ。


戦場 闘一郎が「谷塚、凄いな」と声をかけると谷塚 龍之介は抱いている桔梗を見ながら「ああ、群馬はエグスを守る存在だが、桔梗はエグスが守る存在だからな。桔梗を見れば落ち着くと思ったんだ」と言った。


「何にせよ追っ手は巻けたから残りを頑張って目指そうぜ」

「そうだな、息を整えたら移動を再開しよう」

そう言って立っていたメンバーも座って息を整えた。

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