起点-13

捜査6日目

 寅三郎と翔そして、屋垣は横浜のランドマークタワー近くの日本丸メモリアルパークに居た。

 寅三郎は、面識のない屋垣に自己紹介と今回の目的を話始める。

「どうも、初めまして。私、探偵の風車 寅三郎と申します。

彼と共に捜査しておりまして今回は、その報告に上がった次第です」

「はあ」

 何故、自分に報告することがあるのかそんな事を考える屋垣。

「実は屋垣さんのご友人、優さんが加藤さんの両親殺害容疑で逮捕されました」

 翔の言葉に屋垣は、眉をひそめる。

「優が、カットの両親をまさか・・・・」

「これが本当なんですよ。証拠もばっちりで」寅三郎が笑顔で答える。

「そうですか・・・・・」浮かない顔をする屋垣。

「あれ、何かありましたか?」

「昔の仲間が警察に捕まったんです。

それに、カットのご両親を・・・・・・・・」

 屋垣は、涙ぐみ下を向く。

「嘘泣きはやめましょうよ。屋垣さん」と寅三郎。

「はい?」涙をハンカチで拭いながら屋垣は顔を上げる。

「加藤さんの親御さんを殺す原因を作ったの。貴方でしょう屋垣さん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 寅三郎の一言を受け、無言になる。

「ありゃりゃ黙秘ですか?」

「私がカットを殺した証拠でもあるんですか?」

「それはぁ~」翔はすぐに答えられず、寅三郎を見る。

「証拠さえあればお認めになるんですか?」

 寅三郎が屋垣に尋ねる。

「物によります」屋垣は、堂々と答える。

「では、失礼して」

 寅三郎はそう言うとスマホ取り出し電話をかけ始める。

「お待たせしまってすいません。出番です」

 それだけ相手に伝え、電話を切る。

 すると屋垣は、目を見開く。

 視線の先に、加藤の彼女・桂田 麻衣の姿があった。

「や、やあ! 久しぶり。麻衣ちゃん」

 取り繕った笑顔で手を挙げ再会を喜ぶ屋垣。

「どうも」

 素っ気ない麻衣は屋垣に一礼するとハンドバックから便箋を取り出し寅三郎にそれを渡す。

「これに見覚えは?」

 寅三郎は、便箋を見せ問いかけるが屋垣は首を横に振り見覚えがないという仕草をする。

「じゃあ、お答えしましょう。

これは、貴方が加藤さんを装って書いた置手紙です」

「私は、そんな物書いた覚えはありませんよ」

「そう言うのは犯人の常套手段ですよ。

なんなら筆跡鑑定しましょうか?一発で分かりますよ」

寅三郎の提案に何かを思い出したように屋垣は話し始める。

「あ、思い出した。カットが居なくなって俺達で捜索したんですけど見つからなくて・・・

それで、麻衣ちゃんを不安にしてはいけないと思ってこれを書いたんです」

「成程。では、捜索願を出さないように指示したのですか?」

「え? 私はそんなことは言っていない!」

「屋垣君は私にちゃんと言ったよ。「俺達が必ずカットを見つけるから。」って」

 麻衣が口を開いた。

「言ったかなぁ~そんな事」頭を掻きながら記憶を引き起こすふりをする屋垣。

「まあ、この事は言った、言ってないの話になりますから。

ここでとあるお品をお見せしましょう」

 寅三郎は、ジャケットの内ポケットから一枚の写真を出す。

 その写真には、血の跡が付き少し錆びているバットが写っていた。

 話を聞きながら翔は、初めて見る写真だと思う。

「このバットがどうしたのですか?」屋垣が質問する。

「このバット、あなたが昔、愛用していた物ですよね。

証拠ならここに」

 イエローリボンの集合写真を出す寅三郎。

 黒道や優、加藤そして、最初に見せた写真と同じ製品のバットを持った屋垣が写りこんでいた。

 屋垣は体中から冷汗がどっと出るのを感じる。

「確かに同じ製品だが、私のものだという証拠は?」

「指紋、一致しましたし、このバットに付いている血液から加藤さんのDNAも検出されました」

 寅三郎が淡々と証拠品を提示するのを翔は、自分が取り調べしている短時間の間にここまで調べていたのかと舌を巻く。

「そのバットは、カットが居なくなる前に盗まれてたんですよ。

きっと、犯人が私に罪を着せるために盗んだのだと思います」

 屋垣の額から脂汗がじっと流れ落ちる。

「不思議ですね。貴方達、仲間を重んじる人達でしょう。

新人君、優はなんて言ってたけ?」翔に話を振る寅三郎。

「はい、「自分が加藤さん、加藤さんの両親を殺した」と供述しています」

「そ、それは・・・・・・・・・」言葉に詰まる屋垣を他所に寅三郎は、話を続ける。

「貴方の言い分だと、仲間の優が自分に罪を擦り付けようとしている。

そんな言い分ですね。仲間思いが聞いてあきれる」

「・・・・・・・・・・・・・・」屋垣は俯き、その手は握り拳を作り震えている。

「やっぱり、自分が一番可愛いんでしょうね。

仲間が貴方のために罪を被ろうとしているのに」

 寅三郎は、目配せで麻衣にとどめを刺すように合図する。

「ねえ、本当のこと話してよ」

 麻衣の一言に屋垣は、顔を上げる。

「私、この十年あいつは何処かで生きているんじゃないか。

ふらっと、帰ってきてくれるんじゃないか毎日、毎日そう思いながら生きてきた」

 麻衣は大粒の涙を流し、屋垣にスマホの写真を見せる。

 そこには、麻衣と加藤の間にできた息子、魁がいた。

「この子は、十年もの間自分の父親を知らないまま生きてきた。

私はあの子に自分の父親がどういう人で、どうして死んだのかをきちんと伝えてあげたい」

 屋垣にも妻子が居り、麻衣の気持ちは痛いほど分かる。

 しかし、ここで自分が自白したら妻子が路頭に迷うだけではなく今まで気づき上げた地位までもが崩れ落ちてしまう。

 そう、頭の中で考える屋垣。

「で、でも俺じゃないんだ。麻衣ちゃん。

優なんだ。今まで黙っていて御免」屋垣は、麻衣に頭を下げる。

これで良い、これで。優には悪いが罪を被ってもらおうと思う屋垣だった。

「今の話聞きましたか?所長!」

寅三郎は、スマホを取り出すとスピーカーモードの通話状態になっていた。

相手は、七部署の取調室に居る鳴本所長、優だ。

「聞こえたわよ。じゃあ、今から優さんの言い分を聞かせてもらいましょう。どうぞ」

 所長は、スマホを優に近づける。

「・・・・・・・加藤を殺したのは、清だ」

 スマホから優が自白するのを聞き屋垣は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「俺達いやリーダーの黒道が清を庇う為に、カットの親を強盗に見せかけて殺した」

優が、この事件における自分の真相を語る。

「所長、ありがとうございました。優さん今まで失礼なこと言って申し訳なかった」

 寅三郎は、そう言って通話を切る。

「で、どうします?このまま、優さんに罪を擦り付けたまま生きていきますか?

あんたの中での仲間思いは承認欲求による自己満だから、自分が満たされないとどうでもいいことか」

 その一言に心が折れたのか、屋垣は真相を話し始めた。

「俺達が、関東破死裏殺連合に襲撃に遭った翌日の事だ。

裏切者が誰かは意外と簡単に分かったよ」


 屋垣に奥多摩の山中へと呼び出された加藤。

 黒道や優、屋垣の三人が加藤を待っていた。

「よぉ、気づくのが早かったな」

 加藤は真っ先に自分が裏切者であることを白状する。

「てめえ!」今にも殴りかかろうとする優を抑える黒道と屋垣。

「カット。なんで、俺達を裏切った」黒道が聞く。

「すまなかったとは思う。でも俺、真人間にならなくちゃいけなくてな。許してくれ」

 加藤は、頭を下げて謝る。

「なんだよ、それ。俺達の仲だろ。何があったか教えてくれよ」

 屋垣は加藤の肩を掴み、顔を上げさせる。

「それは言えない。お前たちとは金輪際関わり合いたくないんだよ。

子供に戻っちまうから」涙を流し始める加藤。

「良いじゃねえか。子供に戻っても。また、バカやろうぜ」

 そう言って加藤を抱きしめる屋垣だったが、直ぐに放される。

「済まない、清。俺なこの環境から足洗って真面目に生きて行かなきゃならないんだ・・・・・・」

「どうしたんだよ。大人、大人って。いつものカットらしくないぞ」

 立ち去ろうとする加藤を引き止める屋垣。

「あのなぁ~屋垣、去る者は追わずって言葉知っているか?

俺は自分の為だけに、お前達を裏切り、許されないことをした。

そのケジメでもあるんだ。分かってくれ」

「俺達、仲間じゃないのかよ・・・・・」

「前から言おうと思っていたけど、お前にとっての仲間ってなんだ?

自分の思い通りに動く兵隊か? 自分の理想を押し付けるのはやめてくれ」

「んだと! この野郎!!!」

 屋垣はバットを加藤に無我夢中で振り降ろし続け、倒れ込んだ加藤の後頭部にバットが直撃する。

 それまで、身をよじって体を防御していた加藤が動かなくなる。

「おい! そこまでにしとけ!」動かなくなった加藤が気絶したと思い、止めに入る黒道。

「なあ、死んでるぞ」

 優は、地面一杯に広がり染み込んでいくのを見て死んだと確信した。

「嘘だろ! おい! カット!!」加藤の体を揺さぶる屋垣だったがピクリとも動かなかった。

「埋めるぞ。ここなら死体は見つからない」と黒道は腹を括り二人に提案する。

 そして、黒道と屋垣は加藤の死体を埋め優は、族の仲間を連れて加藤の両親を殺害した。


「以上が、真相です」自白を終えるとその場に崩れ落ちる屋垣。

「13時18分、殺人の容疑で逮捕します」

 翔は、屋垣に手錠をかける。

 そして、屋垣が翔にパトカーに乗せられるのを見送る寅三郎と麻衣であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る