インターリュード[なかがき]

チクリン校長による松枝蔵人インタビュー

 チクリン(以下〈〉)

〈ハ〜イ、チクリンどぇ〜す……って、このご挨拶、ホント久々だわヨね。

 さて、今回まだたいして出番をもらえてないと思ったら、いきなりインタビュアーに引っ張り出されちゃった。これって、まさかこの後もあたしの活躍ないって意味じゃないよね?〉


 松枝蔵人(以下「」)

「い、いや、そんなこと、ない……と思うけどなあ(汗)」


〈ホント? もう、頼りないワね。だけど、こーゆーシチュエーション、前にもあったよーな……〉

「あった、あった。雑誌連載のとき、BP氏と僕をきみがインタビューするっていう企画。たしか、あれは実際にやったんだ。小さいスペースにまとめるとあんまり面白くなかったけど、ホントはかなり盛り上がって楽しかったんだよね。きみの役は、あの石川女史が務めてくれたんだよ。懐かしいなあ!」


〈そ、そーゆーネタバレはいいから。じゃあ、はりきっていきま〜す。

 まず最初に、そもそもこの作品を書こうと思い立った経緯は?〉

「『Anniversary〈記念日〉』は、いわばハルナの〝自分探し〟のロードムービーだけど、30年ぶりに登場するすべてのキャラクターたちの今現在の姿を発見していく旅でもあったんだ」


〈フムフム。なあるホドね〉

「それは、僕にとっても、読者にとっても同じ。彼らの容貌、個性、立場、彼ら同士の関係性――それらがどう変化し、どう成熟したかを、ハルナの冒険や恋文屋ローレンスという新キャラクターを中心に展開する物語の中で明確にしたかった」


〈あたしがまさか学園長になってるなんて、だれも想像しなかっただろうしね〉

「そういうこと。水谷の奥さんになってた、なんてことも含めてね。

 だけど、物語というものは、この作品の中でも言及してるけど、作者が書いたことは夢の中の現実と同じで疑えないものなんだ。ちゃんとエンターテインメントしてるお話なら、いくらとっぴな事柄でも面白さとして機能する。

 たとえば、オトシマエとコックリの電撃結婚は、スイカのエピソードがあったりして、あの二人ならいかにもありそうなことだと納得させられる。それは、ほかのキャラ同士の結婚の必然性を補強することにも貢献するんだ」


〈じゃあ、この新作を書くことが、『聖エルザ』シリーズがさらに補強されることにつながるっていうの?〉

「そう。ハルナは前作でがんばって自分のアイデンティティを確認することに成功したわけだけど、それはそうするように仕向けられ、そうなるように仕掛けられていたことだった。もちろん、それが作品の面白さとして僕が意図したことなんだけどね。

 こんどは逆に、ハルナにしか身に覚えのないことがきっかけで、彼女の行動にみんながどんどん巻き込まれ、それが結果的に過去の事件を暴き出すって構図にしたかったのさ。

 そうすることで、狂言回し的な受け身のキャラっていう側面もあったハルナが、真に自立したメインキャラになるはずだと考えたわけ」


〈それが、今回の作品のモチーフだと?〉

「もう一つは、『恋文屋ローレンス』として登場したキャラのことなんだ。彼はハルナに謎をかけて翻弄し、驚くべき真相を語る役割だったわけだけど、彼本人としては動いていない。最後にハルナを救うために……って行動はあったけど、それしかなかった。新たな展開に直面して決断を迫られるとか、ハルナとの交情というか、心のかよい合いをもっと描きたかった、というのもある」


〈ここまで前半の展開は、まさにその二人の再会、冒険がメインになってるわヨね。ネタバレにならない程度に、工夫した点は?〉

「発想の転換が必要だったのは、ローレンスが聖エルザにまつわる過去を知りつくしてるってこと。それと、まあ……死んじゃってるってこと。前作のエピローグで〝残留思念〟みたいなメッセージを残してたっていうのもあった。そこをうまく説明をつけてクリアしないと、聖エルザに残された謎と彼の復活は両立しないからね。

 発想した物語は、ハルナが経験した過去の聖エルザでの出来事が発端だから、ローレンスは当然ほぼ全容を知ってるはず。なのに現在のハルナと同じレベルでものを考え、記憶の中を同行することにしたい――と。

 今のローレンス像を思いついた時点で、『いけるぞ!』ってなったんだ」


〈そうか。死んじゃってるハンデを、逆にうまいこと新しい設定に変えたわけネ〉

「それに、ローレンスがハルナに転移してそのまま生きのびていて、現実でもことあるごとにチョッカイ出してくると、二重人格っていうか……ちょっとキモいような気がしたんだよね。だから、ああいう限定された存在にしたっていうのもある」


〈ローレンスの姿が記憶の中でならハルナにだけは見えるっていうのがいいよね。あと、こだわったところとかは?〉

「たしか、前作を書いた時点では、映画『インセプション』はまだ見てないんだよ。今回、記憶だけでなく夢にまで入ってく話にしようと考えたのは、あれの影響が大きかった。『マトリックス』はその関連で思い出して見直したけど、それほど影響はないかな。でも、これから出てくるかもしれないね。

 すると、まだほかにも助けになってくれそうな映画がいくつも思い浮かんだ。コックリが映画論みたいなこと語ってるけど、「近況ノート」に以前似たようなことを書いたこともあったな。

 それでわかるように、今回は僕の趣味全開、こだわりに徹してる。コックリが語る夢の実験は、まるごと僕自身の体験だしね。さすがに、イメトレのために箱根まで行ったってことはないけどさ(笑)」


〈へえ〜(やっぱりコックリは作者の分身だったのヨ!) コックリさんっていえば、ついに幻の〝姉さん〟が登場してきたわネ〉

「そうそう。現在時点を描く場面では、かなりトンデモな設定の科学技術が必要になった。コックリやシン・ヤスのコンビでは荷が重そうだし、さて……と考えたら彼女がいたんだ。ウナヅキ家の血筋は、まさにマッドサイエンティストを生むにふさわしいよね。後半のキーパーソンの一人になってくれると思う」


〈そのあたりに注目して読んでいくのもアリってことか。じゃあ、後半の構想というか、展望は?〉

「やっぱり、ハルナの幼時の記憶と現在がどんな風にクロスしていくかだね。伏線をいっぱい張ったから、それをどう結び合わせたらより面白いものになるか、あれこれ考えながらワクワクしてるところだよ。

 作家のいちばんの楽しみはそこなんだ。そうやってつむぎ出されたものが、読者に極上のカタルシスをあたえられたら最高だね」


〈書き手にも期待感があるってことネ。じゃあ、最後にひとつ、まだほかに、これから活躍する意外なキャラとかはいないの?〉

「ネタバレはしない約束だけど、一人確実に意表をつくことになるはずのキャラがいるよ。カンのいい読者なら、もう気づいているかもしれないなあ。アハハハハ」


〈気を持たせちゃって。もー、イジワルねっ〉

「でも、きみが絶対ナイショにしてくれるというなら……(と、チクリンの耳に何ごとかささやく)」

〈エッ……な、な、な、なんですって! ムグぐぐぐぐ〉


 松枝がジタバタ暴れるチクリンの口を押さえ、あわてて退場。

 インタビューは混乱のうちに終了となったのであった――

 では、物語の後半をお楽しみに!

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聖エルザ Daydream Believer〈夢追娘〉 松枝蔵人 @kurohdomatsugae

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