第20話

1548年9月

キャサリンが永眠。

トマス•シーモアの愛する妻の死。


しかしトマスの頭にあるのは悲しみではなく、

命懸けで授けてくれた娘でもなく、

彼女の膨大な資産をどうやって我が物とするか?

金、カネ、カネだった。



まず取り掛かったのは、キャサリン王妃に仕える100名以上の侍従達。本来ならば解雇される。


しかしトマス・シーモアはお金が必要。

兄エドワード護国卿に取って代わり政権奪取を企てているからだ。


王家から支給される侍従経費を継続させる為、

キャサリン・パーが偶々引き取っていたジェン・グレーを世話する事を口実に侍従雇用は維持された

・・

ジェン・グレーはヘンリー8世の妹の孫で、有力なチューダー王朝の血筋である。


エドワード6世と同じ歳のまだ11歳。

将来はエドワード6世と結婚、

もしくは、

王位継承序列でエリザベスの次となる可能性もある将来の夢が溢れる

美少女であった。


ああ、ジェン•グレー

彼女はこの物語にきっと又出てくる。彼女の名を留めて欲しい。

・・

更にトマスはエドワード6世に近づこうとしたが、流石に兄エドワードが守る枢密院が近づけさせない


そして、トマス・シーモアは奥の手、

自分に惹かれていると確信している世間知らずの小娘エリザベス内親王との結婚を画策する。

「彼女ならきっとウンというだろう。これで俺も英国王になれるかも知れない。」

自信満々だ。


そしてエリザベスの侍従長アシュレーを買収し、彼女からエリザベスにトマスとの結婚を勧めるよう依頼した。


浅はかな男だ。こんな事してバレないと自惚れたのだろうか?


アシュレーはトマスの言いつけ通りエリザベスに言い含める。

「エリザベス内親王、お慕いするキャサリン様が亡くなられました。さぞ、お哀しいでしょう。。。。」

「どうでしょう、トマス・シーモア海軍卿は?彼は、立派な方です」

「以前はキャサリン様の旦那様だったので、海軍卿と戯れる内親王を咎めましたが、彼は今や独身です。将来も有望な立派な紳士です」

「エリザベス内親王、もし結婚を迫られたらどうされますか?もし枢密院から許可が出たらどうされますか?」


エリザベスの次の答えが生死を分けた

「神の御言葉に従います」


年があけた1549年1月トマス・シーモアは逮捕された


いい男かも知れないが、こんなに脇が甘く不注意だから兄エドワードはトマスを政治の中枢から外したのだ


トマス・シーモアは国家転覆に関連する33の罪状でロンドン塔に収監された


33の罪状の中にはエリザベス内親王と結婚し共謀を企てた事も含まれている


エリザベスの元に切れ物の執政官ティルウィットが訪ねてきた

「内親王、いくつか質問させて下さい。

トマス・シーモアを愛していましたか?

結婚を考えて居られましたか?」

「ティルウィット執政官殿。朕の心を答える筋合いはない。その上、結婚を考えているなどと、無礼ではないか?」

「申し訳ないですが、内親王。侍従長アシュレー殿が寒いロンドン塔の部屋で答えてくれましたよ。「チェルシー宮殿」で毎日のようにトマスは内親王のベッドに潜り込み、

お庭で抱擁のキスをされていたことも」


エリザベスは、若干、顔色が変わる。

優秀なティルウィット執政官はこれで落ちると畳み掛ける。

「どうなんですか?内親王?これはアシュレーの調書です。ほら、ここです。声を出してお読み頂けますか?」


「ア・・・・・・・・・」


「ああ?内親王、聞こえませぬなあ!

なんとおっしゃったのですか?さあ内親王!」


確かに侍従長アシュレーの筆跡である。しかしエリザベスは顔色を変えず静かに返答する。

「聞こえぬのならもう一度ゆっくりいいますよ執政官殿。

アシュレーは朕がトマスとの結婚を希望していると発言した。そう自白しましたか?と朕が執政官に質問しているのです!」

「ん?それは・・・」

「聞こえませぬよ執政官殿!そなたは何を朕に話をさせたいのか?そなたは枢密院の者であろう。枢密院の許可なく王家が結婚できぬ事は知っておろう。」

「しかし・・・」

ティルウィット執政官はエリザベスに呑まれた。確かにエリザベスとトマスの共謀に関する証拠もアシュリーの自白もない。


アシュリーに質問されてエリザベスはこう答えてたからだ

「神の御言葉に従います。」



エリザベスは事前にティルウィットが来ることも、質問の内容も、トマスへの罪状も全て詳細に把握していた。アシュレーの自白はエリザベスには少し予想外ではあったが。

ハットフォードシャーに共に暮らしている国王私室付き筆頭アンソニー・デニーがエリザベスに一部始終を教えていたからだ


覚えているだろうか?キャサリン・パーがエリザベスをアンソニー・デニー宅に引っ越しさせた事を


デニーは枢密院の主要メンバーであるだけでなく、キャサリン・パーの兄に仕える騎士だ。


賢明なキャサリン・パーは、トマスの本性を見抜きエリザベスを守る選択したのだ。


そして、エリザベスはキャサリンの意図を知りこの忠実な騎士デニーを信頼し情報収集し整理し備えた。


故キャサリン王妃を信じ、彼女の意図を理解したエリザベスの勝利だ。


「神の御言葉に従います」

エリザベスは神の御言葉を聞き逃さない


トマス・シーモアの罪状は33から32に一つ減らされた。


だからと言って減刑はされない。


エリザベスの日記が残っている

「1549年3月20日。本日、知恵に富むが判断力の欠如した一人の男(a man)死亡」


エリザベス内親王は感傷的にもなっていない。


日記を閉じた。彼女の恋は終わった。

16歳になる前の壮絶な初恋であった。






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戦うエリザベス女王 商社城 @shoushajoe

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