第4話 “悲しみ”の欠片④

なぎ、もう動けそう?」

「……麻薬を飲んで楽になったって認めたくないけど、動けるよ」

「なら、次の禁断症状が出るまでに距離を稼ごう」

「行く宛はあるの?」

「ないよ……って、きゃあっ!?」


 何かが私に襲いかかってきた。


「カラスだ。追手かな」


 理緖が私を庇うように、目の前に立つ。


「ごめんな。お前にはなんの恨みもない。けど、邪魔をするなら殺すしかないんだ」


 理緖は一緒だけ躊躇い、取り出した銃のトリガーを引き、カラスを殺した。

 理緖が私の手を引いて、私たちは走り出した。


 ☆


「……とりあえず、しばらくここを使わせてもらおうか」


 たどり着いた場所は昔、レストランだったと思われる場所だった。


「ねぇ、理緖。どうして外には人間がいないのかな。ひとりも会わないって普通はあり得ないんじゃないかって思うの」 

「たぶん、これのせいじゃないかな?」


 理緖が指さした自らの腕はいつの間にか真っ赤にただれて痛々しい見た目になっていた。



「ーー声がするけど、誰かいるの?って、酷い火傷やけどじゃない。まさか外に出たの?」

「勝手にお邪魔してすみません。あの、外に出ると何か問題があるのですか?」

「太陽は身体に毒なんだよ。常識さ。それを知らないとは、ひょっとして君たちは“逃亡者”なの?」

「逃亡……者……?」


 オウム返しの理緖に女性はそうだよと頷いた。


「……ちょっと来て。女の子のほうも怪我してるから、治療してあげる。でも、その前に発信機の有無を確認させてもらっていいかな?」

 他に選択肢のない私たちはただ彼女の言葉に頷くしかない。


「ミナ、どうかしたのか?」

「お客さんだよ。たぶん“逃亡者”かな」

「逃亡者?追い出せ。ここにそんなに余裕はない」

「こんな子どもを追い出すことなんか出来ないよ。あ、発信機発見。すぐに無力化するからちょっと待っててね。少しチクッとするから我慢してね」


 ミナと呼ばれた女性が私と理緖の手の甲に触れ、痛みが少しだけ走った。これでよしとミナが笑う。


「あたしはミナ。ふたりに名前はある?」

「あります。僕は理緖です。助けていただき、ありがとうございました」

「私は凪です。差し支えがなければいろいろと教えて頂いて構いませんか?知らないことばかりなんです」

「いいよ。遠慮しないで。あたしも“逃亡者”だったから君たちのこと、理解できると思うんだ」


 ミナの笑顔に私たちはホッと息を吐いた。


 ☆


 ーー嘘だと言ってよ、理緖っ!目を開けて、お願いだから……っ!



 いきなり記憶が飛んだ。

 マスターたちの身に何が起こったのだろう。

 激しい感情が僕の中に流れ込んでくる。辛くて、苦しくて、目頭が熱くなっていく。



 ーーリオン。これが“悲しみ”という名の感情よ。



 大好きな声に遂に涙が溢れ出す。



「……あなたがいなくて、辛いです、マスター」



 リオンは“悲しみ”を知り、マスターを想いながらはらはらと涙を流していた。

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Memories of Rion〜愛は時を越えて〜 彩歌 @ayaka1016

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