第二十話『ギャルとパリピ』

「ウエエェェ〜〜〜ィ!!」 


「ウェイ、ウェェ〜〜ィ!!」 


 奇声を発しながらアイのいる車内に入って来たのは、二匹の鬼だった。

 それぞれ鬼ボディの上に、馬と牛の頭が乗っている。


「シクヨロでぃ〜〜っす!!」

 馬が言った。髪はピンクに染められ、ガチャガチャ色々なワッペンが付いたGジャンを着ている。


「ウェエエェ〜〜〜イ!」

 茶髪の牛は派手なアロハシャツに、鼻にはピアスなのか鼻輪なのか分からないが、大きなリングが垂れ下がっている。


「あれあれあれあれ? そこにいる鬼かわギャルベ姉さん! もしかして、もすぃかして〜〜‥‥君が噂の〜? 噂のミツメのアイちゃんですか〜〜?」

 馬が両手の人差し指を向けて言った。


「バッカ! 良く見ろ、彼女の顔を。どう見ても広瀬す○ちゃんだろうが、Yo!  ウェェ〜イ!!」

 牛が答えた。


 チャラい。べらぼうなチャラさだ。

 体幹の筋肉が無いのか、どこかのネジが抜けているのか、二匹とも上半身をグネグネ動かし落ち着きがない。


「だれ?」


 ソファにぐったり寄りかかっていたアイは、目を擦りながら眠そうな声で言った。

 空になったワインボトルが、あたりに何本も転がっている。だいぶ酔っ払っているようだ。


「おっとこれは、すいまスェンテンス! ご紹介、遅れましたぁぁ! 自分、牛頭と書いてゴズ」

「自分は、馬頭と書いてメズ」

「二人合わせて、ゴズメズでぃ〜〜っす!! よろたのフォーエバー!! ウェェ〜〜イ!」  


「‥‥‥」


「あれあれ? ねぇさん、もしかして飲んでます? 赤い顔して。なにげチルってね? てかこの部屋マジいい感じじゃないっすか?」

「いやいや、ありよりのありっしょ! ちょっと失礼しちゃってもいいっスか?」


「‥‥‥勝手に入れば?」


「おじゃましまーっす!」

「やっば。この部屋、シャンデリアまで付いてっし! マジ、ラグジュアリー感パねぇ! オシャレすぎ薬局」

「やばたにえんのビューティー春雨」

「ウェェ〜イ!」


「‥‥‥何か用?」


「何か用? って、ちょっとねぇさん、テンション鬼低(おにひく)じゃないっスか〜! てか、こんなレベチ鬼マブねぇさんとこだったら、どこにいてもすっ飛んで来るしかナイトメア」 


「もうバイブス鬼上げてくしかないっしょ!!ウェェ〜〜〜イ!!」


「最 and 高、DJ KOOOOO!!」


「罪 and 業、DJ GOOOOO!!」


「ウェイ! ウエエエェェェ〜〜イ!!」





「うっさい。殺すよ?」



 空気が一瞬で凍りついた。


「‥‥‥」


「おいっ!!」


「‥‥‥いや‥‥あの、その」


「ああっ!?」 


 アイの声は空気をビリビリ震わせた。ゴズの睾丸は縮こまり、メズは少しチビった。

 

 アイはゆっくりワイングラスに口を付けた。手元はグラグラ揺れ、おぼつかない。だいぶ酩酊しているようだ。赤い水滴が口角から漏れ、アゴに伝う。おそらく赤ワインなのだろうが、やけに毒々しい色をしている。そして、おもむろに舌を出すと、ベロリと舐め取った。

 二匹は本当に殺されるのだと思った。そして喰われるのだ、と。


 それからアイは虚ろな目で二匹をジッと見た。しかし、視点はフラフラ宙を彷徨っている。

 そして「おいっ!」と、誰もいない所に向かって声を荒げ、空のグラスを全く見当違いの方向にかざした。


「‥‥‥は、はい?」


 この人は一体なにをしているのだろうか、と思いながらゴズが返事をすると、アイは「空だらぅが」と言った。呂律が回っていない。


「‥‥‥え?」

「空(から)だろぅが、つってんだよ!!」   

「さーせんっ!!」とゴズが赤ワインを注ぐと「お前らも飲め」と、ゴズメズはワインボトルを一本ずつ渡された。 


「一気」

「‥‥‥はい?」

「一気だろ? ふつう。男だったらよぉ! それとも、あたしの酒が飲めないっっつうの!? おいコラ、ゴメス」


 二人合わせて怪獣みたいな名前で呼ばれた。酒癖は最悪。ストレスを撒き散らして発散させるタイプだ。

 二匹は命令されるがままワインを一気に飲み干した。

 すると今度はウイスキーを瓶ごと一本ずつ渡された。


「‥‥‥え?」

「ほら、一気」


 変な威圧感に押され、ゴズメズはそれも一気に飲み干した。

 そして、次にテキーラを渡された。

 どんどんアルコール度数が増えていく。


「一気」

「‥‥‥ちょ、これは‥‥‥」

「は?」

「ちょっ‥‥もう、限界っていうか」

「‥‥‥ウプッ」

「‥‥‥」

「‥‥‥ウプッ‥‥もう、吐きそ‥‥」


「あっ。ゴメちゃんのっ♪ ちょっと、いいとこ見てみたいっ♪ いっき、いっき、いっき、いっき」

 全く覇気のない一気コールが始まった。何が楽しいんだろうか。

 しかしゴズメズは既に限界だった。もう喉元までリバースしている。

「あっそれ、いっき、いっき、いっき、いっき‥‥‥」

 

 テキーラの瓶が半分ほどになったあたりで、ゴズは気を失った。意識が途絶える間際、念仏のようなアイの一気コールと、メズがどこかで吐いている音がした。

 到着してまだ5分も経っていなかった。


 ここが本当の地獄なのかと思い、ゴズメズは来た事を後悔した。

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