File No.21:カンフーな淑女に首ったけ!
……さて、あれから一時間以上舞踊団のステージを拝見してみたんだけど。
「特に会場とか皆が変になってる様子は無いわね?」
「そうですね、皆踊りや武芸に夢中ですわ」
流石に高い入場料払って拝見するだけの価値はあるわ。見かけだけの殺陣とは思えない命がけのパフォーマンスに皆酔いしれている。
特にあの……ソフトインワンじゃなくて、看板娘のチャン・リンシャンが披露する素足から放たれる閃火の烈脚武術の華麗のなんのって! こりゃ堪らねぇや!!
「……ヒロミさん、またよだれ出てますよ」
――あ、ヤバッ! あたしとしたことがまたルリナちゃんに白けた目ぇさせちゃって……
★☆★☆★☆
そのあとも特に何の変化もなく、公演は無事に終演を迎え、観客が続々と帰っていく頃にあたしとルリナちゃんは出演者達のいる控え室へ向かった。
怪しいものが無いか調べるのもそうだけど……無論、差し入れ持ってきたファンのお客としてね。
「アイヤー! 舞踊団の皆さんお疲れ様でしたぁ!! ファンを代表して、あたし差し入れ持ってきたアルたてまつりそーろーですます!! はい」
(何処の生まれなんですか……)
あれ、田舎のファンをイメージしたんだけど何かおかしかった?ルリナちゃん。
「……差し入れは嬉しいがファンにしては変な子じゃのう、ちんちくりんだし」
何で舞踊団の最年長の老師的なおじいちゃんにまでちんちくりん言われなアカンのだ。
「ちんちくりんじゃないわよ。これでもあたし立派な花の二十歳よ、
「私らに何の用かね? サインならお断り大切断」
「あれ、おじいちゃんも乗りやすいのネーブルミサイル」
「いやこれ以上付き合う気は内臓マグナム」
「いやいやこーゆー乗り気な――」
「もう良いでしょヒロミさん!!」
……ルリナちゃんに怒られちゃった。
余計な茶番してないで、本題に入ろう。
「いやね、あたし達『百烈拳竜』の武芸に大変惚れまして、特に彼処のチャンさん! 麗しゅ~な彼女からカッコ良さの秘密を知りたくて来たわけです」
「成る程、チャンはわしの孫娘でな。そういう事なら直に彼女と話してみるが良かろう」
この舞踊団の団長を務めているおじいちゃんの後ろに……いた!!
瑠璃のチャイナドレスに黒髪に結んだおだんご頭!!
「はじめまして、私が『チャン・リンシャン』ネ」
若干広東風な片言だが、このブレイドピアのミドルーディング地方では舞踊に盛んな地域というのもあり、方言としてこのような言い方になっているのだ。
「おぉ~! 近くから見ても何てビジンダー♡︎」
「しつこいですよヒロミさん」
「貴方のクルクルな髪可愛いネ! 私こんな妹みたいな子欲しかったアルヨ」
「妹――!?」
チャンは冗談をほのめかすように言ってるが、からかい慣れてるあたしにとって妹扱いされることは良い意味で嬉しかった。
「こんな美人の貴方の妹になるなら喜ん――――」
――――ギロッ!!!
「……嘘でぇす!! あたしはルリナちゃん一筋なのであげられませぇんッッ!!!」
ルリナちゃん最近怖い……
「ただの冗談ネ、それで私に何の用アルか?」
おっとそうだった、本題に戻そう。
「実はあたし達特撮……いやアクション映画とかが大好きでして、そこでチャンさんの華麗な武術、ファイティングスタイル等々を是非見てみたいんです~!」
「へぇ、私で参考になるなら別に構わないネ。よーく見ておくヨロシ」
そう言うとチャンは控え室の空間を広げながら、武術の構えに入る。そしてあたしは片手のスマホでファイティングポーズの決定的瞬間にパシャリ、撮影の準備。
「私の舞踊武術は正拳や手刀と言った上半身の技は使わないネ。長いリーチを活かす為に長い脚を使って戦うのが基本ヨ。この時に武器として棒術で使う
「フムフム……」
あたしも捜査を偽りながらも、ついついチャンの武術講座を真剣に聞いちゃってる。
というのも今後のトクサツ戦士の戦力強化になるかな~なんて。フィーリアもいるしね。
「脚の長いリーチを最大限に発揮させるためには、股関節の柔軟性が特に重要になるアル。
毎日脚の柔軟体操を繰り返し行いながらやれば……せぇいッッ!!!!」
――今だ!!!!!
チャンがあたしの方向に天目掛けて右足を開脚キックのポーズをした瞬間、あたしはスマホで連続撮影!!!
「……そんなに撮りまくる程の事アルカ?」
「そりゃそうですよ! 180度の開脚には美意識の心を燻られるものがあるんですから!! それを証拠にー『瑠璃色ドレスに反したルビー色のパンツ』っと…………」
………やばー。要らんこと言ってもうた。
あたしの周囲を囲んで青竜刀を持った舞踊団達がずらーりと、てかルリナちゃんも青竜刀持ってるのは何故?
「アイムソーリー、ヒロミちゃんの負けー☆」
★☆★☆★☆
流石におちょくりが過ぎたか、あたしとルリナちゃんは門前払いを食ってしまった。
まぁ色々脱線したけれど、やることはやれたわ。あたしがからかってる間にルリナちゃんがお仕事してくれたんですもの。
「……で、控え室の様子はどうだった?」
「実は、私達危うく大事な事を見失う所でした」
ルリナちゃんが手に取り出したのは、舞踊団の公演の後に観客全員に配られる缶バッジのような物だった。
「あら、こんなものが配られてたなんて知らなかったわ。あたし達会場からそのまま控え室に向かったのだから……」
「それだけじゃないんです。この缶バッジを軽く降ってみてくださいな」
あたしは缶バッジを小刻みに降ってみると、カラカラと何か小さなものが中に入ってるような音がしていた。
「ちょっと開けてみるか」
あたしは細かな切れ目の入っているバッジを強引に開けてみた。すると……
「マイクロスピーカー!?」
「それとサブロー総司令官から先程こんな画像を送ってくれました」
W.I.N.Dの総司令官からルリナちゃんのスマホに送られた画像を拝見してみると、それはマウンペアで以前起きた暴行事件の瞬間であった。
「カンフーで大暴れしている被害者の胸元、良く見てください……」
2本指で画像をズームアップするあたし。
「――!? 同じ柄の缶バッジ!!」
他の画像から見ても、暴走で襲いかかった者の胸元には全部舞踊団のバッジが付いていた。
「でもそれだけじゃ証拠として不十分よね……よーし!!」
あたしは腰のトクサツールベルトをさらけ出して、パワーを発揮させた。
「トクサツール・特定監視装置!!」
ベルトから生み出された小型モニター、これはどんな個室や密室でも場所を特定させて映像や音声を遠隔に観ることが出来る万能な監視機である。
これをさっきの控え室に特定して……
いた、チャンさんとさっきの乗りやすいおじいちゃん!!
そしてその個室のモニター連絡を取っているのは……ジャックスのベクター大佐!?
『今回もマウンペアの住民に缶バッジを取り付けただろうな?』
「はっ、今回で入場総人数は1万7千人……これで7割強は取り付けた計算になっておりますネ」
『よし、そろそろ次の段階へ進行の時だ。お前の舞踊武術の一つ、カンフー催眠波術で人民どもを操り、トクサツ戦士を抹殺するのだ!!』
「かしこまりました……!!」
まさか、そんな……チャンさんがジャックスとグルになってるなんて――!! あの美しい顔の何処にそんな黒い感情を隠していると言うの!?
こうしちゃいられない、マウンペアの人々にボコボコにされる前に対策を立てないと――
「そこで何をしているお前ら!!!」
「「ゲッッ」」
あたし達が垣根で隠れて聴取している所を舞踊団の一員が見付けてしまった。
「はっ!? その腰のベルトは……まさかお前が『トクサツ戦士』か!!」
「ヤバイ逃げましょ!!」
「はい!!」
あたしとルリナちゃんは一目散に逃げるなか、団員は逆に控え室の方へ去っていく。さてはチャンや他の団員に知らせるつもりね。
その前にタケルとフィーリアに応援を頼まなくちゃ!!
あたしはスマホでタケルに連絡をするが……
『只今タケル君とその恋人フィーリアちゃんは出張の為、電話に出ることが出来ませぇん☆ ピーっという発信音の後にデートの邪魔しない前提でお名前と御用件をお話しくださいませませぇ♡︎』
――ピーーーっ。
「…………あのボケェェェェェェェェェェェェェッッ!!!!!!」
人がカンフーピンチに晒されようとしてるなかで何を二人でイチャコラ出張行ってんだああああ!!!!
『イーアルサンスーウーリョウチーパー、健康第一気分爽快~~!!!』
割った缶バッジのマイクロスピーカーから奇妙な呪文が聞こえてきた。
「ヒロミさん、これって……」
「カンフー催眠波術よ! あいつら仕掛けてきた!!」
慌てて缶バッジを捨てるも、時既に遅し……
「「「ウォチャァタァァァァァァァ!!!!!」」」
あたしとルリナちゃんを1000人もの操られたカンフー一般町民が取り囲んでいた!!!
「「あ、ありゃりゃ~~……」」
トクサツカンフー活劇の結末や如何に!?
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