File No.19:タケルのとんだ災難

 ――俺の名は秘密特別捜査機関『W.I.N.D』のタケル・C・メタルハート。


 各地方支部から寄せ集められた本部のエリートの中でも、トップクラスの実力を持つ随一のエリート隊員がこの俺って事だ。……まぁ自分で言うことでも無いがな。


 ――あの悪夢のようなブレイドピア全域における大襲撃から約三週間が経った。

 土壇場で覚醒した、ヒロミの『トクサツ戦士』のパワーによって未確認の脅威から逃れることが出来たが、れ以来『ジャックス』以外の悪の存在を確認は出来ていない。長年の封印で力を使い果たしたのか、トクサツ戦士の力故なのか……


「……どうですか? ブレイドピアで何か異変とか不穏な動きはありましたか?」


 本部から届けられた各支部に配置されている諜報部員の報告データを手に取りながら、サブロー総司令官は首を傾げながら呟いた。


「……いや、まるで音沙汰がない。あの襲撃がまるで嘘のように平穏を保っている」

「何か怪しい施設とか、祠らしきものを探索しても変化が無いと言うんですか?」


「幾ら吠えても無いものは無い。悪質な存在なら未しも、封印を解いた筈の英雄ですら反応を示さないのだ。

 ――そもそも本当に英雄は解放されているのか?」


「バカな! 遺跡でヒロミのトクサツールを鍵に解放したのを司令官も存じてる筈でしょう!?」


 こればかりは俺とて反論せざるを得ない。


 確かにあの時、ヒロミとルリナを連れて奥深く眠る英雄の遺跡で、悪の存在と共に封印された英雄を解き放った筈なんだ。仮にもその時に覚醒した『トクサツールベルト』が証拠になっている!


 ……なのに、何故英雄が現れない――!?



「とにかく引き続き捜査は続行させるつもりだ。タケル君も『ジャックス』の襲撃に備えてトレーニングは怠らぬようにな」


「そうですがその前に……



 ――何故指令室にが入ってるんです??」


 昨日、俺とサブロー司令官とで出張で出掛け、帰ってきた頃にはいつの間にか大きな切れ目があった。調べたところジャックスの仕業では無いらしい。


「あぁ、この事をヒロミ君にも聞いたんだが知らないって言ってた。若干片言だったがな」


 …………やっぱアイツの仕業じゃないか。


 ★☆★☆★☆


 全く……ただでさえ英雄が出なくてイライラしてるのに、ヒロミと会ってから結構経つが、近頃ろくなことが起きやしない!


 序盤はエリート隊員の貫禄を見せてそれなりに怪人どもに奮闘してた筈なのに、ヒロミがトクサツ戦士に変身してから、まるで活躍の場が与えられてないというか……空気だ俺!!


 このまま空気になりつつフェードアウトするくらいなら、同じ作者が書いた『ゲームウォーリアー』とか『A.I.M.S』に移転した方がマシだ!!

 でもあっちはあっちでゲーム上手くなきゃ活躍出来んし、俺の面子が持たぬ、あぁ格好悪い……


「タケルく~~ん♡︎♡︎」


 ――その声は……フィーリア?

 そうだ、俺にはフィーリア・J・プラチナムというマイスウィートハニーが居たんだ!!

 廊下の向こう側から、俺目掛けて胸元にガバッと飛び込んできた。


「んもぅ心配したんだからぁ! 私のタケル君は死んでも離さない、ぎゅっ☆」


 俺と離れたら2秒しか耐えられないフィーリアが、両腕だけでなく両足まで抱きついて、プラチナ版だっこちゃんと化していた。


 しかしキラキラとした髪と柑橘類の香水の香りがフェロモンと成りて、俺のメタルな心を優しく解していく。


「このまま俺の部屋まで持ち帰ってやるぜハニー(イケボ)」

「きゃ~い♡︎」


 だっこちゃん……もとい、フィーリアを俺の部屋に誘った。この三畳一間の空間にフィーリアが居ることで、神経が張り詰める職務から解放される。甘い憩いの場となるのだ。


「結局、英雄はまだ見つかっていないのね」

「そうなんだ。早いとこ第2の英雄を見つけんと、ヒロミがまた天狗に成りかねん」


 立場上ヒロミとは協力する身であるべきなのだが、どーにもアイツのぶっ飛んだチートパワーには常識外れで俺の癪に触ると言うか、神経が老化すると言うか……そんな悩みを、フィーリアだけが受け入れてくれるのだ。


「大丈夫! タケル君には私が居るんだから、何時までもヒロミに良い格好はさせないわよ!」

「すまない……頼りにしてるぞフィーリア」


 フィーリアは本当に心強い存在だ。隊員の中でもずば抜けて戦闘力の高い彼女は、ソロでも戦闘員達を圧倒する力を持つ。

 何時かはヒロミに頼らず、我々W.I.N.Dの手で悪を制圧する為にも、俺達で頑張らねばならぬのだ!!


「…………ねぇ、タケル君。念押しで確認したいんだけど……」

「何だ?」



「――――貴方まだとかしてないでしょうね……!?」


 この瞬間、フィーリアの天国のような甘い声から突如地獄に突き落とす死神の声に変わり、俺は心臓が喉に逆流するような感覚を覚えた。



「な、な、何を言ってるんだ! こんな忙しい時に他の女に手ぇ出すわけないだろ!?」

「本当~? ヒロミなら未しも、ルリナって娘も居るんだし、私の居ない間に心変わりしたんじゃないでしょうね~!?」

「バカ言うな! アイツはヒロミ一筋なんだ、アイツもルリナも毛ほどに興味はない! 信じてくれ!!」


「…………そうだよね、あんな娘達よりも私が一番だもんね~♡︎ 心配して損しちゃった!」


 ……はぁ、そうだった。フィーリアにはもうひとつ特徴的な個性があったんだった。


 それは、こと。

 そもそも俺が色んな女に手ぇ出す女たらしの癖がある為に、フィーリアは強烈なジェラシーが備わるようになったのだ。


 そんな映写は見当たらないと思うが、昔はそうだったのだ。……いや本当だってば!


 俺はジャックスを倒すために、フィーリア以外に付き合った女を全て振り切り、キャバクラもガールズバーも通っていない!! スマホやパソコンの画像、写真も消去済み!! うん完璧だ!!!


「ったくフィーリアは疑り深すぎるぜ。ヒロミを見てこれっきり覚めたんだから――――」

 俺は脱いでいた隊員スーツのジャンパーを再び羽織ろうとした……その時だった。



 今まで気付かなかったが、ジャンパーの胸ポケットから名刺らしき手触りを感じた。

 俺はまさかと思い、顔を青ざめながら自分の部屋を出ようとした。


「あっタケル君! 何処行くの?」

「ちょっとトイレ……すぐ戻る!!」

「もう……」


 皆は気づいてると思うが、トイレは俺の真っ赤な嘘。俺は慌てふためいてポケットの名刺を取り出す。


「やっぱり……!!」


 ≪ナイトクラブ ローヤルゼリー タケルきゅん♡︎に愛を込めて…… By マリー・B・クイン≫


 この前ヒロミに強引に連れてかれたジャックスの元女怪人、ビークイーン改め『マリー・B・クイン』の経営するクラブの名刺だ――!!


 こんなものフィーリアに見せられたら誤解一直線間違い無しだ! 早く証拠隠滅しないと……俺はシャッターを開けて基地の外へ名刺を処分しようと考えた。ところが……!


「あれ? タケルじゃない!」

「ぱッッ☆」


 何でヒロミとルリナがこんな所にいるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!?


「お前ら何しに来たんだ!!?」


「えっ!? いや、その……昨日から本部基地が真っ二つになっちゃったー的な事件がちょっと気になって……ねぇ? ルリナちゃん」

「そ、そうですよ! 別にヒロミさんがトクサツ戦士で力試しについ本部を切っちゃったとモゴモゴ……」


 途中から慌ててヒロミがルリナの口を塞ぐ様子を見るに、真っ二つ犯人は直ぐ分かったが……今はそれ何処じゃない!!


「タケルは何してんのよ?」

「俺は……そう、ゴミ捨てだ! 大事な書類を土に葬って証拠をだな……」

「書類ならシュレッダーに掛ければ良いんじゃ……」

「ッッさい!! 俺の勝手だ基地真っ二つの事バレたくなかったら黙ってろ!!!!」


「……タケルしゃんこわい……(ガクブル)」


 ……やべっ、ついムキになってルリナを半泣きにさせてしまった。ヒロミもしかめっ面で俺を睨み付ける。

 崖の所には捨てられないから……ええい、このままビリビリに破いてしまえ!!


 俺はこの場で名刺を細切れに破き捨てた。


「とにかくこの事は司令官に黙っとくから、お前ら切れ目直したらさっさと帰れよ、分かったな!!」

「分かったわよ…………」

 俺はそのままシャッターを閉めた。


「……じゃヒロミさん、早く済ませちゃいましょう」

「そうね、それじゃ……トクサツール・復元光線!!」


 ヒロミの腰のトクサツールベルトから虹色に輝く光が放出され、それが本部基地全般に拡がり、真っ二つになった切れ目も消えて元通りになった。


「……あら? 何か落ちてますよヒロミさん」


 ルリナがシャッターの下に落ちてあった名刺を拾い上げた……って名刺!!?

 まさかあの復元光線に巻き込まれて、ビリビリに破いた名刺も復元させたというのか!?


 それをヒロミがまじまじと見つめる、止めて見ないで!!


「…………そうか、アイツにはフィーリアが居るんだった――!!!!」


 ヒロミはその真意を掴んだのか、奥底に闇を抱えた悪魔のような表情で不気味に笑う。……すっげぇ嫌な予感がする。


 ★☆★☆★☆


『フィーリアさん、フィーリアさん。入り口にてお客様がお見えです。直ちに入り口まで来て下さい』

「ん、何かしら?」

 本部基地のアナウンスに呼び出されたフィーリアが俺の部屋を飛び出す。


 その時俺はとてつもない胸騒ぎを覚え、後からフィーリアの跡をつける。


 シャッターを開けると……!!


「ヤッホー、フィーリアちゃん☆」

 ヒロミ、おまっ……! 直ぐ帰れって言っただろ!?


「どうしたのよ二人揃って……」


「実はフィーリアちゃんからタケルに渡して欲しいの、タケルから貰った名刺を――――」



 ちょっ、バカ!! 止めろフィーリア見るな!!!

 アカーーーーンッッ!!!!



 ……時既に遅し。俺が必死の形相で止めに掛かったが、フィーリアが名刺の内容を頭にインプットした瞬間に時が止まり、金色のオーラがフィーリアに漂う。


「……タ・ケ・ルく~ん♡︎



 ――――ナイトクラブのマリーって、ダレノコトジャゴルァァァアアアアアア!!!!!」



 ――遺書――

 今度俺が生まれ変わった時には『ゲームウォーリアー』若しくは『A.I.M.S』に出させてください。モブでも構わないんで。By タケル・C・メタルハート



「ちょ、止め……手加減してくれよ、フィアンセだろオイ幾らなんでも焼き鏝はヤバいって死ぬ――――ギャアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」





「……ちょっとやりすぎたんじゃ無いですか? ヒロミさん」

「ルリナちゃんを泣かせた罰よ!! 反省しなさい!!!」



 本当、俺ってろくなことがありゃしねぇ……!!



〘おまけ〙

 ヒロミ「全国の彼女彼氏、もしくは世帯を持つ良い子の皆! 浮気はダメ、絶対! 因みに作者は彼女居ないので当分は守れてるよ!!」

 ――クルン♡︎


(作者)「ほっとけ!!」

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