File No.01:アイツが噂のトクサツ少女!

 ――ここは都市の石油コンビナート。


 そこに、いかにも怪しそうな黒ずくめの男達……というよりも、ヒーロー物皆勤賞受賞の“全身黒タイツの覆面野郎”がニ名……!



「へっへっへ、この石油タンクの山をパーっと花火のように爆破してやれば、愚かな人民も我が組織の恐ろしさを再認識するだろう」

「いや再認識させるまでもありませんぜ。人民諸とも燃やしちゃうんだから、汚物は消毒だァってか!?」



 読者の世界ではこいつらの事を『戦闘員』と言うのか、或いは『したっぱ』と言うのか。

 それは皆の判断に任せるが、コンビナート爆破で見せしめようなんざ三流の悪がやることだ。


 ……だがそんな奴等の悪巧みを打ち消す車のエンジン音が、石油コンビナートの平地の向こうから木霊した。



 ――――ブロロロロー……


「……あ? 何だあの車」


 その車は一般車でも、悪党が乗りこなすリムジンでも余りにも派手すぎた。

 扇風機かと見まごう巨大なローター、その左右に今にも空を飛びそうなリアウィングの翼がセットされている赤のスーパーカーだ!


 そんなド派手な車を誰が乗りこなしているんだろう………いや、ちょっと待て。


「おい、こっちに近づいてこないか!?」


 赤のスーパーカーはスピードを緩める処か、更にエンジンを吹かして戦闘員たち目掛けて猛スピードで突っ込んでくる!


 ――――ブロロロロー、ブロロロロー、ブロロロローー!!



 ……ぶつかるぞぉぉぉぉ!!


「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」」


 ――――ガチャァァァァンッッッ


 スーパーカーはそのままコンビナートの鉄柵に大きな音を立てて突っ込んだ。


「な……何だコイツは!?」

「構うな、変な事にならんうちに早く逃げるぞ!!」


 間一髪逃れた戦闘員は厄介事に巻き込まれまいと、一目散にコンビナートを後にする。

 一方、暴走突撃して緊急停止された車はフェンダーやらボンネットもボコボコ。それ故に運転していた者の無事が気になるが……



『いてて……何でこれオートマじゃなくてマニュアルなのよもう!!』


 スーパーカーから降り、幸いにもどこも怪我はなく無事だった運転手。

 どうやら女性のようだが、AT限定免許だったのだろうか、危険な発言するくらいピンピンしている。



「逃げられちゃったか……でもコンビナートは爆破しちゃダメ! そーゆーのはトクサツだけが許されることよ!!」



 ★☆★☆★☆


 ―――ここは、英雄都市・ブレイドピアの外れにある町『マウンペア』。



「≪ブレイドピアの石油コンビナート付近にて、改造型スーパーカーが鉄柵に衝突。危うく大惨事≫……」


 この俺、『タケル・C・メタルハート (22)』は新聞を広げながら、ある人物の情報を照らし合わせ、そいつの居場所を探していた。

 例の衝突事故が新聞一面に掲載され、当然の如くその犯人の情報が載っかってた為、直ぐに特定出来た。



 マウンペアの小さな喫茶店『リリィ―Lily―』の女主人マスター、【ヒロミ・イシガヤ(花の二十歳)】だ。


 ……何で二十歳なんだろうな。まぁ良いや。


「全く、この御時世に何を考えて改造車乗って自滅したんだか……」


 ……正直、俺はアイツに会う気はサラサラ無い。でも仕方がないんだ。


 俺の所属している特捜機関『W.I.N.D≪ウィンド≫』の命令でアイツのボディーガードを頼むとか言い出した。


 ……何で? 何であんなアホに命懸けて守らアカンの?と一応は上司に講義はしたのだが、当人が言うには、ソイツにはを持っているかららしい。


 ……まぁ、実際に会って確かめてみるか。


 俺は手前の喫茶店『リリィ』のドアの前に立ち、インターホンを鳴らした。


 ピンポーン☆


『――――だから受信料はとっくに払ったって言ってるでしょ!? しつこいわよ!!』


  ……何で会う前からテレビの集金のオッサン呼ばわりされないかんのだ。


「俺は集金しに来たわけじゃない!」

『はっ! さてはマルチ商法の勧誘――』


「何でだよ! んな喫茶店にダイレクトで来るか!! 良いからドア開けろ!!」


 一旦間を空いた所で、ようやく喫茶店のドアが開いた。


「うるさいなぁ……何の用?」


 ブラウンのクルクルヘアーでパッチリ眼をした少女が、ふて腐れた顔で出迎えた。

 ピンクのチェック上着にデニムパンツ、その上にショートエプロンを下にかけて、丁度喫茶店営業している最中であった。


「営業している所悪いな、俺はこういう者だ」


 俺は『W.I.N.D』のライセンスバッジの入った手帳を彼女に見せて、素性を明かした。


「……黄門様何処にいんの?」


「印籠見せた訳じゃない! バッジを見て分からんのか!?」


「随分派手なバッジねぇ、何処の特撮かしら。銀河連邦警察? 科学特捜隊?」

「何処の組織!? ――そうじゃなくて、俺は秘密特別捜査機関『W.I.N.D』のタケルだ!!!」


『W.I.N.D』、正式名称は【WideワイドInterNationalインターナショナルDefenderディフェンダー】。


 この英雄都市ブレイドピアを脅かす悪の組織、団体から市民を守る為に結成された防衛機関である。


「……それで? 特捜機関なんてあたし呼んだ覚えは無いわよ」

「呼んでなくてもこっちから用があるんだ。【トクサツ少女】で名の通っている『ヒロミ・イシガヤ』の護衛を頼まれてるんでね」


「!?」


 彼女は驚いた表情をしていたが……まさかな。こんなちんちくりんの貧乳がトクサツ少女な訳がない。店内を見渡しても……コイツと一人の客人しか居ない。


「留守のようだな」


「アホ!! 目の前のあたしを素通りするなんてどーゆー目してんのよ。節穴のフッチャンなの?」


 誰やねんフッチャンって。


「じゃ、アンタが……?」


「聞いて驚きなさい! あたしが男も黙って、女の子は皆抱きつきたくなる正義のトクサツ美少女、『石ケ谷いしがやヒロミ』よ!!」


 ……マジか。自分で『美少女』って言うほど大した顔じゃないのに。丸っこい幼顔にプラス3歳加工したような生意気な感じだ。


「それにしちゃ写真とイメージが違うぞ?」


 新聞の記事と、個人データの写真で生のコイツを見比べたらどうだ。


 写真の方が小顔で目が魅力的な大人の美人じゃないか。宝塚入っても不思議じゃない。

 手入れ皆無のオリジナルとは比べ物にならん金髪とか、プロモーションも完璧だよ! ホステスでナンバーワン取れるほどのミス・ビューティフォーだよ!!

 その差と来たらSNS詐欺並だよ!!!


「鏡に写ったありのままの自分の写真だけど?」


「何処がだよ! バリバリ加工のパネマジじゃねぇか!!」

「だーー! 男が顔どーこーで文句言うんじゃないの!! 『心』で見なさい心で!!」


 心で見たところでミス・ビューティフォーには遠退くだろうが。


「とにかく、あたしには護衛なんか必要ないの! 帰ってちょうだい!!」

「そうはいかん! 俺の上司がお前にくっついてろって言われてんだ!!」


「何アンタ、ひっつき虫? オナモミ?」

「違う!!」


 コイツと話してるとどうも調子狂う。早いこと要件を言わないと。


「お前の護衛を任すにも理由がある。――まず一つは、このマウンペアの街で最近蒸発事件が多発していること。

 そこで俺達の機関が、そのマウンペアの住民であり、不思議な能力を持つ『トクサツ少女』のお前を守れと命令されたんだ」


「……確かに、この街で頻繁に行方不明になる事件の事は知ってるわ。でもあたしの不思議な力って話は何処から聞いたのよ?」



「――――お前が【史上最強の道具】を持っているという機関からの情報だ」

「………!」


 道具の話をした途端に、急にヒロミは黙りこみ、呼吸を置いてはぐらかすように話に戻った。


「……それで? 他に理由はあるの?」


「あぁ、後は簡単な話だ。お前がコンビナート付近で改造車を事故るようなアホな事をさせん為だ!!」

「それくらい勘弁してよ~! ペーパードライバー美少女のイージーミスでしょ!?」


 兵器積んでそうな改造車で突っ込んだくせにミスで済ませる気かコイツは……



『ヒロミさ~ん! 紅茶まだですか?』

 店内の客が主人を呼ぶ声が遠くから聞こえた。


 俺も気になって覗いてみると、そこには長い黒髪の女性が俺を見るなり、優しい笑顔の愛想で挨拶を交わした。


「あっ、ゴメンルリナちゃん! 今淹れるから」

 ヒロミは慌てながら急いで『ルリナ』という客人に紅茶を奉仕した。


 緑をベースにしたエプロンドレスを着た彼女は絵にも書けないような麗しき美人。

 美少女と言うのはこの人の事を言うんだ、分かったかヒロミ!


「随分親しそうだな」


「分かる? この子はね、『ルリナ・グリーンリバー』ちゃん! あたしがこの街で喫茶店始めた時に初めて来てくれたお客さんなの。そんでもって、あたしの大親友だもんね~♪」

「ね~♪」


「「そうだもんね~♡」」


 ……どうでも良いけど人前でイチャイチャせんでくれるかな。女同士で。


「アンタもあたしの事を守るんなら、ルリナちゃんも守ってよ。元々あたしの元でかくまってたんだから、防衛機関ならこんな事くらい容易いでしょ?」


 お前に言われんでも、都市や街の人を全員防衛していくのが『W.I.N.D』の務めだ。二人を守ることくらいどうって事はない。


「……良いだろう。とにかくこの蒸発事件が収まるまではお前達を監視していくからな。くれぐれも変な気を起こすなよ!」


 どうもこの場に居ると、シリアスが崩れるというかなんというか……俺は一旦喫茶店を立ち去り、外の空気を吸って気分を変えに立ち去った。




「ヒロミさん、ちょっと厄介な事になっちゃいましたね……」

「仕方ないよ、いずれはバレるんじゃないかなって予想してたもの。


 ――神様がくれた最強の道具、この【トクサツール】の事も!」




 ヒロミが手にしたコンパクトなキューブの形をした結晶物、【トクサツール】。

 このチートツールが物語の大きな要になろうとは、この時俺はまだ、知る由も無かった――!!

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