第2話 前説 『探偵』という存在について

 世の中には探偵という『職業』がある――


 ――と、世間一般的には思われているが、

 正確に言えば、『探偵』とはその人物の『運命』を指す言葉だ。


 中世の英雄が生涯を戦いに明け暮れるように、

 現代の名医に難病の患者が尽きないように、

 探偵の人生には事件が耐えない。


 旅先で、勤め先で、立ち寄った喫茶店で、自分の同窓会で、他人の記念式典で、

 招待された屋敷で、通りかかった駅の中で、乗り合わせた船の中で、

『探偵』は、難事件から『運命的に』逃れられない。


『探偵は、事件を呼ぶ』。

 近代になってそれを悟った人類は、探偵を『管理』することにした。


 管理と言っても罪もない探偵を牢獄に繋ぐことができるわけもなく、

 また仮にそれをしたところで、『探偵を集める』といういかにも推理小説にありがちな行為そのものが、事件を誘発しかねない。


 そういったわけで、できたことと言えば、せいぜいがそれらしい『運命』を持った人間を探して、纏めて、データ化するだけ。

 成人であれば、『探偵』として公的に登録し、居場所がわかる程度に管理する。

 未成年であれば、各地の『探偵学園』に通わせて管理・研究する。


 たったそれだけのことだったが、治安維持効果としては絶大だった。

 日本全国にいる探偵からの通報で、警察は即座に事件を知ることができる。

 それに加えて、探偵は警察よりも先に事件を解決する。

 勿論メンツなどの問題はあれど、どうせこの世から犯罪が無くならない以上、迷宮入りよりははるかにマシと割り切れば、探偵を国が管理することに関して、不具合も不都合も起こることはなかった。


 かくして今日も難事件は発生し、探偵はそこに巻き込まれ、いずれそれらは解決する。それでもめでたしめでたし……とはならないのが、この世界の理だ。


 いつだって何にでも、予想外は起こり得る。

 そしてその『予想外』はこの場合……世界の外からやってきた。

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