第5話 生きていたのか⁉︎

 長安のとある飯屋にて。

 昼間から酒を飲んでいる四人組がいた。


「ダメ元で聞くがよ、金になる話はねえのかよ」


 劉備が一堂を見回す。


「大人しく涿たく県へ帰った方がいいんじゃねえか。むしろの織り方は覚えているだろう」


 毒を吐いたのは張飛である。

 口からぺッと小骨を飛ばす。


「申し訳ない、兄者。拙者の知人にも聞いてみたが、大人数をまとめて雇ってくれるところは無さそうだ」


 関羽が手元の盃に視線を落とす。


「曹操から仕官の誘いがあっただろう。雲長は断ったのか?」

「一方的に恩を受けるわけにはいかぬ。何より兄者と離れたくない」

「お前ってやつは……」


 もう一人は趙雲だ。


「俺は槍術の師範になろうと思う。長安で人材を募集している」

「おい! 趙雲! てめぇ、裏切るのか⁉︎」

「よせよ、益徳」


 怒った張飛を劉備がなだめる。


「趙雲は長安で結婚相手を見つけたんだ。いつまでも寝なし草の集団と一緒じゃ格好がつかねえだろう」

「ケッ……金の切れ目が縁の切れ目ってやつか」


 劉備が長安でゴロゴロしている理由。

 それは旧臣下たちの就職先を見つけるためだった。


 もう大きな戦争はない。

 それ自体は喜ばしいのだが、副産物として軍人たちの失業問題を生んでいた。


「あ〜あ……世の中って皮肉だねぇ〜」


 飯屋に一人の老客が入ってくる。

 劉備らのテーブルに歩を進める。


「何だよ、ジジイ」


 最初に気づいた張飛が睨みつけた。


「こんな昼間から飲んだくれるとは。情けない姿になったな、劉玄徳」

「うるせえ。放っておいてくれ。この酒は今まで十年間頑張ってきたご褒美なんだよ」

「ガキ大将だったお前が三万の兵を率いたと聞いた時は驚いた。もっとも、馬超軍の前に良いところ無しだったそうだが」

「ん? ガキ大将?」


 ハッとして振り向く。

 劉備の顔から酔いが消えた。


「盧植先生⁉︎」

「久しぶりだな」

「生きていたのか⁉︎ もう死んだと思っていたぜ!」

「失敬な!」


 盧植は持っていた杖で劉備の背中を叩いた。

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