【完結】『推理部のシャーロック・ホームズ The Light in Dark Night —闇夜に浮かぶ光—』

pocket12 / ポケット12

Prologue. 探偵としてのポリシー

 穂村鈴ほむら すずは自分の探偵としての能力を遺憾いかんなく発揮できる事件にいつもえてはいたが、しかし積極的に事件が起こるのを待ち望んでいるわけではなかった。


 もちろん探偵としての好奇心がなかったわけではない。例えば密室であったはずの教室にいつのまにか黒板こくばんアートが残されているといったようなことが起こった場合、穂村は熱病ねつびょうおかされた猫のように首を突っ込んでいく。


 だから正確に言うと、彼女が忌避きひしていたのはあるしゅの事件——誰かが傷つくような事件に限ってのことだった。探偵小説にあるような血生臭ちなまぐさい事件が起こるのを穂村は望んではいなかったということだ。


 むろんそれは事件を解決できる自信がないという消極的な理由からでは決してなかった。彼女の探偵としての能力が十分じゅうぶんな高みにあることを俺たちはこれまで存分ぞんぶんに見せつけられてきたし、また猟奇りょうき的な現場を恐れるような人間ではないと信じてもいた。


 だからもしも本当にそのような事件が起こったとしても、穂村鈴は事件を解決するために奔走ほんそうすることだろう。かなしみに口元を引き締めながらも、そのたぐまれなる能力を発揮して。


 ゆえに結局のところ、それは穂村鈴の探偵としてのポリシーに起因するモノだった。基本的に世界が平和であるならば、探偵はこまやかな日常の謎を解決する存在であるべきだという考えを持っていたのである。


 俺がそれを初めて知ったのは、あの奇妙な事件でのことだった。あのあつ晩夏ばんかよるに起こった事件……。

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