第2話⁂みにくいアヒルの子⁂


 桜は現在一八歳。


 高校を卒業してホテルのフロントウーマンとして勤務している。

 あれ~?何故桜のようなバカが、ホテルの受付として勤務出来たのか?


 それは、頭は超バカだけど、それに余りある美貌が功を奏しているのだ。

 誰もが羨む長身、更には八頭身美女で手足もスラリと伸びた絶世の美女。


 けれども、そんな美人でスタイル抜群だったら、芸能界からのスカウト争奪戦が繰り広げられるのでは⁈


 確かにそうなのだが、どうも最終オーディションで余りのバカさ加減に落とされているらしい。


 審査員が言う注文を度々間違うらしいのだ。

 一体どういう事?


 それは最終オーディションの実技での事。


「は~い左ターンして今度は右タ―ン………あああ?違う違う逆でしょう」

 要は右左をよく間違う。


 それでも…素材が良いので努力すれば十分になれるのだが、そんな事は真っ平御免。


 要は、巧みにジイババを喜ばせて楽をして稼ぐ癖、笑顔を振りまいてジイババを転がして、良い思いをしていたあの美味しい思いが忘れられない桜に、努力と言う言葉は最も遠い存在なのである。


 ◆◇◆◇◆

 一九九〇年代後半、いよいよ日本は就職氷河期の最たる時代に突入。

 一流大学を卒業しても、おいそれとは仕事に有り付けなかった時代。


 美人だけが取り柄の何の取り柄も無い、おつむ空っぽのバカ桜に、おいそれと仕事が見つかる訳が無い。


 就職活動はしてみたが、残ったのは『三K』〔「汚い」「キツイ」「危険」の頭文字をとった略称で、主に肉体労働を指す〕仕事のみ。


 こうして近所に有る有名ホテル『ホテル鳳凰』に、スベって当然と思いながらも、一か八か面接に行った。


 何故こんな何も出来ない、どこの企業にも見向きもされなかった桜が、こんな有名ホテルを志願したのかと言うと、それは企業説明欄に、こう書かれてあったからなのだ。


『ホテルのフロント業務:学歴・経験・年齢不問、未経験者歓迎。(男女共々)接客経験のある方歓迎します』


 元々ラーメン店で接客サービスを行っていた桜は、いざという時の笑顔は健在なのだ。

 要はラーメン店で、嫌と言う程ジイババを操る必殺技で味を占めていた桜は、口数は出来るだけ少なく、要はあまり話すとボロが出るので、そこで培った究極の笑顔や態度を作る事を知らず知らずに鍛錬されていた。


 その必殺技は常連客が訪れると必ず行う行為、笑顔で瞬きしながらギュッと手を握り「大チュキデ~チュ♡」こんな悪戯な必殺技を生み出していた。

 

 こうして運良くこんな就職氷河期だというのに、有名ホテルのフロント業務に携わる事になった桜。


 だが、後で分かった事なのだが、どうも父の尽力のおかげで入社する事が出来たらしい。

 どういう事かと言うと、我が家の「味一ラーメン」が、このホテルの出前専門店に指定されているのだ。


 その理由は近所にも何軒もラーメン店が有るには有るのだが「味一ラーメン」は、唯一無二の老若男女に愛されるラーメン店。


 その為、機嫌を損ねたら大変な事。

 ホテル側にしても何としても繋ぎ止めておきたい。


 少々難の有るお嬢さんだが、ホテルの顔として申し分のない美人という事で入社出来た。

 要はコネ入社。


 こんなどうしようもない桜だったが、早速この美貌が効いたのか、桜に思い焦がれるお客様が次から次へと現れた。

 それは星の数程。


 ザ~ッとコクられた面々の顔ぶれを紹介しておこう。


 大富豪のお坊ちゃまでFランク大学に通うイケメン大学生二〇歳。

『ホテル鳳凰』の近所にある開業医の長男で、イケメン医学部志望の浪人生二二歳。

 商社勤務のイケメンエリ-ト三〇歳。

 売上№1の、有名ホストクラブのイケメンホスト二五歳

 他にも色々。


 そして最後の一人

 東大卒の銀行員で、身長一六〇cm、黒縁メガネのずんぐりとした、どこをどう見てもお世辞にも褒める事が出来ない、ちんちくりんのブ男三〇歳。


 この錚々たるメンバーの中で桜が選んだのは、東大卒の銀行員。

 自分のコンプレックス、どうしようもないオツムである劣等感を満たしてくれる、この早川一樹と結婚した。


 こうして凜が誕生した。


 凜は父親譲りの容姿と身長で、幼稚園から中学卒業まで身長が低いので、いつも一番最前列。

 おまけに女の子だというのに父親譲りの容姿のせいで、超ブス。

 けれども成績は常にトップクラスで、高校も東京の超名門偏差値最高峰の高校に合格している。


 こんな外見のせいで今まで、好きな男の子にコクってもフラれっ放しの凜。

 凜はたとえ成績が優秀でも、この容姿のせいで、女の子としての幸せを味わった事が一度たりとも無い。


 あんなにママは超が付くほどの美人なのに、どうして私だけこんなにブスなの?ひょっとして一生好きな人と結婚できないかも?シクシクウゥゥ。

 凜は人知れず涙に暮れている。


 だが、凛のそんな思いとは裏腹に、母の桜は凛とは対照的に凜が自慢で自慢で、里帰りをしても鼻高々で、凜の自慢話に明け暮れている。


 それはそうだろう?

 桜は、超が付くほどのバカ!

 そんな自分に、あんなに優秀な娘凜が誕生したものだから、有頂天になって居る。


「凜は成績が超優秀なのよ。私の育て方が良かったせいで…エへへへ!」


「よく、お前のようなバカに、あんな賢い天才が生れたものね?」


「本当だな~!とんびが鷹を産んだとは、お前の事だ。ワッハッハッハ~!」


「本当!本当!一樹兄さんに似ただけの事だよ?」


「エヘン!違う!違う!私は本当は能力が有ったのよ!親の教育不足が祟っただけだよ!」



 ◆◇◆◇◆

「やはりファイナリストだけあってどの子も綺麗ね!」


「本当!本当!どの子も粒ぞろいね!」


「あああ?でも、あの娘が一番きれいね!」


 場内の盛り上がりも最高潮に達している


 そしていよいよ発表の時間がやって来た。


「ファイナリストの五名の中から、いよいよ栄えあるミス東大が発表されます。それでは発表お願いします」


「それでは発表します。本年度の栄えあるミス東大は早川凛さんです」


 何とこれは夢物語なのか⁈

 あんなにブスで悩んでいた凜ちゃんが、どうして栄えあるミス東大に選ばれたのか?


 実は…凜は高校生になってから一気に身長が伸びて、現在東京大学二年生の凜は身長が一七〇cmも有る。


 まさしくこれこそ、みにくいアヒルの子が、いつの間にか美しい白鳥に生まれ変わっていたのだ。


◆◇◆◇◆◇


 二〇二二年5月現在。

 二四歳の凜は東大の大学院を卒業して、外務省に勤務している超ハイスペック女子。

 おまけに半年後には結婚式を挙げる事になって居る。


 何と結婚相手はホストらしいのだ。

 コンプレックスの塊だった凜は、実は中学生の頃からライン交換をしていた同い年の男の子とラインで繋がっていた。


 その時に男の子は自分の顔をアップしてくれていたので、余りの美形に一瞬で恋に落ちた凛だった。

 

 こんなイケメンに、今まで相手にされた事など一度も無かった凛。

 こんな私が、こんなイケメンとライン交換が出来るなんて!

 喜びでいっぱいの凜は、あの当時は超ブスだったので、顔出しは一切していなかった。

 だからフラれなかったと言っても過言ではない。


 こうして中学生の頃からラインで繋がっていた、超イケメンホストと半年後に結婚する事が決まっている。

 まさに幸せ真っ只中の凜なのだ。


 だが、両親は大反対で親子の縁を切るとまで言って憤慨している。

「自慢の娘が、どこの馬の骨とも分からないホストなんかと!」

 怒り心頭なのである。


 だけど凜にしたら、もう二度とブスで苦しんだ苦い思いだけは、生まれて来るであろう子供達にはさせたくない強い信念が有る。


 夫になる翔は確かに異業種の不安定な職業かも知れない。

 良いではないか、私が夫の役割を果たして翔が主夫でも、何か文句が有る?


 実は…凜がこんなにも容姿にこだわるのには訳が有る。


 中学生の頃ブスでクヨクヨして居たら母の桜が————


「な~に言ってんのよ。顔なんか整形しちゃえばえば良いじゃないの~!」

 

 運良く母親譲りの抜群のスタイルが備わり、それでも…顔だけは父親譲りのブスでよくよく考えあぐねた結果、高校卒業と同時に全面的に顔に整形を施し絶世の美女に生まれ変わった凛。

『もう二度とこんな痛い思いはしたく無い』そう思った凛なのだ。

 

 だから両親と同様に、自分の弱点を埋めてくれる最高偏差値ルックスの翔と結婚を決めた。

 母だって自分に無い、ハイスペック頭脳の父と結婚したではないか?

 父だって自分に無い、最高偏差値ルックスの母と結婚したではないか?


 もう二度と御免だわ!生まれて来るであろう子供達が、また容姿コンプレックスで苦しむのは!



 おわり



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みにくいアヒルの子*凛 あのね! @tsukc55384

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