始まりの街へ行く前に

 アリッサ様は、にっこり微笑むと言う。


「ここから、貴女の素敵な冒険が始まります。準備はよろしいでしょうか」


 いいです! いつでもいいです! よろしくお願いします! 


 女神様に向かって大きく頷きます。そのとたん、草原の風景が少しずつ消えていきます。絵の具をぐちゃぐりゃと混ぜ合わせた感じ、と言ったらよいのでしょうか。

 女神様に手を振ります。見えているかどうかは、分かりませんが。


 少しすると、だんだん目の焦点が合ってきました。先ほどまでは光あふれる草原でしたが、今度はうっそうと木が生い茂る場所に出ました。左下に小さく、『精霊の森』と書いてあります。RPGで遊んでいる、という感じがしてきましたね。


「いきなり森スタートですか」


 こういったRPGは大体、主人公の家だったり、住んでいる村や町だったり、何にせよ、危険がなさそうな建物の中からスタートすることが多いと思っていたのですが……。どうやら今回は、違ったようです。


「マイナスイオンは吸い込めそう……ですけどねぇ」


 とはいえ、今の私は丸腰です。どこぞのゲームのように、HPを削られてゲーム内で死亡したら現実世界でも死亡する、なんてことがあったらたまったもんじゃありません。とりあえず安全な場所に避難したいものです。


 そこに、ぴょこん、とポップアップ画面が立ち上がる。


『目的地、始まりの街までのナビゲートを開始しますか』

「あ、ぜひお願いします」


 私が言葉を言い終わるのとほぼ同時に視界に矢印が表示されました。これなら、スムーズに始まりの街、といういかにもチュートリアル要素満載ネーミングの街に到着できそうです。


 少し早足で森を進んでいくと、上から声がしました。


「ニャアアアアアアアアァァッ!?」

「うわあああああぁぁぁっ!?」


 思わず何が何だか分からず、声のした方を見上げ、そして同じように声を上げていました。

 視界に入ったのは、黒いもふもふの物体です。思わず、物体の正体も分からないまま、抱き留めていました。我ながら、ナイスキャッチ! です!


「おおおお、なんという奇跡。そこの人間、オレをとにかく助けるニャッ!」


 腕の中で暴れている黒い毛むくじゃらの物体。まん丸の物体。それが言葉をしゃべっている。


「ひぃっ」


 思わず、地面に落としてしまいました。すると、まん丸のその物体は、まるで怒っているかのように、地面からぴょんぴょんとはねます。


「何をするニャ!? ひどいニャ!?」

「新種のモンスターさんですか!? お願いですから襲わないでください!」

「モンスターじゃないニャ! 敵対してないニャ! むしろオレは被害者ニャ!」


 その時、けたたましい警告音が頭の中に鳴り響いたんです。


 

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